Saturday, May 30, 2009

時代に逆行(?)アメリカの国際課税ルール(2)

前回のポスティングではオバマ政権が発表した米国国際税務の改定の大枠に触れた。今回はその内容に関して少し掘り下げて検討してみたい。

*Check-the-Box規則使用の制限

前回のポスティングで5月4日のプレス・カンファレンス時点ではCheck-the-Box規定の撤廃かとも思える内容であったため大変ビックリしたと書いたが、Green Bookを読むとそこまで凄い変更ではないので少し安心した。しかし、米国多国籍企業、および米国現地法人の下に外国事業主体を持っている日本企業にとっては再編を行う必要が出てくるところも結構あるだろう。

*Check-the-Box規定とは?

Check-the-Box規定そのものに馴染みが少ない方のために多少バックグランドに触れておく。米国または米国外で事業を行う際には様々な形態の事業主体があり、その選択は投資家の有限責任、税負担の効率性、投資家が破産した際の事業主体に与える影響、事業との整合性、法規制その他の条件を比較して行われる。

一旦、選択された事業主体の位置付けは一義的には会社法にて規定される。例えば米国内であれば、株式会社、LLC、パートナーシップ等の事業主体は州の会社法に基づいて組成され、企業統治、有限責任その他の規定は州の法律に基づいて決定される。一方で、これらの事業主体を「連邦税法上どのように取り扱うか(主に「法人扱い」か「パススルー扱い」かの判断)」は連邦法で勝手に(州の会社法の考え方に必ずしも束縛されないで)決定することができる。州法上の株式会社は常に税法上も法人扱い(S法人の条件を満たせばパススルー)だが、パートナーシップ、LLC等の他の事業主体は条件次第で税務上は法人またはパススルーのどちらにもなり得る。

1997年以前はこの判断を各事業主体が4つの法人独特の性格、すなわち「有限責任」「無期限の存続」「投資家と経営の分離」「持分譲渡の流動性」のうち3つを有していると税務上の法人とされていた。

しかし、上の4つ性格の3つを持たせるかどうかに関してはパートナーシップ契約、LLC合意書等の定款にどのような規定を盛り込むかにより実質ほぼ「任意に」納税者側で決定することができた。また、1990年代前半からLLCというハイブリッド的な事業主体が広く認知されるようになり、税務上のパススルー形態を利用する機会が増えた。

これらの理由から1997年には米国内外の事業主体(株式会社等特定の主体は除く)を米国税務上、「法人」または「パススルー」のどちらと取り扱うかは納税者自らが選択することができるという画期的な規定が成立した。これがCheck-the-Box規定だ。Check-the-Box規定に基づき税務上の取り扱いを選択できるのは「Per se corporation」と呼ばれるリストに指定されている事業主体以外のものだ。例えばリストには日本の株式会社(K.K.)が載っている。ということは日本の株式会社に関して米国税法上の位置付けを決定する必要がある局面があるとすると「法人」以外には選択の余地がない。しかし他の形態(LLC、LLP、また今はないが有限会社、等)は自由に法人とするかパススルーとするかを決定することができる。

これは実に便利な規定だ。米国内で有限責任を実現させながらパススルーの恩典を享受することが簡単になったことから上場企業を除く多くの事業主体がLLC形態で事業を行うことになった。ちなみにLLC形態のまま上場すると通常はその時点で法人扱いとなる。しかし、これにも一部例外があり、その辺りをうまく利用して上場しながらにパススルーを維持するという技を利用しているファンドもある。この点に関しては2007年6月8日の「ブラックストーンはパートナーシップとして上場」を参照。

*改定案

今回、オバマ政権は、外国の事業主体に係るCheck-the-Box規定の使用を制限する改定案を出している。ただし、あくまでも使用の制限であり、Check-the-Box規定の撤廃には遠く及ばないことが分かりホッとした。

改定案によるとCheck-the-Box規定の使用に制限が加えられるのは「構成員(LLCではメンバーと呼ばれる株主のような存在)」が一人(または一社)の「外国」事業主体が対象となる。逆に言えば、外国の事業主体でも複数の構成員がいる場合、 また「米国内」の事業主体に関しては従来通りCheck-the-Box規定に基づく選択が可能だ。

改定案では一定の条件を満たすことができない単独構成員の外国事業主体はCheck-the-Box規定に基づき「パススルー」の取り扱いを選択することができないとされる。すなわち「法人」扱いとなるということだ。これは実質、上述の「Per se corporation」リストの拡大だ。

改定案によると外国事業主体がパススルーの取り扱いを選択できるのは、事業主体がその単独構成員と同一の国で設立されている場合に限るとされる。逆に言えば単独構成員と異なる国に設立された外国事業主体は、米国税法上「法人」と位置づけられることとなる。唯一の例外は、税法回避の目的が無い場合に限り、「米国の単独構成員」によって直接100%所有されている外国事業主体は今後もCheck-the-Box規定の利用ができるとされている点だ。

簡単なようで実は結構複雑なこの改定案、次回のポスティングではもう少し掘り下げてみたい。

時代に逆行(?)アメリカの国際課税ルール(1)

公私共に多忙を極めている間に(簡単に言うとバタバタとしている間に)いつの間に最後のポスティングから長~い時が経ってしまい本当に失礼致しました。あのビートルズですらツアーの合間を縫って(少なくともツアーをしていたRevolverの頃までは・・・)EMIとの過酷な契約(当初は人気が長続きしないのではないかという懸念に基づき売れてる間にできるだけ沢山のリリースをしようという目的で)に基づき半年に一度、完璧なクオリティーのアルバムをレコーディングしていたことを思うとたかがブログの執筆にこんなに期間を空けてはいけないのは明らか。気を取り直して頑張ります。

さて、そんなこんなしている間にAGIのボーナス騒動も沈静化し、新型フルーが到来し、といろいろとあった。しかし国際税務業界を震撼させたのは他でもない2009年5月4日にオバマ大統領自らがプレス・カンファレンスで披露した「米国国際税制の大改定」プランだろう。だいたいからして、米国の大統領自らがカンファレンスで国際課税の規定そのものにかなり具体的に言及して税法改定を提案したこと自体がショッキングというか、以外というか、気合を感じさせてくれるものであった。

当然内容もこの気合に見合ったものである。日本のタックスヘイブン税制に類似する(というか基となる)CFC/Subpart F規定を導入したケネディー政権による改定依頼の大改革だ。

そこで取りあえず、復活第一弾ではこのオバマ政権による国際税務の大改定に関してポスティングしてみたい。内容は一部ショッキングではあるがこれらはあくまでも「案」であってまだまだ法律ではない。これから長い審理プロセスでいろいろな変更が出てくることは十分に予想される。

*5月4日のプレス・カンファレンス

5月4日時点では「海外に留保されている所得に係る費用の損金算入繰延」、そしてナント「Check-the-Box規定の撤廃(ウソでしょう~!!)」、「外国税額控除の乱用禁止」と言った漠然とした内容しか分からなかったので余計にショックが大きかったと言える。

戦費、景気刺激策、減税の乱発で米国の財政はもちろん壊滅状況にあり、その穴埋めは並み大抵の増税では達成できない。国際課税分野でも実に今後10年で2,100億ドル(100円の単純計算で21兆円)も歳入増を見込んでいるということなので、生半可な改定ではないことは分かっていた。が、それにしても・・・。

カンファレンスでチョッと気に掛かったのが、オバマ政権による「大企業が国際取引に関して税法の抜け道(Loophole)を利用して適正な税金を支払っていない」という決め付けだ。個人的にオバマ政権は応援しているのだが、ここの部分は何だかチョッと違うような・・・。現在の国際取引に係る税法の規定は一朝一夕でできたものではなく、熟考された上で議会が制定しているものだ。その規定通りに税金を計算してきた多国籍企業にしてみれば「今更Loophole呼ばわりはないのでは?」と言いたいだろう。場合によっては他の取り扱いをすると法律違反になるようなケースもあり、別に裏をかいて得をしているという訳でもないことが多い。税法の恩典を最大限化してきたことは間違いないがそれはLoopholeではなく、税法で意図された通りの取り扱いに基づくものだ。

また、「現状の国際税務の規定は米国から外国に投資する方が有利なので、悪い多国籍企業が米国外に雇用の機会を持ち去っている」という部分もどうかな、と思ってしまう。多国籍企業として成長が見込まれる海外市場に進出するのは当然で、その際に少なくとも米国企業は(日本企業は必ずしもそうでないのが逆に興味深い?)税務的に最も効率のよい形態を取る。米国企業の国際取引に対する課税を強化すると、当然実効税率が上がるか、会計上の税率はそのままでも、税金をより早いタイミングで支払うこととなりキャッシュフローが悪化する。タダでさえ不景気で収益力が低下しているところにこのような改定が実行されるとますます業績が悪くなり、株価への悪影響も考えられる。単純に考えて今回提案されている税法改定で米国の雇用が増えるとはとても思えない。

それにしても、日本とか英国とかの他諸国が一同に海外で得られた所得の非課税化(Territorial課税制度)に移行している最中に、同所得に対する課税強化を打ち出した米国政権は世界の潮流に真っ向から対立していると言える。

*5月11日「Green Book」公表

そんな懸念を漠然と抱いていた矢先の5月11日には早速、税法改定の具体的な内容を説明した「Green Book」が公表された。この本全体で130ページに亘る実に分厚いマテリアルだが、その中で国際税務の改定に言及している部分は約13ページある。しかも「Loophole Closers(抜け道封じ策)」というタイトルの下に規定されている。

次回ポスティングではGreen Bookに記されている具体的な改定の内容について触れる。