Saturday, April 15, 2023

新春IRSガイダンス特集「CAMTのAFSIと減価償却・債務免除益」

前回はM&Aやスピンでグループのストラクチャーが変わったり、新規に法人がグループに参画する際、過去3年のAFSIをどうやって考えるか、っていう点に触れた。で、皆さんもCAMTの話しにはそろそろ飽きてきた頃では、って思うんで、今回のポスティングで一旦CAMTは終わりにして、次回から待望(?)のREITを含むクロスボーダー米国不動産投資、FIRPTA系に関して2022年暮れにCAMTのNoticeと同時公表された規則草案の話しに移りたい。え~、本気?みたいな規定が含まれてるんで乞うご期待!

CAMTは姑息な(?)バックドア課税

まずはCAMTと減価償却。たかが減価償却されど…、って感じでかなり面倒くさい。こんな調整を規定しないといけない背景に関してチラッと触れておく。

CAMTって制度を導入する際、ポリティシャンは「会計上利益が出てるにもかかわらず課税所得が低くてけしからん」って言ってたけど、その原因は実に単純で、何のことはない自分たち議会が政策的に会計原則とは異なる計算法で課税所得を算定するように法律を通しているから。企業としては法律に従うしかない訳だし、グローバルで競争している訳だから議会が通した恩典があれば最大限活用しようとするのは当然。もちろん合法的に、だ。それで「大企業は法人税をきちんと払ってない」っていう論調で議会の公聴会とかでしかられるって以前にも例えたことあるかもしれないけど、目の前にごちそうを振舞われて「今日は好きに食べて下さい!」って言われ、食べたら「食い逃げ泥棒」の濡れ衣を着せられる、みたいな状況。 そこで登場するのがCAMT。この制度、ポリティシャンたちが考えそうな姑息というか臆病な制度で、本来、GILTIの50%控除でも、R&Dクレジットでも、加速度償却でも、議会自ら法制化した恩典で企業に活用されて気に入らないものがあるんだったら、その恩典を廃案にするべきなんだけど、そんな勇気はないから、数えきれない恩典を規定し続ける一方、それを利用するとCAMTで取り上げる、っていう裏技に頼らざるを得ない。

で、減価償却は不況になると投資減税でボーナス償却とかが登場するし、その手の恩典のひとつ。米国の有形資産に対する償却法であるMACRSって用語を見ると「D」っていうアルファベットがない。え~、DepreciationなのにDないの、って感じ。MACRSはのMは「Modified」で、なんでModifiedかっていうともともとACRSだったのをModifyしてできたから。AはAcceleratedで加速してる、ってこと。CRSは「Cost Recovery System」の略で、会計原則みたいに資産の耐用年数に基づいて減価償却を計上するっていう経済的な利益メジャーの概念ではなく、恣意的に決められてる加速度算定式で取得コストをRecoverさせるっていうアプローチになる。この用語からも分かる通り、税法上の「償却」は会計上の償却とは基本的に相いれないものだ。

減価償却とAFSI

こんな背景だから、別に誰に何の邪な気持ちがなくても、毎期の税務上償却は会計上の償却との比較して、多かったり少なかったりするのは法的に必然。で、CAMTを法制化する審議の最後の最後になって、このままだとCAMTミニマム税を支払う企業はせっかくのMACRS、特に即時償却のボーナス償却の恩典がなくなってしまう、ってことでウォールストリートジャーナルとか製造業に従事する米国企業に「製造業回帰とか言ってんのに何考えてんの~」って指摘され、ポリティシャンもその不具合にようやく気が付き、最終修正で深く考えずに「米国で使用する有形資産は会計ではなくMACRSの償却を使ってよろしい」とお許しが出た、っていうかMACRSの使用が強制されることになった。でも、MACRSの適用が常に企業に有利とは限らないのは簿記をかじった人だったら誰でも直ぐにわかるよね。だって、結局個々の資産に関して生涯を通じて取れる償却の金額は同じなんだから、タイミング差異の話しで、税務上加速して前倒しで償却するってことは単年ベースで見ると、後年は反転して、税務上の償却が少なくなる。で、CAMTみたいに急に登場してきて、いきなり過去3年間AFSI平均を基に対象かどうか決めなさい、って言われて、4年前に何気なく議会に言われた通りボーナス償却取ってたりすると、その後の3年間会計上は粛々と償却取ってるのにMACRSベースのAFSIでは償却ゼロ、っていう不利な結果になる。この点、政策的に何か助け舟が差し出されるのでは、って期待してた企業もあるんだけど、結局NoticeではCAMT導入タイミングにかかわらずAFSIは常にMACRSベースなんで、4年前にボーナス償却取ってしまってたらアンラッキーでした、っていう取り扱いが確認されてしまった。

で、減価償却って一言でいっても製造原価とかCOGSに含まれているものもある。さらにややこしいことにCOGSへの計上、税務で言うところの棚卸資産への資産計上だけど、の考え方自体、会計と税務で同じとは限らない。で、AFSI計算目的で償却は税法ベースだから、COGSに含まれる会計上の償却は一旦消去し、税法でCOGSに含まれる償却に置き換える。

さらに当然と言えば当然だけど、税務ベースの償却を適用してAFSIを計算している資産を譲渡したり除却したりする際の譲渡損益も会計上の数字ではなく、税務ベースの金額に置き換えないといけない。で、ここからが議論を呼ぶところだと思うけど、3年間平均テストが始まる2020年課税年度以前にボーナス償却を含むMACRSの対象になっていた資産の譲渡損益も税法ベースの数字に直さないといけない、って規定されている。これって二重苦みたいで、例えば2019年に多額の資産を米国で事業用途に供してボーナスで即時償却したとする。2023年に急にCAMTができて、対象法人になるかどうかの判断のため、2020年~2022年3年の平均AFSIを算定する際、会計上取っている償却は一切取れないばかりか、その間にボーナス償却した資産の譲渡がある場合、譲渡損益も税務上の簿価を基に算定しないといけない。ボーナス償却取ってる場合、税務上の簿価はゼロだから会計上の譲渡益より、税務上の譲渡益が大きい、または損失が譲渡益に変わることもあり得る。ボーナス償却の恩典はAFSI目的で享受していないにもかかわらず、だ。

償却の調整の面倒さに気分が優れなくなってきた読者も多いと思うんだけど、最後に止めを刺して次のトピックに移るね。資産取得後に修理・修繕等を行うことは多いけど、会計と税務では何を資産計上するか、っていうルールが異なる。税務上は2013年だったかな、に最終化されて各企業対応に奔走した「Tangibles Regulations(当時は「TPR」って呼んでました)」に基づいて詳細な分析をした上で、この手の支出を期間費用部分と資産計上部分に区分する必要がある。会計はTPRは関係なく、独自の原則に基づいて区分される。税務上、TPRで期間費用として損金算入される場合、その分の資産コストはないのでMACRS対象じゃない。このことからTPRで費用化された支出が会計上は資産計上の上、償却されてる場合、この部分は税務ベースではなく、会計ベースの処理を反映したままAFSIを計算しないといけない。果てしないRecord KeepingやTrackingが必要だね。これらの調整はCAMTミニマム税の算定時ばかりでなく、CAMT対象になっていない法人は毎期対象にならない点を証明するために求められる。以前のポスティングで触れたSafe Harborの恩典の大きさが身に沁みた?

債務免除益とAFSI

債務免除益(CODI)は課税所得っていうのが大原則。ただ、株主が「Gratuitous」に債務免除してくれる取引は資本出資とみなすという財務省規則もある。日本企業が米国子会社に貸している債権を棒引きにする際、出資という形を取ろうとするのは良くある話し。子会社の財務状況が思わしくない際、または子会社譲渡のプレリュード的に免除することが多いけど、一番好ましいのは資本出資(Contribution to capital)で子会社が新株を発行しない取引。この形を取ることができれば、通常CODIが発生しないばかりか、後述の属性のReductionも不要。株式を発行してしまうと取り扱いが大きく異なり、通常は不利になる。また、そもそも貸し付ける段階で避けるべきストラクチャーは米国のCommon Parentをスキップした日本から見た米国孫会社への貸し付け。将来Workoutの際に不利益を被るので絶対にしてはいけないストラクチャーだ。例外は孫会社が米国税務上Disregardされてるケース。その場合はCommon Parentに貸し付けてるも同然なので通常のルールの範囲内。

CODIが課税所得から除外されるケースは資本出資以外にもいくつかあるけど、代表的なのは債務免除直前に借り手が時価ベースで債務超過の状態にあるケース。債務超過の範囲でCODIは課税所得から除外される。その代わりに除外額に関してNOLや資産の税務簿価を減額させられる。Noticeが言うところの「Section 108(b) Reduction Amount」だ。その心は、債務超過なんだから再起をサポートするため今は課税しないけど、将来のNOLや償却を取り上げることで実質非課税というよりは課税繰り延べしてあげるということ。

で、ここでも税務上のCODIの取り扱いは必ずしも会計の取り扱いとは一致しない。会計上、CODIが利益として認識されてる一方、税務上は上述の諸々の理由でCODIが所得から除外されるケースでは、税務上の除外額を上限にAFSI算定時に減額が認められる。で、AFSIからCODIが免除されるケースでは、通常の税務上の規定通り、Section 108(b) Reduction Amountに相当する金額を使って AFSI目的でもAFS計算時のCAMT NOLやAFSの資産簿価が減額される。あちこちで複数の数字をTrackingする必要があって、そろそろやってられない感じになってきたよね。

という訳でようやくCAMTはWrap-Up。次はもっとExcitingなクロスボーダー米国不動産投資にかかわる規則案に関して。