Friday, April 28, 2023

FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案 (2))

前回はCAMTをめでたく卒業し、FIRPTA財務省規則案のポスティングを開始した後に、ビーチバレーに繰り出した。レシーブし過ぎてチョッと手が痛かったけど、一日経って元に戻りました。

で、FIRPTAの規則案に関して主たるトピックとなるDC REIT、外国政府、QFPF、等の具体的な話しの予備知識として、前回はFIRPTAの対象となる納税者、すなわちNRAと外国法人に触れた。誰がFIRPTA対象になるか分かったんで、今日はFIRPTAが適用される際の米国課税関係に関して。特に普段から各方面の方と話したり、アドバイスしたりする際に感じる誤解、すなわち「FIRPTA神話」にフォーカスしてみたい、ってことだったよね。

米国インバウンド課税システム

FIRPTAって米国のインバウンド課税システムの一部を構成してるんで、FIRPTA課税を語るには超ハイレベルにインバウンド課税システムそのものに触れざるを得ない。これ、もちろん簡単に片付く話しじゃないんだけど、敢えてザックリ言うと、外国人が米国で連邦税金を支払う局面は2つ。

まず1つ目は、米国事業(USTOB)に関連する所得(ECI)を得てるケースで、その場合は申告書を出して費用を控除した後のネット所得に対して税金を支払う。2つ目はキャピタルゲインや動産譲渡益「以外の」米国源泉所得(FDAP)、語弊覚悟で言うと、キャピタルゲイン以外の米国源泉「投資」所得で、1つ目のカテゴリーに含まれない所得(Non-ECI FDAP)、に対する30%の源泉税。双方ともに条約の特典を得ることができる外国人には減免が適用されることが多い。

ECIに対する課税は、申告書を提出して、費用控除後のネット課税所得に米国法人や市民・居住者に適用される税率を乗じて税負担を算定する申告課税。仮にパートナーシップ経由でECIがあったりして源泉徴収された税金が存在しても、それはあくまでも外国人に変わって予定納税をしてくれているだけで、源泉税のように最終税額にはならず、申告書を提出して計算する必要がある。さらに外国法人には法人税引き後の所得に一定要件下で30%のBranch Profits Tax(BPT)が追加で課せられる。

ECIの課税関係を検討する際は、2つのステップでテストする。必ず2つのテストを律儀に順番を守って適用すること。第1ステップは外国人が米国でUSTOBに従事してるかどうか。何がUSTOBかは原則、判例や通達に基づく事実認定で機械的なテストはなく、必ずしも個々の判例や通達のテスト間に整合性があるとは限らず、多くのケースでグレー。この答えが「NO」だったら、申告課税はない。「YES」の場合のみ、そのUSTOBに関連する所得、すなわちECIがあるかどうかの検討に移る。USTOBがあっても、ECIがあるとは限らない。USTOBが存在してしまうと外国人の所得全てが米国で課税対象になるような懸念を持つケースがあるけど、そんなことはない。ECIがゼロな年もある。これってFIRPTAの話しじゃないんでFIRPTA神話にはなんないけど、ECI神話って言えるかもね。でも、USTOBがある限り、ECIがなくても申告書は出さないといけない。条約のPEプロテクションで課税免除となるケースも同じ。USTOBがあって提出する申告書は法律上提出が求められるんで、厳密には「Protective」Returnではない。すなわちオプションではないってことでこの点も神話のひとつ。Protective Return神話だ。Protective Returnっていうのは本来、納税者としてはUSTOBはないというポジションを合法的に取ってるけど、万一IRSと意見が割れて後日USTOBおよびECIを認定される場合に備えて防御的に提出するもの。申告書が出てないと、費用控除を取る権利を喪失する点、また時効の成立は申告書提出日から数えるんで出してないと永遠に時効が成立しない点、に対応するもの。ただ、1120FのInstructionsで、USTOBがあって提出が強制されるけどECIがないケースでも1120Fの1ページ目の「Protective」箱をチェックするように書かれていてチョッとConfusing。

細かいけどECIに関する重要なポイントとして、ECIは実際に外国人が認識するグロス所得ベースで判断する。AOAベースの条約に基づくPE帰属所得の認定と異なり、「本当に」外国人が認識するグロス所得がUSTOBに関連する場合にECIとなり、フィクションで本支店間でファントム所得や費用を認識することはない。どんなケースでグロス所得がECIになるかの判断は結構細かに規定されてて、所得のタイプ、源泉地に基づいてグロス所得毎に検討する。グロス所得ベースでECIがあれば、次に外国人が認識する費用のうちECIに帰する金額を配賦・案分してネットECIを計算する。最初からネットしてECIかどうか考えるんじゃないからね。これもECI神話のひとつ。

FIRPTA課税とScope神話

で、そんなインバウンド課税のフレームワークの中に登場するFIRPTAだけど、FIRPTAはNRAや外国法人による米国不動産持分の「譲渡(Disposition)」に適用される。REITを含む米国不動産への投資には、譲渡損益ばかりでなく、所有期間の課税関係も付きまとうけど、そっちは通常のインバウンド課税の規定に基づいて判断するもので、FIRPTAは一切登場しない。初級Scope神話だ。

米国不動産投資が通常のインバウンド課税ルールで1のテストに引っかからない場合、例えば不動産をPassiveに所有してるだけでトリプルネットリースに供しているとか、単に値上がりを期待して森を持ってるとか、更にマイアミハーバーを見下ろすコンドを自分用に持ってるとか、の場合、これらの活動はUSTOBではないと言えるのでECI課税はない。なんで米国の課税関係有無は2つめの源泉税有無を判断することになる。そんな状況で仮にトリプルネットリースで賃貸料を受け取る場合はNon-ECI FDAPだから30%の源泉「税」対象となる。この30%はECIに対する予定納税の源泉「徴収」じゃなくて最終税額。条約を適用しても30%源泉に対する減免は通常ない。もちろんグロス賃貸所得に30%持っていかれたんでは投資になんない。米国政府のために投資活動してるみたいな状況に陥るから、無理やりアクティブにしてECI化する、または国内法に規定されるECI選択をしてネット申告課税にする等の策が必要。

さらにこれらのUSTOBに供されていない米国不動産を譲渡する場合、USTOBに供されている資産ではないから譲渡損益がECIにはなり得ない。さらに2つ目のテストでもキャピタルゲインは源泉税対象ではないので、結果、1と2のテストを通過し米国では課税が無くなってしまう。この点を重く見て、米国内の投資家同様、米国不動産譲渡損益に対してUSTOB有無にかかわらず課税するのがFIRPTA。ようやくFIRPTAの課税関係に至ったね!で、FIRPTAは譲渡損益は通常の事実認定ではECIにならないケースでも、米国不動産持分の譲渡損益は「みなしで強制ECI」として取り扱う、っていうメカニズム。ECIとなるからには、本当のECI同様、申告課税対象になる。なんでもちろんだけど、損失でも譲渡日を含む課税年度は申告書を出さないといけない。通常のECI同様、多くのNRAや外国法人にとって、譲渡益課税は受け入れ可でも、申告書提出要件の方が嫌がられる。

で、このようにFIRPTAは実際にECIじゃない譲渡損益をECIとみなす、っていう規定に過ぎず、実際のECIに対する課税をオーバーライドする規定ではない。すなわち通常のステップ1のOverlayで共存関係にある。どっちにしてもECI課税なんでFIRPTAで課税されてんのか、通常のECIとして課税されてんのかは多くのケースで実務的な差異はないけど、QFPFみたいに何らかの理由でFIRPTAから免除されてても、だからと言って必ずしも譲渡益に米国で課税されないとは限らない。QFPFがFIRPTA免除だからって「やった~。米国で不動産買います」っていう場合、トリプルネットリース物件を一件とかPassiveな投資だったらいいかもしれないけど、派手に展開したり、複数の物件を運用してたりすると、不動産投資が本当の事実認定でUSTOBになって、FIRPTAによるみなしECI規定の登場を待つまでもなく、実際にECIとして譲渡損益が課税対象となることもなる。Scope神話ナンバー2だ。

で、FIRPTAと言えば譲受人による源泉徴収(源泉税ではないからね)が問題になるけど、もともとFIRPTAが導入された頃は源泉徴収義務は存在しなかった。このことからも分かる通り、FIRPTA課税と源泉徴収はもちろん密接な関係にあるけど、FIRPTAイコール源泉徴収ではない。チョッと長くなりそうなんで、次回はこのFIRPTAイコール源泉徴収神話に関して。