Thursday, June 28, 2007

LLCの統治形態とスピンオフ

*LLCの統治形態

LLCの企業統治としては「Member-Managed」と「Manager-Managed」の二つがあり、その選択はLLCのメンバー次第だ。株式会社に適用される「株主/Director/Officer」という統治形態と比べるとかなり弾力性がある。「Member-Managed」はその名の通り、各メンバーがLLCの経営に関与し、またLLCのAgentとしての機能・責任を持つことを意味する。法的にはGPのジェネラル・パートナーと同じような位置づけとなるが、LLCメンバーなのでLLCの債務に対しては当然「有限責任」である。LPのリミテッド・パートナーが経営に参加すると「有限責任」を剥奪されるのとは対照的にLLCメンバーの有限責任は経営参加してもそのままとなる。また株式会社でも同族企業のようなケースでは「株主=Director=Officer」といったケースは見られるが、法的にはたまたま同一人物が兼任しているという位置づけである。LLCのメンバーはメンバーという法的機能のままで経営参加することができる。

一方「Manager-Managed」のLLCでは、メンバーの一部(または全員)が経営に参加しない。Managerはメンバーから選任されてもいいし、外部からでも、その混合でもいい。「Manager-Managed」のLLCで経営に参加しないメンバーは法的にはLPのリミテッド・パートナーと同じような位置づけとなり、単なる投資家として機能することになる。

*統治形態の選択の影響

いずれの統治形態を取るかに関してはLLC設立時にメンバーが決定し、登記書類にてその選択を開示する。LLC Operating Agreementにも明確にしておくのが望ましい。何もしない場合の「Default」規定は「Member-Managed」であるケースがほとんどだ。日本企業・日本人個人がLLCを設立する際に、余り深い検討なくこの選択を行われているケースも見受けられるが、どちらを選択するかによりいろいろな影響がある。

例えば、「Member-Managed」とするか「Manager-Managed」とするかで関与する者の「Agency法」「Fiduciary義務」等に基づく法的パワーが異なってくるし、また「Manager-Managed」の場合にはLLCの持分が証券法の「証券(Securities)」に該当する可能性が高まる(その場合にはExemptionを探す必要があったり、Minority Protectionを気にする必要がある)等の影響がある。また、税務上の取り扱いにもいろいろな影響がある。簡単に思いつく範囲でも、「Manager-Managed」のLLCで経営に参加していないメンバーは自営業税(SE Tax)の対象になり難いというメリット(LLCが儲かっているという前提で)があるが、一方で「Passive Activity Loss」規定に抵触する可能性があるというデメリットもある。

*Rev.Rul.2007-42

LLCの統治形態とスピンオフの要件に関して先日「Rev Rul 2007-42」が発表された。Rulingの前提となる事実関係および規定は次の通りである。「株式会社D(D社)」は「LLC」の1/3の持分、子会社Cの100%の株式を持つ。C社は5年以上長年に亘りActiveな事業に従事している。一方D社は自分自身では何もしていないがLLCが5年以上Activeな事業に従事していたとされる。ここでいうActiveな事業とは「受動的な投資ではない」という意味で「積極的に仕事をしている」とか「能動的な」とか訳されることもあるが分かり難いので敢えてそのまま「Active」という用語を使うとする。D社は適格スピンオフにて子会社Cの株式をD社の株主に分配することを予定している。

適格スピンオフとなるためには、他の要件(ここでは満たされていると仮定)と同時に「事業継続」要件を満たす必要がある。ここでいう事業継続とは「スピンオフの直後にD社、C社が過去5年間に亘って行っていたActiveな事業をそのまま継続すること」を意味する。C社に関しては歴史的に事業を営んでいるので問題はないが、D社は自分自身何もしていない。D社のようなケースでは持分を保有する子会社その他の事業主体が行うActive事業を自分自身のものと取り扱う「Deemed activity」の規定の適用ができるかどうかの検討が必要となる。D社はスピンオフの後、LLC持分のみを持つこととなる。したがって、焦点となるのは「LLCが行っていたActive事業」をD社のActive事業と位置づけることができるかどうかである。

IRSは過去に類似するケースでRuling等を出している。GPに20%の持分を持つジェネラル・パートナー(すなわちパートナーシップの経営に関与している)はGPのActive事業に関して自ら従事しているものと同様の取り扱いを受けることができるとされている(Rev.Rul.92-17)。また、同様にLLCに20%の持分を持つ「Member-Managed」LLCのメンバーに関してもLLCのActive事業に関して自ら従事しているものと同様の取り扱いを受けることができるとされる(Rev.Rul.2002-49)。これら二つのケースはいずれもパートナー、メンバーがGP、LLCの経営に関与している例である。

一方、企業再編に係る事業継続を規定した施行規則では持分1/3(すなわち33.33%)のリミテッド・パートナー(すなわちパートナーシップの経営に関与していない投資家の状態にある者)でもパートナーシップのActive事業に関して自ら従事しているものと同様の取り扱いを受けることができるとされている(Sec.1.368-1(d)(4)(iii)(B))。

今回のRev.Rul.2007-42の検討対象となっている例は「Manager-Managed」のLLC(D社はLLCの経営に参加していない)で持分が1/3のケースである。これは上の企業再編の施行規則に規定されているLPのケースに類似しており、予想通り「LLCのActive事業に関して自ら従事しているものと同様の取り扱いを受ける」ことができるという結果が出ている。一方、もしD社のLLCに対する持分が20%だとしたらLLCのActive事業をD社自らのものと取り扱うことは認められないとされている。

これらのRuling・規定を総合すると「Member-Managed」LLCの場合には、20%という低い持分でもLLCの活動を基にスピンオフの事業継続要件を満たすことができるが、「Manager-Managed」LLCで経営に参加していないメンバーに関しては20%ではダメで、1/3ならOKということになる。20%~33%の持分に関して直接言及はないが、1/3が最低限必要であると考えるのが妥当であろう。

Sunday, June 24, 2007

「Carried Interest」とパートナーシップ「プロフィット」持分

*「Carried Interest」に対する課税強化法案

Private Equity Fundsの税務上の恩典に関しては6月6日のポスティング以来、何回か触れてきた。中でも「Carried Interest」をキャピタルゲイン扱いではなく通常所得扱いしようという法案が提出されている点に関しては前回のポスティングでも触れた通りである。

新聞の報道を読むと「Carried Interest」を受け取ると、パートナーシップそのものが課税されるかのような誤解を受けるかもしれないが、法案原文を読むとそうではなく、PTPではないパートナーシップ、LLCのパススルー扱いはそのままとし、パートナーに配賦される「Carried Interest」がパートナーにとってキャピタルゲインではなく通常所得となるというのが法案の骨子である。具体的にはSec.702の取り扱いの一部を否定する形でSec.710という条項が新設される。

*「Carried Interest」とは

Private Equity Fundsの基本的な手法は、自己の元手は最小限とし、金融機関、保険会社等からの借り入れ、ペンションファンドを代表とする投資家からの出資、そして場合によってはジャンクボンドその他社債の発行により資金を集めてターゲット企業を買収するいうものだ。買収した企業のオペレーションは徹底的にコストカット、効率化を進め、借金返済を進めると同時に企業価値を高め、最終的には第三者に企業を売却して巨額の利益を得るというものである。

この過程を管理するPrivate Equity Fundsの典型的な報酬形態は次のようなものだ。まず、ペンションファンド等の投資家から集めた資金を投資管理する「年間マネージメントフィー」として投資残高の1%強を受け取る。これは企業買収したかどうかに係らず発生するものだ。次にターゲット企業を買収した際には投資銀行業務フィーとして買収価格の1%が転がり込む。更に買収企業の価値を高めるための監視料として年間一定の固定フィーを受け取る。

上の3つの収入源に加え、さらに大きな「儲け」の源泉となっているのが「Carried Interest」だ。これは買収したターゲット企業を最終的に売却、IPO等「Exit Strategy」に基づき現金化した際のゲインの20%をPrivate Equity Fundsが受け取るというものだ。Carried Interestというコンセプトはベンチャーファンド、不動産投資で以前から見られる報酬体系であるが、Private Equity Fundsの取り扱い案件は金額が比較にならない程大きいため、Carried Interestからの儲けも極めて大きいのが特徴である。

*「Carried Interest」の税法上の取り扱い

これらのPrivate Equity Fundsが受け取る報酬のうち、年間マネージメントフィー、投資銀行業務フィー、買収企業監視のための固定フィーは現金決済であり受け取り時点でサービス提供に対する報酬として課税される。Private Equity Fundsがパススルーであるため、これらのフィーはGPまたはメンバー等に配賦され、各々が累進税率(連邦は最高税率の35%となっているであろう)に基づき税金を支払う。

一方「Carried Interest」に対する取り扱いはかなり異なる。「Carried Interest」は元々Private Equity Fundsの資産マネージメントを担当するパートナーまたはメンバーが「役務提供の対価」として受け取る「パートナーシップの持分」(=現物支給)である。分かり難いかもしれないが、株式会社の経営者が給料を現金の代わりに自社株式で受け取ることがあるが、それのパートナーシップ版と思えばいい。給料を現金の代わりに株式で受け取れば、「現物支給」として株式の時価が給与扱いとなる。もし受け取った株式の価値がその後上がれば売却時点では上場分がキャピタルゲインとなる。

*「キャピタル」と「プロフィット」持分

パートナーシップに関してもこの考え方は同じなのだが、パートナーシップの持分には株式にはない一つの必殺技がある。パートナーシップに対する持分は株式と異なり「キャピタル」に対するものと「プロフィット」に対するものに大別することができるという考え方である。キャピタルに対する持分を受け取ると、その時点でパートナーシップが清算されたとしてもパートナーシップの資産に対する権利を持つこととなる。一方で「プロフィット」に対する持分を受け取る場合には、あくまでも将来的にパートナーシップが認識する所得に対する受給参加権があるということであり、その時点でパートナーシップが清算されてしまったら受け取るものはない。

一般的に、ある程度洗練されたプラニングに基づいてアレンジされるパートナーシップ(LLCを含む)においては、「キャピタル」持分と「プロフィット」持分が異なる比率でパートナーに付与されるのは珍しいことではない。

上の例にあるように、役務提供に対して現物支給を受ければその時価が報酬として課税されるはずだ。しかし、将来の「プロフィット」は未だ実現していない訳だから、例え役務提供の対価としてそれを受け取ったとしても、受け取った時点では課税対象となるような価値はない(または価値は分からない)というのがプロフィット持分に対する課税の考え方である(IRSのRevenue Procedure上一定の形式を満たす必要があるが)。

このパートナーシップの持分をキャピタルとプロフィットに分けて考えるということはPrivate Equity Fundsに特別なことではなくパートナーシップ、LLCが新規のパートナーを迎えいれる際に普通に利用されている。すわなち、新規パートナーを迎え入れはするが、それまでに蓄積したパートナーシップの資産に関しては既存のパートナー達のみが受給権を持ち、新規パートナーはその後のパートナーシップの収益に対する持分を受け取るということだ。これは極めて自然な考え方であろう。

上述の通り、役務提供対価としてパートナーシップのプロフィット持分を受け取る段階では基本的に課税はない。例えば、法律事務所や会計事務所でパートナーとなる者が、その時点でパートナーシップの価値に対して課税されないのはこのためである。その後、実際にパートナーシップが所得を得て、それがパートナーに配賦される段階で初めてパートナーは課税されることになる。通常はパートナーシップはサービスフィー等を受け取りそれがパートナーに配賦されてくるので、各パートナーは各々に適用される通常の税率にてタックスを支払うこととなり、特に議論を引き起こす余地はない。

*「キャピタルゲイン」に対する「プロフィット」持分

ところが、もしパートナーに将来配賦される所得がキャピタルゲイン項目だと大分見え方が異なる。今までの例同様にパートナーは役務提供の対価として「プロフィット」持分を受け取る。しかし、将来配賦されてくる所得はパートナーが投資マネージメントを担当する買収企業の売却益の一部だとすると、配賦されてくる所得はキャピタルゲインである。これが「Carried Interest」だ。

なぜキャピタルゲインかと言うと「パートナーが受け取る所得の性格はパートナーシップでの所得の性格をそのまま引き継ぐ」というパートナーシップ税制の基本的な考え方・規定があるからだ。パートナーはパートナーシップ合意書(LLCの場合にはOperating Agreement)に基づき、基本的に所得、費用は好きなように配賦してよい。例えば、資産の売却益はA氏に、減価償却費用はB氏に、サービス収入はC氏に、といった配賦が可能である。配賦は次の要件のいずれかひとつを満たせば税務上もその効果を認められる。


  • 税法のSec.704(b)に規定される「Substantial Economic Effect」を持つ
  • パートナーシップに対する持分と整合性がある
  • 施行規則に規定される特殊要件を満たす(例、Sec.704(c)、税額控除とかNonrecourse Allocationに係る配賦)
各パートナーのキャピタル勘定が適切に維持管理されている限り、「Carried Interest」の配賦はまず「Substantial Economic Effect」を持つとされるであろう。すなわち税務上も配賦が問題とされることはない。

結果として役務提供に対する報酬であるにも係らずキャピタルゲインとしての所得を認識することになる。パススルーなので個人パートナーはキャピタルゲインに対する優遇税率(15%)の恩典を享受できるという訳だ(キャピタルゲインに対する一般的な取り扱いに関しては5月25日のポスティングを参照)。

*課税繰り述べ

「Carried Interest」がもたらす税効果はそれだけではない。通常のサービスフィーが配賦されてくるケースと比較すると、所得認識のタイミングが遅い。すなわち、ターゲット企業が最終的に売却されるまでキャピタルゲインは発生しないので、その時点まで課税関係が発生しない。この「繰り延べ」も「Carried Interest」に対する税務上の恩典のひとつとして指摘されることもある。

実は「Carried Interest」その他のプロフィット持分に対する課税問題点としては、過去においてはキャピタルゲインとなることよりも、むしろ持分が付与される時点で課税をしなくてはいいのかという繰り述べに係る検討が多くされてきた。この点に関してはIRSの暫定規定等があり、一定の要件(Safe-Harbor)を満たしていれば付与時点では課税がない。Safe-Harborを満たさない場合にはSec.83に基づき時価評価をして課税額を決定する(時価評価は極めて難しく、ゼロとなる場合もあるだろう)。

*「Carried Interest」の取り扱いは税法の濫用か?

上述の「Carried Interest」に対する税務上の取り扱いは現時点での税法に準拠するものである。「プロフィット」持分と「キャピタルゲイン」の取り扱いをうまくマッチさせてところが鍵となるが、それだけで「Carried Interest」がこれだけ問題視されるとは思えない。例えば、個人商店を持つ老経営者が息子に事業を継がせたいと願う。息子には出資する現金がないため、家業を継がせるためのインセンティブとして「プロフィット」持分を与えたとしよう。事業を将来売却するようなことがあればそのキャピタルゲインを息子に配賦するとする。何年も経ち事業は息子のハードワークで大きな価値を持つこととなる。事業を売却して息子に配賦される所得がキャピタルゲインとして課税されることにそれ程違和感はないのではないだろうか。

となると本当の問題はPrivate Equity Fundsのマネージャー達が手にする「Carried Interest」の金額が大き過ぎるというところにあるのだろうか。キャピタルゲインの取り扱いを批判する側の言い分は、「Carried Interest」の源泉となるゲインは所詮他人のリスクマネーを基に実現されたものであり、単に買収企業に対する投資のマネージメントを担当したPrivate Equity Fundsのパートナーがキャピタルゲインとしてこれを認識するのはおかしいというものだ。しかし、実際には買収企業の価値が上がらなければ「Carried Interest」としての報酬もないのも事実であることから、キャピタルゲイン擁護派はこれは他の投資所得と何ら変わりはないと言う。この辺りの話しとなると後は政策的な判断とならざるを得ないだろう。今後の展開から目が離せない。

Saturday, June 23, 2007

ブラックストーン上場完了と税法の行方

*ブラックストーン上場

6月22日に予定より早く行われたブラックストーンの上場は一応成功に終わったようだ。ロイターの報道によると上場価格に基づく資金調達額はナント史上8位の41億3千万ドル(日本円で5千億弱)となった。初日に株価は13%上昇したのでパフォーマンスはよかったと言える。

6月15日のポスティングで触れた通り、ブラックストーンのパススルーとしての上場には税法改正という切迫したリスクがある。このリスクがなければパフォーマンスは更によかったであろう。ブラックストーンの上場が成功裏に終わったことから、次は「宿命のライバル」であるKKRが上場に名乗りを上げるのではないかという観測がある。今後上場を果たそうとするPrivate Equity Fundsまたはヘッジファンドに関して、先のブラックストーン法案がもし法律化されると、上場初日からPTPがパススルーとならず税務上のコストがかなり高くなることもあり、他のPrivate Equity Fundsがどのような戦略に出るかは必ずしも明確ではない。

*パススルーでの課税

ブラックストーンのPTP持分を取得した投資家の多くはパススルーの課税関係を本当に理解して投資していると信じているが、課税関係が通常の株式投資とは大きく異なるため、後でビックリというようなケースも出てくるであろう。まず、配当に対する課税と異なり、必ずしも現金の分配がなくてもPTP側で所得があればその配賦額が課税対象となる。したがって、課税所得はあっても現金がないような状況も十分に推定され、税金の支払い目的で別の原資から資金の充当が必要となることがある。

また、配当に関して発行される「Form 1099」と異なり、PTPからのパススルーは「Form K-1」で報告されてくる。課税年度の翌年1月末にはタイムリーに送付されてくるForm 1099とは異なり、PTPからのForm K-1が発行されるのは遅いだろう。K-1発行期限は4月15日だからだ。4月15日の期限が延長されることもあり得る。ちなみにブラックストーンは投資家側で個人の申告期限延長が必要となる可能性があることを示唆している。

また、目論見書(S-1)によるとPTPは「Sec.754」に基づく選択を行うとされており、PTPのように持分の譲渡が頻繁に行われるケースでの管理は極めて煩雑である。このことからもForm K-1の作成には時間が掛かるのが当然である。

*ブラックストーン法案その後

6月15日のポスティングで解説したブラックストーン法案に関してはその後いろいろな進展がある。法案に規定されているフォートレスとブラックストーンに対する5年間の「グランドファーザー規定(過渡期間条項)」は「気前が良過ぎる」のではないかという意見があり、5年間が短縮される可能性も出てきている。

また、Private Equity Fundsをターゲットとした別の税法改正に「Carried Interest」に対するキャピタルゲイン扱いを廃止して通常所得として課税しようというものがある。これはPTPばかりでなく、全てのPrivate Equity Fundsに適用されるため、その意味でPTPの法人課税よりもインパクトが強い。案の定、この点に係る法案も出てきており、Private Equity Fundsに対する風当たりは強い。

ここ数ヶ月の急激な法改正案は、ブラックストーンの上場に係る開示資料でPrivate Equity Fundsおよびそのパートナーたちが巨額の富を得ていることが白日の下に曝されたという点に影響を受けていると見るのが自然であり、その意味で今回の上場は資金調達としては成功裏に終わっているが、もっと根本的な問題を提起することとなった。

ブラックストーンの上場を巡っては他にも、中国が3%出資している点から「国家安全保障」面からの問題点、投資家に不当なリスクを負わせることとなるとして上場の延期、などいろいろな形で波紋を呼んだ。

*「Carried Interest」に対するキャピタルゲイン課税

以前からのポスティングで何回か簡単に触れているが、「Carried Interest」がキャピタルゲイン扱いされている点に関しては以前から疑問の声がある。また、余り多く取り上げられることはないが、「Carried Interest」を受け取った時点で全く課税されないという点も、「Carried Interest」に対する特別な恩典だとして問題視する向きもある。

メディアの報道だけを読んでいると「Carried Interest」の取り扱いは金持ち優遇の最たるものであるかのように感じられるかもしれないが、税法的にはこれらの恩典が果たして「Carried Interest」だけに認められている特別なものなのか、それとも通常の税法の適用範囲内と考えるべきなのかの検討は決して一筋縄ではいかない。

また、「Carried Interest」に対する税法の変更はPrivate Equity Fundsとかヘッジファンドのみに適用されるのではなく、古くから「Carried Interest」という商習慣がある資源関係、不動産取引にも適用される。また、ベンチャーキャピタル、エンジェル等にも適用されることになり、熟慮を欠いた税法改正は新企業の育成の妨げになるのではという懸念もある。

「Carried Interest」の取り扱いを税法的に検討する場合にはパートナーシップに対する持分が「キャピタル」と「プロフィット」に大別されるところから始めなくてはいけない。この点は長くなるので次回のポスティングでもう少し詳しく触れたい。

Tuesday, June 19, 2007

東京の国際金融センター化と日本のタックス・カルチャー

*東京の国際金融センターとしての未来

今日のNikkei Netに「金融拠点づくり、都市再生に着手・政府方針」という記事が記載されていた。政府の都市再生本部というところが「国際競争力を高め、我が国をニューヨークやロンドンにならぶ国際金融センターにすることは重要な課題だ」と指摘している。まさしくその通りであり、海外で働く日本人の一人としてぜひそうなって欲しいと願っている。物作りでは世界超一流の日本も、金融拠点としての未来は米国、英国、香港等に遠く及ばない。

日本の国際金融センターへの道程と日本のタックス・システムに関して思うところがあり、またちょうど米国ではブラックストーンのような実にダイナミックな動きがあることを鑑み、今回のポスティングは米国タックスの技術的な側面とは直接関連がないタイトルであるが「日本(東京)の国際金融センター化」について簡単に触れておくこととした。

*国際金融センターとなるために必要なものは

発表によると、「ビジネス生活環境などの都市インフラの改善も必要」ということで、外国人が日本に滞在し易い環境を作り、都市再生に取り組むということだ。また、容積率の特例、税制優遇、金融機関や大学など関連施設の集積、などを通じて東京の日本橋や赤坂、六本木などが国際金融センターとして発展するように努力するという。

国際金融センター化にはこれらハード面の充実も考慮する必要はあるが、数ある金融センターの中から海外投資家に敢えて日本を選択させるにはそれだけではもちろん十分ではない。日本が本当の国際金融センターに生まれ変わるには「日本でビジネス・投資をした場合にはどのような課税が行われるのか」という法的な予見可能性を高めるのが急務だ。

6月13日のポスティングで、武富士関連の日本での追徴課税が「事後立法」に基づくこと、日本の課税が「租税法律主義」とはほど遠いこと、が升永英俊弁護士により指摘されている点に触れた。この懸念は武富士のケースに限られたことではなく、海外から日本を見る際には常につきまとう問題点である。租税法律主義が確立されていないのではないかという懸念があれば(たとえそれが単なる認識だけであったとしても)、リスクに敏感な資本を日本に呼び寄せる際の大きな障害となる。

*激化する国際金融センター化競争

ちょうど、都市再生本部が日本の国際金融センター化に係る発表を行う数日前に香港政府が同じような発表をしていた。すなわち「香港をニューヨークやロンドンにならぶ国際金融センターにする」ということだ。ニューヨーク、ロンドンの魅力は金融市場としての長い歴史に基づくノウハウと並んで、税法、商法の弾力性、その運用の透明性、公正さにある。香港には低税率、秘匿性、英国植民地時代に蓄積された金融ノウハウ、中国市場へのアクセス等の魅力があふれている。その意味で独自の存在感を打ち出し易い。

ニューヨーク、ロンドン、香港ばかりではない。ドバイ、スイス、カリブ海諸島等も各々個性的な魅力を兼ね備えている。日本が国際金融センターとして機能する際に他の拠点と差別化を計る魅力は何か。他の金融センターに打ち勝つ、またはせめて同等に戦うハードルは極めて高い。目先の税収を優先して理不尽な税法運用をしている場合ではない。

Friday, June 15, 2007

「ブラックストーン法案」遂に提出

6月8日のポスティングでPrivate Equity Fundsのひとつであるブラックストーンの上場とそれに絡むタックス戦略について書いた。その際に、今回のブラックストーンによる大胆不敵なタックス戦略に潜むリスクの一つとして「税法の改正」が挙げられる点に触れた。その時点では単なる潜在的リスクであったが、6月14日に「切迫」したリスクとなった。

*ブラックストーン法案

モンタナ州民主党上院議員のMax Baucusとアイオワ共和党上院議員Charles Grassleyの2人は、6月14日「アセット・マネージメント」業に従事するPTPは「法人」として課税するという内容の法案を提出した。法案は言うまでもなく近々に予定されているブラックストーンの上場スキームをターゲットにしたものだ(PTP課税とブラックストーンの手法に関しては6月8日のポスティングを参照)。

それにしても際どいタイミングだ。6月後半にブラックストーンの上場価格が最終化する前に何としてでも法案の提出をしたかったのであろう。

*法案の背景

以前のポスティングでも触れたが、フォートレスというヘッジファンドが実は既に同じ手法で上場を果たしている。フォートレスの上場とそのタックス戦略は我々タックスを専門とする者としてはかなりインパクトのある出来事であったが、その時点で即対抗法案の提出というような展開にはならなかった。今回のブラックストーン上場に関しては、その規模、加熱気味の報道、前評判等から「このまま放ってはおけない」ということであろう。

ブラックストーンの上場がこのまま成功すると、カーライル、KKR、TPG、アポロ、等の他のPrivate Equity Fundsが次々となし崩し的に同様の手法で上場に名乗りを上げて来るのではないかという危機感も今の時点で法案が提出された理由のひとつであろう。すでにヨーロッパ市場に一部Fundを上場させているところもある。

また、いわゆる「投資銀行」業務に携わる事業主体のうちPrivate Equity Fundsとかヘッジファンドのみが税法上の恩典を享受するという問題を是正しようというのもひとつの目的だと思われる。例えば、モルスタとかゴールドマンは法人税を支払って投資銀行業務を行っているからだ。このままでは不公平感から法人税という制度そのものの基盤を崩しかねないと懸念する向きもある。

*今後の展開

今後の審議がどのように進むかは未知な状態にある。選挙も近く、政治資金の大手供給先であるファンドをこのタイミングで敵に回すのは得策ではないという判断も働くのではないかとの見方もある。

以前にも書いた通り、PTPがパススルーとなるケースと法人扱いされるケースでは、投資家の収益フローに多大な影響がある。したがって、具体的な審議が今後どのような方向に向かうにしても、法改正のリスクがより具体的かつ切迫したものとなったことから、一定の「冷却効果」がある点は否めない。ブラックストーンの上場価格への影響がどれ位のものとなるか見ものである。

また、法改正がある場合には「グランドファーザー規定(過渡期間条項)」の適用があるかどうかも興味深いと6月8日のポスティングで書いたが、やはり法案には規定があった。すなわち、現時点で上場している、または上場の手続きに入っているPTP(すなわちフォートレスとブラックストーン)に関しては法人税が課せられるのは2012年6月14日以降に開始される課税年度(すなわち2013年度)からとされている。5 年間の暫定措置が長いか短いかは別として、事後立法のような形にはなっていない点は相変わらず合理性のあるフェアな取り扱いであると言える。6月14日とは法案提出の日であり、フォートレスとブラックストーンは5年間に亘りタックス戦略の恩典を受けることができる。

今回の法案の提出にひとつ面白い副作用がある。それは税法が改正されて2013年からブラックストーンに法人課税されると規定される場合、現行の税法ではブラックストーンはパススルーの取り扱いとなることを暗に裏書しているかのようにも取れることだ。もしそうだとすると今回の上場を取り巻くタックス戦略の不確実性は大きく減少する(価値評価を行う上でのリスクファクターの織り込みが簡単になる)。ただし、現行の法律のままでも、適用に問題があるとIRSが判断する場合には、税務調査等通常のプロセスを踏んで更正等を行う権利がIRSにある点は言うまでもない。

今回の法案の内容だけではまだまだ手緩いという指摘も出てくるであろう。まず、第一に今回の法案は上場する場合にのみ適用される。したがって、非上場のFundsには影響はない。現時点ではほとんどのPrivate Equity Fundsおよびヘッジファンドが非上場である。特に6月6日の「Private Equity Fundsの享受する税務上の恩典」で触れたパススルー扱いで認められている「Carried Interest」の取り扱いに対する批判は多い。これらのことから将来的に新たな税制改正案が提出される可能性もある。

いずれにしても、今後の展開にますます目が離せない状況となった。

Wednesday, June 13, 2007

申告書で取れるポジションのハードルは高くなったのか(2)

6月1日に「申告書で取れるポジションのハードルは高くなったのか?」というタイトルでポスティングをしたが、今週に入ってこの点に関してIRSから重要なUpdateがあったので簡単に触れておく。

*会計事務所に対するペナルティー強化

6月1日に解説した通り、従来、申告書に反映させるポジション(各取引に対する課税処理をする上での法的裏づけ)は「Realistic Possibility」があれば、申告書の内容に関して会計事務所がペナルティーの対象となることはなかった。それが5月の税法改正で、いきなり「More Likely Than Not」の基準が適用されると変更されたのである。

*その後の混乱

新しいペナルティー規定が効力を持つのは法律上は2007年5月25日以降に「作成」された申告書とされている。このタイミングは2006年12月期の申告書作成作業の真っ最中であり混乱を招くことは必至であった。既にほぼ完成しているような申告書もあるだろう。また、途中まで作成が完了している場合、申告書のどの部分に新らたな規定を適用するべきか不明確であった。

また、納税者側では「Substantial Authority」に基づく申告書提出が可能であることから、会計事務所側が納税者の主張するポジションに基づく申告書を作成できないという局面も想定される。以前は会計事務所に課された基準が「Realistic Possibility」という「Substantial Authority」より低いものであったことを考えると、状況が逆転している。すなわち、会計事務所の方がより慎重なポジションを主張する必要が出てきたということだ。

これは場合によっては「気まずい」状況である。納税者としては合法的に取れるポジションであるにも係らず、会計事務所は自らに課せられるペナルティーを避けるためにポジションに係る特別な開示をしたいとクライアントに打診しなくてはいけない局面が想定されるからである。クライアントにしてみれば、IRSに税務調査のターゲットを露呈するような行為は避けてもらいたいと思うのが自然である。

このような不測の事態を避けるには申告書の作成業務が始まる前の契約書、いわゆる「Engagement Letter」にて両者の権利・義務関係を明確にしておくのがベストである。しかし、残念ながら2006年の申告書に関しては既にEngagement Letterが交わされているケースがほとんどであることから今更どうにもならないこともあり得る。最悪の場合、費用を受け取らずに申告書作成から手を引く位しか策がないケースも想定されていた。

*IRS Notice 2007-54

このような混乱を避けるためにIRSは素早く救いの手を差し伸べた。6月11日に発表されたIRS Notice 2007-54にて、IRSは2007年中に申告期限が訪れる申告書に関しては従来の基準を引き続き適用する旨を明確にしたのだ。

このIRSの対応は賞賛に値する。IRSにとってはペナルティー規定は厳しいに越したことはなく、敢えて適用を繰り述べなくてはいけない理由はない。にも係らず、実務的に適用が困難であることを鑑みて極めてフェアな期限延長を素早いタイミングで明確にしたものである。

*法治国家としての「格」

一方日本では、消費者金融大手「武富士」の故武井保雄元会長の長男である武井俊樹氏に対する約1,300億円の追徴課税処分を東京地裁が取り消すという判決が報道されていた。この件に関して、「日経ビジネス」に「升永英俊弁護士」の素晴らしいコメントが記載されている。それによると武井俊樹氏に対するケースは実質的に「事後立法」であったということだ。しかも、「法の解釈が明確でない時、または法が未整備である時は、(日本の)国税当局としてはまず課税する。納税者が更正処分をあえて争った場合に、裁判所が課税処分の合法・違法を判断し、課税当局はその司法判断に従えばよい」というスタンスでの課税が横行しているとのことである。

その上で更に「(そのような課税は)納税者は、法律により納税義務が定められている時のみ納税義務を負い、法律により納税義務が定められていない時には納税者は納税義務を負わないという、「租税法律主義」とはほど遠いものである」とコメントされている。

この租税法律主義は米国では「当然」の考え方であり、実際にIRSは基本的に法律により定められた範囲での税金徴収に徹していると言っていいだろう。今回のNoticeも極めてフェアな対応であり、行政に携わる側の法施行に対する日米間の意識差異が奇しくも浮き彫りになった二つの出来事であった。

Friday, June 8, 2007

ブラックストーンは「パートナーシップ」として上場

*Private Equity Fundsと上場

2007年6月6日のポスティングでPrivate Equity Fundsのひとつであり、中国政府からも出資を受けているブラックストーンが米国で上場を計画中である点、そして上場主体がナント「パートナーシップ(Limited Partnership)」という形態である点に触れた。

タックス上の恩典を利用して低い実効税率で投資に対するReturnを最大限化することを信条とするPrivate Equity Fundsとして、ブラックストーンが「普通の会社」のように「株式会社」として上場するというシナリオにはかなり違和感があった。株式会社として上場するということは、事業主体で法人税を支払った後に投資家に配当を支払うということになり、その分Returnが下がる。どうもPrivate Equity Fundsの戦略としては馴染まないものがあった。ブラックストーンが普通に株式会社として上場することはPrivate Equity Fundsのマネージメント形態の恩典を自ら放棄してしまうとすら思えたものだ。

しかし、そのような「心配」は無用であった。明確な回答が2007年3月にSECに提出された目論見書(Form S-1)で提示された。やはり単なる上場ではなかったのだ。Form S-1には、上場を果たし、かつパススルーを実現するというブラックストーンの大胆不敵な戦略が詳細に記載されていた。

*パートナーシップとしての上場

上場に至るまでの企業再編、最終的に上場されるグループ形態はかなり複雑で、組織図の部分はかなり読み応えがある。敢えて簡素化して話せば、いくつかの事業主体を傘下にもつ「Master Limited Partnership」が上場の主体となる。パートナーシップと言うと通常はパススルー扱いであるが、上場パートナーシップ「Publicly Traded Partnership(PTP)」は例外である。PTPとなると州会社法上の規定はパートナーシップであっても税務上は株式会社同様の取り扱いとなり「法人税」が課せられる。したがって、せっかくパートナーシップという形態を取っても上場するとパススルーの恩典がなくなるのが普通である。現実にPTPとして上場し、税務上は法人税を支払っている例は過去にもあり特段珍しくない。ここで終わってしまっては普通の会社の上場である。

*「Qualifying Income Exception」利用という究極のタックス戦略

PTPが税務上は法人扱いという原則にはひとつ例外がある。それはPTPの毎年認識する課税所得の90%以上が税法に規定される適格所得(Qualifying Income)であればパススルーの取り扱いを認めるというものだ。例は良くないかもしれないが、不動産を伴わないREITのような感じだ。

Qualifying Incomeとしては投資所得とエネジー関係の所得が規定されており、「利子」「配当」「不動産賃貸」「投資資産からのキャピタルゲイン」「資源開発、資源運搬からの所得」が含まれる。ただし、下で触れるが証券法の「1940年Act」が適用される事業主体には(例えQualifying Incomeが90%以上でも)パススルーの取り扱いは認めないと規定されている。このことから、投資に従事している事業主体がQualifying Income Exception規定を利用したケースはほとんどない。過去においては資源関係、特に収入が一定して予測がつき易いパイプライン系の会社に利用されることが多かった。最近、ヘッジファンドのひとつであるフォートレスがQualifying Income規定を利用し、PTP(州法上はLLC)として上場しながらパススルーの適用を主張したのが初めてではないだろうか。フォートレスも上場が完了したばかりであり、現時点では今後IRSがどう対応しているかは分かっていない。

*今回のタックス戦略に潜むリスク

ブラックストーンの上場主体であるPTPが「パススルー」となるケースと税務上の「法人」となるケースでは、投資家サイドでの取り扱い、投資Returnは大きく異なる。

もし法人と認定されると、収益に対してブラックストーンが35%(プラス州税その他)の税金を支払った後に、投資家は更に15%(適格配当に対する優遇税率)で税金を支払うこととなるだろう(最終実効税率45%)。一方、パススルーのシナリオでは、投資家にタックスフリーの状態でまるまる収益が配賦され、投資家サイドでは15%から最高35%の税金を一回支払うだけで済む。この差(45%対15%)は大きい。したがって、後から「パススルーにならなかった・・・」というような事態に陥れば、上場の前提条件を根底から大きく覆す結果をもたらすことになる。

このことから考えても、相当のリサーチをしての判断であることは間違いない。もちろんリスクがあることもForm S-1にはきちんと開示されている。具体的なリスクとしては 1)IRSがQualifying Incomeの取り扱いを認めるか、2)法律が改正されてしまうのではないか、3)1940年Actの適用対象とはならないのか、の3つが考えられる。

*IRSは合意するのか?

この点に関してはリサーチとしては最もやり易かったであろう。現行の法律を判断すれば良いからである。表面的には条件は満たすだろうし、ある程度の確証がないと今回の上場形態を採択することはなかったはずだ。

*法律の改正

巨大化するPrivate Equity Fundsに対しては米国議会も強い関心を持っている。もともとPTPに対するQualifying Income Exceptionが規定された際に、Private Equity Fundsのようなものが念頭に置かれていたとは思えず、例え現時点でパススルーの取り扱いが認められたとしても法律が変わってしまえばそれまでだ。将来の法律改正のリスクはどのような形態にも付きまとうが、今回のケースは露出度が一段と高い。もし法改正があった場合には、既にこの形態を取っているフォートレスとかブラックストーンに対して「グランドファーザー規定(過渡期間条項)」の適用が認められるかどうかも興味深い。

このような動きは当然ブラックストーンを含むPrivate Equity Funds側に察知されており、ワシントンでのロビー活動が強化されているという。Fundsの経済全体に与える「メリット」が説いて回られているのであろう。確かに、一般投資家、アナリストの短期的視野に基づく精査がない分、比較的自由かつ大胆な策で評価の低かった企業の息を吹き返させることができるなどのメリットがあり、Private Equity Fundsの善し悪しは白黒はっきりする問題ではない。歴史的にロビー活動に長けている産業と比べると、Private Equity Fundsのロビー活動の歴史は短いと言われ、どのような技を用いることができるか不明である。

*1940年Act

1940年ActはMutual Funds等の「Investment Company」に適用されるもので、利益相反等に係るチェック、開示がより厳しく規定されている。上述の通り、1940年Actが適用されるPTPはQualifying Income Exceptionを利用してパススルーの取り扱いを受けることはできない。ブラックストーンは「Asset Management」事業に従事しているので「Investment Company」ではないという主張のようだ。その場合、所得の90%をQualifying Income(主に投資収益)だとする主張との整合性はどうなのか。
いずれにしても今後の展開からは目が離せない。こんな凄い戦略で$40億ドルも調達することができるのも法律分析時の「予見可能性」が比較的高い米国ならではであろう。

単独メンバーLLCとオーナーの税金支払い義務

2007年5月23日に言い渡された「Sean P. McNamee」というケースで、米国控訴院(Court of Appeals)「2nd Circuit」は「単独メンバーLLCのオーナー(メンバー)は、LLCが雇用する従業員に係る社会保障税に対する支払い義務を負う」という一見当然と思われる判断を下した。2nd Circuitと言えばNY州をその管轄におくことから、税金関係の判例としてはCA州を管轄におく9th Circuitのものと並び全国的に影響力が強い。

*争点

今回のケースでは、「Check-the-box規定」に基づいてパススルー扱いされている単独LLCの未払い社会保障税に対して、LLCのオーナーが支払い義務を負うかどうかが争点とされた。単独LLCはその名の通りメンバーが一人なので、パススルー扱いとなる場合にはパートナーシップになり得ない。メンバーが個人であれば税務上は「自営業」、法人であれば「支店」の扱いとなる。

自営業に従事する個人が従業員を雇う場合には、雇用に係る社会保障税の支払いは当然、個人事業主の債務となる。今回のケースでは、税務上は自営業同様に取り扱われるが、実際にはLLCという事業主体が利用されていることから取り扱いの解釈に相違が生じていたものである。

納税者側の主張は、LLCは税務上では自営業と区分されているが、メンバーのLLC債務に対する有限責任を規定する州法上は「別主体」であり、メンバーの有限責任が規定されているのだから、LLCの負債に対してメンバーが責任を持つ必要はない、というものだ。

*判決

判決結果はIRSの勝ちであり、一審の地方裁判所の判決を支持するものであった。判決骨子は次の通りである。

LLCにはCheck-the-box規定に基づき、税務上「法人」としての取り扱いと「パススルー」としての取り扱いの選択権が与えられている。LLC自ら「パススルー」の取り扱いを選択している場合には、連邦税の取り扱いに関して有限責任という恩典を自ら放棄していることになり、LLCの連邦税金の支払い義務は全てメンバーにも遡及する、というものだ。連邦税の徴収目的では、連邦税法は州法の規定する有限責任を超越することができるということである。

今回の判決が社会保障税に係るものであることから、その趣旨が若干分かり難いかもしれないが、所得税に同じ考え方を適用してみると、判決は当然であることが分かる。すなわち、もしパススルーの取り扱いを選択したにも係らず、LLC関連の税金徴収原資がLLCの資産に限定されてしまうと、自営業として算定される連邦税を個人から直接徴収できないというおかしな結果となる。

なお、判決文の中には「付言(Dicta)」と思われるが、もしLLCがCheck-the-Box規定に基づき「法人」の取り扱いを選択していたのであれば、単独メンバーであっても、LLCの税負担をメンバーが追うことはないという旨の記述がある。法人の取り扱いを選択するということは「配当時にも課税される二重課税」となるため、LLCでそのような選択をするケースは極めて稀である。したがって、二重課税から免除されるコストの一つとして、メンバーは連邦税に係る支払い義務を一義的に追うこととなると言える。

判決はあくまでも「連邦税」に対するメンバーの支払い義務に係るものであり、税金以外のLLC債務に対する単独メンバーの支払い義務に関しては引き続き州法の規定に基づき決定されるべきである(LLCに関して通常は有限責任)。

Wednesday, June 6, 2007

Private Equity Fundsが享受する税務上の恩典

クライスラーAGが投資ファンド(Private Equity Funds)のひとつであるCerberusに買収されることになったのをきっかけに、Private Equity Fundsのパワーに再び注目が集まっている。クライスラーAGの買収はアメリカのBIG3自動車会社のひとつという、アメリカの魂のような企業が関与しているだけに「象徴的」に注目を集めている感があるが、Private Equity Fundsの勃興は今日に始まったことではない。

全てのPrivate Equity FundsがLBOで企業買収をする訳ではないが、Private Equity Fundsを語る上で1980年代のM&Aブームで時代の寵児となった「KKR」とジャンクボンドの帝王(なぜか必ずこの形容が使われる)Michael Milken率いる「Drexel」を欠かすことはできない。KKRは「借金」をして企業を買収するというLBO手法を極めた1980年代のM&Aブームの元祖であることは周知の通りである。KKRは自己の元手は最小限とし、金融機関、保険会社等からの借り入れ、ペンションファンドからの投資、そしてDrexelのような証券会社が手当てするジャンクボンドの発行により資金を集めて買収の原資とする。買収した企業のオペレーションは徹底的にコストカット、効率化を進め、借金返済を進めると同時に企業価値を高め、最終的には第三者に企業を売却して巨額の利益を得るというのが基本的なLBOの構図である。ポイントはKKR自身は自分の懐を痛めずに潜在的に大きな利益を見込むことができるという点(そして現実に大きな利益を得てきた点)である。日本的な感覚で言うと「米国=借金」という構図は米国古来からのものであろうと考えがちであるが、企業経営に関して言えば借金を良し、むしろ好ましいとする風潮は、1980年代のLBOを通じて形成されたと考えるべきであろう。

借金をして投資をすれば金利コストを差し引いた後でも、元手が少なくて済む分「Return on Equity」が上昇する。この単純な仕組みに加えて、KKRのようなLBO手法を成功に導いた大きな要因のひとつは借金することにより発生する「税務上の恩典」であろう。

この借金の効用に関しては、僕が英国の公認会計士試験を受けていたその昔に、Financial Managementという科目で紹介されていた「Modigliani-Miller Theorem(MM理論)」を思い出す。MM理論自体は古くからあり、当時はそんなこと言っても実社会で機能するのか疑問に感じた記憶があるが、LBO手法はまさしくMM理論の借金の効用を最大限に利用しているものである。現実には借入の比率が高くなり過ぎて買収後の企業が立ち行かなくなり破産に追い込まれるなど、1980年代後半から1990年に掛けては逆風も吹いた。その教訓から今日のLBOは一般に以前よりも借入比率が低く、1980年代に見られたものよりも成長重視の健全なものが多い。一般株主に財務体質、四半期毎の収益性を精査されている上場企業と比べてPrivate Equity Fundsに取得され未上場となった企業は自由に借入を増やせる、大胆な策を講じることができるというメリットがある。

借金の税務上の効用というのは基本的に「支払利息を損金算入」できるということである。Equityに対するReturnである配当は損金算入できないため「税引後」の利益から支払われるが、利息は税引前だ。これにより借金をすればする程、買収企業に対してより高い取得価格を提示することができるというおかしな結果となる。このような過度の借金の効用に対して制限を加えるため、米国議会は1990年代に税法を一部改正等して対応してきたが借金パワーを押さえつけるには至っていないようだ。制限の内容、特に日本企業に関連の深い「Earnings Stripping Rule」に関してはそのうち別のポスティングで触れたいと思う。

借金を利用して買収した企業からのReturnを最大限化した後にもPrivate Equity Fundsの税務上の恩典は続く。Private Equity Fundsの多くが複雑に重なるLP、LLCというパススルー形態を取ることから、事業主体レベルでの課税がないに近い。さらにその先Private Equity Fundsのパートナーに課せられるタックスは、買収した企業の価値が上がり、その他の果実がキャピタルゲインとなることから、15%という優遇税率にて算定されることが多い。買収企業のマネージメント代として付与される「Carried Interest」と呼ばれる報酬に対してキャピタルゲインの取り扱いが適用されているのもかなり有利であろう。パススルーとしてキャピタルゲインを受け取る個人のパートナーは優遇税率である15%でタックスを支払えばいいからだ。税務上の法人が受け取るキャピタルゲインには優遇税率が規定されていないことから、Private Equity Fundsが法人として課税されていたらその時点でキャピタルゲインにも35%課税されていたことになる。

これら諸々のタックス戦略を駆使することのインパクトは相当に大きい。Private Equity Fundsの税金コストは公開されていないケースも多いが、驚く程低い実効税率を実現していると言われている(以前にFinancial Times紙がブラックストーンの税率は2%にも満たないと報道していた)。パートナーレベルでの課税を加味したとしても、投資家が通常の株式会社を通じて得られる税引後のReturnとは比べものにならない程有利な運用となる。言うまでもないが、これらの戦略は完全に「合法」なものであり、適用に何ら後ろめたい部分はない。

最近、Private Equity Funds自体(Private Equity Fundsが投資する企業ではなく)が上場を検討するようなケースがある。BlackstoneというPrivate Equity Fundsが上場を計画しており、SECに対するファイリングによると「Master Limited Partnership(MLP)」という形態が検討されているそうだ。巨大化に伴い様々な批判を受けるような局面が多い今日この頃、そのような税務戦略が最終的にどのように受け入れられるか極めて興味深い。MLPの効用、制限等に関してはまた別の機会に触れたい。

Friday, June 1, 2007

申告書で取れるポジションのハードルは高くなったか?

*Small Business and Work Opportunity Tax Act of 2007

2007年5月後半に立法化された「Small Business and Work Opportunity Tax Act of 2007」はイラクからの米兵の撤退期限を盛り込むことなくイラク戦費が予算化された点に注目が集まり大きく報道された。他にも最低賃金水準の引き上げ、また限定的な税額控除、設備投資減税の時限措置の延長その他どちらかというと目立たない税法改正が盛り込まれていた点も一応報道の対象になっている。

しかし、実は一般にはほとんど報道されていない規定の中に、我々米国でタックス・サービスを提供している者に「衝撃」を与える内容が隠されていた。これは申告書の作成を請け負う者、すなわち会計事務所、会計士(以下、まとめて「会計事務所」とする)に対するペナルティー規定の強化である。ショックが大きかったのはペナルティーの金額アップではなく、ペナルティーが適用される局面の拡大である。

*会計事務所に対するペナルティー規程拡大

従来、申告書に反映させるポジション(各取引に対する課税処理をする上での法的裏づけ)は「Realistic Possibility」があれば、申告書の内容に関して会計事務所がペナルティーの対象となることはなかった。このRealistic Possibilityというのはかなりレベルの低い確証度であり、数量化は難しいが一般的には30%程度の確証が得られれば「Realistic Possibility」の域に達していると理解されてきた。

それが今回、いきなり「More Likely Than Not」の基準が適用されると変更されたのである。しかも変更は財務省の施行規則とかIRS Noticeではなく、税法そのものによる改正に基づく。「More Likely Than Not」は数量化が明確で読んで字の如く「50%超」である。取り扱いが明確でない取引に対するポジションの決定上「法的主張が通り得る確証は30%でOK」というのと、「50%必要だ」というのは相当に重みが違う。

ちなみに今回の法律はあくまでも会計事務所に対するペナルティーの規定であり、納税者そのものに対する規定ではない。納税者が従来より申告書で取ることができるポジションは「Substantial Authority」基準で決定され、この点に係る変更はない。すなわち、納税者は、ポジションの開示をせずに、「Substantial Authority」を下回るポジションを取り、税務調査でIRSに更正を受けると加算税の対象となる。「Substantial Authority」の数量化も困難だが、「More Likely Than Not」より低いが「Realistic Possibility」よりは上ということなので「40%程度」と考えるのが妥当であろう。

となると、納税者としては少なくとも40%の法的確証に基づくポジションが取れることになるが、会計事務所は50%の確証がないと申告書にサインができなくなる。チョッとした申告書は会計事務所が作成するケースが大半であることを考えると、これは実質、申告書のポジションを「50%」に引き上げているに等しい。

また、納税者より厳しい基準で会計事務所にペナルティーが課せられるという点に関して実務的にどのように対応するべきか、現段階では混乱の状況にあると言えるであろう。

*「More Likely Than Not」という基準

「More Likely Than Not」という基準は、米国の民事裁判でどちらが勝つかの判断を行う際に適用される基準としてよく知られている。裁判になって争うということは、「事実関係」の認定に関して主張が原告と被告で食い違っているということである。どちらの言い分がそれらしいかを決定する上で、法的に認められる証拠を熟考した上で、陪審員が適用するのが「More Likely Than Not」基準となる。ちなみに刑事裁判で適用される基準、すなわち犯罪を犯したかどうかという事実関係の認定に適用される基準はこれよりかなり高い「Beyond Reasonable Doubt」というものである。

会計、税務の世界で「More Likely Than Not」基準というと、二つの出来事が思い出される。

一つはFIN48だ。FIN48とは決算書上のタックス費用の計上基準を定めた米国会計基準で、多くのケースで2007年の決算書(四半期の発表を含む)から適用が義務付けられているものである。FIN48の基本的な考え方は、実際に申告書で反映されているポジション(未申告というポジションも含む)が最終的にIRSその他の税務当局に精査されても更正を受けないだろうという確率が「More Likely Than Not」でない場合には、「More Likely Than Not」と思われる金額まで引当金を計上しなくてはいけない、というものだ。

FIN48は極めて非実務的でおかしな規定と言える。大企業にとってはその適用に必要となる分析にとてつもない時間、費用が掛かる。FIN48を適用すると、すなわち申告書で納税者が取ることができるポジションであるにも係らず、会計上は将来更正を受けて追徴に応じるであろうという趣旨の引当金を自ら計上させられる。これは申告書は「More Likely Than Not」を下回る「Substantial Authority」基準での作成・提出が法的に認められているからである。実際に上場企業の2007年の第一四半期の決算発表を見ると将来の更正に対する引当金が前年対比で総額$570億ドル増額したというデータもある。

FIN48の適用に当たっては、どの取引に対するポジションがFIN48に基づく引当金の対象となるか、個々に分析した上で記録しておかなくてはならない。申告書で適用されている「ポジション」に当る取り扱いは無数にある。しかも必ずしも科学的なフォーミュラが存在する訳でもないのに、その各々が50%と40%のどちらの確証度にあるかという分析・確定をするのはとてつもない作業量であり、かつ結果として出てくる金額は極めて非科学的な意味のないものとなるであろう。SOXの関係でタダでさえ会計事務所に対する報酬が高騰している中、上場企業にとってはコンプライアンス面で頭痛の種がまたひとつ増えたと言える。もちろん、非上場企業もUS GAAPに基づく決算書を作成する限りFIN48の適用が求められる。

さらに、そもそも申告書で「これなら法的に行けるだろう」と判断したポジションを「しかし、実は更正される確率が高いかもしれない・・・」と決算書に織り込むというコンセプト自体、なんだか少し変ではないだろうか。税務調査を行う際、IRSは納税者に対して基本的にどのような情報、資料であれ、法的に提出を求めることができる。「FIN48のワークペーパーを見せて下さい」と言われれば、もちろん提出せざるを得ない。納税者側で既に「更正の確率が高いポジション」を精査してあるとなると、IRSとしてみればそこから手を付けるのが手っ取り早く、しかも納税者が実質「自首済み」のポジションが記載されているに等しいことから、IRSとしてはかなり効率のいい調整展開が期待できるであろう。

2007年の法人税申告書の提出は早くて2008年の3月、通常は2008年の夏となることから、税務調査が開始されるのはまだ先のことである。したがって、FIN48に対するIRSの実際の取り扱いはまだ分からないが、現段階でIRSが公表しているスタンスは「FIN48のワークペーパーを敢えて提出資料の対象とするようなことは差し控えるが、だからと言って常に目をつぶる局面ばかりとは限らない」という全く訳の分からないものである。

もうひとつ「More Likely Than Not」基準で思い出されるのは、米国司法省と四大会計事務所のひとつであるKPMGとの司法取引に基づく合意内容である。KPMGはタックス・シェルターの販売促進に関与したとして司法省ともめていたが、最終的には和解に達している。その和解条件のひとつに、KPMGが作成する申告書は「より高い基準」に基づくこと、というものが盛り込まれている。すなわち、本来は上述の「Substantial Authority」「Realistic Possibility」に基づき作成が認められるにも係らず、KPMGが作成する申告書は「More Likely Than Not」の基準をクリアしてなくてはならないというものであった。和解の条件を破るようなことがあると刑事訴追となるリスクもあるため、極めて厳しい条件である。

*意味を失う「Substantial Authority」基準

このように申告書作成、決算書作成目的で、税務申告ポジションを検討する際に「More Likely Than Not」基準を使用、検討しなくてはならない局面は増える一方である。今回の会計事務所に対するペナルティー強化規定により、税法でもともと規定され、かつ長い歴史を持っている「Substantial Authority」基準は、個人が自分で確定申告書を作成するような限定的なケースを除き、実質骨抜きになってしまったようだ。