Saturday, September 30, 2023

FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案 (11))

前回のポスティングでは、REITがDC REITになるかどうかの判断時にQFPFを米国人、外国人のいずれと取り扱うかっていう点に触れた。規則案では条文に反して(?)米国人ってしてるけど、結果よりもどうやって法的にそんな結論に導けるかっていうのが主たるフォーカスだった。

で、今回はDC REITの判断にかかわる規則案の内容で最もBombshellと言える規定に触れる。楽しみ?

ところで、このDC REITって外国人投資家が米国不動産に投資する際にとってもありがたい存在で、もちろんDC REITになるようにストラクチャリングすることは多いけど、なぜ外国人が50%未満のREIT持分だとFIRPTAをオーバーライドして外国人投資家が非課税で持分譲渡できるのか背景が不明でチョッと不思議な規定。REIT譲渡益の少なくとも半分は米国人が普通に課税されるんで、外国人に帰する残りは非課税でもOKっていうことなんだろうか。でもDC REITをDC REITたらしめる米国人の株主は課税主体じゃないといけないっていう要件は見当たらないんで米国の非課税団体でも立派な米国人株主としてREITをDC REITにできる。となると半分は誰かが税金を支払ってるから、っている理由ではなさそうだね。普通の(REIT以外の)米国法人株式がUSRPIになるケースでは、米国人持分の大小にかかわりなく外国人株主の株式譲渡はFIRPTA課税対象。REITはロビー活動が功を奏してか特別な恩典が多い。USRPIから除外されるRegularly Tradedの5%ルールもREITだけは10%だしね。

間接持分とDC REIT

で、今回争点となるのはDC REITの定義「5年間を通じて外国人が直接・間接に価値ベースで50%未満の株式を所有」の「間接所有」をどのように解釈するか、っていう点。しつこいかもしれないけど、ここで言う外国人は「NRA、外国法人、外国パートナーシップ、外国信託、外国遺産(Estate)」でQFPFは少なくとも規則案に基づくと外国人扱いなのは前回のポスティングの通り。

DC REITは実はNon-FC REIT?

間接所有を考える際に、DC REITの定義を良く読んでみると恐ろしい事実に気づく。DC REITってその名を鵜呑みにすると「Domestically Controlled」だから米国人が支配している、すなわち米国人の持分・支配権が重要に聞こえるけど、条文では「直接・間接に「外国人」が50%未満の価値を所有しているREIT」がDC REITになると定義されている。すなわち米国人が支配しているかではなく、「外国人が支配していない」点がフォーカス、っていうか唯一の検討になるってこと。この定義を律儀に名称に反映するんだったら「Domestically Controlled」の代わりに「Non-Foreign Controlled REIT」、「Non-FC REIT」の方が正確。

米国人、外国人のどっちを引き合いにDC REITを定義するかで、間接持分にかかわるプレッシャーの方向が変わる。条文に基づいて、外国人が直接「または」間接に価値ベースで50%未満を所有してるかどうか判断しないといけなくなるけど、直接と間接を接続しているのは「Or」というDisjunctiveなんで、グラマー的にどっちでもOK。これが外国人にかかるっていうことは「外国人が直接持ってたらそれでアウト」、「米国人が直接持っててもそれを間接的に外国人がもってたらそれもアウト」、ってことになる。この条文のさりげない表現、なんか良くできてるよね。

規則案は話の持って行き方が工夫されている。挑戦的な規則を策定する際に良く見られるアプローチだけど、まず納税者にとって最も好ましくない解釈を提示して、その後でそれを若干緩和してみせるというもの。最初から緩和後の規定を提示されていたら、それに対して納税者が拒絶反応を示すような内容でも、最初にもっと凄い内容を提示されて大ショックの状態に陥り、その後で若干緩和されたバージョンを提示されるとそれがマシなので、いいDealかのように錯覚してしまうけど、そんな流れ。

完全Look-through

まずは最初のショック部分。手始めに、間接持分のひとつの解釈として全ての主体を個人株主に辿り着くまでLook-throughして、個人株主が外国人(NRA)なのか米国人なのかを見てDC REITかどうかの判断をするという規定が考えられますっていう切り出し。しかも、Look-throughになることが多くて納税者側の納得レベルも高いであろうパートナーシップだけでなく「米国法人を含む全てのタイプの主体をLook-through」するアプローチが考えられると釘を刺している。「え~、C Corporation全てLook-throughってどういうこと~?」ってなる。

ちなみに外国人の定義に外国パートナーシップが含まれるんで、従来は外国パートナーシップをLook-throughするのは相当な勇気が必要で、そんな度胸のあるPractitionerは少なく一般には外国パートナーシップは外国人と取り扱い、それでも他の米国株主を見てDC REITになるようにストラクチャリングしておくのが一般的だったと思う。例えばケイマンフィーダーが米国税務上パートナーシップになってる場合、仮にその上に米国人パートナーが存在しても、ケイマンフィーダーが所有するREIT持分は「外国人」所有として考えざるを得なかった。逆にデラウェア州LPSみたいな米国パートナーシップはパートナーを見るまでもなく米国人なんだよね、っていう解釈にもなるけど、パートナーが全員外国人投資家だったりするとチョッと不安だった。一方で米国のC Corporationが株主に居る場合、特にC Corporationに複数の株主が存在する場合は、必ずしも100%確証度合いはなかったかもしれないけど、米国人株主と取り扱う点に一般Practice的に多くの不安はなかったように思う。

「全ての主体を個人株主までLook-throughって何それ~?」ってなったところで、緩和策の提示。さすがにそれでは可哀想なので、っていうか正確に言うと複数のTierを介した投資や多くの株主が存在するケースでは納税者・IRSの双方にとって管理運営可能性が欠けるのでベストではない、としている。さらに条文解釈上もDC REITの定義は「Foreign Person」(NRA、外国法人、外国パートナーシップ、外国信託、外国遺産(Estate))に基づくので、必ずしも個人株主の外国・米国区分だけに基づく判断が法律の意図とは言えない、としている。「なんだビックリさせるな~」って油断したところで満を持して挑戦的な規則案が登場する。

限定Look-through

チョッと安心した状態で「緩和策」が提示されるんだけど油断大敵。限定Look-throughっていうアプローチにしたとのこと。「限定」っていう表現はフレンドリーに聞こえるし、限定Look-throughに関する話しの持って行き方も工夫されている。まず、納税者としても「それだったら仕方ないね」とか「それはそうだよね!」って思える極端な例で始まる。

たとえばUSRPIしか持たないREITの49%株主がNRA(これは間違いなく外国人扱い)、残り51%株主は米国パートナーシップだとする。49%株主がREIT持分を譲渡する場合、通常だったらFIRPTA課税の対象になるけど、REITは51%を米国人(米国パートナーシップはパススルー課税の場合も税法の定義上は米国人)に所有されていて外国人所有が50%未満なので、DC REITとなりFIRPTA課税対象にならずに非課税っていうポジションがあり得る。っていうか条文を文字通り適用するとそんな結果にならざるを得ない。FIRPTA課税ケースを自主的に課税取引と取り扱うことはできないだろうし。ただ、米国パートナーシップのパートナーが外国法人だったりする場合、従来から「これ本当にDC REIT?」っていう疑問は存在していた。どちらかというと結果がしっくりこないこんな例が冒頭に来るんで「確かにLook-throughしないのはおかしいよね」っていう雰囲気にさせてくれる。そこでいよいよ登場するのが規則案だ。ワクワクする?それともドキドキ?両方だよね。

Look-through所有者とNon-Look-through所有者

で、規則案ではREITがDC REITになるかどうか判断する際、「Non-Look-through所有者」だけをREIT株主として取り扱うとしている。原文ではNon-Look-through Personなんだけど、Non-Look-through人、って火星人みたいで変だし、米国の法律で「Person」っていう表現を使用するときは税法に限らず一般に自然人だけではなく主体も含むんでここでは「所有者」って意訳しておく。Non-Look-through所有者でない者、すなわち「Look-through所有者」がREIT株式を所有している場合、Look-through所有者の持分を所有する者の比率に準じて米国・外国を識別するとしている。当然だけど、Look-through所有者の所有者自身がLook-through所有者の場合、Non-Look-through所有者に辿り着くまで持分を紐解いていく必要がある。

外国人所有の米国法人

誰がNon-Look-through所有者でLook-through所有者なのかは大概において想像通りだったんだけど、一点唐突な規定がある。外国人所有の米国法人(原文「Foreign-Owned Domestic Corporation」)の取り扱いだ。これ結構長くなりそうなんでここから次回。