Sunday, April 30, 2017

トランプ大統領税法改正プラン

前回のポスティングでは新政権誕生から4月26日のトランプ大統領・行政府による税法改正プラン初の公式発表までの経緯が「Hot n Cold」そのものだった点を簡単におさらいした。

4月26日のプレスカンファレンスは、発表するすると言って全然出てこなかった大統領側の税法改正に対する指針がようやく満を持して登場するはずだっただけに注目度はかなり高かった。そんな期待が高まる中、東海岸Day-Light Saving時間午後1時38分、会見はほぼ時間通りに始まった。

「「遺跡保存法(Antiquities Act)」の話しにこんなに沢山のプレスが集まるなんてチョッと意外ですね・・」というホワイトハウス報道官Spicerのジョークの後、「今日はもちろん、雇用を創出する法人そしてミドルクラスの双方に税負担の軽減を実現するため大統領の努力の結晶であるプランを披露するための会見に他なりません」という感じで本題に入った。最初の遺跡保存法のところのジョークは面白かったけど(特にSpicerが言うと)個人的にその心は完全には分からなかった。遺跡保存法という単なる地味なイメージの法律を持ち出して沢山の人が集まっている状況を冗談にしただけなのか、税法を遺跡保存法と同じほど古くて固いイメージで表現しようとしたのか・・。つまり現状の税法は今では過去の遺物、すなわちAntiquitiesというところまで意図してのジョークだったのか。後者だったら中々鋭い。

そして国家経済会議委員長Cohnがプラン全体の背景および個人所得税を、財務長官Mnuchinがビジネスおよび法人税を説明すると紹介された。会場参加者にはレターサイズ1枚の簡単なサマリーが配布されている。この配布サマリーの内容は後述するが、アウトラインだとしても余りに簡素なものだ。この「極端な簡素さおよび詳細の欠如」が今回の公表の大きな特徴のひとつと言えるだろう。

紹介に応じてCohnが登場するが、さすが6.3フィート(192㎝!)だけあってデカい。ちなみに後ろに仁王立ちしているMnuchinも負けてない。彼も6.1フィート(186㎝)だから2人とも大きい。僕らと同じ普通の身長のSpicer(7.3フィートで173㎝)が子供のように見える。CohnもMnuchinも2人とも著名なバンカーだけど、Cohnは普通にNYCに住んでいる一方で、MnuchinはBel Air(ロサンゼルスのUCLAの裏の高級住宅地)が主たる居住地だそうだ。もちろんNYCのMidtown辺りにペントハウスの一つ位は軽く持ってるんだろうけど。

そしてCohnは「今日は歴史に残るエキサイティングな一日で、この日が来るのを長い間心待ちにしていました」と始めた。生き馬の目を抜く米国投資銀行で幹部に上り詰め、時に怖かったと評されるイメージとは異なり、国民のための公僕っぽい雰囲気すら漂わせる語り口だ。2月前半から長い間発表を待っていたので、この日を心待ちにしていた点は確かに誰にも異論はないだろう。共和党主導の議会と共に「一世代に一度あるかないか」の画期的な税法改正を実行するチャンスとのこと。チャンスがあったのにオバマケアを廃案にできなかったのはどう説明するのか分からないけど、税法改正は米国民にとって喜ばしい話しなので民主党も一緒に賛成してくれることを願っているという。極左派の影響でトランプとか共和党の法案には内容にかかわらず大反対せざるを得ない民主党を口説くのは至難の業だろう。というかそんなことはCohnも百も承知なので、なんでも反対の野党民主党の大人げなさをハイライトするために敢えて言及しているように思えた。

Cohnは今回の税法改正プランの目的を「雇用創出」「経済成長」「低中所得者層の救済」の3つと位置づけている。この3つは会見を通じて何回も協調されるテーマだった。3つとも全て素晴らしいテーマだと思うけど、 特に小中小企業主、ミドルクラスを救うというミッションは会見中しつこく繰り返された。共和党案が富裕層向けという攻撃をかわすために乱発されている観はあるけど、富裕層が一番多額の税金を支払っているケースが多いのだからドルベースでは富裕層の減税が大きくなるのは当然なはず。ここ8年でトップマージンレートの上昇はオバマケアタックスを加味すると8~9%だから、その際にどれだけの追加負担を強いたかを理解せずに、減税の時だけ富裕層に手厚いと言って攻撃するのは筋違いな感じ。でもそのような攻撃は必ずあるので、そのための伏線として何回もミドルクラスに言及があった。

で、Cohn曰く前日の夜まで下院、上院とすり合わせをし、素晴らしいリーダー間で「Principle(原理原則?)」に合意することができているそうだ。会見を通じてこの「Principle」とか更に「Core principle」という用語が多用された。つまり原理原則は発表できるが、裏を返せば詳細は何も決まっていないということだろう。下院と上院とも要は原理原則は合意しているが、詳細、例えばBorder Adjustmentをどうするか、とか肝心の具体案はまだ合意を見ていないということのようだ。それを裏付けるように、これから数週間「Closeに下院、上院と議論を重ねて行く」とのこと。なんだ未だ重ねてなかったんだ・・という気がしないでもないけど、まあ「Never too late」かな。でも本当のところはCloseに議論を重ねたけど合意に達していないという方が正確な気がする。

また税法が複雑過ぎて誰も自分の申告書すら自分で用意できない状況に国民は不満をもっており、制度簡素化により簡単に自分で申告書が作成できるような状況に戻すという目標も明示した。これもその通りで、僕も米国タックスの専門だけど、毎年10月15日(延長するので・・)が近づくと自分の申告書を作成するのがとても難しく苦痛だ。専門でなければとてもできるものではないだろう。

税法改正の必要性をサポートするための歴史の勉強も登場した。1960年前半にケネディー大統領が減税を実施した頃の所得税最高税率は90%で、租税回避紛いの行為が蔓延していた。1980年台にレーガン大統領が所得税最高税率を28%にまで下げたが、その後また39.5%に戻ってしまい相変わらず節税対策に多くの時間が費やされている。法人税は1988年の34%から大きく変わっていないが、その間に世界の他国は大きく法人税率を下げ、テリトリアル課税(外国子会社からの配当非課税制度)に移管したにもかかわらず、米国のみ1988年の状態で2017年を迎えているという遅れぶりを指摘している。要は概して思い切った税法改正の気が熟しているということだ。

このようなフレームワークの中で、次にCohnは個人所得税の減税プランの解説に入る。ここからは次回。

Saturday, April 29, 2017

米国税法改正とKaty Perry(ブログ開始10年!)

2017年4月でブログを書き始めてナンと10年という歳月が経ちました。いつ書くことがなくなってしまうだろう、と思ってたけど、米国税法はいろんな話題を際限なく次々に提供してくれる頼もしい世界なので、書けば書くほど、もっと書かなければいけないことが増えるという、その昔、渋谷の福ちゃんラーメンで替え玉5個(10個だっけ?)を平らげると代金タダになるということでチャレンジした時の後半の苦闘に似た状況。分からない方ように解説すると、ラーメンも替え玉3つめ以降になると、食べるスピードが落ち、食べても食べても麺が伸びる速度に追いつけず、食べると逆にどんどん量が増えていくように錯覚する現象のことだ(誰も分かんないよね、こんな現象)。途中長期ブレークがあったりしたけど、皆様のサポートがなければ当然こんなに長く続けることはできず、各方面からのサポートには深謝しています。

さて、今年前半のポスティングで、トランプ政権の誕生に伴い30年ぶりの立法が現実的になったかのように見えた米国税法の抜本的改正の方向性、特に改正のスタートポイントとなるはずの下院歳入委員会のThe Blueprintに関してかなり深く触れた。

その後、政権誕生後は矢継ぎ早にTPP脱退を実行したり、入国禁止関係の大統領令を出したり、出だしは勢い良い感じだったけど、リベラル寄りの判事に大統領令のInjunctionを食らったり(未だにどうして州が原告になれるのか、Standingすなわち当事者適格の観点から不思議)、オバマケア廃案にも少なくとも第一弾は内部調整に失敗したり、失速感は否めない感じだろう。その後、最高裁判所判事の空席にScaliaの身上である憲法原意主義と同様の法的アプローチで知られるGorsuch任命に成功したり、シリアへのミサイル攻撃でそれなりの評価はあったとは言え、Big Itemではインパクトに欠ける。

オバマケア廃案失敗のドタバタで共和党も一枚岩にはほど遠い状態を露呈して以来、税法改正もなかなか方向性が定まらない状態が続いている。有権者の中には(自分?)、もう抜本的な改正とかいいから、さっさと個人所得税の税率下げて、パススルー課税を低減し、オバマケア導入時にどさくさに紛れて増税となったMedicareのSurchargeとか、3.8%のNIITとか、それらの悪法を廃案にする位まで持っていってくれて、若干小さい政府になれば上出来、と期待レベルをアジャストしている状況ではないだろうか。

それにしても税法改正もあるのか、ないのか、オバマケア廃案とどっちを優先するのか、Border Adjustmentに大統領は賛成なのか反対なのか、上院は何を考えているのか、毎日のように方向性が変わる3カ月だっと言える。こんな状況を見ていてると、いつも一つの曲が頭の中でプレーバックされる。Katy Perryの「Hot n Cold」だ。歌詞を知っている方は直ぐにわかるだろうけど、もし知らなければ聞いてみるか読んでみて欲しい。米国議会と大統領を頭に思い描きながら。

そんな混沌とした状況にある米国税法改正だけど、プレーヤーは大きく分けて下院、上院、そして行政府の3つだ。行政府は当然さらに大統領、財務省、国家経済委員会、等複数のプレーヤーから成る。法律を通すのはもちろん下院と上院から成る議会。行政はあくまでも議会に対するインプットと、後、大統領には法律にサインしないという拒否権(Veto)がある。ちなみにこのVeto、法案パッケージそのもの全体に対してのみ行使することが許されているので、部分的に気に入らない条文とかが入っていてもその部分だけVetoする、いわゆる「Line Item Veto」は連邦法には認められないと1998年に最高裁判所が判断している。三権分立の観点からそうあるべきだろう。したがって、大枠方向性が合っていれば共和党が通した法律をトランプがVetoすることは考えらえないだろう。

下院は2016年に歳入委員会が既にThe Blueprintを公表しているので、Head Startというか一番方向性がはっきりしいている。上院はIntegrationとか何となく場当たり的なアイディアは出しているものの、結局は様子見という感じ。そこでレーガン以来のリーダーシップを発揮して全体を力強く取りまとめて欲しいのが行政府、特に大統領自身なんだけど、実はかなり狼少年。2月9日には「2~3週間のタイミングで「Phenomenal」な税法改正の発表をする」と言ったきり、何もなく2~3週間は過ぎてしまったし、その後の2月末には両院を前にしたジョイントセッションで再び「近々に「Massive」な減税を伴う「Historic」な税法改正を公表する」とぶち上げていた。その後、3月にも何の発表もなく、「Phenomenal」「Massive」「Historic」と言った大袈裟な形容詞はどこに行ってしまったんだろう、と狐につままれたような日々が続いていた。

そんな中、ようやく4月後半になり、4月26日に大統領府による税法改正案が公表されると発表され、3カ月寝かして議論を重ねた訳なので、いよいよ満を持して登場か、と期待はイヤでも盛り上がらざるを得ない状況となった。もちろん、トランプ大統領や行政府が何を発表してもそれがそのまま法律になる訳ではないので最終的な姿は全く不明だが、少なくとも行政府としてどのように考えているのか、に関しては興味のあるところだ。

そして4月26日東海岸時間午後1時半、例によって見ているだけで笑える感じの報道官のSpicer先生が、アシスタントがレターサイズたった(?)1枚の(日本で言うところのA4サイズみないなもの)Brief Paperをペラペラ配る中、財務長官Mnuchinと国家経済会議委員長のCohnを伴って現れた。あれ?トランプ本人は来ないんだとチョッと期待外れだったけど、まあ財務長官が居れば内容説明には充分かな、と思って会見のスタートを見守った。

さて、3カ月間熟考したその内容はいかに?この点は次のポスティングで。