Sunday, October 18, 2009

グリーンカード放棄と米国の税金「追加Update」(4)

前回までの3回のポスティングに続き、今回も長期グリーンカード放棄時に適用されるMark-to-Market課税の詳細を続ける。今回はMark-to-Market規定により発生する税金の支払い繰り延べ選択に関して触れる。

*税金支払い繰延選択

グリーンカード放棄時に適用されるMark-to-Market課税が「みなし売却課税」であることから、通常のキャピタルゲインのケースと異なり税額を支払う原資が存在しない。実際に売ってないのだから当然だ。

税金を払いたくてもキャッシュがないという不都合を解消するためにMark-to-Market規定に基づいて発生する税額の支払いを将来に繰り延べる選択制度が規定されている。支払いを繰り延べることから、本来の税額に加えて金利(IRSが四半期毎に公表するAFRレートプラス3%)が課せられる。IRSとは「Tax Deferral Agreement」と呼ばれる正式な契約を締結することで繰り延べが認められる。この契約書の雛形がNoticeに添付されている。

*いつまで何を繰り延べできるか?

この選択をすると税金の支払いは、対象資産が実際に売却された年、またはグリーンカードを放棄した者が死亡した年、のどちらか早い年まで繰り延べることが認められる。もちろん、本人が望むのであれば、それ以前に税金プラス金利を支払うのは自由だ。

この選択は資産毎の選択となるので、一部の資産に関しては税金をグリーンカード放棄時(正確にはグリーンカード放棄を含む課税年度)に支払い、他は後に繰り延べるという処理が可能となる。米国の居住者はキャピタルゲインを含む全ての所得を「総合課税」という形で一つの税金として納付する。このことから、個々の資産のみなし売却益に対する税負担の金額は申告書を見ても分からない。したがって、いくらの税金を繰り延べているのか、という決定をするためには何らかの仮定が必要となる。ここでは、もしMark-to-Market規定に基づくみなし売却益があった場合と、なかった場合の申告書を作成してみて、その税額の差額がMark-to-Market規定に係る税負担であると仮定することとされている。また、その税負担額を各資産に配賦する際には、税額を「各資産のみなしゲイン」と「みなしゲイン合計」の比率按分法を用いるものとしている。この算定目的ではゲインのある資産のみが関係してくる。

*担保

繰り延べの選択を行うと、将来の税金徴収を保証するためにいくつか条件が課される。まず、将来の税金支払いタイミングで、租税条約上の恩典を利用してIRSによる徴収手続きを回避するような行動にでないこと、また税金の支払いを確実にするために担保を提供する必要がある。担保はIRS側が十分であるとみなす担保金証書(Bond)または信用状(LC)という形で提供される必要がある。

万一、差し出された担保が十分でなくなった場合には、30日以内に十分な担保を提供しない限り、その時点で税金プラス金利の支払いが必要となる。

相手が非居住者になった後で税金を徴収しなくてはならないことから、IRSとしては法的に徴収その他の手続きが問題なく行える万全の体制を整えておきたく、そのため、繰り延べの選択をする際には、グリーンカードを放棄する者が米国居住者を代理人選定しておく必要があるとされている。

このように支払いを繰り延べるには結構なペーパーワークが必要となることが分かる。次回はその他の細かい規定に関して話を進めて行きたい。

Saturday, October 17, 2009

グリーンカード放棄と米国の税金「追加Update」(3)

前回のポスティングではグリーンカード放棄時点の課税関係の基本であるMark-to-Marketのコンセプトを紹介した。今回はその詳細に関して話を続ける。

*非課税枠

Mark-to-Marketに基づき認識されるネット・ゲインには$600Kの非課税枠が設けられている。この非課税枠は物価スライドされ、2009年の金額は$626Kだ。この物価スライド調整を単純に逆算すると2008年から2009年の物価上昇率は4.3%だったということができる。デフレ懸念がある中、結構な物価上昇率だなという印象がある。ちなみに連銀の政策は適度なインフレを誘導するというもののようだが、ドル紙幣を余りにすり過ぎるとインフレが進み、将来の物価スライド調整も大きなものになるかもしれない。

非課税枠を超えてゲインがある場合には、非課税枠の金額を各資産のゲイン金額に基づいて各資産に按分配布して課税関係を決める。例えば長期と短期のキャピタルゲインを生み出すような資産を双方所有している場合にはこの按分により税負担が異なるだろう。

面白いことにこの非課税枠は一生に一回しか使えないと規定されている。一生のうちにそんなに何回もグリーンカードを取得しては放棄するケースも少ないので実務上の影響は少ないと思われるが、コンセプト的には2回目のグリーンカード放棄時は一回目に放棄時に未使用だった非課税枠(もし残っていれば)のみが使用可能となる。

*税務簿価の調整

Mark-to-Market規定に基づきゲイン・損失が認識された場合には、各資産のその後の税務簿価が調整される。すなわち、ゲインが認識された場合にはその分の簿価が上がり、損失が認識された場合には簿価が減額される。二重課税、二重損失取りを避けるために当然の処理である。ただし、この簿価の調整はグリーンカード放棄後にも米国での課税関係が残る資産に関してのみ意味があることになる。したがって、米国不動産の簿価調整は重要だが(米国不動産は非居住者になってから売却しても通常は米国の申告所得を生み出す)、株式等の動産に係る簿価調整は、その後に本当に株式を売却しても米国課税所得とならないため意味がない。

*Inbound Step-Up規定

Mark-to-Marketにて計算されるゲイン・損失は通常のキャピタルゲイン同様に「みなし売却の時価」マイナス「取得コスト(プラスその後の税務上の調整があれば調整後)」という算式で計算される。しかしグリーンカードを放棄する者が持つ資産のうち、米国の居住者になった時点で既に含み益を持っていた資産に対する課税としては、グリーンカード放棄時点に存在する含み益まるまるを課税対象とするというのは、Exit Chargeの考え方から行くと若干やり過ぎではないかとも思える。

そのようなケースに対応するために、グリーンカード放棄時のMark-to-Market適用の目的のみ関しては、最初に居住者となった時点での時価を取得コストと考えてもよろしいという規定(Inbound Step-Up)が設けられている。この規定は各資産毎の選択適用が可能である。

例えば、12年前に500で買った株式が10年前に始めて米国居住者になった時点では800の時価だったとする。グリーンカード放棄時にこの株式の時価が2,000だったとするとMark-to-Marketに基づくみなしゲインは2,000マイナス800の1,200となる。これは10年前に米国居住者になる直前にこの株式を売却していればその時点でのゲイン800マイナス500の300が米国で課税されていなかったことを考えるとInbound Step-Upは論理的である。ただ、もしグリーンカード放棄時に実際にこの株式を売却したとすると認識が必要となったゲインは2,000マイナス500で1,500まるまるだったことを考えるとこのInbound Step-Up規定は良心的なものだ。

このInbound Step-Up規定は米国不動産には適用されない。例えば、上の例の株式を米国不動産に置き換えると、実際に売却していても、Mark-to-Marketで課税されていても、ゲインは2,000マイナス500の1,500となる。これは米国不動産がFIRPTA規定でほぼ常に非居住者にとっても申告所得を生み出すことを考えると賢明な規定であるといえる。すなわち、仮に10年前に米国居住者になる直前に米国不動産を売却したとしてもその時点でのゲイン300は米国で課税されていたからだ。この点、他の資産と取り扱いが異なるのは理解できる。

次回のポスティングではMark-to-Marketに基づくゲインに対する税金支払いの繰延選択等に関して話を続ける。

グリーンカード放棄と米国の税金「追加Update」(2)

グリーンカード放棄と米国の税金「追加Update」(2)

前回のポスティングでは長期保有グリーンカード放棄時の米国税務取り扱いの詳細を記したNotice 2009-85がIRSにより発表されたことを受けて、グリーンカード放棄の意味する米国税務上のインパクト等の関して触れた。今回はNotice 2009-85の具体的な規定に関して触れてみたい。

2008年6月17日のポスティングで触れた通り、2008年6月17日を境にグリーンカード放棄に適用される米国税務上の規定は大きく異なる。この日以前にグリーンカードを放棄した者に対しては以前の法律が継続して適用される。

*規定の対象者

今回のポスティングシリーズでは基本的に2008年6月17日またはそれ以降にグリーンカードを放棄した者に対する取り扱いにフォーカスする。この取り扱いの対象となるのは「長期グリーンカード保有者」のみであり、長期保有者に当たらない場合には税務上、特別な処理は必要ない。すなわち、長期保有ではない場合には、移民法上の放棄と同時に自動的に米国非居住者となり、その時点までは居住者として取り扱い、それ以降は普通の非居住者の取り扱いとなる。

また長期グリーンカード保有者でも、過去5年間の連邦所得税金額が$145K(金額は物価スライド対象)を超えない、所有資産のネット時価が$2,000K未満である、連邦所得税の申告を過去5年間きちんと行っている、という条件を全て満たす場合には課税関係はない。ただし、長期グリーンカード保有者ということで放棄時にForm 8854という様式を提出する義務が残る点注意が必要だ。

なお、長期グリーンカード保有者の定義は従来からの規定のままなので、その辺りの解説に関しては前回のポスティングでリンクを表示してある過去ポスティングを参照して欲しい。

*グリーンカード放棄とは?

自らグリーンカードを米国に返上したケースには当然、グリーンカード放棄に係る税務上の取り扱いが適用されるが、「没収」されてしまったケースでも同様の規定が適用される。更に米国の所得税申告を行う際に、租税条約の「Tie-Breaker規定」を利用して米国非居住者としての納税をしたり、または租税条約上、相手国の居住者に与えられている恩典を利用して米国の所得税を低減する場合も、税務上はグリーンカード放棄同様の取り扱いを受ける。

*グリーンカード放棄時の新しい規定

2008年6月17日の法改正の結果、長期グリーンカードを放棄した者はその時点(正確には放棄の前日)で所有している資産の全てを時価で売却したと取り扱われ(つまり「Mark-to-Market」)、課税関係もそれに準じて決定されるということになった。これは出国時に課せられる「Exit Charge」だ。その意味では法人が資産を外国に移転させる際に適用されるSec.367(a)の考え方に類似している。

トラストの利用とか、同じ資産にも時間的に差異のある所有形態(例えばRemainder財産権)の利用がさかんな米国では、資産の所有形態が多岐わたる。どのような資産をグリーンカード放棄時に所有していたかという決定は「もしグリーンカード保有者が放棄の前日死亡したとしたら遺産税目的で所有していたと取り扱われる資産を所有していたと取り扱う」という考え方で行われる。

それにしてもNoticeのナント複雑なことか。添付資料も含めるとレターサイズ(日本で言うところのA4に近い)で65ページにも及んでいる。今回はIRSによる「Notice」という形で規定が発表されているが、近々に正式な財務省規則が作成される予定だ。財務省規則の内容は当Noticeのものを基とするということである。

*Mark-to-Marketのみなしゲインとみなし損失

税法というのは税金を取るために規定されており、したがって「いいとこ取り」であるのはいつものことだが、今回の規定もまさしくその一例だ。すなわち、Mark-to-Marketで認識されるゲインに関しては税法の他の規定に係らず認識される(通常であれば非課税となる所得でも課税されるということ)一方で、損失が出る場合には税法の他の制限規定に抵触しない範囲(Wash Sale規定は適用されない)でのみ認識できる、とされている。

ゲインに関して他の規定で非課税となっていてもこの目的では課税対象となるとすると、おかしな結果となる。例えば、過去5年のうち少なくとも2年間主たる住居として所有・使用していた不動産からの売却益は$250K(夫婦合算申告のケースでは$500K)まで非課税となるはずだ。実際に不動産を売却するとこの規定が利用できるのに、みなしゲインだと適用できないということだとすると、グリーンカード放棄前日に本当に売ってしまった方が得となる。

また、損失の認識はWash-Sale規定を除く税法の制限条項が適用されることから、キャピタルロスは年間$3,000を超えては利用できないことになる。

特別な取り扱いが規定されている資産もある。例えば退職金制度その他のDeferred Compensation、一定の条件を満たすトラストの受益人となるようなケースのトラスト資産などだ。

次回のポスティングではこれらの規定の更なる詳細に触れる。

グリーンカード放棄と米国の税金「追加Update」(1)

一昨日(2009年10月15日)IRSは「Notice 2009-85」を発表し、市民権または長期保有グリーンカードを放棄する際の米国税務取り扱いの詳細を明らかにした。

ちょうど、この日クロスボーダーのタックス・プラニングの一環で、米国企業が外国に「移民」する「Inversion取引」に係る検討をしていたところに、このようなNoticeが発表になり、「法人も一旦米国企業となると外国企業に変身するのは大変だが、個人も楽ではないな・・・」という感想を持ってしまった。

*市民権放棄とグリーンカード放棄

今回のNoticeおよびその基となる税法であるSec.877Aは元々「米国市民が市民権を返上して外国人となる」という局面に対する規定であるが、この考え方は全く同様に「長期グリーンカード保有者がグリーンカードを放棄する」という局面にも適用される。日本人の方は圧倒的にグリーンカード放棄という局面での対応が多いことから、今回のポスティングでは単純にグリーンカード放棄という表現を用いることが多いが、市民権放棄にも基本的には同様の検討が必要となる。

上の「米国市民が市民権を返上して外国人となる」とか「長期グリーンカード保有者がグリーンカードを放棄する」というシナリオは、IRSからみると「今まで全世界所得に対して税金を支払ってくれていた納税者が米国源泉の所得にしか税金を支払わない儲けの少ない納税者に変身してしまう」ということを意味する。

タックス・プラニングのために市民権まで放棄してしまう、または米国企業から外国企業になってしまう、というところからして日本的な考え方ではチョッとついていけないと思われる方もいるかと思うが、実際には結構行われているプラニングだ。法人の国外脱出であるInversion取引は徐々に網が掛けられ、Sec.367シリーズに続き、ここ数年はSec.7874があるので容易には実行できなくなっている。

*なぜ放棄が問題とされるか?

個人が市民権とかグリーンカードを放棄した後でも、米国源泉所得には米国の課税権が残る。すなわち、いくらグリーンカードを放棄しても、米国で勤労所得があったり、米国不動産から所得があったりしたら引き続き米国で課税される。であれば、わざわざ市民権とかグリーンカードを放棄したのだから、米国政府もそれで我慢しておけばいいと思われるかもしれない。

しかし、この「米国源泉」所得というところに大きな「オチ」があり、そのためにこのような複雑な取り扱いが規定されていると言っても過言ではない。そのオチとは非居住者(=米国市民でもなく、グリーンカードも持っておらず、米国滞在がそんなに多くない外国人)が認識する不動産以外の資産(=動産)からのキャピタルゲインは、その動産が米国に関係するものであっても、非居住者が外国に生活拠点を持っている限り米国から見ると「外国源泉」所得となるという点だ。

動産というと自動車とか家具とか「そんなものからキャピタルゲインなんてないのでは?」と思われるかもしれないが、動産には「株式」「債券」が含まれる。すなわち、Google、Microsoft、GM等の米国株式でも、それを非居住者が売却した際に発生するキャピタルゲインは米国では課税されない(もちろんGMからキャピタルゲインは最近はなかったかもしれないが・・・)。一方で米国市民または居住者(グリーンカード保有者は常に居住者)のままキャピタルゲインを認識すると総合課税で全て課税対象となる。個人の認識するキャピタルゲインは現状で15%が最高税率で歴史的に通常所得より低い税率で課税されることが多いが、ゼロの税金と比べると高い。

非居住者が住んでいる本国でキャピタルゲインが課税されるケースももちろんあり得るが、もし市民権・グリーンカード放棄の動機がタックス・プラニングであれば、わざわざ米国脱出した後に高税率国(例、日本!)に移り住む輩もいないだろう。所得税がないか、またはあっても税率が極端に低いカリブ海の島とかでゆっくりと余生を過ごす、とか、香港みたいに外国源泉所得とかキャピタルゲイン自体が非課税となる国で広東料理三昧というようなイメージではないだろうか。

*グリーンカード放棄時の取り扱い

グリーンカード放棄時の税務上の取り扱いは2008年6月17日に大きく変更になっている。この辺りに関しては次のような過去ポスティングがあるので興味ある方はぜひ閲覧して欲しい。今回のポスティングはそれを受けて、一昨日発表された詳細規定に触れる。

グリーンカードとアメリカの税金(2007年4月22日)
グリーンカード放棄と米国タックス(1)(2007年7月6日)
グリーンカード放棄と米国タックス(2)(2007年7月6日)
グリーンカード放棄と米国の税金「Update」(2008年6月17日)

次回のポスティングではNotice 2009-85の具体的な内容に関して触れる。

Thursday, October 1, 2009

外国法人による米国への貸付と米国課税(1)

ロサンゼルスとニューヨークを仕事で行ったり来たりしている間にかなりの時が経過してしまった。オバマ政権の国際課税改定シリーズが一段落してホッとしていたけど、その間にもFIN 48のSEC対象外の企業への適用決定を始めその他いろいろとあった。前回チラッと触れたビートルズのRemasterのボックスセットはAmazonでオーダーしたにも係わらずまだ在庫がない状態が続いている。このセットが届いたら近所のゲームソフト屋でWiiのビートルズも購入する予定なのだが、この分だと先にゲームを買うことになるかも。

アマゾンでビートルズのセットが一体いつShipされるかをチェックしていたら、面白い出版物が目に止まった。筋金入りLibertarianで、歯に衣着せない切り口で前回の米国大統領選挙を楽しませてくれたRon Paul先生が新しい本を出版していたのだ。この前の出版であるThe Revolution(John Lennonではなく、Ron Paulの)は結構、そういう考え方もあるのか・・・という感じで米国憲法に基づく国のあり方を考えさせられた。

今回の本はもっと凄い。なんと「End the Fed」つまり「連邦準備銀行を撤廃せよ!」というものでまたしてもとても勉強になった。日本に当てはめれば「日銀を撤廃せよ」ということになる。連邦準備銀行とか日銀、その他たくさんある中央銀行の存在は現在の経済活動に欠かせない存在であると鵜呑みにしていたが、必ずしもそうでないことが分かったし、また見方によっては中央銀行が諸悪の根源である、という視点があること、ある意味目からウロコだった。そういえば、つい先日、街でカバンを抱えて歩いているグリーンスパンとすれ違ったが、どことなく元気がない(?)雰囲気だった。

Ron Paul先生の意見には一理あるとしても、現実にはすぐに連邦準備制度の撤廃はないと考えるが普通だ。となるとヘッジファンドとかレバレッジの世界は今後もしばらく続くのかもしれない。

たまたま、ヘッジファンドである米国外法人が米国に貸付を行う際の米国課税関係に関してIRSが興味深い「Generic Legal Advice」を作成していたことが分かったので今回はその点に触れる。

*外国法人に対する米国課税

いままでもいろいろなポスティングで触れているが、外国法人は米国事業に関連する所得のみが米国で申告課税所得となる。この種類の所得を「ECI」と呼ぶ。ECIは「Effectively Connected Income」のことだが、これだけでは意味を成さない。実際には「Income Effectively Connected with U.S. Trade or Business」のことだ。米国に事業活動があり、その事業活動に実質関連している所得を意味する。ECIはそのまま「イー・スィー・アイ」と発音するが、対義語である「Non ECI」は「NECI」となり「ネッキー」と言われたりする。

ECIの考え方は米国内国法のものだが、租税条約がある場合には、申告課税の対象となる所得の決定条件が緩和される。租税条約下では、米国に恒久的施設がある場合に申告課税の対象となり、その際に課税所得となるのは恒久的施設に帰属する所得に限定される。このことから、米国内国法ではECIとなり、申告課税となる場合でも、租税条約により申告課税ではなくなるというきわどいケースもある。

ECIでない(租税条約のある国的に言えば恒久的施設に帰属しない)米国源泉の投資所得がある場合には申告所得ではなく源泉税の対象となる。源泉税率は内国法上は30%だが、租税条約があれば減免されている。ちなみに日米租税条約下では配当で0%~10%、利子は一般に10%、ロイヤリティーは0%だ。

*米国への貸付活動

米国への貸付活動から発生する利子所得がECIかどうかは外国企業、外国銀行にとって重要な検討事項だ。その決定次第で、利子を米国で申告課税とするのか、利子には源泉税が課せられるのか、と取扱いが全く異なるからだ。ここで注意するべき点は必ずしもどちらが得となるかは一概に決め付けられない点だ。申告課税となると面倒な気がするかもしれないが、申告課税ということは必要経費を差し引いてネット所得に課税されるということだ。このことから外国銀行は敢えて利子をECIにしたいと望むこともあり、税法は銀行の受け取る利子がECIになり難いように規定されたりしているので面白い。

今回のIRSによるLegal Adviceは外国法人であるHedge Fundが米国貸付から受け取る利子所得がECIとなるかどうかという検討事項に係わるものだ。