Sunday, October 24, 2010

グーグルとタックスヘイブン(2)

前回のポスティングで、先日のビジネスウィークに報道されていたグーグルのタックスヘイブン利用による節税について書き始めたが、今回はその続きで記事にて紹介されていた具体的手法について触れる。

*ダブルアイリッシュ

グーグルの欧米、アフリカ、中近東のオンライン広告収入はまずアイルランドにある子会社で認識される。ちなみに米国外でグーグルが稼ぐオンライン広告収入125億ドル(80円レートでピッタリ1兆円)の実に9割近くがアイルランド子会社の売上となる。この手の所得に課せられるアイルランド法人税の税率は12.5%ということだから、これだけでも相当な節税になるはずだが、この12.5%の税率でも不満足と考えてか、アイルランドから所得はロイヤリティーという形でアーニングス・ストリッピングされて最終目的地のバミューダへと向かう。この結果アイルランドの利益率は僅か1%となる。

アイルランドからバミューダに直接ロイヤリティーを支払うとアイルランドで多額の源泉税を支払うこととなることから、ロイヤリティーは一旦、アイルランドからオランダのペーパーカンパニーに移される。オランダはEUの国なのでバミューダ相手のケースと異なりアイルランドで源泉税が発生しない。そして更にオランダの気前のいい税法に基づき、そのほとんどの所得がロイヤリティーとしてバミューダに流れる。バミューダはタックスヘイブンで課税はない。オランダもバミューダもプラニングには欠かせない国だ。

実はこのバミューダの会社、法的にはアイルランド法人(バミューダで経営管理される)となる。アイルランドからオランダ経由でまたアイルランド法人に戻ることから「ダブル・アイリッシュ」と呼ばれるストラクチャーだ。オランダが間に挟まれていることから「ダッチ・サンド」とも言われる。

グーグルのもともとのテクノロジーはカリフォルニアで開発されているはずで、アイルランドとかバミューダでその果実の恩典を受けるためには、まず使用権をアイルランド法人に与える必要がある。おそらくコストシェアリングを通じて経済的なテクノロジーの所有権を米国とアイルランドに分けているのだろう。コストシェアリング開始時に既に相当のテクノロジーが米国に存在しているはずだが、その「旧」テクノロジーは「Buy In」としてかなり低いロイヤリティーを設定して米国外にライセンス供与するのが普通だ。もちろん移転価格税制の対象となるが、SECファイリングによるとグーグルの移転価格設定はIRSから問題なしという判断をもらっているとされる。

また言うまでもないが、これらの手法は当然合法的であり、不必要な税金は支払わないという株主に対する受託者義務をきちんと履行しているというのが米国的な考え方だ。

バミューダの受け取るロイヤリティーはSubpart F規定(日本のタックスヘイブン税制に類似)で米国で課税されるのでは?と疑問に思われた方は米国タックス中級テスト合格だ。ビジネスウィークの記事には書いてないがおそらくCheck-the-Box規定を利用して米国目的ではロイヤリティー授受があたかも一法人内で発生しているかのように取り扱われているのだろう。オバマ政権はこのSubpart F逃れに網を掛けようと2009年に大胆な税法改正案を提案しているが、その後その改正案は聞かれなくなり、2010年の改正案からは漏れてしまっている。この点に関しては2009年5月30日の「時代に逆行(?)アメリカの国際課税ルール(2)」以降のシリーズを参照。

*実効税率2.4%

上述のような手法を駆使した結果、グーグルの米国外における実効税率はナント僅か2.4%(!!)というから驚きだ。

日本では法人税率の引き下げが話題だ。もちろん日本企業にとって本国日本の税率は低いにこしたことはない。しかし、グーグルの例でも分かる通り、米国多国籍企業の決算書上の実効税率が低いのは、米国の税率が低いからではない。世界各国の法律を研究し尽くしてプラニングをきちんとしているからだ。

日本企業も「日本の税率が高い・・・」と嘆くばかりでなく、プラニングを策定・実行することでかなりの実効税率低減が可能なことを認識する必要がある。

グーグルとタックスヘイブン(1)

先日のビジネスウィークの記事でグーグルの巨額の利益がタックスヘイブン認識されることで大きな節税になっているという報道があった。かなり興味深い記事だったので読まれた方も多いのではないかと思う。

*日本企業のタックス・カルチャー

このような記事を見るたびに、日本の多国籍企業と他国(米国だけではない)の企業が持つタックス・カルチャーの違いの大きさを再認識させられる。タックスは合法的に支払うものであることは間違いないが、加速度を増すグローバル競争の中、日本の多国籍企業が合理的なグローバル・タックス・プラニングを講じていないが故に競争力を低下させていることは間違いない。

日本企業同士で競争していた時代には特に問題は浮き彫りになっていなかった。みんなタックス・プラニングなどしてなかったので同じ土俵で戦っているように見えてたからだ。欧米企業とは別の道を行っていても特に大きな被害はないように感じられていただろう。

しかし資本が一瞬にしてグローバルに動く今日では状況が大きく異なる。日本企業が好むと好まざるに係らず、全世界のオペレーションの生み出す「After-Tax」の金額は世界の投資家から見るとその企業の競争力のひとつの大きな指標となる。

上場企業にとってタックス・プラニングの欠如は買収リスクをも意味するかもしれない。株価が「After-Tax」の収益に連動していると仮定して、「うちが買収してまともなタックスプラニングをすればもっと収益が上がる会社だな・・・」と踏んだファンドとか他国の会社があると、プレミアムを乗せて株式を買収しても元が取れることになる。この辺りのことは日本全体で今一度、若干冷めた目で見直す時が来ているはずだ。

日本は2009年から「外国子会社の配当非課税」という素晴らしいシステムに移行している。全世界課税という日本より本来よっぽど不利な条件で競争させられている米国多国籍企業の実効税率がこれだけ低いのだから、日本企業としてももう少し頑張って欲しい。

*グーグルの裏技

ビジネスウィークに報道されているグーグルによる節税の手法はアイルランド、オランダ、バミューダとプラニングにはお馴染みのメンバー国が活躍している。ちなみにかなり重要なポイントなので敢えて付け加えておくと、ここでグーグルがやっていることは米国多国籍企業にとっては特に珍しいことではない。言わば、米国多国籍企業としては「普通」レベルのプラニングをしているに過ぎない。マイクロソフトも同じようなことをしていることは周知の事実だし、フェイスブックも同じようなステラクチャーを準備中と言われている。

具体的な手法については次回のポスティングで続ける。

Thursday, October 21, 2010

進化するLLC(Series LLC)(2)

前回(と言ってもしばらく前となってしまったが)デラウェア州で、誕生している最先端を行く事業主体形態とでも言うべき「Series LLC(シリーズLLC)」について書き始めた。

一つの親LLCを設立した上でその中にミニLLC(SeriesとかCellと呼ばれる)を作るようなイメージで、そのミニLLCがあたかも独立法人かのように有限責任や独自の権利関係を持つことがるのが特徴だ。複数のLLCを設立するよりもコストメリットがあるということで普及している形態だ。ただし、新しい形態の事業主体が常にそうであるように、有限責任等の有効性に関して裁判所の見解が出ていない。したがって、理論上は有限責任だが、その意味で多少の不確実性は残っていると言える。

*Series LLCの税務上位置づけ

以前からのポスティングで再三触れている点だが、米国では事業主体は州の会社法の規定に基づいて設立される一方で、それを連邦税法上、どう取り扱うかという点は連邦税法で別途規定されている。Check-the-Box規定がそのいい例だ。

今回、公表された暫定財務省規則によると、連邦税法上、シリーズLLCのミニLLC各々は州法上、個別の事業主体とみなす、とされる。州の会社法上、個別の事業主体となるということが必ずしもイコール連邦税法上も個別の事業主体という訳ではないが、暫定規則の方向性から税務上も個別の事業主体と取り扱われると考えるのが自然だろう。

となると、個々のミニLLCに関してパススルーの取り扱いまたは事業体課税(=法人税対象)の取り扱いの選択が認められることとなる。Series LLCを組成する際、個々のミニLLCは親LLCまたは親LLCの子ミニLLCに所有されることもあれば、親LLCのメンバーが直接ミニLLCを所有することもあり得る。親LLCが100%ミニLLCを持つ場合にはミニLLCは税務上はDisregarded Entity(支店)扱いとなる。一方、複数のメンバーがミニLLCを直接保有するようなケースでは、ミニLLCは親LLCとは別のパートナーシップ扱いとなることになる。

州税上の取り扱いがどのように規定されていくかも興味深い。カリフォルニア州では税務当局(FTB)がそのウェブサイト上で「Series LLCのミニLLCは各々個別のLLCとして取り扱い」と早々と公表している。その理論で行くと、ミニLLCのうちカリフォルニア州で事業を行なっているところだけがLLC Feeの対象となるように見える。

*拡大するSeries LLC

デラウェアで「誕生」したSeries LLCであるが、現在では他州の会社法にも規定が始まり、現時点で10に近い州でSeries LLCの設立が可能となっている。その好評さから考えて、全ての州法にSeries LLCが規定される日もそう遠くはないように思える。

なお、州の会社法上、ミニLLCは各々有限責任を認められている点は上述の通りだが、連邦税の支払い義務に関しては連帯責任を負うのではないかという見方もある。