2007年5月23日に言い渡された「Sean P. McNamee」というケースで、米国控訴院(Court of Appeals)「2nd Circuit」は「単独メンバーLLCのオーナー(メンバー)は、LLCが雇用する従業員に係る社会保障税に対する支払い義務を負う」という一見当然と思われる判断を下した。2nd Circuitと言えばNY州をその管轄におくことから、税金関係の判例としてはCA州を管轄におく9th Circuitのものと並び全国的に影響力が強い。
*争点
今回のケースでは、「Check-the-box規定」に基づいてパススルー扱いされている単独LLCの未払い社会保障税に対して、LLCのオーナーが支払い義務を負うかどうかが争点とされた。単独LLCはその名の通りメンバーが一人なので、パススルー扱いとなる場合にはパートナーシップになり得ない。メンバーが個人であれば税務上は「自営業」、法人であれば「支店」の扱いとなる。
自営業に従事する個人が従業員を雇う場合には、雇用に係る社会保障税の支払いは当然、個人事業主の債務となる。今回のケースでは、税務上は自営業同様に取り扱われるが、実際にはLLCという事業主体が利用されていることから取り扱いの解釈に相違が生じていたものである。
納税者側の主張は、LLCは税務上では自営業と区分されているが、メンバーのLLC債務に対する有限責任を規定する州法上は「別主体」であり、メンバーの有限責任が規定されているのだから、LLCの負債に対してメンバーが責任を持つ必要はない、というものだ。
*判決
判決結果はIRSの勝ちであり、一審の地方裁判所の判決を支持するものであった。判決骨子は次の通りである。
LLCにはCheck-the-box規定に基づき、税務上「法人」としての取り扱いと「パススルー」としての取り扱いの選択権が与えられている。LLC自ら「パススルー」の取り扱いを選択している場合には、連邦税の取り扱いに関して有限責任という恩典を自ら放棄していることになり、LLCの連邦税金の支払い義務は全てメンバーにも遡及する、というものだ。連邦税の徴収目的では、連邦税法は州法の規定する有限責任を超越することができるということである。
今回の判決が社会保障税に係るものであることから、その趣旨が若干分かり難いかもしれないが、所得税に同じ考え方を適用してみると、判決は当然であることが分かる。すなわち、もしパススルーの取り扱いを選択したにも係らず、LLC関連の税金徴収原資がLLCの資産に限定されてしまうと、自営業として算定される連邦税を個人から直接徴収できないというおかしな結果となる。
なお、判決文の中には「付言(Dicta)」と思われるが、もしLLCがCheck-the-Box規定に基づき「法人」の取り扱いを選択していたのであれば、単独メンバーであっても、LLCの税負担をメンバーが追うことはないという旨の記述がある。法人の取り扱いを選択するということは「配当時にも課税される二重課税」となるため、LLCでそのような選択をするケースは極めて稀である。したがって、二重課税から免除されるコストの一つとして、メンバーは連邦税に係る支払い義務を一義的に追うこととなると言える。
判決はあくまでも「連邦税」に対するメンバーの支払い義務に係るものであり、税金以外のLLC債務に対する単独メンバーの支払い義務に関しては引き続き州法の規定に基づき決定されるべきである(LLCに関して通常は有限責任)。