Thursday, September 21, 2023

FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案 (8))

年初からCAMTのNoticeに始まり、クロスボーダー米国不動産投資周りの規則を語り続けてきたけど、って言うか断続的に語ってきたけど、早くも9月中旬。IRAでいきなり導入されて待ったなし本番のCAMTは、議会がほとんどの制度設計を行政府の財務省に丸投げしているんで、さすがの財務省も規則策定キャパを超えてる感が否めない。特にCAMTって、Tax Lawyerの世界では終わらなくてGAAPの理解が求められるんで、より負荷が高い。

同じくIRAで導入された再エネ系投資に対する実質政府助成金と言える多額のクレジットも、Section 38のGeneral Business Creditの一部を構成してる(自家用車部分の30DのClean Vehicleクレジットとかは除いて)っていう意味では税法だけど、技術的要件、賃金要件、懸念国特定、等、環境省、労働省、国家安全保障、にかかわる領域も多く、通常の税法、例えばSub CやSub Kとかクロスボーダー課税等の規則策定とは雰囲気が相当異なる。この点もCAMTのGAAP対応と並び、財務省の苦労が計り知れる。

そんな中、2022年暦年法人の法人税申告期限に当たる10月15日が目の前に迫り、待ったなしのR&D支出の資産計上・償却にかかわるNoticeが先週ようやく公開された。プラスAFSIやFTCにフォーカスしたCAMT第二弾Noticeも公表された。CAMTはそれでもまだまだ不明点多いけどね。再エネクレジットに関してもTransferとかElective Payその他、かなり頑張って2023年を通じて規則案が公開されている。

逆にそのせいで、2018年当時からみんなが待ってて、毎年「今年こそ出します!」って言われ続けて今に至るPTEP規則は2023年も公表に漕ぎつけないみたい。ここで言うPTEPは「Previously Taxed E&P」のことでピーテップっていう。僕たちの世代では長らくPTI(「Previously Taxed Income」)って言ってたものだ。こちらはアルファベット通りピーティーアイ。2017年の税制改正後にPTEPって呼ばれ始めて、最初はチョッと変な感じだったんだけど、いつも間にかPTEPになり、PTIっていうのは死語になってしまった。中身は同じ。シリコンバレーのVCやスタートアップ系にアドバイスしている方はテック不況で「Post Termination Exercise Period」絡みのPTEPアドバイスも増えてると思うけど、ここで触れてる規則はそのPTEPに関してじゃないからね。

で、PTEP規則は2部で構成される大作と言われてて、だったらまずは大概において整理がついてるLow Hangingで出せる部分だけでも第一弾公表して欲しいものだ。例えば、3月にIRS内部の法務メモで確認されたPTEPの期中分配とCFC株式簿価減額のタイミングとか、正式に規則案、できればReliance権付きで公表して欲しい。GAAP絡みのCAMT規則とか再エネクレジットの規則よりも、Tax Technical的にFascinatingな分野なんで、こっちを心待ちにしてるクロスボーダーやSub C系のPractitionerは多いと思うんだけどね。もちろん僕もその一人。さらに言えばSub KのPractitionerも、USパートナーシップ経由でCFC投資があって、USパートナーがInclusion株主になってSub FやGILTIを所得認識する場合、パートナーシップ持分に対する簿価は条文で増額するけど、パートナーシップが所有するCFC株式の簿価は上がるのかどうか、なんとなくはっきりしないけど、これどうすんの?、とか楽しみにしてると思うんだけどね~。こっちは第二弾かもね。第一弾が仮に2024年にずれ込むとすると、第二弾は一体いつになるんでしょうか。

他にもKiller B規則とか一旦適用延期になったとは言えその運命が気になる厳しいFTC新規則、二転三転して大混乱の歴史と言える304が302(d)で301になる際のフィクション351に対する367の取り扱い、また今日のテーマに直結してるFIRPTA系の規則案の最終化、とかTechnical面で興味津々だ。

FIRPTA系規則案

さて、もともとなんでECIやFIRPTA、果てはREITとかの話しに至ったか、っていうと全て2022年大晦日直前の12月29日に公表された財務省規則案のせいだ。Good day sunshineのフロリダ・ブルーでときめいてコットン気分の最中に他のNoticeと共に不意を付くタイミングで飛び込んできたんで、つい興奮して語り始めてしまった。コットン気分、って言えば杏里だけど、杏里ってギタリストのLee Ritenourと婚約発表したことがあって、あのキャプテン・フィンガーズと杏里とは意外な組み合わせだよね、ってビックリしたけど結局一緒にはならなかったんだね。Lee Ritenourってもともとカリフォルニアのジャズギタリストだけど、70年代後半~80年代前半のAOR、クロスボーダー、フュージョン、メロウみたいな音の代表的な存在。吉祥寺のカフェバー(笑)みたいなところでGeorge BensonとBack-to-Backでかかってたり、六本木ピットインで渡辺香津美見た後に先輩が運転する車で聴いて帰る、みたいなプレゼンス。懐かし過ぎ。

で、話しを戻してFIRPTA規則案(脱線が短くて安心した?それともガッカリ?そんな訳ないよね)。この規則案、FIRPTAなんで当然section 897をカバーしてるけど、プラスで外国政府に対する特別な恩典を規定しているsection 892も対象としている。

外国政府とFIRPTA

米国税務の世界では国家主権の一部を占める「Integral Part」と国家が支配する主体、「Controlled Entity」の2つが「外国政府」と認められる。どこまでがIntegral PartでどこからControlled Entityか、っていう区分は時として必ずしも明確じゃないことがあるけどね。外国政府と認められるControlled Entityは国家主権と同じ国に設立され国家に100%所有されている主体。

で、外国政府として取り扱われる代表的なプレゼンスがファンドに巨額の資金を投資するSWFだけど、外国政府になると通常の外国企業にはないプラスの恩典がある。通常の外国法人との比較において、この恩典って詰まるところ、配当に対する源泉税が条約とは関係なく0%になる、ってことと、50%未満の持分っていう前提でUSRPIに当たる米国法人株式の譲渡益がFIRPTA課税から免除される、っていう2点に集約される。Section 892にこの2点が明記されている訳じゃないけど、Section 892の恩典と通常のクロスボーダー課税を丁寧に比較するとそんな結論になるってこと。

で、外国政府が享受するこの手の恩典には制限がある。すなわち、「Commercial Activity(CA)」と呼ばれる活動から生じる所得、および「Controlled Commercial Entity(CCE)」が受け取る、またはCCEから受け取る所得、CCE持分の譲渡益、はSection 892の恩典の対象外となる。CAはUSTOBとなる事業活動より広範と言われていて、また活動が米国内外を問わない、という点以外に明確な定義はない。CCEっていうのは国家主権・外国政府に直接・間接に50%以上の持分を所有され、米国内外を問わずCAに従事している主体。主権国外で組成される主体はControlled Entityとして外国政府に区分されることはないけど、CAに従事していると世界のどこにあってもCCEになる。

ちなみに、このCA、たまに外国政府はCommercial Activity Incomeに課税される、っていう説明を聞くことがあるけどそれは間違い。Commercial Activity Income神話だ。そうではなくて、外国政府に特別に認められる恩典、主に株式・債券投資所得・譲渡益は非課税です、っていう恩典だけど、この恩典対象の所得がCAから生じてる、またはCCEが受け取ってたり、CCEのオーナーである外国政府がCCEから受け取っている、またはCCE持分そのものの譲渡益、に当たると恩典の対象にならない、ってこと。外国政府がCAから生じる所得に課税されるっていう規定ではない。じゃあ、CAやCCE絡みで外国政府に認められる恩典がなかったら、どうなっちゃうの?っていうと、別に世の中終わっちゃたり全世界課税になったりする訳ではなく、単に通常の外国法人のように課税されるってこと。つまり、外国政府だったらゼロだったであろう配当源泉税が息を吹き返したり、USRPI扱いされる米国法人株式譲渡益が持分50%未満の場合に非課税になっているのが普通にFIRPTA課税の対象になる、ってこと。Commercial Activity Incomeそのものに課税される規則ではなく、外国政府は少なくとも外国法人より不利になることはない。

CAが外国政府に与える影響は、外国政府がIntegral PartなのかControlled Entityなのかで大きく異なる。Integral Partの場合、配当その他の適格所得がCAから生じている場合、その所得に対してSection 892の恩典がなくなる。ただ、しつこいかもしれないけど、その所得に関して米国内法や租税条約で外国法人に対する課税に戻るだけの話し。一方、Controlled Entityには厳しくて、所得とは直接関係があってもなくてもCAがあると、Controlled Entityが受け取る全ての所得がTaintされて、主体レベルでSection 892の恩典は全てなくなってしまう。これは外国政府に適格なControlled EntityでもCAがあるとCCEになってしまい、結果、CCEが受け取る所得にはSection 892の恩典がないから、ということ。その場合は、普通の外国法人と同じ課税関係になる。

CAは米国内外を問わないから、例えば外国政府100%所有で同じ国に設立されているControlled Entityが米国の上場株式に投資している場合、たまたまこのControlled Entityが投資しているヨーロッパの主体にCAがあり、CAという活動がControlled EntityにAttributeされると(CAから所得があってもなくても)、ヨーロッパ投資とは何の関係もない米国上場株式投資収益にかかわるSection 892の恩典がなくなってしまう。って言っても外国人にとって上場(Regularly Tradedの前提で)株式は5%持分まで譲渡益非課税だし、配当も条約レートで10%にはなるはずなんで、世の中終わってしまう訳ではないから落ち着くように。Controlled Entityではなく国家主権のIntegral Partが同一の状況に置かれる場合、米国上場株式投資収益はヨーロッパのCAから生じている訳ではないので、引き続きSection 892の恩典が認められ、配当に対する源泉税がゼロになる。

また、ヨーロッパのCAに所得があったとしても、ECIでも米国源泉FDAPでもないだろうから、米国の課税はなく、Integral Partの視点からは米国投資でSection 892の恩典が受けられる所得がCAから生じてなければそれで十分。Controlled Entityの視点からは米国投資でSection 892の恩典が見込まれる所得がある場合、全世界でCAに関与してはいけない、っていう厳しいプレッシャーがある。SWFは大概においてControlled Entityとして外国政府適格になってるだろうから、SWFをLPに持つファンドのスポンサーはCAをAttributeさせるような大失態を演じることがないようMad-Sensitiveになる。でないと将来のFund Raiseに大きな問題となるし、SWFに怒られるのは怖いもんね。巨額のチェックを切ってくれるLPなんで、次号のファンドにも投資してもらわないといけないし、Add-Onとかする際にCo-Investmentにも短期Noticeで応じてくれたりするしね。SWFにCAなんかフローアップさせたら即Tax Lawyer辞めてSouth Dakotaで牧師さんになって余生を送るしかないかもね。実はそっちの方が充実したLifeかもしれないけど。

CAはその定義が明確でないんで気持ち悪い存在だけど、中でも不動産ファンド投資系の話しで株式がUSRPIだった際にCAをどう考えるのか、っているのがなんとなく分かっているようで確証レベルがWillとは言い難かった。そこで規則案。チョッとCA系のBuild-upが長かったんでここから次回。