Saturday, April 14, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)支払利息損金算入ガイダンス発表「旧アーニングス・ストリッピング規定とBEAT」(2)

前回のポスティングでは、4月2日に財務省が発表した3姉妹Noticeのうち、支払利息損金算入制限(Section 163(j))にかかわるNotice 2018-28に関して、特に旧アーニングス・ストリッピング規定で繰り越されている利息の今後の扱いを中心に触れた。過去に外国関連会社に支払ってアーニングス・ストリッピング規定に抵触して繰り越されていた支払利息を今後損金算入する際には、BEATに抵触するんだろうな、っていう点は何となく予想されてたけど、(たかが?)Noticeの段階であそこまで明確にBEATに抵触する可能性を指摘してるのは少し意外な感じがすると同時に他の解釈は認めないぞ、っていう財務省の強い決意が感じられた。

今回はこのNoticeに規定されるSection 163(j)の他の適用にかかわるガイダンス内容について簡単にまとめておきたい。まず一般的に「Notice」っていうものの位置づけだけど、基本的には正式な規則が出るまでの「つなぎ」のガイダンスという性格のもので、その法的な効果も「納税者はNoticeの内容に準拠してもよろしい」となっており、法律と異なり「準拠をしなくてはいけない」という書き方ではない。もちろん、Noticeで公表されているポジションが財務省およびIRSの現時点における法文解釈となることから、Noticeと異なるポジションを取る場合には、財務省やIRSはそうは思ってないっていう点は十分に覚悟の上決断しないといけない。Notice上の解釈は必ずしも法文の唯一の解釈ではないことが多いので、異なるポジションで申告すること自体に問題がある訳じゃないけど、法的に主張が通り得るFiling Positionに至るのか、税務調査でIRSから指摘があった際に、不服審査また訴訟に行く覚悟があるのか、とかリスク管理面の検討が重要となる。

Noticeはあくまで暫定的なガイダンスをタイムリーに納税者に提供するという位置づけなので、最終的にはNoticeで公表されている財務省やIRSのポジションも正式に財務省規則に組み込まれる。その際、100%Noticeと同じポジションで規定されるとは限らないが、異なる扱いとなる可能性がNotice発行時点で認識されているケースでは、その可能性がNoticeに示唆されるのが普通。要は未だ検討中だけど、当面これいいです、みたいな感じの時の暫定処理。Section 163(j)のNoticeでも財務省はそのうちNoticeで規定されているポジションを基に「Proposed Regulations」、すなわち財務省規則「案」を策定するとしている。規則案は法的な効果を持たないので、規則案が同時に暫定規則と位置付けられていない限り法的効果を持たず、その後、最終化されて法的な効果を持つガイダンスが誕生するまでには更に時間を要することになる。Notice後に策定される規則が必ず規則案かというとそんなことはなく、いきなり最終規則が公表されることもある。現にNotice 2018-28と同時に公表されている米国事業に従事するパートナーシップ持分を譲渡した際の源泉徴収を規定したNotice 2018-29では、規則案ではなく、いきなり最終規則を策定するとしている。

で、Section 163(j)にかかわるNoticeの内容そのものだけど、まず法人が認識する利息の扱い。Section 163(j)は法人だけではなく全ての納税者(小規模事業には免除あり)に適用され、この点は法人のみが対象だった旧アーニングス・ストリッピング規定と異なる。その上で、各納税者が認識する利息のうち「Business Interest」のみがSection 163(j)の対象となる。となると当然、支払利息、受取利息のうち何が「Business Interest」に当るかという点が入口のところでまず最大の関心事となる。Business InterestでなければSection 163(j)のの出番はないからだ。

この点に関して、法文には「Businessに関連して発生するInterestはBusiness Interest」というような全然役に立たない定義しか記載されていない。米国税務の他の局面でも何がTrade or Businessなのかっていう結構基本的な点に関して明確な定義がなく困ることがあるけど、基本的には、判例等に基づき個々の事実関係に基づいて判断せざるを得ない検討だ。Trade or Businessの有無判断がよく問題となるのは、外国法人がECIを認識するかどうかという検討時だ。税法上、ECI目的では一定の活動はTrade or Businessとはならないという例外は規定されているけど、あくまでも例外が規定されているだけで、包括的にTrade or Businessを定義している条文はない。

Section 163(j)目的では「Investment Interest」はBusiness Interestには当たらないとも規定されていることから、例えば純粋な持株会社が認識する利息がSection 163(j)に規定されるBusiness Interestに当るのか、それとも法人に関しては基本的に全ての活動がBusinessと考えられるのか、という点が議論を呼んでいた。Noticeでは、法人(ここではC Corporationのこと)が認識する支払利息および受取利息は全額「Business活動」から発生しているものと明確にしている。

それはそれでOKなんだけど、パススルーには同様の考え方は適用されない。となると法人が事業活動をパススルー経由で行っている場合、自ら認識する利息は問答無用にBusiness Interestとなる一方、パススルー主体で認識される利息は必ずしもそうとは限らないということなんだろうか。Section 163(j)はややこしいことにパートナーシップに関してはパートナーシップ事業主体レベルで適用となっているので、この辺りの絡みは実に複雑だ。パートナーシップに対して本来は相反するコンセプトであるAggregateとEntityの扱いを状況次第で併用するアプローチは今に始まったことではないけど、規定によってAggregateだったりEntityだったり余りバラバラに扱うことになると、いろんなところで無理が生じてくる。

次に連結納税グループの扱い。これは以前から財務省高官が発言していた通り、Section 163(j)は連結納税グループ単位で適用となる。まあ、その当然の結果として、連結納税グループ内の債権債務は消去される。また、今後の規則案策定時には、連結納税グループでSection 163(j)に抵触する際の制限額および繰越額の個社への配賦法、連結納税グループに後から参加する法人が持ち込む繰越額に対するSRLY規定適用有無、損金制限に抵触する場合の株主側の子会社株式簿価調整法、連結納税グループ内に制限免除可能事業(不動産事業、農業、公共ユーティリティ)が含まれる場合の扱い、なんかを規定するとしている。今回、Section 163(j)が新設された際、繰り越されている支払利息はNOL同様にSection 382の対象属性である点が明確にされているので、SRLY同様の規定が適用される場合には、Section 382とのOverlap規定もNOLみたいにできるんだろうか。う~ん、いろいろと複雑。

一点Good Newsとしては、 旧アーニングス・ストリッピング規定と異なり、連結納税を選択していないグループ、または外国親会社経由で構成される広範なグループに対するグループ計算は規定されない。この点は旧アーニングス・ストリッピング規定下でも法律そのものは連結納税グループのみを合算するとしているのに、規則案が暴走して広範なグループもみなし連結納税グループとしてしまったための弊害で、みなし持分とかも適用させられて、まともに準拠しようとすると細かい部分でとても変な結果になることがあった。今回はそんなレッスンから学んだのか、本当に連結納税をしているグループのみ一社として扱うとしている。

次にE&P(アーニングス・アンド・プロフィッツ)への影響。E&P計算時にはSection 163(j)で損金算入が制限されているかどうかにかかわらず、支払利息は発生ベースで取り込むとしている。

Section 163(j)はパートナーシップに関してはパートナーシップ事業主体レベルでの適用となっている点は上述したけど、ここは実際の適用時に問題山積み。今回のNoticeでは、パートナーシップの部分はほとんど触れられていない。唯一、パートナー側でネット支払利息額の算定を行う際に、パートナーシップから配賦される受取利息全額を取り込むことは認められず、パートナーシップのネット受取利息のみを加味することとしている。それはそうで、パートナーシップレベルでまずはネット支払利息を算定することになるので、その際に受取利息は一旦加味されている。それを再度まるまるパートナーが取り込んでしまうとパートナーシップレベルの受取利息は同じ金額なのに2回枠を作りだしているような結果になり兼ねない。Floor Financingにかかわる支払利息も同様で、パートナーシップレベルのFloor Financing利息はパートナー側の枠の計算時に再度取り込んではいけないとしている。

と、まあまあクリアになった部分もあるけどパートナーシップへの適用に関しては規則案で相当きちんと規定してくれないと適用時に不明な部分が多い。また、BEATとの関係は散々明確にしているけど、他の制限、特にAnti-Hybridとかの影響も考えないといけないのか、という点は不明。更にSection 163(j)をCFCレベルで適用するのかどうかに関してもNoticeは触れていない。この点はGILTI計算に大きな影響を持つので慎重に検討の上、規則案で明らかにされるんだろう。これらの不明点は忘れているとか、問題として認識していないということでは一切なく、「敢えて」Noticeでは触れなかったと見るべきで、それだけ扱いの最終化に苦慮しているということだろう。

Tuesday, April 3, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)支払利息損金算入ガイダンス発表「旧アーニングス・ストリッピング規定とBEAT」

4月前半には公表されるらしい、ってここ数週間高まっていた期待通り、米国税制改正で導入された「支払利息損金算入制限(新Section 163(j))」の適用時のガイダンス、「Notice 2018-28」が昨日4月2日、財務省より公表された。さすがに4月1日のApril Foolには公表を控えたんだろうか。April Foolに大胆なジョークを飛ばすことができるのはElon Muskのような本当の大物だけだろう。

April Foolの翌日ということで気合が入ったのか、何と今回はトリプルNoticeとなった。Section 163(j)以外のNoticeとしては、ひとつめが例によって海外特定法人の留保所得一括課税に関するもので、基本的に一括課税を圧縮するための諸々のプラニングに濫用防止規定で網を掛けている。もうひとつは日本企業にとっても影響がある米国事業に従事するパートナーシップ持分を外国人が譲渡する際の源泉税徴収にかかわるもの。こちらは12月に既にPTPに対する適用が凍結されているが、今回のNoticeでは他のパートナーシップに関する更なる凍結措置は規定されていない。この源泉に関しては別のポスティングで触れてみたい。

次に登場するガイダンスはいよいよGILTIとFDIIかな。夏から秋には公表されると言われているのでこちらは一体全体どのようなものとなるか楽しみ。

で、今回の新Section 163(j)に対するNoticeは大概において予想通りの内容。敢えて言えば、旧アーニングス・ストリッピング規定で損金算入が制限されて繰り越されていた支払利息は、繰り越された課税年度に支払われたと扱われ、新Section 163(j)で損金算入可否を新たに判断することになるという点はそうなんだけど、親会社等の外国関連会社に支払われていて繰り越されている利息は新税法下でBase Erosion Paymentとなり、新Section 163(j)下で損金算入が認められる際にはBEAT目的でBase Erosion Benefitとなるという点にわざわざ触れていた点はチョッと意外な感じもした。

その前段階で、散々、旧アーニングス・ストリッピング規定で繰り越されている支払利息は将来課税年度に「支払われていた」同様に扱うって強調しているので、その当然の結果としてBEAT抵触が考えられるし、繰越が認められる暁にはBEATに抵触しないのかな、っていう懸念はここ3カ月ずっと存在していたので、結果そのものにそんなに驚きはないけど、この点に関してわざわざNoticeの段階で釘を刺している点、疑問の余地を微塵も残さないぞ、っていう財務省の強い決意(?)を感じてしまった。

ただ、旧アーニングス・ストリッピング規定で繰り越されている金額全てがBEAT対象かというと必ずしもそうではないはず。あくまで、将来年度に支払われたと扱われるということだから、元々外国関連者に支払っていない利息が旧アーニングス・ストリッピング規定で損金不算入になっている場合には、BEATが入り込んでくることはない。例えば、旧アーニングス・ストリッピング規定は1993年の法改正以降、親会社等の外国関連者による保証に基づく第三者からの借入も不適格利息として損金不算入となってることもあるけど、これらは、BEAT目的ではBase Erosion Paymentとはならないので、BEATとは関係ない。もちろん保証なしでは借りれなかったとなると過少資本税制という全く別の問題がある。有名な1972年の5th Circuitによるランドマークケース、Plantation Patternsのパターン(シャレではなく)だね。このケース1970年という大阪万博の年に(誰も知らないよね。「月の石」見るのに炎天下3時間も並んでアメリカ館を見てた時代。見てみるとただのその辺の石と同じなんだけど)Tax CourtによるメモランダムケースでIRSが勝訴し、1972年5th Circuit控訴審でも一審が支持されているやつ。さすがに最高裁は再審理請求を却下し、5th Circuitによる判断が最終となっている。

5th Circuitって2ndとか9thに比べると目立たないイメージがあるけど、米国商工会議所がInversion規則の無効を求めた訴えを審理していて現在注目の的となっているのも5th Circuitだ。この規則はオバマ政権末期の財務省が実質ファイザーのInversionを食い止めるために所定の手続きを踏まずに発効させたもので、一審地方裁ではなんと、商工会が勝訴している。争点は規則がAPAを無視して最終化されたので法律違反ではないかというもの。ちなみにここでいうAPAは移転価格のAdvance Pricing Agreementでも、給与の源泉徴収を扱う専門家集団のAmerican Payroll Associationでもなく、もちろんAdministrative Procedure Actのこと。実は似たような争点で最高裁まで行ったDirect Marketingという判例があるけど、この最高裁の判例に基づくHoldingをどこまで差別化できるかがIRSに残された望みだろう。

で、旧アーニングス・ストリッピング規定とBEATに戻るけど、保証に基づく借入の支払利息が繰り越されている場合、繰越全額が保証に基づくもので構成されていたら対応は可能だけど、親会社ローンとかと混ざっているケースでは今後のBEAT適用時にどのようにトラッキングするのか大変そう。この辺りはNoticeでは触れらえていないけど、規則案で詳細が規定されるんだろう。

それにしても、例えば、Googleがカリフォルニア州のMenlo Parkでこの世に誕生する8年前、AppleからSteve Jobsが最初に解任されてから5年後の1990年に、日本企業の米国子会社が親会社に利息を支払っていて、もしそれが今でも繰り越されていると、テスラがModel SやXに続いて苦労してModel 3を量産している2018年に何とBEATに抵触してしまうという凄い結果になる。BEATなんて聞いたこともなかった時代の支払利息が法的にはBEAT時代に支払われたことになり、新世代の規定に抵触してしまう。でも考えてみると旧アーニングス・ストリッピング規定は今のBEATと概念的には共通部分が多いので、それが結局運命なのかもね。

Noticeの他のポイントは既定路線のもの。財務省もこれらは「Low Hanging Fruitsです」って少し前から言ってExpectationをManageしてたけど、本当にその通り。この文脈でのLow Hanging Fruitsどう訳すのがいいか分からないけど、「取り急ぎ簡単に規則を策定できるもの」みたいな感じかな。GILTIとかはHeavyだからね。

他にどんなポイントがカバーされているかという点は次回。