Sunday, April 14, 2013

連邦所得税100周年に出されたオバマ大統領2014年度予算案

余り大騒ぎされることはないが、というか全然誰も騒いでないし騒ぐ必要もないが、今年は連邦政府に法人税・所得税(Income Tax)を課すことが認められて100年となる。連邦制度の下、統治の主たる地位を占める州と異なり、憲法で規定される限定的な権限のみを行使できる連邦政府にはIncome Taxを課す権限は認められていなかった時代が長い。そのままにしておいてくれれば、と嘆く向きもあるだろうが、1913年に合衆国憲法修正16条が可決され、連邦政府は始めてIncome Taxを課すことができるようになる。それまでの連邦政府による歳入徴収法には紆余曲折あったが基本的には外形課税の関税とか、Excise Taxだけだったそうだ。今は昔だが、歳出を抑えて憲法の原点に立ち返れば、Income Taxなんてなくても実はやっていけるじゃん、とか夢を見る今日この頃だ。

記念すべき100周年となる2013年、税法は複雑化する一方で税率は世界一だし、抜本的改正も未だに方向性が見えない。1787年当時の識者の集まりである起草者たちが現在の大きな連邦政府の状況を見たらどのように思うだろうか。

そんな中、オバマ大統領は4月10日に2014年会計年度(2013年10月~14年9月)の国家予算教書を議会に提出した。年末のFiscal Cliff騒動で共和党から譲歩を引き出す形で40万ドル以上の家庭に増税を規定したばかりだというのに、更なる増税が規定されている。共和党は増税に関してはFiscal Cliff騒動の始末をもって終わりと明言しているだけに、今後の反発は必至だろう。増税方法自体、税率を上げるというよりも、控除額に複雑な損金算入制限を設けることで増税を間接的に達成する、だまし舟的な手法によるものが提案されておりギミック的なものに見える。多くの規定は前年までの提案の焼き直しで、目新しいものと言えば適格退職金プランに対する拠出額制限くらいだろうか。

予算案は今後10年で1兆8,000億ドルに上る財政赤字を削減するとしているが、その1/3は増税による歳入増を財源としている。赤字の削減に更なる増税を加味するべきかどうかは民主・共和両党の意見の食い違う部分だ。

*所得税の増税規定

一番大きな歳入増が見込まれているのが、個人所得税の「個別控除(Itemized Deduction)」を制限することで達成される増税だ。個人所得税の税率はFiscal Cliff騒動の結果、40万ドルを超える高所得者に対しては35%から39.6%に増税されているが、今回の提案は税率そのものには変更を加えずに、控除額を減らすことで実質的な増税を狙っている。

具体的には比較的裕福な層に適用される「33%、35%、39.6%」の税率ブラケットで所得税を納める納税者に対して、Sch. Aで控除される個別控除の損金算入額に上限を規定しようとするものだ。個別控除の持つ減税効果は、本来、個々の納税者の限界税率(Top Margin Rate)で効いてくるはずだが、ここに制限を加えて、減税効果の上限を28%とすることで、税金は33%~39.6%で計算されるにも係らず、個別控除は28%のみしか税額を減らしてくれないという状況を作り出す。

また、以前から話題を呼んでいる「Buffet Tax」の提案もある。寄付金控除後の年収が100万ドルを超える納税者は、最低でも30%の税率で所得税を支払ってもらいましょうというものだ。累進税率の米国で所得が100万ドルを超えるのに、なぜ税率が30%を切るか不思議に思われる方もいるかもしれないが、お金持ちほど給与所得とか普通の所得の比率は低く、その代わりに投資活動から発生するキャピタルゲインや配当所得が多いのが現実だ。キャピタルゲインも配当所得も優遇税率の対象で、2012年までは基本的に15%、2013年からはFiscal Cliff騒動の一環で高所得者に対しては20%の税率が適用されるようになっている(それでも通常所得最高税率の39.6%よりはかなり低い)。

また、さらにセコめの規定としては物価スライド調整を算定する際に利用される指標を従来使用しているものとは異なる「新型の指標」とすることで、将来的に高税率区分に属する納税者を多くする、という隠し技的な提案も盛り込まれている。

現状では、物価スライド調整(Cost of Living Adjustment)に利用されているのはアメリカ労働統計局が算定するConsumer Price Index (CPI)だが、以前から諮問機関等によりこのCPIはインフレ率を過大表示する傾向があると指摘されている。そこで労働統計局は2000年から代替の指標としてChained CPU(名づけてC-CPI)と呼ばれるより洗練されたモデルに基づく数値を公表している。

この二つの差異を語る際に頻繁に用いられる例を引用すると次のような感じだ。もし「ふじリンゴ」の値段が高くなって 「デリシャスリンゴ」の値段が低いままだと、多くの人がデリシャスリンゴに乗り換える。このような行動パターンの影響はかなりリアルタイムに現状のCPIにも反映されているようだ。だが、ふじリンゴが高くなると、リンゴを買う代わりに(値段に変動のない)別のフルーツ、例えばオレンジを買う人が増えるという現象も当然起こり得る。このような商品バスケット自体に起こる変動効果を加味するのが、現状のCPIだと2年毎の1月なのに対して、C-CPUは毎月となるそうだ。

このような差異から、C-CPIに基づく物価スライド調整は年間0.25%は低くなるとされている。累進税率の米国では高税率区分に属する最低ラインの所得額を毎年物価スライド調整している。したがって、C-CPIを導入することで将来に亘りより所得の低い納税者を高い税率区分に属させることが可能となる。さらにC-CPIを公的年金の支給に代表される歳出にも同時適用することで歳出サイドを抑えることもできる。一石二鳥の効果が期待できるという訳だ。歳出抑制の側面を持つC-CPIの適用は共和党からの支持を受け易く、他の増税案には反対の共和党もこの案には好感を持っているようだ。

次回のポスティングでは所得税以外の国際課税、遺産税その他に関して触れる。

Friday, January 25, 2013

日米租税条約8年ぶりに改正

現時点で適用されている日米租税条約は2003年に全面改正され(2003年の議定書を含む)2004年から効力を持っているものだが、今日(2013年1月24日)に新たな議定書が両政府により調印され、約8年ぶりの改正となった。改正の事実、その予想される内容はここ一年程話題にはなっていたので特に驚きではないが、正式に発表されたことで「本当になったんだな」みたいな感じだ。

内容的にはほぼ予想通りだが、FIRPTA規定の租税条約の隠れた恩典(後述)が明記されると踏んでいたところ、逆に恩典が正式に撤廃されるという方向に行っていた。これはガッガリ。後、多分入らないだろうとは思っていたが、やっぱり入っていなかったのが適格企業年金の他国での尊重(すなわち、日本の厚生年金の公的でない部分とかを米国で「402 Accrual」しなくてもいいように認めるもの)だ。現実には確定給付型の企業年金に加入している日本人の米国派遣員でこのAccrualをして申告しているケースは皆無と思われることから、逆に租税条約でお墨付きとして欲しいところだった。確か英米の条約にはそのような条項が入っていたような記憶がある。

政府間の合意が見られたが、即有効になる訳ではなく、今後両国で批准手続きの終了を待つ必要がある。批准が終わった後に実際の効力を持つこととなる。米国では条約の批准は上院のみの管轄となる。近年の租税条約、議定書の批准プロセスを見ていると簡単に数日で終わるようなプロセスではなく、早くても今年後半というところではないかと推測される。

*改訂内容

改訂そのものは14条項から成っている。重要性、スコープはまちまちだが、各項目の極ザックリとした内容は次の通り。目玉は配当、利子の源泉税免除拡充、仲裁条項の追加だろう。

I) 20条(教育・研究者の免税)撤廃による「Saving Clause」文言のアップデート。Technical Correctionで大きなインパクトはない。

II)法人のTie-Breakerルール撤廃。両国で居住者となってしまう法人は従来は協議の上、どちらかの居住者として取り扱うとされていたのが、今後はそのようなケースでは租税条約の恩典ナシとする条項。

III) 配当に対する源泉税ゼロ%の要件が若干緩和され、従来の「50%超」「12ヶ月保有期間」が各々「50%以上」「6ヶ月保有期間」となった。

IV)利子に対する源泉税が一定要件を満たすと初めてゼロ%となる。

V) 従来の租税条約では上院の批准趣旨から見て、米国のFIRPTAルールの適用時にUSRPHC(米国不動産持分法人)になるかどうかの判断を、株式売却時点のみの資産状況で決定することができるという解釈が一般的であった。これに関しては批准の文書化で明らかにされているにも係らず、条約そのものの文言が不明確で、本当にそんな解釈をしていいのかどうかという点で疑問を持つ向きもあった。今回の改正でこの疑問が解消されることを願っていたのだが、解消されたのはいいが、方向が逆で、上院の文書化に見られる批准趣旨は無視され、米国FIRPTAルールの内国法そのものが適用されることになった。すなわち通常通り、一定の例外を除き、株式売却時点が5年間遡って判断しないといけない。残念な改正だ。

VI) 日本法人の役員報酬は居住地に係わらず日本で課税できる、という実質内容に見えるが以前からどこが変わったか現時点では理解できてない。もう少し勉強します。

VII) 教育・研究者の免税撤廃。チョッと気の毒な感じ。

VIII) LOB規定の上場定義のTechnical Correction。

IX) 日本がTerritorial課税になったためのTechnical Correctionだが、現時点での解釈と変わらずのような気がする。

X) 利子の源泉税条項変更に伴うNon-Discrimination規定のTechnical Correction。

XI) Arbitration(仲裁条項)の新規追加

XII) 情報交換の拡充(条項全体一新)

XIII) 租税徴収の相互協力拡充(条項全体一新)

XIV) 2003年議定書の改訂で主たるものは相互協議関係。

という訳でJFK―>LAXの機内から取り急ぎ。今週のNYは極寒でした。

Wednesday, January 2, 2013

Fiscal Cliff騒動で明け暮れた年末・年始

あけましておめでとうございます。2013年もよろしくお願い致します。

昨年の秋頃から米国は果たしてFiscal Cliffに対応できるのか、という問題が大きく取り上げられるようになっていた。このFiscal Cliffは日本の新聞などでも取り上げられ「財政の崖」などと訳され、一年前は誰も知らなかった用語なのに、今ではまるで一般用語であるかの如く日常お茶の間の会話に登場するようになった。2012年末までには余りに一般化しずぎて「うちの家計がFiscal Cliffで・・・」のような使い方までされる始末だった。

このFiscal Cliff問題、簡単に言うと2001年・2003年に実施されたブッシュ所得税減税が2012年末で自動的に失効するのとタイミングを同じくして、2011年に可決されたBudget Control Actに基づいて米国の国家予算の大きな部分がカットされるという歳出抑制策が2013年1月1日に「Kick-In」するというダブルパンチを意味していた。景気の足元が未だに定かでない状態で、このような二重苦を強いられては経済は一気に不況に逆戻りすると皆が戦々恐々としていた。そんな中、タイムリミットとなる2012年12月31日が刻々と近づいてきたのだった。

中でもブッシュ減税の失効は大半の納税者の所得税を押し上げることからその方向性が注目されていた。ブッシュ減税は個人所得税の最高税率を39.6%から35%に引き下げると同時に、キャピタルゲイン税率を20%から15%に、そして更に従来は通常所得として課税されていた(すなわち最高39.6%だった)配当をキャピタルゲイン同様に15%課税としたのが骨子であり、基本的には富裕層に有利な税制と受け取られている。

このブッシュ減税、実は元々2010年に失効する予定であったものが、2年間延長され、2012年にまた失効の憂き目に合っているというものだ。2010年のバタバタに関しては2010年12月6日のポスティング「ブッシュ減税+AMTパッチやっと延長の方向に」で触れているのでぜひ参考にして欲しい。Fiscal Cliffの幕開け問題とも言える2010年当時のバタバタ振りが分かってもらえるだろう。

*元旦にCliff法可決

2012年後半から民主・共和両党が譲らずに何回も決裂していた法案作成だが、何と2013年1月1日にCliff法がようやく可決した。それにしても、結局は中間地点で手を打てるのなら、何もここまで引っ張らなくてもと思うところだが、議会の先生達も結構見せてくれる。12月31日終了時点ではCliff法はなかったことから、厳密に言うと米国は財政の崖から一度落ちてしまい、落ちていく過程でやっぱりこれはまずい、ということで崖の底辺にクラッシュする前に背中のジェットパックが起動して崖っぷちに押し上げられたような感じかも。Helter Skelterみたいだ。

*ブッシュ減税部分的に恒久化

注目の所得税減税の運命だが、大方の予想通り、中間地点への着地で終焉した。もともと、ブッシュ減税を全て失効させてしまうと民主党の基盤も含む全ての納税者に増税効果があることから、オバマ政権案もさすがにそこまでは増税を望まず、民主党案は年収$250,000までは増税ナシ、それ以上の年収の場合にはブッシュ減税以前(最高税率39.6%)に戻すというものであった。一方の共和党はいかなる増税も認めない、代わりに民主党の好む政府による各種補助金的な歳出を抑えるように求めていた。米国の現状は(選挙後の2013年以降も)下院が共和党、上院が民主党、ホワイトハウスは民主党という勢力図になっており、両院が別の党に支配されていることから、基本的に超党法案でないと可決されないという難しさがある。

両党による調整(主に下院とホワイトハウス)過程では、共和党が$1,000,000以上の年収であれば増税を認めるとした案を出したり、オバマ政権側が$250,000を超える年収に対する増税は必ずしも39.6%でなくてもよい(中間の37%とかでもよい)という案を出したり、綱引きが続いていた。

結局のところ落ち着いたのは年収$400,000まで(夫婦合算申告のケースでは$450,000)は所得税率のアップはなし、それを超える場合にはトップ税率を35%から39.6%にアップというものになった。$250,000でないだけマシと言えるが、米国の事業オーナー的な身分だとおそらく$400,000はチョッと物足りないというのが本音ではないか。$1,000,000ならば余り文句もないレベルだったと思う。また、税率が39.6%まで一気に戻ってしまった点もショックに感じている方も多いと思う。20年ぶりに米国を襲う大きな増税となる。今回のCliff法、基本的には歳出カットは先送りし、その分を富裕層への増税で賄うという図式のものとなっている。歳入増の9割方は年収$1,000,000以上の納税者から見込まれるそうだ。

*キャピタルゲイン・配当

もうひとつの焦点であったキャピタルゲインおよび配当課税だが、こちらも折衷案的な解決が見られた。キャピタルゲインも配当も年収400,000まで(夫婦合算申告のケースでは$450,000)までの納税者に関しては15%は据え置かれるが、それを超える年収の者が受け取るキャピタルゲイン、配当は20%に上昇することとなる。配当が通常所得の39.6%まで戻っていない点には安堵した投資家も多いだろう。

ちなみに、配当に対する所得税率が15%から39.6%に上がるかもしれないという懸念の中、米国上場企業の2012年第4四半期の「駆け込み」配当は例年平均の7.5倍の額に上ったという。さすがに税制に敏感な国の企業の配当ポリシーだ。もっとも、似たような現象は2010年のオリジナルの減税失効不安時にも見られたが。

*結局は国民皆増税

所得税率だけ見ていると分からないが、実際にはほぼ全員が増税の影響を受けるというのが実態のCliff法だ。まず、社会保障税の公的年金部分(日本の社会保険料に相当)の従業員負担部分が4.2%に減額されていたものが1月1日より6.2%に戻る。これは年収レベルに関係なく適用される。

また、所得税を算定する際に認められる「個別控除(Itemized Deduction)」の金額にPhase Outと呼ばれる制限が再開される。このPhase Outは増税以外の何者でもないが、税率の方だけ見ているとその効果が分からないために「隠れた」増税と揶揄されることがある。Phase Outは年収$250,000の納税者(夫婦合算申告のケースでは$300,000)から適用される。また同じレベルの高所得者が計上する扶養家族控除にも同様のPhase Out規定が再開される。つまり年収$400,000行ってなくてもかなり踏んだり蹴ったりの状況となる場合もある。

ひとつグッドニュースはここ何年もサーカスのように時限的なパッチでごまかしてきたAMTの問題が恒久的に解決された点だろう。AMT所得税を算定する際に使用される控除額が物価スライド調整されたものに置き換えられる。AMTパッチに関しては2007年12月27日のポスティング「IRSのAMTパッチ対応Update」等で何回か触れているのでそちらを参照して欲しい。

*R&Dクレジット

もうひとつ多くの日本企業にとっての関心事であったR&Dクレジットだが、こちらは2年間延長された。R&Dクレジットは2011年で失効していたため、2年と言っても2013年までの延長となる。これもAMTパッチ同様に必ず延長されると信じられているがいつまで経っても時限立法の状態にある規定だ。

チョッと気になるのはR&Dクレジットの延長が法律化されたのが1月1日となると、2012年12月末の決算書にR&Dクレジットの影響を盛り込むことができるかどうかという点だ。これは会計原則の問題なので個人的には専門外となるが、FASB 109(Codifyされる前の番号で失礼)では法律が「Enact」された日を含む期にベネフィットを認識となっていたように思うので、1月1日ではどうなるか気になった。

また、日本企業には余り関係ないかもしれないが、タックスヘイブン税制下の「Active Financing」例外規定(GEが恩典を沢山受けているもの)、「Look-through」規定なんかも仲良く2年間延長され2013年まで有効となった。

*Fiscal Cliffこれから

Cliffは一応、軟着陸で乗り越えた。だが、基本的な国家財政の問題はこれからの課題として残り続ける。1月1日の法審議の際に下院共和党では「取り合えずタックスの部分のみ解決させ、財政は今後審議しよう。でないと何の法案も通らないから」という形で最終的には合意を見たと言われている。共和党としては何とか歳出を減らしたいが、そこにこだわり続けると結局、超党の法律は通らず、タックスまでもCliffから落ちてしまうとの懸念が最後は部分的な増税を含む法案にOKを出した形となる。

財政均衡の方向を見ても、両党のイデオロギー的な違いは大きい。米国でなぜいつまでも銃規制が行われないのか、という日本的に考えると不思議な疑問も、米国建国時からのイデオロギー的な戦いの中では簡単な解決策はない。それと同じようなことが今回の年末年始に掛けてのFiscal Cliff騒動に見られた。ということは今後の財政問題も簡単には超党的な解決はないように思える。

*2013年Resolution

最後に毎年のResolutionですが、もっと頻繁にポスティングしなくては!次回は書き始めた「過小資本についてスコティッシュパワー判例から学ぶ」というタイトルに関して半年振りに着手させて頂きます。それでは皆さん良いお年をお迎え下さい。