Friday, September 29, 2023

FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案 (10))

さて、前回はQFPFって一体どこの人?ってところで時間切れになった。QFPFはFIRPTA規定目的(for purposes of section 897)では、外国法人にも米国非居住者個人(NRA)にも当たらない、って条文で規定されてるんで、だったら米国法人または米国人に決まってんじゃん、ってことになるよね。米国税法上、米国人と外国人はMutually Exclusive、すなわち互いに排他的な関係にあるんで、両方ってことはないはず。また、必ずどっちかになる必要もある。すなわち米国人でも外国人でもない、って状況はない。前回、宇宙人に触れたけど、落ち着いて(?)考えてみたら税法上は米国人を定義して、それ以外は外国人という構成なんで宇宙人は外国人だろう。もちろん宇宙人が「Person」っていう前提で。

どっちにしてもQFPFがFIRPTA課税の対象じゃないんだったら別にどっちでもいいじゃん、って思うかもしれないけど、それはあわてんぼうのサンタクロースさんだ。特定の人、ここではQFPFっていう主体だけど、が米国人なのか外国人なのかで、FIRPTAの他の規定に大きな影響があり得るからだ。QFPF自体のFIRPTA除外適格有無とは別の話し。ちなみにQFPF神話って既に触れたかどうか自分で忘れちゃったんで、書いておくけど、QFPFはFIRPTAの対象にならないって規定されているだけど、不動産投資が非課税って規定されている訳ではない。それらは通常の税法で決められる。QFPFが外国人でないと取り扱われるのはFIRPTA(Sectio 897)目的のみなんで、他の税法を適用する際は外国の年金基金として取り扱われる。現実にはほぼあり得ないかもしれないけど、QFPFが実際に米国に不動産を直接所有していてアクティブにManageしてたとすると、不動産譲渡益はFIRPTAがなくても別の例外がない限り通常のECIルールで課税されるんで、「私はQFPFです」って言っても「フ~ン、で?」ってなるから注意。

DC REIT

QFPFが米国人なのか外国人なのかで、FIRPTAの他の規定に大きな影響があり得る、って上で書いたけどその最たるものがREITがDomestically Controlled(DC)に当たるかどうかの判断時。う~ん、ようやくDC REITに来たね。感無量。

REIT持分(株式)は大概においてUSRPIだけど(そうじゃないケースがあり得る点は今回のシリーズを通して何回か触れてると思うんで「なんで?」って思う読者が居たら過去のポスティングを読んでみて欲しい)、REITがDC REITだと過去5年にUSRPHCだったことがあるか、とか市場でRegularly Tradedで持分が何%か、とかを考えることなく、DC REITの持分はUSRPIにはならない、って規定されている。USRPIじゃなければ、FIRPTAの適用はないから外国人が認識する持分譲渡益は通常非課税となる。

ここでは一貫してDC REITって表現を使うけど、テクニカルにはREITに加えて後年RICにも同じ取り扱いが追加され、今ではREITとRICをまとめて「Qualified Investment Entity(「QIE」)って言って、DC REITも正式にはDC QIEって言う。だけど、DC QIEとかって未だにスンナリと入ってこない読者(っていうか自分?)も少なくないだろうから、使い慣れてて舌も滑らかなDC REITにしとく。どうせ大概においてREITの話しだし。RICって40年投資法管轄で、BDCとかを含むリテール商品。リテールなんで市場でRegularly TradedだったらFIRPTAの適用は大概ないもんね。僕のDC REITの話しはBDCを含むRICにも同様に適用がある、って覚えておいてくれたらそれで十分。

DC REITがUSRPIじゃないんでFIRPTAの適用はない、っていう点には重要な但し書きがある。すなわち、REITの持分そのものを譲渡した結果の譲渡益はFIRPTA不適用なので大概において外国人にとって非課税だけど、DC REITの分配がDC REIT内のUSRPI譲渡益に帰する部分には免除はない。この点「FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案 (7))」のREIT Net Capital Gain分配神話で結構触れたんでを見てみて欲しい。DC REITの清算分配も同様で免除はないっていうのがIRSのポジション。

じゃあ、どんなREITがDC REITになるかっていうと、「Domestically Controlled」って名の通り、米国人に支配されるREITなんだけど、税法では「5年間を通じて外国人が直接・間接に価値ベースで50%未満の株式を所有しているREIT」って定義されている。この目的の外国人は、FIRPTA対象となるNRAと外国法人に加え、外国パートナーシップ、外国信託、外国遺産(Estate)と定義されている。

これだけ見ると、DC REITの認定に特に論議を呼ぶ感じを受けないかもしれないんだけど、実はそうでもない。例えば、「直接・間接に」っていう部分の何をもって「間接持分」を加味して判断するか、っていうのは必ずしも明確でなかった。唯一、何らかの規則があるとするとREITの分配を所得認識する立場にある者を株式所有者と取り扱うという点くらい。

また、REITの株主の特定も必ずしも容易ではない。例えばREITが上場してたら5%株主でもない限り分からない。この点に関してはREIT株式が市場でRegularly Tradedの場合、5%未満の株主は「REITがその身分を実際に知らない限り」米国人としてみなしてよろしい、っていう面白いルールがある。この手の事実認定で純粋に「Actual」な知識だけを基にしているのは結構珍しい。大概、Actualに加えて「Reason to know」的なエレメントがあるんだけどね。Actual Knowledgeは、わざわざ調べなければ分からないんで、DC REITになりたい場合、私は知りませんって言ってしまえば米国株主になるという不思議な規定。またPrivateのREITでも仮にパートナーシップをLook-throughして間接持分を決めようとすると、ファンドに直接投資しているLPまでは分かってもその上のFeederやFund of Fundとか辿っていくととてつもない数のメンバーがいる可能性もあり捕捉が不可能。市場でRegularly Tradedじゃないのがファンドだから5%未満のルールもないし、反って複雑だ。ちなみに株式が市場でRegularly TradedなREITが別のREITを所有してる場合、所有者の上場REIT自身がDC REITでない場合は、外国人が所有していると取り扱われる。一方、REITを所有する株主のREITが上場REITじゃない場合、株主のPrivate REITを所有する米国人株主の比率に準じて米国人が所有しているって取り扱われる。

たかが、50%未満を外国人がもってるかどうかの判断なんだけど、なんか難しくなってきたね。

DC REITとQFPF

で、ここまで書けばQFPFとDC REITの関係にかかわるテーマは分かったと思うけど、QFPFはNRAでも外国法人でもないんで、普通に考えれば米国人。ってことはREITがDC REITかどうかを判断する際、すなわち5年間を通じて「外国人」が直接・間接に価値ベースで50%未満の株式を所有してたか、ってテストする際、QFPFが所有するREIT株式の価値は「外国人所有」にはならないはず。議会が熟考した上に条文そのものにFIRPTA目的ではQFPFはNRAでも外国法人でもない、って明確に規定されてるんで、一見それ以上の議論にはならないように見える。「QFPFは外国法人だが、Section 897(a)、すなわちFIRPTA課税から免除する」みたいな他の表現を使いたければ、条文をそんな風に策定すればよかった訳だから。実際にもともとPATH Actの規定はそれに近い。それを「わざわざ」2018年のTechnical Corrections Actで現状の文言に変更してるしね。

条文解釈とポリシー

条文っていうのは明確に書いてある部分に関しては、どんなにポリシー的に好ましくなくても真っ向から対立するような解釈は誰にも認められないはず。あなたはAではない、って条文に書いてあって、ポリシー的にいかがなものか、という観点で法の適用時に「この目的ではあなたはAと取り扱います」とか言われ始めると何を信じていいか分からないもんね。連邦憲法上、議会が制定するStatuteは憲法、条約と並び米国の「Supreme」な法律だからね。また三権分立の観点からも議会が制定した法律を行政府が書き換えるのはおかしいはず。

つまり条文っていうのは良くも悪くも明確に書いてある部分に関しては、対立するような解釈や処理は認められないのが原則。仮に立法趣旨的に条文が間違いに近い場合でも。例えば2017年にSection 958(b)(4)っていう「CFCやUS Shareholderの判断時に外国人から米国人の持分をDownwardにAttributionはしません」っていう条文が撤廃されてDownward Attributionがフルに適用されるようになったけど、撤廃の趣旨とか関係ない部分への影響が大きい。趣旨から外れてても条文だけ読むとDownward Attributionはフルに適用されるんで、Technical Correctionが制定されるまでは他のポジションを取るのは厳しい。例えばデラウェア州LPSのPEファンドが外国法人のポートフォリオに投資することになる場合、従来からのパターンだとSubpart Fを避けるためケイマンAIVを利用するけど(ここ数年デラウェア州LPSもSubpart Fの「Inclusion目的」では米国外LPS同様ってルールに変更されてるけど、ケイマンAIVと異なりデラウェア州LPSはパートナーシップレベルで米国株主である点は従来のまま。Section 1248とかの適用の恩典をスポンサーが追求する場合はその方がいいかもしれないけど今日のテーマには関係ないんでそのうち別企画で)、もし外国法人ポートフォリオがTop Coでその傘下に米国子会社と外国子会社があったとする。Section 958(b)(4)が存在した時代は、Top Co傘下の外国子会社がCFCになることはなかったけど、Section 958(b)(4)が撤廃されてフルにDownward Attributionの適用が開始された後は、一転してCFCになる。なぜかって言うと、Top Coが所有する外国子会社の持分はDownward Attributionを介して米国子会社が所有してるとみなされるんで、外国子会社は米国法人に100%所有されてることになり結果CFCとなる。「でも、Top Coは外国法人だし、ファンドもケイマンAIVを使ってるからテクニカルにCFCでも関係ないじゃん」って思う読者がいたらなかなか鋭くてBプラスはもらえる。どうしてAじゃないの?って言うとAIVの上のTop SideにAIVの10%持分を所有する米国人LPがいるとInclusion Shareholderが誕生してしまうからだ。他に米国人の10%LPが居なくて、たった一人10%持ってても、Top Coが傘下に所有する外国子会社はDownward Attributionで既にCFCになってるから、Subpart FやGILTI(正確にはTested Income)を合算しないといけなくなる。「え~、そんな~」って思う結末だけど法律だから仕方がない。この点に気づいたら惜しみなくAがもらえてMagna Cum Laude。「そんなんだったら外国子会社Check-the-BoxしてDRE扱いしたらいいじゃん」って思う人が居たら凄い。AプラスでSumma Cum Laudeで卒業。

行政府の規則策定権

話しを財務省規則に戻すけど、僕が規則策定権云々とか言うまでもなく、もちろん財務省やIRSの法務部は規則策定権の重要性や限界は百も承知だから、付与されてる権利の範囲で規則を制定している、っていう点はSuper-carefulにサポートしようとする。時としてストレッチっぽいサポートも見られるけどね。近年ではsection 385の規則(Debt/Equity Classificationのはずが規則はBase Erosion対抗策)、section 7874(Inversion)系の一部の規則(特にsubstantial business activities要件の厳格化、skinny-down防止、等)、米国パートナーシップをSubpart FやGILTIのInclusion Shareholderでなくした規則、GILTIのHigh-tax exclusionの拡張、などがストレッチっぽい規則として思い浮かぶ。結構多いね。この手のストレッチ規則は、冒頭に、条文に基づきどうして行政府に規則策定権が付与されていると考えているか、っていう点が延々と説明される。その説明が長ければ長いほど、逆に規則策定権は眉唾ものと言える。でなければ多くの紙面をなぜ規則が策定できるのか、っていう入口部分にそこまでのエネルギーを費やす必要はないもんね。

DC REITとQFPF(Reprise)

2019年の規則案ではQFPFのDC REIT判断時の取り扱いに関して明確な言及はなかったんで、一般的には「条文にNRAでも外国法人でもない、って書いてあるから米国人扱いしていいんだよね~?」ってチョッとものおじする感じでアプローチしてた。だって条文に書いてなければ、QFPFの二番目のFは「Foreign」だし、そもそもFIRPTAの話しが出てくる時点でForeignってことなんで、これを「米国人です!」って真っ向から宣言できるかどうか、ってチョッと腰が引ける感じがあった。ただ、逆に「Section 897(DC REIT規定はSection 897の一部)の目的で、外国法人にもNRAにも当たらない」ってSupreme Lawに名言されてたら、それ以外の取り扱いをするのはもっと腰が引けるよね。それとも、外国法人やNRAじゃないけど、外国人(Foreign Person)って考えるのかな~、とかどんどんIllogicalな心配が増える。

そんな状況だったんで、2019年の規則案公表後、「QFPFの取り扱いを明確化して欲しい」っていうコメントが多く寄せられていた。もちろん多くのコメントは単に「明確化」するというよりは、「条文通り米国人扱いするって念のため再確認して欲しい」っていう意味だったんだけどね。特に、QFPFから多額の資金調達をしているOpen-EndedのヘッジファンドやClosed-Ended でもPEに比べてTermが長いHybridファンドとかは確実性を確保するため、QFPFがDC REIT判断時に外国人にならない点を切望していた。

で、今回の規則案。結論から言うとDC REIT判断目的ではQFPFは外国人、すなわちREITがDC REITになり難くなるっていう規定。ポリシー的にこの結果に全く驚きはない。だって外国のペンションファンドを米国人って取り扱って、QFPFではない他人のFIRPTA課税関係に影響を与えるって概念的に変だもんね。問題は条文にはそうは書いてない、って点だよね。

条文解釈部分に関しては苦しいけど、一応、骨子としては「そうなんじゃないかな~」って前から思ってて上述もしてるけど、「条文はQFPFは外国法人やNRAではないって言ってるけど、外国人じゃないとは言ってない」ってこと。これは僕も前から何回も考えてた理論だけど、外国人の定義が「外国法人、NRA、外国パートナーシップ、外国信託、外国遺産(Estate)」だからロジック的になかなかチャレンジングだ。まるで「約束はしたけど守るとは言ってない」的に言い訳にも聞こえる。

ただ、もう少し文脈を考えると必ずしも不可能な解釈ではないかもね。以前のポスティングで触れた通り、FIRPTAの課税っていうのはNRAと外国法人に適用。なんで、QFPFがNRAでも外国法人でもないっていう表現は、「暗に」QFPF自体のFIRPTA課税にかかわる規定だという読み方。その上で、REITがDC REITになるかどうかは「外国人」ベースなので、その目的でQFPFが何者なのかは別の観点から考えてもよろしい、という解釈は不可能ではないかも。残りの正当化はそもそも「QFPFに対する恩典が間接的に他の外国投資家を優遇するような結果はおかしいし、議会はそうは意図していない」ってもの。

まあ、納税者側の希望としては条文をドラフトする際は、落ち着いて、その文言が他の規則や広範な事実関係に与えるであろう影響を十分に考慮した上で、Blunt Instrumentにならないようにお願いします、ってくらいだろうか。

で、DC REITに関して、規則案ではもっと凄いBombshellすなわち衝撃的な驚きが規定されているんで、それに関しては次回。規則案制覇までもう一歩!