Monday, July 28, 2008

ようやく可決「Housing Relief Bill」

サブプライム問題に短を発した不動産市況の悪化、クレジット市場の収縮、さらにエネジー価格の高騰で米国経済もかなり危ないところまで来ている感が強い。これ以上の悪化を食い止めるための法律「Housing Relief Bill」が昨日(2008年7月26日)に上院を通過した。ブッシュ大統領も今回の法律には署名の意向を表明していることから今週中には正式に法律となる見込みだ。

*Housing Relief Bill骨子

この法律はその名の通り、住宅不動産市況の安定を目的としているものだ。したがって、差し押さえに瀕している住宅物件オーナーに対する救済、住宅ローン借り換えに対する政府保証、米国の住宅抵当公社であるFannie MaeやFreddie Macの救済等のタックス以外の条項が沢山盛り込まれている。一方でタックス関係の条項もかなり豊富だ。タックス面では、減税による歳入減は増税で賄う「Balanced Budget」となっている。したがって、試算上は税収がマイナスとなることはないが、救済にはプラスで多額の資金(=公的費用、つまり税金)が必要となる。

政府当局による大型救済はBear Stearns買収に始まり、今後Fannie MaeやFreddie Macの救済等が具体化してくると多額の税金が問題の収束に当てられることになる。ただでさえ、財務状況が悪い米国であるが、今回の法律では従来の財政赤字限度額である「$9.5 trillion」が「$10.6 trillion」に増額されている。桁が大きすぎて全然ピンとこないが、円換算でザックリ1,100兆円くらいとなる。凄まじい金額だ。

*減税規定

実際の規定はかなり盛り沢山で、例によって細かいが、ここでは普通の個人、日本企業に関係がありそうなものを掻い摘んで紹介する。

住宅関連の不動産マーケットへの露骨な梃入れとして「初めて自宅を購入する者に対する税額控除」が規定されている。これは住居の取得価格の10%までを税額控除として認めるというものだ。ただし、上限額があり$7,500が最高額となる。また、例によって所得が高くなると恩典がなくなるPhase-Outが規定されており、年収(正確にはAGI)が$75,000(夫婦合算申告では$150,000)を超えると恩典に制限が加えられる。ただし、この「初めて自宅を購入する者に対する税額控除」は通常の税額控除と異なり、納税者に今後15年に亘る返済義務が生じる。したがって、実質政府による無利息の15年ローンと考えればよい。2008年4月9日またはそれ以降、2009年7月1日以前に取得された自宅に適用される。

次に、従来のシステムでは自宅に対して地方政府に支払う固定資産税は、Sch. Aの「Itemized Deduction」の一部となるため、他のItemized項目と合算して(そして必要であればPhase-out計算をして)金額がStandard Deductionより大きくなって初めて控除の税効果が生まれる。したがって、Itemized Deductionの合計(Phase-out後)がStandard Deductionの金額を超えない場合には、固定資産税は払っていても個人所得税に対する恩典はないことになる。Housing Relief BillではStandard Deductionの利用する者でも、自宅に係る固定資産税を「上乗せ」で計上することを認めている。ただし上限額があり、$500(夫婦合算申告で$1,000)が最高額となる。州税のない州に居住しているようなケースで恩典が大きそうだ(州税がある場合には、州税がItemized Deductionとなるため、比較的他の項目からItemizedの恩典を受け易い)。

事業主体向けでは、AMTクレジットまたはR&Dクレジット繰り延べ額の使用枠の拡大が規定されている。具体的には先の「Economic Stimulus Act of 2008」で規定された「ボーナス減価償却」の恩典を受ける代わりに、相当額分AMTまたはR&Dクレジット繰延額の使用枠を大きくするというものである。やはり上限額があり、AMTクレジット/R&Dクレジットの繰延額の6%または$30 millionのいずれか低い金額となる。

*増税規定

米国では買い物・サービスの対価をクレジットカード(またはデビットカード)で決済することが多い。事業主による売り上げの過少申告を牽制する意味で、クレジットカード・デビットカード会社にどこにいくらの支払いをしたかという報告書を提出させるとい規定が含まれている。カード会社に準備期間が必要となるため、この規定の施行日は2011年となるが、米国議会作成の資料によると、この規定から今後10年間に$10 billion弱の歳入増を見込んでいる。

外国税額控除の制限枠の算定には納税者の損金を国内と国外源泉に按分・配賦する作業が必要だ。でないと制限枠の算定の基礎となる「外国源泉のネット課税所得」が算出できないからだ。費用をどのように按分するかにより外国源泉所得の金額が変わり、結果として取れる外国税額控除の金額に影響がある。この算定を行う際には支払利息を按分する必要がある。この支払利息按分は基本的に資産高に基づく算定となるが、その算定時に米国外の「関連企業」の数字をも考慮してもよいという「Worldwide Interest Allocation」が2009年から適用されるはずであったが、2011年からに延期された。

自宅の売却益は、売却時点から過去5年間に少なくとも2年間に亘り売却不動産を「主たる住居」として所有・使用している場合には$250,000(夫婦合算申告では$500,000)まで非課税となる。今回の法改正で不動産を当初バケーションホームとして取得した場合には、非課税額に制限が加えられることとなった。

*FIRPTA関連の居住者告知

一点、マイナーな規定であるが目を引いたのが、FIRPTA関連の通知に係る規定だ。米国で不動産を売却する際には、売り手が非居住者でないことを告知するフォームがある。売り手が非居住者であるとFIRPTAに関連して規定されているSec.1445の売値に対する10%源泉の対象となる可能性があるからだ。従来、この告知は売り手の納税者番号(通常はSSN)を明記して買い手に提示していた。「Identity Theft」防止の観点から、今後はこの通知は買い手そのものではなく、不動産取引を仲介している弁護士、エスクロー会社等に提示すればいいことになった。

*モラルハザード?

日本でも金融機関の公的救済時にさかんに口にされた「モラルハザード」の問題を指摘する向きもある。結果として無責任な貸し手および借り手に援助の手を差し伸べることにより、怪獣退治のはずが、怪獣を育ててしまっているのではないかという議論だ。しかし、結果として今回の法律が賛成多数で可決されていることから全体のムードとしては、急激に危機的な状況に突入しつつある米国経済を救うには「背に腹は代えられぬ」ということであろう。

Saturday, July 19, 2008

米国投資とスワップ(1)

つい最近、IRSはRev. Rul. 2008-31で価格指数デリバティブを基とするスワップを利用した形での米国不動産投資は「FIRPTA」規定には抵触しないという判断を下した。当然、このRulingは外国人投資家、またケイマン等に本拠地を置くヘッジファンドなどにとっては米国の税コストを低減させながら投資効率を上げることができる吉報である。不動産投資に係るスワップについて詳しく触れる前に、まずは外国人投資家から近年取り扱いが注目されている「エクイティー・スワップ」に関して触れてみたい。

*エクイティー・スワップ

エクイティー・スワップとは金融デリバティブの基本的な形態のひとつで、株価指標または個別銘柄等のパフォーマンスと金利をスワップするものである。税務上は「Notional Principal Contract (NPC)」という正式用語で規定されるもののひとつで、その用語が示す通り「想定元本」に基づく契約である。基本的に投資家とディーラーの相対契約となることから(Futuresのように市場で売買されているものと異なり)、どのような銘柄、指標を基とするか、最初に想定元本となる金額の決定、最後のTermination Paymentの計算方法等、かなり弾力的な設定が可能だ。

最も基本的な「Plain Vanilla」パターンのエクイティー・スワップの例としては、AはBから銘柄Xという株式の配当と同額を受け取り、BはAからLIBORに基づく金利と同額を受け取るというものだ。実際にはAが株式を保有することはないが、スワップを実行する時点での銘柄Xの株価に基づく「想定」借入がBからAに行われた形となる。その後例えば年に一回、株価の変動に基づく精算を行い、想定借入額もその時点の株価に連動するようなイメージだ。実際のキャッシュフローはみなし配当、株価の変動、利子等全ての相殺したネットベースで行う。

そして仮に3年後にスワップを手仕舞いするとして、精算はその時点の株価に基づき行われる。経済的には借入をして株式投資するLeveraged Security Purchaseと基本的に同じである(Xが倒産等した場合の権利は異なるであろうが)。

上の形態は単なる典型的なスワップ契約の一例で、実際には無数のバリエーションがあるが、多くのスワップ契約では、AおよびBの双方のいずれにも株式を保有する義務はない。Bに関して言えばExecutionリスク等のヘッジのため、実際に銘柄Xを購入することも十分に考えられるが、それはB独自のリスクヘッジ判断であり、スワップ契約に基づくものではない。

なお、似たような用語に「デット・エクイティー・スワップ」というものがあるが、こちらは本当に(想定ではない)借入の返済を株式にて行うというケースに用いられるもので、今回のテーマであるNPCではない。

*エクイティー・スワップのメリット:レバレッジ・レシオ

スワップを通じての株式投資は、直接株式に投資する手法に比べていくつかメリットがある。その一つはレバレッジ・レシオであろう。直接株式に投資する際には米国の規制下では一定の比率までしか借入を原資とすることができない。一般的にはこのレシオは50%である。一方、スワップに関しては契約の当事者が合意する内容で自由に締結が可能となることから、レバレッジを利用して投資効率を高めたいと願うヘッジファンドのような投資家にとってはスワップは格好の投資手段となる。

*エクイティー・スワップのメリット:源泉税

外国人投資家(タックスヘイブンを本拠地とするヘッジファンドを含む)にとってエクイティー・スワップという形で米国株式に投資するもうひとつ大きなメリットは配当が米国で源泉税の対象とならないことであろう。これはエクイティー・スワップから発生する配当見合いの金額の源泉地は「配当見合いの金額を受け取る納税者の居住地」とされていることに依る。

米国で源泉税の対象となる支払いは基本的に「ECIでないFDAP」となるが、FDAPの定義の重要な要素のひとつは「米国源泉所得」である。外国人の居住地を源泉地とするということは、多くのケースで外国源泉所得となるということを意味するため、その時点で米国での源泉税対象から外れることとなる。

この取り扱いは、借入をして米国株式に投資するという経済的には瓜二つの取引に対する取り扱いと大きく異なる。通常、米国株式からの配当は30%の源泉税対象である。租税条約締結国の居住者は低減税率の恩典を受けることができるが大概は10%~15%の税率で課税される。日米租税条約でも小口の一般投資家の受け取る配当は10%の源泉税が規定されている。

さらに多くのヘッジファンドはケイマン島のような租税条約のないタックスヘイブン居住者となっているため、30%源泉税の有無の差は大きい。

*なぜエクイティー・スワップだと源泉税がないか?

資本の「輸入国」である米国には外国からの投資を奨励する税法規定は他にも存在する。代表的なものは一般外国人投資家が米国の債券等から受け取る利子所得が源泉税から免除されるという「Portfolio Interest」規定だ(この規定は10%以上の持分を持つ株主が債権者の場合には適用できない)。この規定に基づき外国人が米国から受け取る利子所得は内国法で源泉税が免除されるが、一方で配当に関しては同様の規定はない。

エクイティー・スワップに対する源泉税免除は金利に対するPortfolio Interest規定のように政策的に外国からの投資を誘致するような仕組みの一環と考えるべきであろうか。しかし、それであれば配当そのものに「Portfolio Dividend」規定のようなものを新設してもいいと思えるが、そのような動きはなく現状ではエクイティー・スワップのみ優遇されている。

確かに、スワップで実際に株式を取得しないケースを考えると、本当に支払われる配当には誰かが税金を支払っている訳で、そう考えるとエクイティー・スワップに基づく配当見合いの支払いを本当の配当と同じように取り扱うのも変なのかもしれない。ただ、経済的にほぼ同様な結果に至る取引が異なる取り扱いを受けることから様々なタックス・プラニングの対象となり、となるとIRSはその悪用に網を掛けるということにもなり、例によって税法運営がますます複雑化していくこととなる。

*エクイティー・スワップ源泉税免除と注意点

エクイティー・スワップが有利なのは配当に対する源泉税という局面に限られ、Termination Payment等の他のPaymentの取り扱いに関しては直接の株式投資と差はない。外国人が米国株式等のPersonal Property(不動産以外の財産=動産)から得る売却益は基本的に納税者の居住地が源泉地となることから、いずれにしても非課税の取り扱いを受けることができるのが一般的であるからだ。

エクイティー・スワップからの所得が米国事業に関連する「ECI」と取り扱われる際には全く別の規定が適用され、基本的には累進税率で課税対象となる。ただし、株式投資、エクイティー・スワップ投資を自分のアカウントで「Trading」している限り、米国事業とはならないというのが一般的な取り扱いであり、もちろんヘッジファンドなんかはECIとならないような形態で投資している。

また、エクイティー・スワップという名称で契約を結んでも税務上、それが本当にエクイティー・スワップと取り扱われるかどうかは常に検討するべきであろう。金融商品には経済的な実態が同じでも形態が異なるものが多数あることから、IRS側も実態に基づき取り扱いを決定するはずだ。エクイティー・スワップと似たような取引で税務上の取り扱いが異なる(すなわち配当見合いが源泉税の対象となるケース)としては、Security Lending(空売りに必要な株式を調達するようなケース)、レポ取引、Common Lawに基づく株式みなし所有(名義は別でも実質の所有があるという認定)等が考えられる。

Sunday, July 13, 2008

米国のスピンオフ(13)

前回までのスピンオフに係るポスティングでスピンオフが非課税となるための様々な条件の話しをしてきた。その締めくくりとしてSec. 355(d)と呼ばれる複雑な規定に触れる。この規定はスピンオフから過去5年間にスピンオフに関与する法人の50%以上が取得された場合に関係してくる。いままでも沢山の条件、例外に触れたが、その際にも50%とか5年という規定はかなり頻繁に登場した。そこで今回はSec. 355(d)に深入りする前に今まで話した条件のうち、50%とか5年という条件が盛り込まれいるものに関して若干整理してみたい。

なお、個々の条件を検討する際にはスピンオフがうまく行けば信じられないような恩典を受けることを意味するという「Big Picture」を忘れてはならない。すなわち、分配を行えば、法人では含み益課税、株主側では配当、または償還扱いの場合には売却益課税、されるというのが通常の取り扱いである。これを全て非課税で行うという「例外規定」がスピンオフだ。例外規定であることから、スピンオフの条件は「狭義」に解釈される。これは「例外規定」は「一般規定」よりも狭義に解釈されるべきという法律の基本的な考え方に基づくものだ。

Sec. 355(e)

直近のポスティングではスピンオフの条件の中でも、買収されることを目的として事業をスピンオフするMorris Trust型の取引に対する規定であるSec.355(e)にフォーカスした。

Morris Trust型の取引に基づきスピンオフと同一プランの一環で50%以上の持分を第三者に取得される場合には、事業を分配する法人Dはスピンオフの対象となる法人C株式の含み益に課税される。一方で、スピンオフの他の条件を満たす限り、分配を受ける株主(Distributee)に対する配当課税はない。

法人サイドのみで課税されるという規定の背景は、基本的にSec.355(e)が「法人が含み益の認識なく資産を分配する(General Utilities Doctrine)」という行為に網を掛ける目的で制定されているためだ。General Utilities Doctrineは1986年の税法改訂で撤廃された考え方であるが、非課税スピンオフはその撤廃後、唯一残された法人サイドで含み益を認識することなく価値のある資産を分配する手法となる。したがって、スピンオフは納税者側から見ると極めて有利な特例であり、そのため、多くの条件があり、条件の全てを律儀に満たして初めて非課税の恩典を受けることができる。

他のいくつかの条件と異なりSec.355(e)はスピンオフ前後のDまたはCの買収が「適格の非課税再編」であっても50%以上という条件に抵触する限り適用がある点注意が必要だ。

*5年以内に課税取引で取得されたC株式はBoot扱い(Sec.355(a)(3)(B))

課税取引で取得されたC株式を「5年以内」にスピンオフすると、その株式は「Boot」扱いされる。Boot扱いされるため、Sec.356に基づき配当(E&Pの範囲で)または償還取引として課税されることになる。この規定に関しては「米国のスピンオフ(6)」でAT&T分割の際の興味深い取り扱いに触れた。5年以内のC株式取得に関しては、他にもActive Trade条件、そして今後触れるSec.355(d)、Sec.355(e)も検討する必要がある。

Boot扱いされるということは非課税スピンオフ上の適格分配資産とならないということなので、法人D側、分配を受ける株主側の双方で課税される。これはSec.355(e)の取り扱い(=法人側のみで課税)と異なるが、これは規定の目的が異なるからだ。5年以内に課税取引で取得されたC株式を分配することに網を掛けようとする主たる理由は、現金を代表とする流動資産を(長年事業をしている株式を取得して)スピンオフと仮装して分配することへの対策だ。

また、Bootにするという規定であることから、スピンオフの対象となる全ての株式がこの規定に抵触してはそもそもスピンオフにならない。そのようなケースでは下のActive Trade条件にも抵触するため、そもそも非課税スピンオフにはならないであろう。となると、この条件はAT&Tケースのように全体はスピンオフとなるが分配対象の一部に非適格となる株式が含まれているというようなシナリオに最も関連してくるように思われる。

*5年以内に課税取引にて取得されたC株式とActive Trade or Business条件

Active Trade条件はスピンオフの根幹に位置する条件であり、「米国のスピンオフ(2)」で触れている。単純に言えば、非課税スピンオフとなるにはDおよびCが過去5年間事業に従事している必要があり、またスピンオフ後に双方共にこの歴史的事業を継続する必要があるというものだ。5年以上事業を営んでいる法人を買収して買収前の実績を基にActive Trade条件を満たしているという主張を退けるため、課税取引でCのControlを「5年以内」に課税取引で取得し、CをスピンオフするとCに関してActive Trade条件が満たされない。これも上のBoot扱いと同様に、本来は配当となるべき流動資産をスピンオフと仮装して分配することへの対策である。したがって、スピンオフそのものが適格でなく、法人D側、分配を受ける株主側の双方で課税される。

*スピンオフを行うDの買収

上述の5年以内のDによるCのControl取得(課税取引による)の禁止(こちらはまだ分かり易い)に加えて、Active Trade条件には更にややこしい規定である「スピンオフを行うDのControlが5年以内に課税取引で買収されている場合にActive Trade規定が満たされない場合がある」というものがある。具体的には課税取引でDのControlが「5年以内」に取得されており、その買い手が法人であり「Distributee」となるようなスピンオフはActive条件が満たされない。Distributeeが法人以外(個人、Trust等)のケースには少なくともこの規定の適用はない。

Active Trade条件の一部であるが、基本的には流動資産の配当を規制するというよりもDのCに対する含み益を認識することなく分配されることに対する規制(上述のGeneral Utilities Doctrine撤廃を受けての対策)に近いように見える。その意味では前述のSec. 355(e)、また今後話すSec. 355(d)の目的に近いように思えるのだが、あくまでもActive Trade条件の一部を構成するため、この条件に抵触するとスピンオフそのものが適格でなく、法人D側、分配を受ける株主側の双方で課税される。

また、この規定が適用されるのは「Distributee」イコール「DのControlを5年以内に取得した者」という図式が成り立つ場合のみだ。DのControlを取得した者以外にCが分配される場合には、このActive Trade条件は問題ない。そのような場合には今後話すSec. 355(d)の検討が必要となる。

*5年以内の買収:課税取引 v 非課税取引

上述のBoot扱いの規定、Active Trade規定、そして今後話すSec.355(d)規定は全て5年以内のC株式の買収が「課税取引」にて実行された場合に関連してくる。買収が「非課税再編」であった場合にはこれらの規定の適用はない。過去の非課税再編による買収が関係してくるのはSec.355(e)であろう。

*持分継続条件とスピンオフ

スピンオフに対する持分継続条件に関しては「米国のスピンオフ(7)」で触れた。個人的にはこの持分継続条件が実際にどこまでを認めているのかはよく分からない。

財務省規則の例示から、Dの従来からの株主の「誰か」がDとCの各々に対して50%の持分を維持していれば満たされるが、DとCのどちらか一社に対してでも持分が20%まで落ちてしまったら満たされない、ということは明確である。しかし、その間の%に関してはよく分からない。A型再編では40%でも大丈夫とされるがスピンオフではどうなのか?

また、他の条件(特にDevice条件)とのOverlapもあり、持分条件そのものが満たされていると主張できるような局面でも、他の条件に抵触するようなケースでは持分継続条件はそのものは「Moot」となる。

50%以上の持分移動というと上述のMorris Trust型取引に係るSec. 355(e)を思い出す。持分継続とSec.355(e)の関係を明確に断言する程の自信はないが、個人的な理解としては、Sec.355(e)は買収後の事業主体全体に対する持分が問題となるが、持分継続条件はあくまでも買収前の状態にフォーカスしており、スピンオフ後の買収で株式(=Equity)を受け取っていれば、例え買収後の事業主体全体に対する持分が低くても問題はないというものだ。

すなわち、持分条件を判断する50%とか25%というパーセンテージは旧Dの株主のDおよびCそのものに対する%で見るものであり、DまたはCがスピンオフ後に買収される場合には買収対価の中にEquityが何%含まれるかという点が問題となるのではないかと思っている。すなわち、例えばCがスピンオフと同一プランに基づき大きな企業に買収され、買収後の事業主体に対する旧Cの株主(=旧Dの株主)が例え10%であったとしても、買収対価全体がEquityであり、スピンオフそのものを見た場合にDとCに対する従来からのD株主が必要%持分を維持していれば、少なくとも持分継続には問題がないということだ。

もちろんだが、スピンオフと同一プランの一環で実行される買収でBootが使用される場合には、旧D株主が受け取るBootの額はCまたはDの持分継続を満たしているかどうかの算定に加味する必要があるだろう。

持分継続がOKとなるケースでも、買収とスピンオフが同一プランの一環で行われる場合にはもちろんSec. 355(e)の検討が必要となる。しかし、Sec.355(e)はあくまでも法人Dでの課税を規定するものである。その意味で、(スピンオフの他の条件と並び)持分継続を満たしているかどうかは分配を受ける株主サイドでの課税関係を決定する上では重要な検討事項であり続ける。

Saturday, July 5, 2008

米国のスピンオフ(12)

前回のスピンオフに係るポスティングではMorris Trust型取引の横行に対して制定された1997年の法律であるSec.355(e)に関して触れたが、今回も引き続きSec.355(e)関係の話しを続ける。

前回のポスティングにて、Sec.355(e)の鍵となる事実認定は「買収とスピンオフが同一プランの一環で行われたかどうか」である点に触れた。これは「事実関係」の問題であり、4年間の推定規定、また同一プランの一環を示唆する事実関係に基づきながら、最終的にその判断は個々のケースを取り巻く全ての事実関係に基づいて判断されるとされる(Facts and Circumstances Test)。下にいくつか具体例を挙げながら、同一プラン認定の有無の検討を続ける。

*同一プランの一環の検討:具体例

DのOfficer、取締役会は投資銀行とDの株式に対する公募(Public Offering)に係る話し合いを持っていた。その結果、D単独法人として公募を実行するのが得策であるとの判断に居たり、話し合いの一月後にはDの子会社Cをスピンオフする。その7ヶ月後にD新規株式が公募が基づき発効された。このようなケースでは、スピンオフから過去2年間の間に公募に係る話し合いが持たれていること、またスピンオフは公募を助成するために実行されていることから、同一プランの一環にて行われていると取り扱われる。

Dは上場企業でCはDの子会社である。Dはより有利な条件での資金調達を実現するためにCのスピンオフを実行する。Cの事業に係るリスク・ファクター等の理由でCを子会社に持っているとDが望む条件での資金調達ができなかったからだ。スピンオフ時点でDとCはSec.355(e)に係る補填契約を締結したものとする。すなわち、もしスピンオフ後にCが係る買収等の取引に基づきSec.355(e)下でDに税負担が発生した場合にはCはDにこれを補填するということだ。スピンオフ時点では特定のバイヤーは出現していなかったものの、スピンオフ後にCの買収に興味を示すバイヤーが出現するのはほぼ間違いないと予想されていた。その後、現実にY社がCを非課税のReverse三角合併(実質株式交換に等しい)により買収し、Cの株主は合併後のYの50%未満の持分に相当するY株式を受け取る。

この例ではスピンオフ前にD、C、Yの間に買収に係る合意、了解、申し合わせ、かなりの交渉、の実績はない。したがって、スピンオフと買収は同一プランの一環ではないと取り扱われ、したがって、C株主はY全体の50%未満の株式しか受け取らないがSec.355(e)の適用はない。すなわち、Dはスピンオフ時点のC株式の含み益に課税されることはない。上の例ではCはDに万一Sec.355(e)が適用された場合の補填契約を結んでいるが、その事実のみをもってスピンオフとCの買収が同一プランの一環とみなされることはない。

*Safe Harbor規定

買収とスピンオフが同一プランの一環で行われたかどうかの判断は上述の通り、基本的に個々の取引の事実関係に基づき行われる(Facts and Circumstances)。しかし、財務省規則には多くの「Safe Harbor」が規定されており、これらのSafe Harborのひとつに該当する取引は「同一プラン」とはみなされない。Facts and Circumstancesテストは、その結果に対する予見可能性が低いため、Safe Harbor規定は極めて重要だ。ただし、Safe Harbor規定の適用においても「スピンオフの事業目的が何であったのか」という事実認定が重要となることが多く、その意味でSafe Harbor規定の適用も必ずしも「機械的」なものではないケースも多い。

Safe Harborは全部で9パターン規定されているが、関連深そうなものを5つ紹介しておく。これらのSafe Harborはこれだけ読んでも何となく理解し難いものがあるので、実際の取引を空想しながら読んでいく必要がある。

  • 買収がスピンオフ6ヶ月以降に発生している場合で、スピンオフの唯一または主たる目的が買収促進ではなく、、かつ買収に係る合意、了解、申し合わせ、かなりの交渉、の実績がスピんオフ前1年、スピンオフ後6ヶ月に存在しないケース
  • 買収がスピンオフ6ヶ月以降に発生している場合で、スピンオフが買収促進を事業目的としておらず、、かつ買収に係る合意、了解、申し合わせ、かなりの交渉、の実績がスピんオフ前1年、スピンオフ後6ヶ月に存在せず、同期間にDまたはC(Sec.355(e)で問題とされる買収対象となる法人)の25%超の持分が買収または買収交渉の対象となっていないケース
  • スピンオフ後に買収がある場合、スピンオフが実行される時点およびその後1年間、買収に係る合意、了解、申し合わせ、かなりの交渉、の実績がないケース
  • スピンオフ前に買収がある場合、買収がスピンオフに係る「Disclosure Event」(関係者によるスピンオフに係る何らかのコメント)より前に実行されているケース(ただし買収とスピンオフの間の期間に買い手が買収対象法人の5%株主(上場企業)または大手株主(非上場企業)、または10%株主となる場合、また買収が20%以上の場合には当Safe Harborの適用はない)
  • スピンオフ前に買収がある場合、スピンオフがD株主持分に均等(Pro-rata)に行われ、買収がスピンオフが公に発表された後に行われ、スピンオフ発表時点では買い手との間にスピンオフに係る何の話し合いもないケース(ただし買収とスピンオフの間の期間に買い手がDの5%株主(上場企業)または大手株主(非上場企業)、または10%株主となる場合、またDの20%以上の持分が買収される場合には当Safe Harborの適用はない)

*オプション

買収が株式の直接取得ではなくオプションを通じて実行される場合には、オプション取得を実質、株式取得同様に取り扱う規定も含まれている。これはオプションを利用してSec.355(e)の規定を迂回するような行為に網を掛けるためものものだ。

*50%以上の取得に係るもうひとつの規定

Sec.355(e)は「スピンオフ+買収」という取引に対する規定であるが、スピンオフの規定にはもうひとつ50%以上の持分取得を制限するものがある。それはSec.355(d)に規定され、含み益を持つ事業をゲインの認識なくうまく分配(というよりも実質譲渡)してしまうことを目的とした取引に網を掛けるためのものだ。ある意味、Sec.355(e)よりも難解だが、スピンオフシリーズの一部として避けて通ることができない条項であり、次回以降のポスティングにて触れることにする。