Saturday, October 7, 2023

FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案 (12))

遂にでた~、って感じで一昨日、10年近い歳月を経て、Killer B系の財務省規則案が公表された。年初から書いてるFIRPTA系のアップデート(8)で、IRA系のプレッシャーで従来からみんなが待ってる規則、特にPTEPの公表が延期されてて残念って話しをしたけど、その時に他にもみんな(?)が待ってる規則にKiller Bがあるね、って触れた。その時点では、まさかこんなタイミングで出てくるとは思ってもみなかったんだけどね。もしかしたら今シリーズで書いてるFIRPTA系の規則案の最終化も近いかもね。

一般読者はKiller B(BeeじゃないけどもちろんKiller Beeにちなんだ名称)って何のこと、って思うだろうけど、敢えて乱暴に言ってしまえば、Triangular Reorganizationを利用して外国法人の留保所得を原資に米国親会社の株式を取得し、実質非課税で留保所得を米国に還流するストラクチャー。主に367(b)の世界だけど、1032とか1248とかにも関係する話し。367ってSub Cに属するSectionだけどクロスボーダー課税とのブリッジの機能を果たしてる複雑な規定。367は(a)から(f)で構成されるけど、通常のSectionみたいに(a)が原則ルールで(b)以降はその詳解っていうんじゃなくて、各々が個別のポリシーマターに対応している。特に(a)と(b)は別ルールでStand Aloneな関係にあるって思っておく方が分かり易い。367は(a)にしても(b)にしても、Sub Cとクロスボーダー双方の規定を熟知してないと良く分からないんで、テクニカルに最難関の一つで魅せられるSectionだ。ただKiller Bが実行されてた当時と2017年税制改正後のクロスボーダー課税制度は根本的に異なるんで、Killer Bやその規則の役割も自ずと2017年末を境に大きく異なる。それを言い出すと、そもそも367(b)の役割は2018年以降抜本的に改訂しないとおかしいよね。それには法外な労力を要するだろうから近々には無理だろうし、確か財務省の規則策定プランにも、より広範な367(b)の見直しは含まれてないはず。残念。

ちょうど、FIRPTAの話しがかなり終盤に差し掛かってたところなんで、Killer BはFIRPTA直後に取り掛かりたい。乞うご期待。今回でDC REITの定義をWrap Upして、その後はどうしてももう一回別のポスティングにならざるを得ないと思うけど、DC REITのExitの話しまでできたら今回のFIRPTA特集はCompleteかな。せっかくDC REITに投資してもExitがREIT株式譲渡じゃないと意味がない。すなわちDC REITそのものがUSRPIを譲渡してしまうとその課税年度の分配はUSRPI譲渡益の範囲でFIRPTA対象なんで、DC REITに投資してる意味がない。となると外国人投資家としてはExitはREIT株式譲渡っていう形で実行して下さい、ってSide Letterとかでスポンサーにリクエストして、スポンサーはそれでは「Commercially reasonableな範囲で対応します」とか、投資家は「いや、文言は単にReasonableに変えてくれないか」とか、「Best effortではどうでしょうか?」とか歌舞伎のようなやり取りが付き物だよね。ファンド経由でREITに投資する際のスポンサーに対する押しの強弱は、一般にPEファンドやVCファンド投資時のECIとかの話しでもそうだけど、同じ外国投資家でも日本の投資家と他国の投資家で結構温度差がある。日本の投資家は概してスポンサーに物言わない傾向があるように思う。スポンサー側のFund Raiseはここ1年半不調だからLP側にLeverageがあって、スポンサーは結局多くの条件を飲んでるように見えるんでより有利な条件を引き出すようにね。

で、実際にマーケットでどんな風にDC REIT投資のExitが行われてるか、っていうチョッとDeepだけどDC REITの最も肝心な部分に触れて最終回かな。その直後にKiller B。今から楽しみだけど、既に心FIRPTAにあらず、じゃないから安心してね。

Non-Look-through所有者

前回のポスティングでは、REITがDC REITになるための「50%未満を直接・間接に外国人が所有している」っていう要件をテストする際にどこまでの間接持分を見るか、っていう点を規則案では「Non-Look-through」と「Look-through」の所有者に区分して考えるっていう提案になっている点に触れた。規則案ではREITがDC REITになるかどうか判断する際、「Non-Look-through所有者」だけをREIT株主として取り扱うとしている。Non-Look-through所有者でない者、すなわち「Look-through所有者」がREIT株式を所有している場合、Look-through所有者の持分を所有する者を見る、と規定している。Look-through所有者の所有者自身がLook-through所有者の場合、Non-Look-through所有者に辿り着くまで持分を紐解くことになる。

じゃあ、誰がNon-Look-through所有者かっていう最重要ポイントだけど、個人と(後述の外国人所有の特例を除く)C Corporation。この2つのタイプの所有者はパススルーじゃないんでそれはそうだよね、ってなる。REITやRICはテクニカルにはCorporationでパススルー・チックだけど実際にはDPDはあるけどパススルーでもないので後述の特別な規定対象。また非課税団体は法的な組織が信託でもCorporationでも、Non-Look-through所有者になる。外国政府はIntegral Partのケースも含め米国税法上はForeign CorporationなんでNon-Look-through所有者で、規則案では同様に外国政府と同じSectionでカバーされている「International Organization」もNon-Look-through所有者としている。Super-Exemptを含む州政府もNon-Look-through所有者。そうだよね。Look-throughする相手がいないもんね。PTPもNon-Look-through所有者。MLPみたいに上場後もパススルーStatusを維持しているところもNon-Look-through所有者になるってことなんだと思う。ちなみにMLPは普通に上場してるんで油断しがちだけど、パススルーなんで日本から直接投資したりしないようにね。30州のK-1とか送り付けられてきて「これ何ですか?」ってなったときは既に手遅れだから。さらにNon-Look-through所有者にはQFPFが含まれるってダメ押しがある。もちろん外国人として…。

ということは長らく仕方なく外国人として取り扱ってきた米国税務上パススルーを選択するケイマンフィーダーは、実はLook-through所有者なんで、フィーダーのLPが米国人だったらその分は外国人としてカウントしないでもOK、ってことなんだね!それはそのはずだったんだけど、従来の規則ではそうは読めなかったんで確認してくれて良かったです。

Look-through所有者と外国人所有の米国法人

こんな感じでNon-Look-through所有者の区分は大概において想像通りだけど、前回のポスティングでは、一点唐突な規定として外国人所有の米国法人(原文「Foreign-Owned Domestic Corporation」)に特別な取り扱いが規定されている、って不吉な予感を醸し出したところで終了していた。

で、規則案では、米国法人を含むC Corporationは原則Non-Look-through所有者だけど、濫用防止目的で外国人が価値ベースで25%以上所有する未上場(例によって正確にはRegularly Traded基準)の「米国」法人はLook-through所有者と取り扱うとしている。え~、C CorporationをLook-throughするって何それ~って感じだし、増してや25%ってどっから来たの?って感じだよね。

C Corporationをブロッカーにしている状況を問題視してるのは分かるけど、米国法人を通すってことはその部分はFIRPTAとか関係ないんで、DC REIT投資でもそうじゃなくてもWorldwideの全所得が米国で課税対象。今回の規則案では、その取り扱いはもちろんそのままで、だけど「あなたは米国人とは限りません」って言ってることになって「Worldwideで税金払ってんのに?」ってチョッと釈然としない。問題視されているストラクチャーはCaptiveなもので、例えば本当は100%外国人所有なんだけど、51%分は米国法人経由で投資してDC REITにして、Exit時にDC REIT株式譲渡益のうち49%がFIRPTA課税から免除されるようなかなり限定的なもので、合計で25%以上外国人所有っていう規則はBroad過ぎる気がしないでもないけどね。さらにポリシーマターとして納得いくかどうかとは別に条文的に25%基準でLook-throughとか認められるんだろうか、っていう法的な問題もある。で、米国法人の所有者が非上場の米国法人の場合、同じルールを連続適用して判断。非上場だから必ずしも株主が2~3人とは限らないんで実際の適用は負荷が高いケースも少なくないだろう。ちなみにC CorporationをLook-throughするこの特例は米国法人だけに適用があり得るんで、仮に100%米国人が所有する外国法人があっても、DC REITテスト時にLook-throughして米国人とすることはできない。

REITが所有するREIT持分

REITに所有されるREITの持分判断法は上場REITとそうでないREITで異なる。上場REITに関しては「FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案 (9))」で触れた通り、REIT株式が市場でRegularly Tradedの場合、5%未満の株主は「REITがその身分を実際に知らない限り」米国人としてみなしてよろしい、っていう面白いルールの適用がそのまま温存される。ご丁寧に仮に5%未満の株主がQFPFでもこの目的では「その身分をREITが実際に知らない限り(調べる必要はない)」米国人とみなしてよろしい、とされる。知らぬが仏って感じの規定で面白いよね。

DC REITかどうか判断しようとしている対象のREITが非上場のPrivateのREITの場合、規則案の対象そのものなんでもちろんだけど規則案で提案されるルールで判断。

また従来のルール通り、REITの所有者自体が上場REITの場合、上場REITがDC REITでない場合は、外国人所有となる。Private REITが所有者の場合、Private REITをLook-through所有者として持分を判断することになる。

たかがDC REITの持分、されどって感じだよね。

発効日と従来のストラクチャー

規則案は外国政府に関係する部分のみ早期適用が認められている。その他のQFRPやDC REIT部分は原則、規則が最終化された後の取引に適用があるとされる。だけど、この点には重要な但し書きがあり、最終規則の公表後に組成されるREITばかりでなく、REITがDC REITかどうかは過去5年間を見るので、その目的でも規則の適用があるとされる。この点は、25%の米国法人Look-throughと並んで物議を醸し出している部分で、例えば2024年1月1日に規則案の内容に準じた最終規則が公表されたとすると、1月2日に行われるDC REIT持分譲渡は、規則を過去5年間に亘って適用してその課税関係が決まることになる。REITを組成した段階ではまさか25%基準で米国法人をLook-throughするなんて考えてた納税者やアドバイザーは存在しないだろうから実質何の前触れもない過去遡及となる。

業界の集まりとかでIRS法務部高官の話しを聞くと「5年間の適用はチョッと評判が悪いね~」みたいな感じなので、この点は撤回されると考えていいだろう。ただ、25%の米国法人Look-throughは「そんな規則どっから来たの~?」って同じく評判が悪いけど、どうも「5年間の適用はチョッと議論があるみたい」っていう発言から25%Look-throughそのものは不動っていうニュアンスも伝わってきて怖い。裁判所で司法判断を仰ぐっていう最近お決まりのパターンで決まるんでしょうか。

ちなみに規則案前文では「最終規則が公表される前でも、規則案に反するストラクチャーは税務調査で問題視するかもしれない」って釘が刺されている。「え~、ストラクチャーした段階で存在しないルールなのに?」って思うけど、もちろんどっから出てきたか不明の米国法人25%Look-throughルールを税務調査で指摘されることはないと考えていい。おそらく外国人がREIT投資する際に49%は直接、残り51%は米国法人経由とかのあからさまなCaptiveストラクチャーが対象なんだろう。それらも現状の法律で否認が可能かどうか怪しいけどね。

ということで長編化したDC REIT、外国政府、QFPFを取り巻くFIRPTAアップデートにようやく終止符を打ち、次回はボーナス・トラックのBrooklyn Undergroundバージョン(何それ)で、DC REITのExit法に関して。そしてその後はもちろんKiller Bです。