Sunday, May 5, 2024

FIRPTAアップデート(DC REITのC CorporationのLook-throughルール最終化)

2023年の前半に「FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案)」シリーズでFIRPTA、ECIやREITに関してかなり突っ込んで特集した。2023年がFIRPTA三昧になったキッカケは2022年12月末に公表されたDC REITやQFPFの規則案だったけど、その規則案がつい先日最終化されたんで簡単に触れておきたい。

DC REIT

今までの経緯を軽くおさらいしておくと、DC REITは「Domestically Controlled」REITのこと。REITがDC REITになるかどうかがなぜ重要かって言うと、REITそのものが所有する米国不動産持分が全資産の50%以上でも、すなわちREIT株式が通常であればUSRPIになる場合でも、「DC」REITになるとREIT株式自体はUSRPIにならないから。っていうことは外国人がPassiveにDC REIT株式に投資している場合、その譲渡益はFIRPTA課税の対象にならないことになる。外国人にとって米国でどんな所得が課税で、何が非課税かに関しては「FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案 (2))」前後のポスティングで比較的詳しく書いてるんで見てみて欲しい。

DC REITは「直接・間接に「外国人」が50%未満の価値を所有しているREIT」って定義される。「Domestically Controlled」かどうかを判断する際に「米国人が支配しているか」ではなく、「外国人が支配していないか」っていう点が唯一の検討になる。「結局おんなじことじゃん」って思うかもしてないけど、米国人、外国人のどっちを引き合いにDC REITを定義するかで、間接持分にかかわるプレッシャーの方向が変わる。条文通り、「外国人」が直接「または」間接に50%未満の価値ベースでDC REITになるかどうかを判断する際、直接と間接を接続しているのは「Or」というDisjunctiveなんで、グラマー的にどっちでもOK。これが外国人にかかるっていうことは「外国人が直接持ってたらそれをもってその時点でアウト」、「米国人が直接持っててもそれを間接的に外国人がもってたらそれもアウト」、ってことになる。条文のこのさりげない表現、規則案や最終規則の限定Look-throughルールのお膳立てみたいで良くできてるね。

株式所有者は誰?

「直接・間接に「外国人」が50%未満の価値を所有しているREIT」をDC REITだとすると、当然のことながら誰が株式所有者かを正確に特定する必要がある。「そんなの持分が関係する規定ではいつもやってて当たり前で簡単じゃん」って思うかもしれないけど、米国税務上、株式所有者の特定は各適用条文や状況次第でルールが異なっていて、実は深淵な分析となる。DC REITの定義では「直接」持分と「間接」持分で見るけど、他の結構多くのケースで「みなし」持分も加味する必要があるんで込み入ってくる。みなし持分にはUpward Attributionに当たる間接持分が含まれるんで、みなし持分と間接持分双方のルールで同じ者を所有者にすることがあるけど、場合によっては各々のルールで当所有者が所有していると取り扱われる%が異なったりするんでややこしい。また大前提として所有者は「Beneficial Owner」のことで、Agent、Custodian、Nominee等が法的に名義人になっていてもPrincipalやBeneficiaryが所有者となる。

持分ルールの話し、さわりだけでも真面目に話し始めるとそれだけで「大」特集になるんでここでは超表面的に触れておく。例えば米国法人が連結納税グループに属すかどうかはsection 1504で「直接」持分のみ80%で判断する。同じくsection 332で非課税清算になるかどうかの親子間の80%持分も「直接」持分のみ。法人による株主への分配が税務上「Distribution」になるか「Redemption(Exchange)」になるかは会社法や会計の取り扱いにかかわらず税務上はsection 302で、分配前後の株主の株式持分の意味のある低下有無(Safe Harbor含む)で決まるけど、その際の持分は直接持分だけでなく広範な「みなし」持分も加味される。これが理由で日本企業グループの米国子会社がグループ内で株式償還、有償減資、優先株式償還、等を行うと米国子会社のE&Pの範囲で配当になる。Section 302のみなし持分は特定の要件下で家族メンバーにかかわるみなし持分は不適用とか例外もあるけどね。

Section 302と「Kissing Cousin」の関係にあるsection 304もみなし持分を適用して「Control」を図るけど、304には家族メンバーにかかわるみなし持分不適用のような除外規定はない。さらに法人の50%以上の持分を持つ株主は当法人が直接、間接、みなしで所有する株式の自己持分ポーションを所有しているって取り扱う一般的なUpward Attributionに関して、section 304目的では5%に引き下げられる。同様に法人の50%以上の持分を持つ株主が所有する株式は当法人が全て所有していると取り扱うDownward attributionもsection 304目的では同じく5%基準に引き下げられる。

クロスボーダー関係ではもちろんsection 958の持分規定!Section 958はCFC課税適用時に特定の米国人が「U.S. Shareholder」に当たるか、その結果、外国法人がCFCになるか、等の判断時に登場する持分規定。Section 958はその中に直接・間接だけ見る部分と、プラスでみなし持分も見る部分の2つで構成されてて慣れないと使い分けで混乱するかも。Section 958(a)と(b)だ。Section 958は複雑だけど、今回、section 958の特集をしている訳じゃないんで、敢えて簡便的に触れておくと、(a)は直接持分を見るのが原則で、米国人が「外国」主体(法人、パートナーシップ、信託、遺産)を所有している場合にはそれらの主体が所有している株式に関して間接持分も見るっていうルール。(a)はCFCからGILTIを計算するためTested Income/LossやSub Fをいくら取り込むか判断時に使う。従来、米国の主体は米国人なんでそれ以上Look-throughするっていう概念はなかったんだけど、2017年税制改正後に出た規則でTested Income/LossやSub Fの合算計算目的では米国パートナーシップもLook-throughすることになってる。(b)は直接・間接持分に加えてフルに「みなし」持分を加味するのが原則。(b)は特定の米国人が「U.S. Shareholder」か、US Shareholderが特定されたらそれに基づき外国法人がCFCか、の判断時に適用される。(b)のみなし持分の適用に関して2017年以前は「Downward attribution」は不適用とされていたけど、2017年税制改正で一転Downward attributionも加味されるようになり、世界中がCFCだらけになった。例えば、日本親会社が100%米国子会社を所有していると日本親会社が50%超所有する日本を含む米国外の法人は全てCFCになる。米国子会社がペーパーカンパニーでもルールは適用され、日本国内や欧州に大きな子会社を持ってたりするとそれらの子会社はCFCになる。

「ええ~じゃあうちの杤木の製造子会社は米国のCFCだったの~?」って驚くかもしれないけどその通りなんだよね。ただ外国法人がCFCになったところで、上述(a)の直接・間接持分がなければTested Income/LossやSub Fを合算する株主ではないんでCFC課税の対象になる者はいない。言い換えると、みなし持分のみ所有している株主は(a)の合算株主じゃないんで大きな実害はないことも多いけど、合算計算外の「CFCじゃダメ」っていう規定、例えばPortfolio Interest Exemptionとか、には思わぬ悪影響がある。ちなみに栃木って言うのは意外感を強調するために用いた一例で深い意味はなくて宮崎でも長野でも大連でもオランダのEindhovenでも全く変わんないからね。

所有者の特定に加え、ルール毎に株式所有%を価値で見るのか、議決権で見るのか、両方見るのか、Eitherなのか、がまちまちでこちらも要注意。また優先株式がどんな条件で加味されるか、云々も細かい規定があって例によって「たかが持分、されど…」の世界でした。

それでは本題のDC REITの所有者は誰になるんでしょうか?

規則「案」の限定Look-through

この点に関して2022年12月末に公表された規則案では「Non-Look-through所有者」だけをREIT株主として取り扱うとしている。すなわちREITがNon-Look-through所有者に「直接」所有されている場合はその時点で所有者の特定は最終で、Non-Look-through所有者が外国人か米国人かを判断する。 Non-Look-through所有者でない者、すなわち「Look-through所有者」がREIT株式を所有している場合、Look-through所有者の持分を所有する者の比率に準じて米国・外国を識別するとしている。すなわちLook-through所有者の場合はその上の所有者の間接持分を見るってことになる。当然だけど、Look-through所有者の所有者自身がLook-through所有者の場合、Non-Look-through所有者に辿り着くまで持分を紐解いていく必要がある。DC REIT所有者の判定にみなし所有者の概念はない。

で、Non-Look-through所有者は個人と一定条件を満たすC Corporation。この2つのタイプはパススルーじゃないんでそれはそうだよね、ってことなんだけど、C Corporationに関しては唐突な規定として外国人所有の米国法人(原文「Foreign-Owned Domestic Corporation」)に特別な取り扱いが規定されていた。すなわち、米国法人を含むC Corporationは原則Non-Look-through所有者だけど、濫用防止目的で外国人が「価値」ベースで25%以上所有する未上場(例によって正確にはRegularly Traded基準)の「米国」法人はLook-through所有者と取り扱うとしている。え~、C CorporationをLook-throughするって何それ~、って感じでビックリだったよね。さらに25%ってどっから来たのって感じで「何ですか、これは?」って感じの提案だった。C CorporationのLook-throughは外国法人には適用がないんで、例えばREITを直接所有する外国法人の株主が100%米国人でも、外国法人はNon-Look-throughなんでその時点でDC REITかどうかの判断目的ではPureに外国人が所有していると取り扱われる。DC REITになるのは米国人の所有者が必要なんでBad Newsだ。

規則案の「C CorporationをLook-through」するっていう財務省いうところの「限定」Look-throughに関しては「FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案 (11))」および「FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案 (12))」で詳細に触れたんで読んでみて欲しい。

最終規則の限定Look-through

米国C CorporationをLook-throughするっていう規則案には、多くの反論や疑問がパブコメとして財務省に寄せられた。立法趣旨に反する、条文の文言に反する、わざわざ他の外国人投資家がラッキーするためにフルに課税される米国法人を介してREITに投資するおめでたい外国人はいないんでLook-throughの適用は関連者のケースに限定すべき、等いろいろな反論が展開された。財務省はこれらの反論は何一つ受け入れない、ってバッサリ。

その上で「とは言え、規則案の限定Look-throughはチョッとやり過ぎでコンプライアンス負荷も高そうだから25%を50%に引き上げてあげましょう」って親切っぽく緩和策で最終化するとしている。結果として最終的な限定Look-throughは「外国人が「価値」ベースで50%以上所有する未上場(正確にはRegularly Traded基準)の「米国」法人はLook-through所有者」ってことになる。財務省は、この親切な改訂で「Significantly narrows the scope of look-through treatment…」と自負するけど、narrowはその通りだとしてもSignificantかどうかは各々の受け止め方次第だよね。自ら「significantly」っていう主観的な副詞を使わないといけなかった辺りに苦労というか、実際には大してSignificantな緩和ではない点が読み取れる。自分の行動を不要に大げさな形容詞や副詞を使って表現している場合、実際には本人も大したことないって認識しているケースが多い。「50%以上」っていう基準はDC REITそのものの定義や米国法人がUSRPHCかどうかの判断時に適用される%なのでFIRPTAにおける判断%として最適としている。それらの50%テストとC CorporationのLook-throughの50%は全然背景が違うと思うけどね~。そもそもじゃあ最適なじゃない25%テストは何だったの~って感じ。とは言え、50%以上テストで最終規則化されたんで法的な拘束力を持つことになる。不満がある場合、追徴を受けた者、すなわちStandingのある者、が裁判所に「規則は条文と不整合で行政府による規則策定越権行為」とかで訴訟に持ち込むくらいが考え得る対抗策だろうか。

DC REITのテスト期間と最終規則の効力開始日

最終規則は原則、規則が官報に記載された日から効力を持つとされている。ただし、DC REITにかかわる米国C CorporationのLook-throughルールには例外が規定された。

上述のDC REITの恩典、すなわち外国人が長期投資所有のDC REIT株式を譲渡してもFIRPTAの対象にならないんで米国で非課税になるっていう恩典、を得るにはDC REIT株式譲渡時点で過去5年間を通じてREITがDC REITの条件を満たしている必要がある。すなわち過去5年間を通じてREITは「直接・間接に「外国人」が50%未満の価値を所有している」必要がある。となると今まではC CorporationのLook-throughルールなんて誰も知らなかったにもかかわらず、この新ルールで「あなたは過去5年間を通じてDC REITではありませんでしたね」ってなってDC REITの恩典が否認されることになる。規則案はこの点に関して理解を示さず、規則が最終化された暁にはその後のDC REIT株式譲渡のFIRPTA恩典有無を判断する際の5年テスト期間が規則施行日以前の期間に属してても関係なく新ルールでDC REIT適格判断を行うと「つれない」宣言をしていた。

この点に関してはC CorporationのLook-throughルールそのものに対する反論以上に強い反対意見が殺到していた。大概「実質、過去遡及で到底認められない」っていう趣旨で「C CorporationのLook-through自体何の根拠もなく撤回するべきだが、百歩譲ってLook-throughルールを採択する場合には最終規則の施行日以降に開始するテスト期間のみを対象とするべき」というCollateral議論が多かった。また、コメントには制度移行措置の例が複数示唆されていた。

25%にしても5年のテスト期間の取り扱いにしても規則案で極端に挑戦的なポジションを提示していたのは、最終規則でこれらの点に譲歩して見せて元々落としどころって想定されてたポジションにソフトランディングさせる作戦?って思えてしまう。最初から50%って言われると25にしても50にしても80にしてもそんな%は条文には一切規定されてないんで「それはないでしょう~」ってなるところ、25%から始まってると「50%だったらいいね!」っていう感じになるからだ。

で、最終規則ではテスト期間に関して、従来のルール、すなわち米国C CorporationのLook-throughルールは加味しないルール、でDC REITだと思って投資していた外国人にLook-throughルールで予期せぬ課税が生じるのはさすがに気の毒なので既存のストラクチャーは今後10年に亘ってC CorporationのLook-throughルールの適用はお預けにするっていう制度移行措置を規定している。規則案のAggressiveな規定とは打って変わって最終規則は合理的だ。

この制度移行措置の適用を受けるには、多額のUSRPI新規取得または所有者の構成に大きな変更がない点が条件となる。何をもって多額のUSRPI新規取得になるかって言うと、最終規則施行日にREITが直接・間接に所有するUSRPI時価の20%を超える時価のUSRPIを取得する場合。

所有者の構成の大きな変更は、最終規則施行日後のREIT持分変動を見て、変動時点のNon-Look-through所有者各々が価値ベースで所有する直接・間接持分%が、当Non-Look-through所有者が最終規則施行日に所有していたREIT持分所有%からの増加%ポイント合計が50%超になるケース。この条文、section 382チックで難しいよね。Non-Look-through所有者のREITに対する持分%そのものの増加が合計でREIT持分の50%超になったかどうかをテストすると読めるんで(「increase by more than 50 percentage points…」)、Non-Look-through所有者の持分が最終規則施行日の1.5倍(50%増)になったかどうかっていうテストではない。また「…by such non-look-through persons」の部分は最終規則施行日以降にREIT持分を所有しているNon-Look-through所有者を意味すると思われ、その場合、最終規則施行日にREIT持分を所有していたかどうかにかかわらず、後日持分を取得したと取り扱われる者のREIT所有%を見て全体で50%ポイントの増加があったかどうかテストすることになる。最終規則施行日にREIT持分を所有していなければその時点の持分は0%で、その後取得した持分%分、REITに対する持分が増加したことになる。この持分50%テストの適用時には「米国C CorporationのLook-throughルール」をフルに加味する点も要注意。%テストなんで償還とかも影響がある。上場REITに関しては5%未満株主による譲渡はREITが譲渡詳細を実際に認識しているケースを除き無視。

で、多額のUSRPI新規取得や所有者構成に大きな変更がある場合、その時点からC CorporationのLook-throughルールが適用される。

FIRPTA系の話しではDC REITの定義と共にQFPFにかかわるルールも今回同時に最終化されてるんで次回はその辺りに触れてみたい。