Friday, June 8, 2007

ブラックストーンは「パートナーシップ」として上場

*Private Equity Fundsと上場

2007年6月6日のポスティングでPrivate Equity Fundsのひとつであり、中国政府からも出資を受けているブラックストーンが米国で上場を計画中である点、そして上場主体がナント「パートナーシップ(Limited Partnership)」という形態である点に触れた。

タックス上の恩典を利用して低い実効税率で投資に対するReturnを最大限化することを信条とするPrivate Equity Fundsとして、ブラックストーンが「普通の会社」のように「株式会社」として上場するというシナリオにはかなり違和感があった。株式会社として上場するということは、事業主体で法人税を支払った後に投資家に配当を支払うということになり、その分Returnが下がる。どうもPrivate Equity Fundsの戦略としては馴染まないものがあった。ブラックストーンが普通に株式会社として上場することはPrivate Equity Fundsという形態の恩典を自ら放棄してしまうとすら思えたものだ。

しかし、そのような「心配」は無用であった。明確な回答が2007年3月にSECに提出された目論見書(Form S-1)で提示された。やはり単なる上場ではなかったのだ。Form S-1には、上場を果たし、かつパススルーを実現するというブラックストーンの大胆不敵な戦略が詳細に記載されていた。

*パートナーシップとしての上場

上場に至るまでの企業再編、最終的に上場されるグループ形態はかなり複雑で、組織図の部分はかなり読み応えがある。敢えて簡素化して話せば、いくつかの事業主体を傘下にもつ「Master Limited Partnership」が上場の主体となる。パートナーシップと言うと通常はパススルー扱いであるが、上場パートナーシップ「Publicly Traded Partnership(PTP)」は例外である。PTPとなると州会社法上の規定はパートナーシップであっても税務上は株式会社同様の取り扱いとなり「法人税」が課せられる。したがって、せっかくパートナーシップという形態を取っても上場するとパススルーの恩典がなくなるのが普通である。現実にPTPとして上場し、税務上は法人税を支払っている例は過去にもあり特段珍しくない。ここで終わってしまっては普通の会社の上場である。

*「Qualifying Income Exception」利用という究極のタックス戦略

PTPが税務上は法人扱いという原則にはひとつ例外がある。それはPTPの毎年認識する課税所得の90%以上が税法に規定される適格所得(Qualifying Income)であればパススルーの取り扱いを認めるというものだ。例は良くないかもしれないが、不動産を伴わないREITのような感じだ。

Qualifying Incomeとしては投資所得とエネジー関係の所得が規定されており、「利子」「配当」「不動産賃貸」「投資資産からのキャピタルゲイン」「資源開発、資源運搬からの所得」が含まれる。ただし、下で触れるが証券法の「1940年Act」が適用される事業主体には(例えQualifying Incomeが90%以上でも)パススルーの取り扱いは認めないと規定されている。このことから、投資に従事している事業主体がQualifying Income Exception規定を利用したケースはほとんどない。過去においては資源関係、特に収入が一定して予測がつき易いパイプライン系の会社に利用されることが多かった。最近、ヘッジファンドのひとつであるフォートレスがQualifying Income規定を利用し、PTP(州法上はLLC)として上場しながらパススルーの適用を主張したのが初めてではないだろうか。フォートレスも上場が完了したばかりであり、現時点では今後IRSがどう対応しているかは分かっていない。

*今回のタックス戦略に潜むリスク

ブラックストーンの上場主体であるPTPが「パススルー」となるケースと税務上の「法人」となるケースでは、投資家サイドでの取り扱い、投資Returnは大きく異なる。

もし法人と認定されると、収益に対してブラックストーンが35%(プラス州税その他)の税金を支払った後に、投資家は更に15%(適格配当に対する優遇税率)で税金を支払うこととなるだろう(最終実効税率45%)。一方、パススルーのシナリオでは、投資家にタックスフリーの状態でまるまる収益が配賦され、投資家サイドでは多くのケースで15%(最高では35%)の税金を一回支払うだけで済む。この差(45%対15%)は大きい。したがって、後から「パススルーにならなかった・・・」というような事態に陥れば、上場の前提条件を根底から大きく覆す結果をもたらすことになる。

このことから考えても、相当のリサーチをしての判断であることは間違いない。もちろんリスクがあることもForm S-1にはきちんと開示されている。具体的なリスクとしては 1)IRSがQualifying Incomeの取り扱いを認めるか、2)法律が改正されてしまうのではないか、3)1940年Actの適用対象とはならないのか、の3つが考えられる。

*IRSは合意するのか?

この点に関してはリサーチとしては最もやり易かったであろう。現行の法律を判断すれば良いからである。表面的には条件は満たすだろうし、ある程度の確証がないと今回の上場形態を採択することはなかったはずだ。

*法律の改正

巨大化するPrivate Equity Fundsに対しては米国議会も強い関心を持っている。もともとPTPに対するQualifying Income Exceptionが規定された際に、Private Equity Fundsのようなものが念頭に置かれていたとは思えず、例え現時点でパススルーの取り扱いが認められたとしても法律が変わってしまえばそれまでだ。将来の法律改正のリスクはどのような形態にも付きまとうが、今回のケースは露出度が一段と高い。もし法改正があった場合には、既にこの形態を取っているフォートレスとかブラックストーンに対して「グランドファーザー規定(過渡期間条項)」の適用が認められるかどうかも興味深い。

このような動きは当然ブラックストーンを含むPrivate Equity Funds側に察知されており、ワシントンでのロビー活動が強化されているという。Fundsの経済全体に与える「メリット」が説いて回られているのであろう。確かに、一般投資家、アナリストの短期的視野に基づく精査がない分、比較的自由かつ大胆な策で評価の低かった企業の息を吹き返させることができるなどのメリットがあり、Private Equity Fundsの善し悪しは白黒はっきりする問題ではない。歴史的にロビー活動に長けている産業と比べると、Private Equity Fundsのロビー活動の歴史は短いと言われ、どのような技を用いることができるか不明である。

*1940年Act

1940年ActはMutual Funds等の「Investment Company」に適用されるもので、利益相反等に係るチェック、開示がより厳しく規定されている。上述の通り、1940年Actが適用されるPTPはQualifying Income Exceptionを利用してパススルーの取り扱いを受けることはできない。ブラックストーンは「Asset Management」事業に従事しているので「Investment Company」ではないという主張のようだ。その場合、所得の90%をQualifying Income(主に投資収益)だとする主張との整合性はどうなのか。
いずれにしても今後の展開からは目が離せない。こんな凄い戦略で$40億ドルも調達することができるのも法律分析時の「予見可能性」が比較的高い米国ならではであろう。