Monday, December 31, 2018

2018年大晦日「行く年来る年」

ちょうど昨年の大晦日は税制改正可決直後で、「米国税法改革「Tax Cuts and Jobs Act」そして2017年の政局を振り返って」というタイトルのポスティングをしていた。可決当時のまだ詳細も不明な時期だけあり、どことなくイノセントな感じが漂っている。

その後、可決直後のハネムーンは早々に終わり、膨大な量の規則と立ち向かう毎日を過ごしている間に、2018年も早くも12月31日になってしまった。時の経つスピードに驚愕すると共に、早くも想いは2019年のことでいっぱい。2019年もTCJAにかかわる多くのガイダンスが、引き続き公表されていくし、さらに現時点で案(「Proposed」)の状態にあるガイダンスが、順次最終化されていくExcitingな年だ。

多くの規則案は2019年6月21日までに最終化されるはず。なぜ6月21日かっていうところは数回前のポスティング「米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(6) – BEAT財務省規則案(2)」で詳しく触れているのでぜひ読んでみて欲しい。各規則案にはパブリックコメントの提出期間が設定されていて、その間に寄せられるコメントに基づき更なる改訂が行われる。これだけ複雑な規定満載なので思わぬ副作用とかが新たに見つかったりして、最終化までには規則が変わる部分が結構あるはず。コメントの多くは法曹界、Big-4会計事務所、業界団体から寄せられるけど、法律可決直後の規則案の策定過程で、既にテクニカルな多くのコメントが寄せられている。複雑かつ新しい法律を適用する際に直面する不確実な検討事項は、無数にあり、それを財務省だけで潰すのは不可能という現実を考えると、この前倒しのコラボ体制はとても良くワークしている。さらに、どんなプラニングがあり得るかっていう点も比較的トランスペアレントに財務省に伝わる。そのため、乱用防止的な規則が策定される際に、許容範囲がどこにあるのかっていう点も比較的よく考えられていると思う。

年明け早々に公表されるであろう新規の財務省規則案の目玉は、100%配当控除を規定しているSection 245A、GILTI控除とFDII控除をセットで規定しているSection 250にかかわるもの。245Aは保有期間みたいな単純な規則一つとっても深く考えると恐ろしく複雑。FDIIは外国使用をどのように考えるのか、また、外国関連者に対する売上・サービス提供・ライセンスの濫用防止規定となる「Round Tripping防止」が、どのように規定されるか等興味は尽きない。でも、それまでに既に公表されているのメジャーな規則案を、ある程度読み込んでおかないと財務省のペースに二度と追いつけなくなってしまいそう。2019年も引き続きハイテンション間違いなしだ。

日本では既にお正月になっているけどNYCはまだ大晦日のお昼。オフィスのあるTimes Squareは、1904年から毎年恒例の60秒カウントダウンで、オフィス自体もちろん立ち入り不可。本当かどうか知らないけどカウントダウンに100万人の人が殺到するというから凄い。カウントダウン時に6トン近い巨大なボールが、1分かけて落ちるのもお馴染み。今年の「Imagine」はブルックリン生まれの歌姫、Bebe Rexhaが歌うらしい。今年は例年より気持ち気温が高めの大晦日っぽいから、43rd Streetとかで12時間待つみんなもチョッと楽かもね。

という訳で、2018年もいろいろと脱線することもあって、どうでもいいこともたくさんポスティングしてしまったけど、2019年もより多くの日本企業が、グローバルプレイヤーとして活躍できるよう米国税務面からサポートしていきたい。

Sunday, December 30, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(6) – BEAT財務省規則案(4)

前回のクリスマスイブポスティングでは、BEAT適用対象かどうかの判断時にパートナーシップをどう取り扱うかっていう、法文では明記されてい なかった部分に関して触れた。そうこうしている間に、2018年のクリスマスも過ぎてしまったけど、エンパイアステートビルは相変わらず夕方になると赤と緑で美しくライトアップされているし、ロックフェラーセンターのクリスマスツリーも1月7日まではそのまま煌々と光り続ける。ロックフェラーセンターには、11月28日のライトアップショー以降、ツリーや関連イベントを見ようと多くの観光客が立ち寄る。その間、48とか51とかのストリートは多くの人でごった返し、交通規制が敷かれ、渋滞で大混乱。特にMidtownの中心からマンハッタンを北上して48方面に向かう、6th AveやMadisonの渋滞はひどい。昨日の夕方も、深く考えずに44からMadisonに左折してしまって、数ブロック超えるのに長い時間を要し、その間、BEATの適用対象に関して、他に良く質問される不明点はなかったかな、とか考えたりしてた。

ただ、マンハッタン内の渋滞は仮に時間帯によって激しくても、所詮距離がしれてるからマシ。結局、昨日も数ブロック超えたらスムースオペレーター(Sade!)になって、その後はアッと言う間だったし。その点、南カリフォルニアの405とかで渋滞に巻き込まれ、10マイルとか延々混んでるより全然ベター。405は夜中2時とかは別として、渋滞に巻き込まれない方が珍しいし。夜中の2時とかでも、油断していると、道路工事とかCHPのアクティビティとかで5車線が1車線になったりして渋滞することもあり、そんな時は「こんな時間に・・」とショックの大きさもひとしお。

良くみんな、特にロサンゼルスの人、に南カリフォルニアとNYCのどちらがいいか、っていう比較可能性が低く、余り意味のない質問を受けることがあって、どっちにも愛着もあり、各々別の角度からいいとこだと思うけど、敢えて言うなら基本的にお天気以外ではNYC。お天気も慣れの問題で、冬のマンハッタンとか白い息を吐きながらクライスラービルとか見えてると気が引き締まるし、雨も「12月の雨」(古~)じゃないけど、雨音に気付いて遅く起きた朝、とか結構Cozy。で、なんでこんな話しかって言うと、南カリフォルニアで車に乗ってる時間の無駄さ加減が余りなのと、後、CHPって書いて、南カリフォルニアのポリスとNYPDの余りの態度の違いを思い出したから。平均的な他州のポリスから受ける印象に比べて、特に合法的に暮らしている通常の市民に対するNYPDのフレンドリーかつヘルプフルなポリスに比べて、CHPやLAPDのポリスは意味もなく高圧的。NYPDのモットーは「Courtesy, Professionalism, Respect」だけどそれに忠実なイメージ。CHPは逆。州民の税金から給料もらってる公僕だって意識が全くなく、この前もFWY10で、いかにも善良そうにただ運転しているだけの市民の後ろにいきなり派手に接近してサイレンならし、横によけると「なんで急に横によける!」とかスピーカーで思いっきり怒鳴ってみたり極めて横柄。もちろん文句でも言おうものなら撃ち殺されかねないし、市民としては余りDue Processがない。南カリフォルニアに居ると慣れてくるけど、野蛮と言うか田舎もの丸出しというか、って感じ。もしかしてCHPにチケット良く切られるので愚痴?って言われるかもしれないけど、東西比較検討項目のひとつで、差異が際立っている点のひとつだろう。

またしても貴重な年末の限られた時間をどうでもいい話しに費やしてしまったけど、Madison Aveで一瞬渋滞している間に思い出したのが、売上(Gross Receipt)テスト適用時の売上の考え方。大概のケースでは、テストするまでもなく超えているので、後はBase Erosion%で勝負っていう法人グループか、うちはまだまだスタートアップなので平気って法人グループか、二分化されると思うけど、場合によっては結構際どいケースもあり得る。

BEAT以外の局面でも売上テストは、現金ベースで課税所得を確定してもいいか、263AでInventory Capしないでいいか、Section 163(j)で支払利息の損金算入制限を考えなくてもいいか、とか結構登場する。

ここで言う売上は、米国税務上、当期に認識されるものを意味し、物販に関しては売上原価を差し引く前の総収入から返品を差し引いた金額、サービス提供に関してはグロス全額が含まれる。また、その他の付随的な活動からの受け取りも全て含まれる。投資活動からの受け取りも全て売上を構成し、それにはOIDや地方債のような非課税利子所得も含まれ、配当、賃貸、ロイヤルティーも全て売上だ。例外的に、事業資産やキャピタル資産の譲渡に関しては受取額から税務簿価を差し引くことが認められる。規定上、明確でないけど、売上の話しなので、個人的には事業資産やキャピタル資産から譲渡損が発生する場合には、マイナスと数えるのではなく、ゼロとするんじゃかないか、と考えてる。

BEATに関しては、財務省規則案が公表されるズッと以前、税法改正が可決して間もない頃、手探りでいろいろとポスティングしていた懐かしい時期がある。その時のシリーズで、何と1月10日という早い時期に書いている「米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(1) – BEAT(2)」でも、実はBEAT適用条件の売上基準に関して触れた。そこでも触れたけど、過去3年平均で売上$500M以上かどうかを算定する際に12カ月未満の課税年度が存在するようなケースでは年間換算額を用いるとか、合併等、期の途中で組織再編がある場合には前身の主体の売上も含むとか、通常この手の基準に規定される注意事項が同様に規定されている一方、法文上、不思議なことに、通常は必ずこの手に話しに必ず登場する「3年間存在してない法人はどうするの?」っていう点が規則から抜け落ちている点に触れた。

で、今回の財務省規則案ではしっかりそこも規定されていて、法人が過去3年存在していないケースでは、設立以来の期間で平均売上を計算しなさい、って通常通りの規定となっている。その際、大概において初年度となる課税年度は12カ月未満だろうってことを想定し、上述の12カ月未満の課税年度が存在するようなケースでは年間換算額を用いる規則も同時適用すること、ってしっかり釘を刺している。

ということで今日は、Madison Ave発の売上基準に関するその他規則でした。

Monday, December 24, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(6) – BEAT財務省規則案(3)

前回のポスティングは、クロスボーダー課税シリーズを一休みして、税制改正可決一周年記念特集となったけど、再びBEAT財務省規則案に戻る。前々回、BEATの対象となる納税者の定義、特にAggregationルールに基づくグループ合算規定に触れた。

その際、Base Erosion%基準に関して、グループ内で基本的に消去するものはない、って書いたけど、厳密に言うと、Aggregationルール下、規則案で「一人の納税者」と取り扱われるグループ内、すなわちグループ米国法人と支店申告をしている外国法人間の支払いに基づく控除が分母に含まれる場合には、当該控除額は、内部取引として消去され、その分、分母が減ることになる。分母は大きければ大きいほどいい訳だから、こんな金額があると損。分子のBase Erosion Benefitsに関しては、Base Erosion Benefitsの大元となるBase Erosion Paymentはそもそも外国関連者への支出に限定され、しかも規則案で米国支店が申告所得の一部に取り込んでいる金額に関しては、仮にテクニカルに外国関連者への支払いでもBase Erosion Paymentとはならない点が明記されているので、Aggregationルールで消去の対象となるものはないはず。

で、今回はAggregationルールそのものではないけど、売上基準とBase Erosion%基準適用時のパートナーシップの取り扱いに関して。

パートナーシップを持つ法人が、パートナーシップ項目をどのように取り扱うか、っていう点は法文には明記されておらず、財務省によるガイダンスが待たれていたが、規則案ではパートナーとパートナーシップを合体して考える、所謂Aggregateコンセプト(BEATのAggregationルールとは関係ない用語なのでご注意)に基づく、合理的なアプローチが規定されている。

パートナーシップの取り扱いは、売上基準とBase Erosion%基準で、そのアプローチが微妙に異なるので注意。まず、売上基準目的では、パートナーシップの売上をパートナーシップ合意書に基づき各パートナーに配賦し、法人パートナーは当金額を自分の売上と合算して、売上基準を適用することになる。もちろん、法人がAggregationルールに基づて合算対象グループに属している場合には、当法人はパートナーシップの持分相当売上を取り込んだ上、更にグループ合算規定を適用することとなる。また、他のAggregationルールにかかわる検討と同様、仮に法人パートナーが取り込むパートナーシップの売上が、当法人パートナーのAggregationルール上の合算グループに対するものであれば、当売上は消去されることになるはず。パートナーシップ売上の各パートナーへの配賦額の決定法だけど、配賦に実質的な経済効果が認められる(704(b)の安全ガイドライン基準)、または安全ガイドラインから逸脱するまたはターゲットAllocationのように最初から安全ガイドラインを適用するつもりがないケースでPIPに準じる限り、パートナーシップ合意書に基づく配賦となる。滅多にないけど、パートナーシップ合意書の配賦に問題がある場合には、PIPに準じる配賦が強要される。ネット損益を常に50・50等で配賦するようなプレーンなケースは分かり易いけど、Special Allocationとかが存在するケースでは、どの売上がどの配賦に帰属するのか、特定した上で、売上そのものの配賦額を決定する必要がある。

次にBase Erosion%だけど、パートナーシップによる支出がBase Erosion Paymentに当るかどうかの判断は、パートナーシップ側の各支出をパートナーシップ合意書に基づき各パートナーに配賦し、当金額をあたかもパートナーが直接支払っているかのように取り扱い、各パートナーにとってBase Erosion Paymentになるかどうか、すなわち、支払先が「パートナーから見て」外国関連者に当るかどうかを基に行う、とされる。え~、ってことはパートナーシップが支払う全項目に関してその相手先を教えてもらい、それが法人パートナーの外国関連者かどうか調べないとBase Erosion Paymentの有無すら特定できないってこと?まあ、テクニカルにはそうだろうけど、実務的には大概のケースで、受け手となる外国関連者で、米国法人が投資しているパートナーシップから受け取りがあれば、それはグループとしてその存在を認知しているはず、と考えられるよね。

Base Erosion%の分母となる控除総額に関しても、法人パートナーはパートナーシップから持分相当を取り込むことができる。ここは、財務省規則案の「Other Relevant Items」の部分で、控除額に関しても取り込むこと、と記載されているので、BEATのパートナーシップに対する原則アプローチとなるAggregateコンセプトの下、分母にも持分相当額を取り込むということだろう。

Base Erosion%基準の適用時、法人パートナーがパートナーシップからBase Erosion Paymentを取り込むかどうかに関して、マイナーな少額免除制度が規定されている。免除規定によると、パートナーの持分が、資本、利益、配賦比率全てに関して10%未満で、かつパートナーの課税年度末時点でパートナーシップ持分の時価が$25M未満の場合は、パートナーシップから取り込みを行う必要はないとされている。このBase Erosion Paymentにかかわる少額持分免除は売上基準には適用がないように読める。また、$25M未満かどうかは時価ベースの判断となるため、厳密には毎期末、パートナシップ持分を時価評価する必要が生じるが、当評価は何らかの合理的な算定法を適用して判断してOKと規定されているので、必ずしも毎期高価な時価評価レポートを用意する必要はなさそうだ。

と、クリスマスイブも早くも午後になってきて、エンパイアステートビルもクリスマス色にライトアップされてきたので、今日はこの辺で。NYCのクリスマスは街中がいい感じ。クリスマスはやっぱり寒い方が感じでるね。

Saturday, December 22, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「今日で可決から1年」

TCJAがトランプ大統領の署名により可決されてから今日2018年12月22日でちょうど1年。アニバーサリーを迎えて様々な思いが頭をよぎる。一年前、最終化された条文を急いで読んで受けた新税法のイメージと、この一年、解析をし続け、不明点が浮き彫りになり、とてつもない量の財務省規則草案が公表され、という進化(深化?)を経た結果今日抱いているイメージは結構異なっていると言える。

法人税引き下げ、米国から国外への販売・ライセンス・サービス提供に低税率を規定しているFDII、設備投資に対する即時償却、など、分かり易い恩典のイメージは確かにそのまま威力を発揮していて、悪いニュースは各社敢えて公表は控えてるんだろうという点を割り引いても、米国経済は基本的に好調に推移しているように見える。

昨日のWSJにも、税制改正一周年を記念して「再び競争力を付ける米国経済(America is Competitive Again)」というタイトル、「税制改正はホワイトハウスが狙った通りの経済・雇用効果を実現(The tax cuts of 2017 have boosted growth and job creation, just as the White House team intended)」というサブタイトルで高らかそこの効果を特集している。ちなみに当記事の著者は当時の国家経済会議委員長のGary Cohnなので当然ポジティブなトーンに終始しているが、米国において肌で感じるビジネスの動向と整合性がある内容だと思う。Gary Cohnの論調は説得力がある。ゴールドマンサックスの元社長だから、相当のやり手だろうし、そんな感じが滲み出てて力強い。ちなみに、最近は、彼が社長の頃、NYCやLVその他でお金使いまくってたJho Low率いる1MDB絡みのビジネスがアジアで始まってたって切り口でメディアに登場することが多かったけど、久しぶりに本道に返り咲いた感じの記事で健在ぶりを披露してくれた。

WSJの記事によると、経済成長率は2018年第三四半期までの9カ月通算3.3%(年率換算)で、これは13年振りの高成長率。トランプ政権誕生時に米国の経済成長率を3%台に戻すという目標を掲げた時点では、オバマ政権下の「New Normal」だった2%台を超えるのは無理というのが「有識者」の一般的な見方だった。たった1%じゃん、って思うかもしれないけど、米国規模の経済が、1%高い成長率を達成するということは、雇用、賃上げ、財政、等にとてつもなく大きなインパクトがある。

企業による米国回帰の動きも顕著しかも迅速で、500社を超える大手企業が、賃上げ、特別ボーナス支給、雇用拡大を発表し、600万人の従業員が何らかの恩典を享受しており、実に89%に上る経営者が税制改正の影響に基づき、従業員に対する報酬パッケージをアップグレードする予定だというサーベイ結果が出ている。経済が好調な状況で雇用環境も申し分ない。2018年に入ってから210万人の雇用増、失業率は3.7%と1969年以来のベスト記録。求人が失業者数より多い状況となり、賃金もアップ。2018年の賃金上昇率は3.1%と過去数十年で最高。低所得者層の賃金アップ率は更に高く4%を記録しているそうだ。経営者にとって頭痛の種は人材確保。

Capexは2017年比較で1,800億ドル(約20兆円)アップ、住宅関連以外の不動産投資は16%(1993年以来の高水準)、知的財産関連投資は10%(1999年以来の高水準)各々前年対比アップとなっている。税制改正のOpportunity Zone条項に基づく特定のエリアへの投資意欲も盛ん。

また、注目の海外からの米国への資金還流に関しては、前年同期1,280億ドルのところ、2018年の最初の3四半期で5,710億ドルを記録している。米国企業による海外子会社からの資金還流だけど、従来は四半期400億ドルが平均だったらしい。これが税制改正直後は一気に3,000億ドルに跳ね上がり、その後、500億ドルから1,000億ドルレベルに落ち着いてきた模様。資金還流のテクニカル面は後半チョッと触れたい。

でも法人税減税で、国家財政がマイナスになるので、税制改正はよくない、と言う声は未だに良く聞かれる。この点に関しては、政策決定時に国家財政に与える影響を加味するのは当然、とした上で、雇用、賃金水準がこれだけ上昇すれば、税収ベースの拡大に繋がる、また連邦政府が恒常的に赤字となっている主たる原因は、歳入が少ないからではなく、歳出が連邦政府の域を出る分野にまで拡大し、制御不能に陥っている点、としている。すなわち、いくら増税しても歳出をコントロールするまで財政赤字は解決しない、ということだ。

ポリシーや経済的な議論はさておき、テクニカルな面からは斬新なクロスボーダー課税およびその複雑さは特筆に値するだろう。法律が審議されている当時から可決に至るバタバタのローラーコースター期間に想定されていた新税制下のクロスボーダー課税に対するザックリとしたイメージは、米国もテリトリアル課税に移行し、その代わりに旧税制下で蓄積された海外留保所得は制度移行の代償(?)として低税率で一括課税、一部BEATのような特殊なBase Erosion対策が講じられ、またCFCが無形資産から超過利益を生み出している場合にはミニマム税が課される、とは言え基本的には海外所得は非課税、というような大枠だった。

法律可決後、間もない頃から、ちゃんと法文読み始めてみると、そんな生易しいものでないという発見に驚愕することとなる。制度移行で留保所得に一括課税された後、待ち受けている新制度は、語弊はあるけど全世界連結納税に近いGILTI。それに追い打ちをかける形でBEAT、Section 163(j)、Hybrid禁止(2日前にこちらも財務省規則草案公表)とこれでもか、って感じ。以前の全世界Deferralシステムと比べて、より厳しく、またコンプライアンス負荷が高いクロスボーダー課税制度になってしまった、という発見だ。

結局のところ、ヘッドラインだったテリトリアル課税を規定している100%配当控除の恩典を受けることが可能な事実関係は極端に少ない作りになっている。特に今後発生する海外所得に関しては、GILTIからシェルターされるCFCの有形償却資産の10%リターンと、複数のCFCを持つ米国株主が米国側のGILTI算定時に、CFCからロールアップしてくるTested Lossで、他のCFCからロールアップしてくるTested Incomeを相殺した際に、プラスのCFCのE&PにはTested Incomeでかつ米国株主側で超過利益となるはずの金額でも、GILTIがプッシュダウンされて戻ってくる際にGILTI「課税済み」とならない部分があるけど、これもテリトリアル課税の恩典を受け得る数少ない原資だ。ただ、優先順位的に、分配はまず課税済留保所得から行われていると取り扱われるから、留保所得一括課税の影響もあり、テリトリアル課税の恩典を受けることができる分配原資に辿り着くことがあるのかどうか、も怪しい。で、未だ規則案出てないけど、100%配当控除を規定している245Aも他のクロスボーダー課税に勝るとも劣らない複雑な規定だ。

上のWSJの記事にもある通り、以前よりは資金還流が税務的に容易になったのは事実。ただ、この点に関しても配当する側の源泉税の問題以外にも、CFCに対する米国株主側の株式簿価増減と課税済所得の還流にかかわるキャピタルゲイン認識の複雑な複合問題、等で一般に考えられるよりも資金に手が付けられない局面は多い。その際、CFCの株式簿価はかなりキーとなる検討なので、税務属性の管理に余り高い意識があるように見受けられない日本企業にとって、M&A時のTDDとかの局面も含めて、今後より高度な検討が強いられる分野となるだろう。

2017年の大統領選挙の結果、誕生が可能になったTCJA。もし選挙結果が異なっていたら米国経済も大きく異なっていただろう。ヒラリークリントンが大統領になっていたら、タダですら財産没収の域に達していると言っても過言ではない米国税制を更に高税率とし、キャピタルゲイン認識には6年間の保有期間を課したり、オバマ政権下でチョッと息が詰まるような「なんでそんなことDCの連邦政府に言われないといけないんだろう?」的な、本来主権国家同様の州政府権限をオーバーライドするような諸々の連邦政府発の行政規制がそのまま継続、または増大していただろうし。

という訳で、もう1年経ったというべきか、未だ1年しか経っていないと言うべきか。TCJAと寝食を共にしてきた身としては、TCJAが存在しなかった時代の税法や生活(大袈裟?)を考えるのは難しい。この法律の解析、適用は未だ始まったばかり。86年の税制改正がそうだったように、今後、何年、何十年も掛けて新たな「Body of Law」が構築されて行くことになるだろう。ロング・ジャーニーは始まったばかり。

Sunday, December 16, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(6) – BEAT財務省規則案(2)

で、結局、Pullman Loafは早々に売り切れてたんで、代わりにブリオッシュを買って始まったBEAT規則案のMorning After。幼少の頃、家の近くにあった「アートコーヒー」って店で母がブリオッシュよく買ってて、朝しょっちゅう摘まんでた影響で、時折ブリオッシュが無性に食べたくなる癖がまたしても店頭で頭を擡げてしまった。

規則案の中でも特筆すべき規定は昨日のBreaking Newsで触れているけど、若干もう少し真面目に解説した方がいいBEAT関連項目に関して、今回から数回に亘って触れてみたい。その後、約束通り、FTC、そして更にその後にSection 163(j)と、乞うご期待。でも、その間にもいろいろと気が散る題材が登場してきそう。米国事業に従事している(=ECIがあるという意味)パートナーシップ持分を外国人が譲渡した際の取り扱い、GILTIおよびFDII控除を規定するSection 250、そしてFTCと切っても切れない縁にあるPTI、100%配当控除を規定しているSection 245Aとか、今後も盛沢山そうなので、その都度、Breaking Newsには触れざるを得ない。となると、全て書き終えるのは更に数年(?)を要するかもね。国際税務業界の感覚として税制改正内容の具体的な方向性の探求は始まったばかりで、この長い冒険の旅、オデッセイは何年も続くというもの。楽しい本読んでたり、映画見てたりしても、いつかは終ってしまうのに比べて、国際税務のジャーニーは終わりがないのが嬉しい(?)。

ここに来てなぜ規則案が大量に公開されているかっていうと、いくつか側面はあると思うけど、財務省規則っていうのは普通は過去に遡及して効果を持つことはない。もう少し正確に言うと、最終規則は、最終規則そのものが公布された日、最終規則の基となる規則案(案そのものに法的効果はなし)、または暫定案(法的効果はあるが、一定期間を過ぎて最終化されない場合にはSunset)、が公布された日、IRSが「こんな規則を策定します」っていうNoticeを発行した日のいずれか早い日より前に効果を持つことは認められない。規則によっては納税者の選択で「早期適用」のオプションが規定されることも多いけど、これはあくまでも納税者側が自分の希望で勝手に適用するもの。規則の公布は米国連邦政府の官報または公報に当る「Federal Register」に掲載する形で行われる。ちなみに、規則が一般に公表される日、例えばBEAT規則案だったら2018年12月13日、は実際にFederal Registerに当規則案が掲載される日より数週間早い。過去訴求を認めないこの一般原則の例外として、「法改正に基づき迅速に策定される規則」、って日本語にするとチョッと固いけど、原文で言うところの「Promptly Issued Regulations」っていうのがあって、議会により法律そのものが新たに制定され、その日から「18カ月以内」に当法律に関して策定される財務省規則は、法律制定日まで遡って効果を持たせることができるというものがある。米国税制改正となるTCJAは2017年12月22日(後、1週間でAnniversary!)に署名されて正式に法律になっているので、2018年6月21日までに規則を最終化させることができれば、その内容全てが税制改正が適用される2018年課税年度(ほとんどの米国企業は2018年1月1日に開始する課税年度から新法適用)の初日から適用となる。

もうひとつの理由は、法的な制限ではなく、とてつもなく複雑な新しい法律を納税者に適用させるに当たり、何とか12月末までにできるだけのガイダンスを発行しておきたいという純粋なコンプライアンス面の検討。2018年12月決算の法人税申告そのものは2019年10月が最終期限だけど、予定納税、延長申請とか、また決算書上の法人税引当計算に関するガイダンスの必要性は待ったなしの状況だ。

という訳で洪水のように規則案が連発されていることになる。

で、BEATに戻ると、規則案では、まず諸々の定義を列挙した直後、誰がBEATの対象となるかという最重要検討事項でキックオフされている。これは物事の論理的な始め方と言えるけど、法文の方に目を移すとストラクチャー的にそのようなアプローチは難しく、大概、課税の概要から始まり、その後に適用対象納税者を含む、諸々の定義が来ることがほとんど。BEATを規定しているSection 59Aも、BEATミニマム課税概要から入って、法文で適用対象者の話しが出てくるのは、しばらく経ったSubsectionの(e)。法文をレターサイズにプリントすると、4ページ目で登場してくるキーとなる定義だ。規則案ではまず、この部分を入口で処理している。

BEAT適用対象者の基本は比較的シンプル。すなわち、S法人、RIC、REITを除く米国税務上Corporationと扱われる事業主体(便宜上、以下「法人」とする)。特に内国法人に限定されていない点に注意。ただし、過去3年平均売上が$500M未満(売上基準)、またはBase Erosion%3%未満(Base Erosion%基準)のいずれかの条件を充たす場合は適用除外となる。ちなみに銀行、証券会社のグループに含む納税者は3%ではなく2%。売上基準目的では、パートナーシップ持分を保有する米国法人は持分相当のパートナーシップ売上を加味する必要がある。

Base Erosion%は毎期の損金算入額に占めるBase Erosion Benefitsの占める%だけど、規則案では何を分母や分子に反映させるか、っていう点に関して、追加規則が規定されている。ここの部分はBase Erosion Paymentsから何を除外するかっていう部分と密接にリンクしているので、後日触れるBase Erosion Paymentsにかかわる話しを読んでからの方が分かり易いかもしれないけど、米国移転価格税制に規定されるService Cost Method(「SCM」)に準拠している役務提供対価、適格デリバティブ、Total Loss-Absorbing Capacity (“TLAC”)に基づく支払い、は分母・分子の双方から除外すると規定されている。TLACがBase Erosion Paymentsではないと規定された点は前回のポスティング通り。また、仮に為替差損益が関連者間取引を基に発生していても分母・分子の双方から除外される。逆に米国からInversionした企業に支払うCOGSや再保険プレミアムは分子・分母の双方に加算するとしている。更に、ケースとして多くはないと思うけど2018年1月1日以降に終了するCFCの課税年度が留保所得一括課税の合算課税年度となる場合、一括課税を現金部分は15.5%、それ以外は8%と低税率とするために計上される想定控除額は分母に加味が認められる。

ここまでのベーシックな売上基準やBase Erosion%基準そのものに関して、特に刺激的な部分は皆無と言えるけど、法文では売上基準、Base Erosion%基準の判断をする際に、特定のグループの数字を合算して行うこと、としている。所謂「Aggregationルール」に基づく「グループ合算規定」だ。法文では、Work Opportunity Credit(WOC)というおよそ国際課税に従事している者には馴染みのない条文を参照して、WOCで一人の雇用者と取り扱われる法人グループは、売上基準とBase Erosion%基準の判断時も「一人の納税者」として取り扱うと規定している。WOCのグループは、最終的にはSection 1563(a)のControlled Groupを80%以上ではなく、50%超基準で適用したものとなる。

Section 1563(a)のControlled Groupは世界中のグループ法人を含み、特に外国法人だからという理由のカーブアウトはない。法文にはなぜか、Section 1563(b)(2)(C)に規定される「外国法人はECIの部分を除き対象外」という部分に触れ、この除外規定は適用しないとしている。以前、BEATが法律として誕生した頃の今となっては懐かしいポスティングでも触れたけど、この除外規定の不適用は「弘法も筆の誤り」的な法文のドラフティングエラーとしか思えない。クロスボーダー課税の初心者であれば、Section 1563(a)のControlled Groupのメンバーの定義と、Section 1563(b)のComponentメンバーの定義がごちゃごちゃになりがちだって言うのは理解できるけど、海千山千の天下の上院財政委員会のスタッフライターはそんなことは百も承知のはず。Section 1563(a)には最初から外国法人も分け隔てなく含まれているので、その定義に何の影響も持たないSection 1563(b)で除外している外国法人を慌てて元に戻す、そんな必要もないはず。ただ、法文は全世界グループを意味しているっていう意気込みだけは充分に伝わってきていた。その上で、更に法文は、売上基準適用時に、外国法人に関して加味するべき売上は、米国申告課税対象となるECIに帰属する金額のみとしていた。

このグループ合算規定の解釈は実は結構チャレンジングで、もし全世界グループを合算するだけでなく、グループを一人の納税者と取り扱うとすると、全世界のグループ内法人間売上は消去することになり、計算に加味しなくていいように取れる。そもそもBase Erosion Paymentsは多くのケースで全世界グループの法人間の取引なだけに、Base Erosion%基準の算定時にまさかそれらを消去してしまうのはあり得ない。そこで、大方の解釈、というか個人的な解釈として合理的だと考えていたのは、売上基準目的では、外国法人のECI部分の売上と米国法人の売上に関して、その範囲のみで考えて内部取引がある場合には、消去するのではないか、というものだった。またBase Erosion%基準に関しては、Base Erosion Paymentsの定義がAggregationルールに基づくグループ規定とは異なるので、単純合算ではないかと考えていた。

この点に関して規則案では上の考え方に準じる規定となっている。すなわち、Aggregationルールで一人の納税者と取り扱われるグループは、50%超の資本関係にある米国法人とECI部分(語弊はあるけど分かり易く言うと米国支店部分)のみで構成されるとしている。また、米国と租税条約を持つ国の外国法人が内国法の米国事業活動とかECIではなく、PEプロテクションを適用して、PE帰属所得のみ米国で申告課税の対象とするケースでは、ECIに代わりPE帰属部分のみがAggregationルールでのグループに入ると規定されている。

この規定を基にAggregationルールを整理すると、売上基準に関しては、50%超資本関係にある全世界グループ内の「米国法人」の売上のみを合算する。唯一の例外は、外国法人でECIまたはPE帰属所得があるとして支店として納税申告をしているようなところがあれば、そこに反映されている売上は合算する。グループに含まれる米国法人間の内部取引に基づく売上は消去する一方、全世界グループの他の外国法人はAggregationルールのグループに含まれないことから、米国法人とグループ外国法人の売上は消去されない。例外は米国法人と米国支店間の内部取引でこれは消去される。また、これらの消去だのなんだのと言うルールはあくまで、売上基準の適用時にかかわるもので、Base Erosion Paymentsが何かという判断とは一切関係ない。

次のBase Erosion%基準だけど、こちらは基本的に消去するものはなく、米国法人および支店申告をしている外国法人がECIまたはPE帰属所得のネット課税所得算定時に取り込む、控除額全額合算が分母となり、各社のBase Erosion Benefitsの合計が分子となる。

また、グループメンバーの構成はBEAT適用課税年度末時点で毎期確定する必要があり、一旦確定したら、そのメンバーが過去3年を通じてメンバーだったかどうかにかかわらず、該当メンバーの過去3年の売上を参照することとなる。グループメンバーは固定ではなく、当然流動的なので、このようなルールが必要となる。

グループメンバーの中に異なる課税年度を持つ米国法人が存在することもあるけど、売上基準およびBase Erosion%基準は、算定を行おうとしている納税者本人の課税年度を基に合算する必要がある。例えば、3月課税年度の米国法人が12月課税年度の米国法人をグループメンバーに持つ場合、3月課税年度の米国法人がBEAT適用対象となるかの判断をする際には、12月課税年度のメンバー法人の4月から3月までの売上、費用、またBase Erosion Benefitsを切り出して合算し、基準額を算定することとなる。逆に、その12月課税年度の米国法人は、自分がBEAT適用対象となるかどうかの判断時に、3月課税年度のメンバー法人の1月~12月の数字を合算する。結果として同じグループ内で、一方はBEAT適用対象で、他方はそうでない、というようなケースも理論的には想定可能となる。グループメンバーに自分と異なる課税年度を採択している際、他のグループメンバー法人のために、自分の決算期以外の期間にかかわる金額を確定してあげないといけないという手間が増える。この算定は、何らかの合理的な方法を使用のこと、と規定されているので、必ずしも仮決算をする必要ななさそう。異常項目がなければ単純な按分計算でもいいように読める。

また細かい話しだけど、合算対象期間がBEAT適用課税年度外となる場合も構わず合算は必要と念押しされている。それはそうだろう。これは、例えば、12月決算の米国法人は2018年1月からBEAT対象となっているんで、2018年12月課税年度に自分がBEAT適用対象かどうかの判断をAggregationルールに基づいて行う必要があるけど、3月課税年度の米国法人がグループメンバーに存在する場合、3月課税年度の法人は2019年3月31日の課税年度に初めてBEAT対象となる。12月課税年度の法人がグループ合算計算を行う際に、3月決算の法人のBEAT対象期間外となる2018年1月~3月の金額もきちんと加味しなさい、という規則。

また、グループ内に銀行、証券会社がメンバーとして存在する場合はグループ全体に2%基準が適用 されるっていうのが原則だけど、銀行および証券業のグループに占める売上比率が2%未満の場合には、通常のルールに基づいてBase Erosion%基準は3%となる。

これで皆さん、誰がBEAT適用対象納税者となるか理解できたと思うので、次はBase Erosion Payments等に関して。

Friday, December 14, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(6) – BEAT財務省規則案(1)

本当に思った通りだった。何と昨日2018年12月13日の遅くに、米国財務省は待望のBEAT財務省規則案をまたしても「いきなり」公表。最近の財務省はヤバ過ぎで、ここ2週間強の間に、Section 163(j)、FTC、そしてBEATと、合計すると1,000ページ近い規則案パッケージを矢継ぎ早に公表している。財務省やIRSはCompetency毎にそればっかりやっている知見を集積した専門チームが多数あるからいいけど、一人で読んで理解する側はもうなかなか付いていけない。

「FTCはテクニカルなので乞うご期待」のはずが、BEATは日本企業の関心が高いので乞うご期待、に急遽変身せざるを得ない状況だ。ただ、救いとしてはBEAT規則案はFTCに比べると断然分かり易い。敢えて言えば、PEに帰属する所得の計算を、条約アプローチでPEを独立事業体のように見て、単体の資産、リスク、機能に基づいて行う際のInternal Dealingの部分の理解が難しかったけど、後は読み易い。とは言え、意外な結果となっている部分もあり、結構興味深い読み物と言える。まだまだ細かい点はこれから何年もオサライし続けないといけないけどね。

細かい点は話しているとキリがないんだけど、「Breaking News」的なハイライトは次の通り。

法文では適用法が不明気味だったAggregationルール。これは、BEAT適用法人となるかどうかの$500M売上基準、そして3%基準およびNOLを使用している年度のNOL加算調整額の決定の二つの目的に使用されるBase Erosion%を算定する際に、グループ合算ベースで算定しましょうっていう部分。この目的でのグループは、基本的には50%超の資本関係で結ばれる全世界法人グループは一社扱いっていうSection 52のコンセプトを基にしているけど、規則案では、Aggregationルールに含まれるのは米国法人および外国法人の米国申告課税対象となるECI部分のみと規定している。すなわち、ECIを持たない外国法人はグループ合算に含まれないし、ECIがある外国法人もあくまでECI部分のみが合算される。さらに、ECIではなく、PE条項を基に外国法人が米国申告課税を行うケースでは、PE帰属部分のみがAggregationルールのグループに属するように計算する。

次にNOL。まずは大方の予想通り、単年はプラスの課税所得で、これを過年度からの繰越NOLで全額相殺する場合、BEATの修正課税所得は、マイナスではなくゼロの通常課税所得にBase Erosion BenefitsおよびNOLのBase Erosion%相当額を加算することが正式に確認された。これは以前、上院財政委員会の首席顧問弁護士と直接話した時に、議会側の意図はそうだと聞かされていたので驚きはないけど、実際に規則を目の当たりにしてみるとショックもひとしお。規則案ではBEAT計算は課税所得の再計算ではなく「Add-back」方式だと強調している。

これはBad News気味だけど、この規定はあくまでも単年ではプラスの課税所得があり、過年度からのNOL繰越で課税所得をゼロにしているケースの話し。該当課税年度単年ベースで欠損金となる場合は、当然、加算調整もマイナス額を起点として行うことができる。

一方、NOL使用年度の修正課税所得算定時に、使用しているNOLのいくらを加算調整するかっていう部分は思わぬGood News。すなわち、一般にはNOL使用年度のBase Erosion%を使うんだろうな~、って思われていたんだけど、ここは一転(というか今までは全く不明だったんだけど)、NOL発生課税年度のBase Erosion%を使用するとされた。更にその結果、BEAT規定そのもののが存在していない2017年12月31日以前に開始する課税年度から繰り越されるNOLに関しては 、NOL発生年度にBase Erosion Benefitsという概念自体が存在しない訳だから、Base Erosion%はゼロとなると明記されている。Good times bad times you know I had my share…って感じ。ロック好きな人は分かるね?ちなみに今後発生するNOLに関しては、毎期、Base Erosion%が何%だったかってトラッキングして、使用時にはどの年度のNOLだから、ここはBase Erosion%がどれだけで、とか結構実務的対応は面倒そう。更に明記されてないけど、この目的では3%未満のBase Erosion%でもNOLはその分Taintしてるって取り扱うと考えるのが自然だろう。

後、目新しい規定としては、(旧)163条(j)(アーニングス・ストリッピング規定)に基づいて、外国関連者への支払利息が非適格支払利息として過年度から繰り越されているケース。新Section 163(j)の先行ガイダンスとして4月(だっけ?)に公表されていたNotice 2018-28では、旧Section 163(j)の繰越利息が外国関連者への支払いに基づく場合、新Section 163(j)で損金算入される時点でBEATのBase Erosion Paymentsに当ると明言していた。これは、 Section 163(j)は新旧共にそうだけど、未使用額は繰り越されるって言っても法的な立て付けは、将来年度に新規に支払ったり発生したりしていると取り扱うという点を基にした解釈。Notice 2018-28ではこれを文字通り適用して、繰り越されている支払利息は将来課税年度に発生していると取り扱われるのだから、そのタイミングでBase Erosion Paymentsになるのは当然としていた。それはそれで文言的には合理的な解釈ではあった。でも、今回の規則案では、将来発生しているというのは、あくまでも繰り越しメカニズムであり、実際には以前の課税年度に発生しているのだから、旧Section 163(j)に基づく繰越額は、損金算入タイミングでBase Erosion Paymentsにはならないとしている。財務省もなかなかリーゾナブル。

もう一つ、なんか意外だったし、そんなことまで良く考えるよね、って感じだったのが、Base Erosion Paymentsを特定する際に、「Payments」は現金である必要はないって始めて、その流れで、適格出資、適格清算、組織再編等を通じて、外国関連者から資産取得するケースもBase Erosion Paymentsになるっていう点。これらの取引は非課税だったり、ステップアップがなくて譲渡人の税務簿価を引き継いだりするけど、そんなことはBase Erosion Paymentsかどうかの判断には関係はないそう。税務簿価を引き継ぐのだから、Base Erosion Benefitsの算定は引き継がれた税務簿価を基にした償却額となるとしている。

その一方、外国関連者からの原物分配で資産を取得する場合には、対価が存在しないのでBase Erosion Paymentsとはならないって規定している。適格清算で資産を受取るとBase Erosion Paymentsで、Currentの原物分配だとBase Erosion Paymentsではないという結果になるけど、適格清算は株式を放棄してキャンセルする部分が「対価」だから、同じUpstreamの資産移管でもBase Erosion Paymentsだったりそうでなかったりするということのようだ。

日本企業には余り馴染みがないかもしれないけど、米国MNCにはBig DealのService Cost Method(SCM)にかかわるBase Erosion Payments除外規定。米国移転価格税制の規則に規定されるSCM要件に準拠している役務提供対価はBase Erosion Paymentsから除外されるって法文に書いてあるけど、SCM要件を充たしているもののチョッとだけマークアップがあったりするケースはどうなっちゃうの、って2017年12月22日に法律が可決した、その瞬間から悲喜交々の議論がさく裂していたし、政府高官の発言にみな一喜一憂していた。で、結果は、単純にSCM要件を充たしているけどマークアップが存在するケースは、マークアップ部分のみがBase Erosion Paymentsになります、って言う分かり易いもの。

あと、銀行関係で皆が注目していた一つの規定を最後に一点。米国の銀行と並び、G-SIBsと言われる外銀大手は、米国に中間持株会社を設立し、そこで米国連邦準備制度理事会(FRB)が規定する総損失吸収力(TLAC)最低基準を充たさないといけなくて、そのために内部TLAC適格債というものの発行が義務付けられている。で、義務付けられているのにそれにかかわる支払いが法文上はBase Erosion Paymentsになり兼ねなくて、それはないでしょ、って感じだったんだけど、規則案ではめでたく除外とされた。ただし、除外の対象はFRBの要件額に限定。また、このTLAC要件は米国法人のみが対象となるそうで、外銀の米国支店には適用がない。なんで、TLACに対するBase Erosion Payments除外規定も支店には関係がないんだけど、今後、他国もFRB同様の要件を規則化する流れになることが予想されるらしく、それら国外法に基づく支払いの取り扱いに関しては、金融業界等からのコメントを反映して財務省がその取り扱いを引き続き検討するとしている。

まだまだ細かい規定は山積みだけど、ハイライトとしてはこんな感じでした。金曜日の夜も更けて、そういえば今週のTime Reportアップデートしなきゃ。明日は土曜日で、またPullman Loaf(旧称Pain de Mie)買いにミッドタウン早朝ドライブかな。

Saturday, December 8, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(5) – 外国税額控除(1)

まさかSection 163(j)の財務省規則案公表から2日後に今度はFTCの規則案が公表されるとは・・・。Section 163(j)のパススルーの部分とか連結納税グループ内の配賦とかの理解で時間を掛けている間に、ボリュームこそ312ページとSection 163(j)の439ページには至らないけど、その内容の複雑さ、というか従来の概念からの乖離度合いの観点から、Section 163(j)の数倍複雑怪奇と言っても過言ではない凄いものが出た。覚悟はしていたけど、余りに凄くてSection 163(j)読む時間がなくなったばかりか、FTCの方は読んでもなかなか従来の感覚から頭を切り替え難い部分が山積み。

前回始めたばかりのSection 163(j)のポスティングを続けるか、いきなり脱線してFTCに鞍替えするか、しばらく迷ってたけど、国際税務に係わる者としてFTCの誘惑には勝てない。という訳で、Section 163(j)はFTCをカバーした後にまた、戻ってくるのでそれまでお預けということにする。でもその間にBEATの規則案とか出ちゃうとそっちもカバーしないといけないし、年末年始はどうなることか。CAとか行くと外に行きたくなるから、今回はNYCで財務省規則三昧のお正月にするのがいいかもね。NYCはまあまあ寒くなってきて、東京だったら真冬の一番寒い日くらいの気温の毎日だけど、こんなのはNYCとしてはまだまだ。でもマンハッタンの冬は、特に天気のいい日は寒いとは言えピシッと気が引き締まって気持がいい。今日は週末だったんで、朝からMadison Square Parkの辺にパンを買いに行ったんだけど、朝で道も空いてて、ついついMidtown EastからFDRを南にグルっと回ってバッテリートンネル経由、Westside Highwayに出て、西からMidtownのFlatironに戻るような遠周りをしたくなってしまった。週末のマンハッタンは、短時間の違法駐車も含めて(?)車止め放題だし。パン買って、Gasoline Alleyでカプチーノ買って、財務省規則読んで(笑)、いい感じの土曜日の朝でした。

で、FTCにしても、他の規則案にしても、規則「案」(=Proposed)っていうのはあくまでその名の通り草案なので、法的効果もないし、内容自体、最終化される際に変更がある。FTCの規則案を読んでて思うけど、これだけ複雑なものを財務省やIRSが限られた時間内で際どい判断を下した結果の集大成としての規則案パッケージなので、最終化の暁には結構異なる姿に生まれ変わる可能性は大きい。

FTCの規則案が複雑となる背景には、今回の税制改正が基本的に米国クロスボーダー中心の改正であり、クロスボーダー課税のあり方を根本的に変えてしまったという点が挙げられる。しかも一から書き換えるのではなく、既存の法律の上に大量の新しい規則をダンプしたもんだから、より難しい法律となっている。1年前の今頃は、税制改正可決前夜で、米国も単にテリトリアル課税になって、間接税額控除が撤廃で終わりなのかな~って単純に考えていた。蓋を開けてみてビックリ。海外留保所得一括課税に始まり、グローバル連結納税とでも言える恐怖のGILTI合算課税、海外源泉配当に対する100%配当控除、米国法人税率の21%への引き下げ、Subpart F所得合算課税や少し前に触れたSection 956のは温存、と余りに新しい概念にその全体像の把握に皆数カ月を要する状況だった。これだけクロスボーダー課税のあり方が変わってしまっては、FTCも大幅な見直しを強いられる。

特にこれからはGILTI合算課税で毎期多くの国外所得を米国で強制合算させられ、その弊害を最小限とする唯一の手段は他でもないFTCということになる。BEATにでも引っかかってしまうと、FTCの効果は帳消しだから、CFCを多く持つ米国MNCは詳細なモデリングを通じた定量分析に明け暮れる毎日だろう。

財務省規則の内容は次回から少し時間を掛けて説明したいけど、取りあえず特筆するべき点をいくつか挙げておくと、GILTI合算でSection 78グロスアップされる法人税額は、法文をそのまま読むとGeneralバスケットに行くけど、規則案ではGILTIバスケットに属するとしてくれている点。「くれている」というと全員に有利な感じがしてしまうけど、この額がGILTIバスケットになるのがいいか、Generalバスケットになるのがいいかは個々の納税者のFTCポジション次第。

一方、米国株主がCFCから受け取る配当、利子、賃貸料、ロイヤルティーはLook-Through規定があるけど、結構期待されていたCFCのTested IncomeにLook-throughして、結果として米国株主が受け取るこれらの所得をGILTIバスケットに帰属させるという案は認められていない。

ということでFTCは相当テクニカルなので乞うご期待。

Wednesday, November 28, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(4) – Section 163(j)(1)

大方の予想より数週間遅れて、11月26日に漸く公表されたSection 163(j)の財務省規則案。500ページに上るっていう恐怖の噂があったけど、実際には439ページ。

Section 163(j)の基本的な考え方は比較的単純だ。すなわち、毎課税年度、損金算入が認められる事業目的の支払利息は、修正課税所得(Adjusted Taxable Income 「ATI」)の30%、事業目的の受取利息、そしてフロアファイナンス支払利息、を上限とする、というものだ。

従来、世界最高税率だった2017年以前は、借入は米国で最大限化するというのが、米国MNCのタックスプラニングの定石だったけど、税率の低減、少し前に触れたSection 956の影響で異なるアプローチが可能となったクレジットサポート(詳しくは「米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)Section 956温存と財務省規則案(2)」を参照)、そしてこのSection 163(j)の登場で、ファイナンスの在り方も随分と異なってくる。日本企業が想像する以上に、米国MNCに与えるSection 163(j)の影響は大きく、結果として、グローバルファイナンスの在り方を、上述の諸々の新しい環境、更にGILTIを含む他の新規定も複合的に加味して、自社の数字をモデリングして徹底的な定量分析を行っている。

で、冒頭で触れた通り、Section 163(j)の基本的なアプローチは一見実にシンプル。毎課税年度、損金算入が認められる事業目的の支払利息は、ATIの30%、事業目的の受取利息、そしてフロアファイナンス支払利息、を上限とする、というもので、このアプローチ自体、他国のものと比べて特段、有利不利を提供するようなものでない気がする。ATIはザックリとEBITDA(後年はEBIT)に類似するけど、ネット支払利息の損金算入をEBITDAの30%に限定するっていうのは国際的なスタンダードに近い。BEPSは基本全く相手にすることなく、アクションプランに対しても徹底して無視を決め込んでいるに近い米国だけど、Section 163(j)は期せずして(?)アクション4に近い。

では、なぜこの一見、かなりシンプルな条文に439ページに上る規則が必要となるのか?またなぜ439ページ使って規定しても、不明確な部分が残るのか?規則案でも相当なページを割いているパススルー、連結納税グループ、CFCの取り扱い、などが主犯格と言えるけど、今回から数回掛けて、財務省規則案の規定内容を見ながら考えていきたい。

まずは、Section 163(j)の対象となる利息の定義。議会の立法趣旨に基づくと、Section 163(j)は、税法上、利息と取り扱われる金額が対象となるが、これは例えば、OIDとか、税法上利息として取り扱われる金額が含まれることとなる。旧Section 163(j)では、税法上の利息に加えて、利息同様(=Equivalent)の金額、特にSecurity Transfer契約に基づく利息相当額にも適用があるとされていたが、今回のSection 163(j)の立法趣旨にはそのような拡大解釈をする余地はないように見えてて、この部分はプラニングの余地が残るって思われていた。ところが、規則案の蓋を開けてみてビックリ。Section 163(j)で損金算入制限対象となる支払利息は、税法上、利息として取り扱われる費用ばかりでなく、金銭の使用対価として支出される実質的に利息と「同等」の費用を広義に含むとされ、いくつかの例を見ると旧Section 163(j)に勝るとも劣らない広義なものとなっている。これって行政府側の越権行為?

次にSection 163(j)の屋台骨となる制限枠。制限枠は「事業目的受取利息」、「フロアファイナンス利息」そして「ATI」の3つで構成される。Section 163(j)の一つの複雑さは、対象納税者を法人に限定せず、個人事業主等にも拡大している点だ。新旧のSection 163(j)を比較すると、大きな差異がいくつかあるけど、その中の一つがこの対象納税者の範囲拡大。個人の支払う利息は、「事業目的」、「投資目的」、「私用目的」に大別されるけど、Section 163(j)は、このうち事業目的の部分のみに適用がある。複数の活動が混在する場合には、従来、主に投資目的の支払利息がいくらかを決定する目的で「トレーシング規定」という考え方が存在していた。ところが規則案ではトレーシング規定は踏襲せず、どちらかと言うと按分するようなイメージ?ここはもう少し読ませて下さい。事業目的の中で、適用免除事業がある場合には、各事業に供される資産の税務簿価で按分となっているけど、そのルールと混同しないようにしないとね。

法人に関しては、仮に借入の使途目的が事実関係的に投資に当る場合でも、全額、事業目的として取り扱うとしているけど、問題はパートナーシップ。Section 163(j)はパススルーであるパートナーシップに対して、支払利息の損金算入制限計算をパートナーシップレベルで行うよう規定している。一見、「別にそれでいいじゃん」って思うような内容に見えるかもしれないけど、事業主体レベルの課税のないパートナーシップに対して事業主体レベルで制限を加えるなどと言うハイブリッドなアプローチは、パススルー課税と事象主体課税のバランスが崩れ、パンドラの箱を開けてしまったような事態を招く。このパートナーシップの取り扱いはSection 163(j)の中でも最もテクニカルに複雑な部分となる。今回の財務省規則案でも相当なページを割いているけど、まるでパンドラの箱の底にエルピスが残っているかのように、何となくスッキリしない部分が多い。何回も読み直せばシックリ来るのかもね。それにしてもパートナーシップにかかわる規定の複雑さには驚愕。Section 163(j)の話しだけど、Sub K知らないと読んでも全く理解できないだろう。

Section 163(j)に基づく制限対象が「事業目的」の支払利息に限定されることから、制限枠を構成する受取利息もミラーイメージで、事業目的で受け取るものに限定される。上述の通り、法人は全ての活動が事業所得とみなされるので、適用免除事業を除けば単純に全利息をネットすればいい。個人は事業目的の支払利息と受取利息を決定の上、両者を比較するこになる。この点に関して、規則案で興味深かったのは、パートナーシップ側で投資目的と区分される支払利息および受取利息についても、C Corporationに配賦される金額は、原則として事業目的として取り扱う、としている部分。まあ、そうしないと、C Corporation自らでは達成できないことを、パートナーシップを組成して簡単にやれちゃうことになるから、当然、そのような規定が想定はされてた。でも、パートナーシップ側で制限を算定する訳だから、利息のどの部分がどのパートナーに帰属して、しかも各々のパートナーがC Corporationかどうかに基づいて取り扱いがことなるってパートナーシップ側の処理としてはかなり面倒。

次にフロアプランファイナンスに基づく支払利息。これは追加枠と言う形で規定されているけど、このような支払利息があれば、実質、Section 163(j)から免除されると考える方が分かり易い。フロアプランというのは米国小売業、特に自動車ディーラーが店舗に並べておく棚卸資産をファイナンスする方法だけど、Section 163(j)では自動車の販売またはリースに伴い、自動車を担保に受ける融資と規定している。自動車ディーラー業界のロビー活動の賜物だ。ちなみにここで言う自動車には「公道で人や物を運搬する目的で自己推進する車両」に加え、「ボート」および「農耕用作業車」が含まれる。規則案では、ここで言う自動車に、建設機械が含まれるかどうか議論されているけど、立法過程で議会にはそのような意図は見受けられない、として結果として含まれないとしている。建設業界のロビー活動の失敗なんだろうか。

で、一番肝心となる制限枠はATI。ここからは結構DeepかつPurpleなので、次回。

Saturday, November 17, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(3) – GILTI (6)

何とか今回でGILTIの最初の財務省規則案にかかわるポスティングを終わらせて、次の大型規則案に間に合わせることができそう。何と言っても、Section 163(j)の支払利息の損金算入制限にかかわる財務省規則案が今週にも公表されるのでは、と戦々恐々としていたんだけど、結局、東海岸は既に金曜日の夜。となると、規則案の公表は来週明けの感謝祭直前を急襲、というパターンなんだろうか。Section 163(j)って、ATIの30%を超える事業活動関連のネット支払利息は損金算入繰延っていう、一見、実に人畜無害な規定だけど、規則案は500ページにも及ぶと噂されている。しかも、パススルー主体のパートナーシップに、事業主体レベルで損金算入制限を適用するという前代未聞のEntityアプローチを採択していることから、この部分にかかわるガイダンスが複雑怪奇となることが想定されるけど、この部分はナンと後日、別のパッケージでカバーされると言われている。もし本当にパートナーシップに対する取り扱い抜きで、500ページに及んでるんだったら凄い。Section 163(j)は連結納税グループ単位で適用されることが前回のNoticeで明らかにされてるけど、その際、損金算入制限額、またその繰越額をどうやって個社への配賦するのか、連結納税グループに後から参加してくる法人が持ち込む繰越額に対してSRLY同様の制限が規定されるのか、損金制限に抵触する場合の連結納税グループ内株主側の子会社株式簿価をどうやって調整するか、連結納税グループ内に不動産事業、農業、公共ユーティリティとかSection 163(j)適用免除事業が存在する場合どのように取り扱いのか、とかが盛沢山に規定されてんのかもしれない。

まあ、未だ公表されてないSection 163(j)の規則案の内容を詮索して今から心配し始めるのも、Bar Examで開始と同時に全問目を通した結果、最後に方に「Evidence」の問題があるのを知って「ヤバい」ってドキドキして、最初の「Community Property」系の比較的簡単な問題までもミスしちゃう、みたいな間抜けな展開なんで、さっさとGILTIに戻りたいけど、Section 163(j)の関係では、実はGILTIの算定基となるCFC側のTested Income (Loss)を算定する際に、CFCにSection 163(j)の適用があるのかないのかっていう点は未だに不明。Section 163(j)の財務省規則案で触れられる可能性大なので、この点はGILTIにも影響大だ。

で、今回は、GILTI財務省規則案の特筆すべき規定の中で、過去のポスティングで未だ触れてない項目いくつかに関して。

米国株主側でGILTI合算額を算定する際、Tested Incomeを計上しているCFCの有形償却資産(QBAI)の簿価総額に10%を掛けるっていうステップがある点は以前の「米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(3) – GILTI (4)」触れてるけど、この「簿価」っていうのは、通常のMACRSより償却期間が長い定額法となる米国税法に規定される「Alternative Depreciation System (ADS)」っていう償却法で算定する必要がある。ADSは、E&P、その昔AMTのサブセットだったACE、主に国外で使用される資産、その他、非課税団体へのリース資産とか、特別な目的で登場してくるMACRSと比べて不利な償却法だ。また、NOLの使用タイミングその他の理由で、MACRSみたいな加速度償却を取りたくない場合には、納税者側の選択で通常の資産にもADSを適用することが認められる。

で、このADSを適用して、全CFCの簿価を算定することになるけど、そんな計算今までしたことないケースも多いだろう。その場合、財務省規則案は、個々の資産の取得時点に遡って正確な簿価算定をするよう規定している。大変な作業だ。しかも、この簿価は四半期毎の平均と規定されているので、四半期毎に各資産のADSベースの簿価を算定することが求められる。四半期毎の平均って言われて、Section 956を連想した人は米国クロスボーダー課税の青帯(?)だ。帯の色って世界中、または各道場や流派とかでどの程度似てるのか良く知らないけど、米国の空手道場、特に子供たちの部は、白と茶と黒だけではなく、茶に至るまでのステップが細分化されていて、子供たちが半年に一回、道場でテストを受けて昇格し易くできてる。モチベーションが高まるし、道場で昇格試験を受ける時は、毎月の「お月謝」に加え、「受験費用」が掛かるところが多いので、経営する側としても好ましいのかな、っていう側面もある。白、黄色、オレンジ、グリーン、青、とか道場によって順番が異なってたりパープルが入ってたりすることもあるみたいだけど、プログレスしていく。同じ色の中にもソリッド、すなわち一色の帯に加えて、黒の線が入ったストライプと呼ばれる格があり、同じ色であればストライプが入っている帯の方が格上となる。例えば「オレンジ・ストライプ」は、オレンジより上、グリーンより下、に位置する格付け、みたいな感じ。なんで、青帯は結構上位。

チョッと、QBAIの平均とSection 956の数字の取り方の整合性で脱線したけど、気を取り直して、QBAIの話しに戻ると、CFCが12月未満の短期課税年度となる場合、法文だけを読むと12カ月のフルの課税年度と同様に、QBAI全額に10%掛けるようにも読めるが、規則案では短期課税年度の場合には期間に準じて低減したQBAIを基にNet DTIRを算定するように、と釘を刺している。まあ、それはそうだよね。米国株主の変更に伴う課税年度適合要件などの理由で、CFCが3カ月の短期課税年度となる場合、米国株主は3カ月相当のTested Incomeだけを基に、Net Tested Income (Loss)を算定するんだから、そこから差し引くNet DTIR、すなわちみなしルーティン所得の算定を12か月ベースで行うのは算数的におかしい。

また、QBAIの算定をする際、CFCが持分を保有する米国外パートナーシップの有形償却資産は、まずパートナーシップ側でネット簿価を算定し、その額をCFCがパートナーシップの持分に準じて取り込むとされる。ただし、通常の規定通り、パートナーシップ所有の有形償却資産ネット簿価を取り込むことができるのは、あくまでプラスのTested Incomeを持つCFCのみとされる。ここはそんなこと明記しなくてもいいような気もしたんだけど、念のために明記したんだろうか。すなわち、仮にCFCが保有するパートナーシップから有形資産の残高を持分に準じて取り込んだとしても、CFC自体にTested Incomeがなければ、法文上、そこから米国株主にQBAIがフローアップしていくことはないはず。

で、いよいよGILTI規則案の話しも終盤に差し掛かり、「Getting very near the end」で「Sorry but it's time to go」となり、「Hope you have enjoyed the show」で「We'd like to thank you once again」って気持ちだけど(この辺の文言は何か分かるね?そう「Reprise」!)、最後に連結納税グループでの適用法。簡単に言うとGILTIは連結納税グループ単位で合算額を計算することになるけど、最終的には米国株主となる各法人にGILTI合算額を按分しているような考え方。このようなアプローチを、単純にGILTI合算額をグループ計算して、各法人に配賦って規定せずに、Tested Loss、有形償却資産ネット簿価(すなわちQBAI)、CFC支払利息および受取利息各項目はグループで一旦合算の上、各項目をTested Incomeを持つ法人にTested Incomeの比率で配賦して、その後、各法人がGILTIを算定というアプローチを規定している。実質的に連結納税グループでの合算ベースだけど、各法人のGILTI額が個別に決定されるため、連結納税規則に基づく子会社株式簿価の調整や、各法人が保有するCFCへのGILTIの再配賦などを同時に管理可能となる。よく考えてるよね。この部分はGILTIを規定しているSection 951A下の規則案ではなく、連結納税を規定している一連の規則に追加される形でSection 1.1502-51となる。

まだまだ、Anti-Abuse規定とか尽きないけど、週明けの500ページのSection 163(j)規則案に備えてこんなとこかな。GILTI関係では12月公表と言われるFTCパッケージで規定が期待される、Section 78のグロスアップや、従来からのLook-Through規定のバスケットの行き先がどうなるかって点は今から楽しみ。

Thursday, November 8, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(3) – GILTI (5)

ようやくGILTI関係のポスティングも終盤を迎えつつある感じで、チョッとひと安心ってところだけど、今後の財務省規則案公表の連打を考えると恐ろしい。パッと思いつくだけでも、新Section 163(j)、FTC、BEAT、FDII、GILTI控除、100%配当控除、ハイブリッド、などなど錚々たる面々が続く。どれも一筋縄ではいかぬ問題が山積みのいわくつき条文だけに、各々相当な長編となるはず。感謝祭からお正月までは規則案のReadingだけで毎日日が暮れそうだ。そうこうしている間に12月22日は税制改正可決のアニバーサリー。全てはあの日から始まった新税法に基づくWhole New Worldのクロスボーダー課税。未だたった一年しか経ってないとは思えないほど、随分と新しいクロスボーダー課税システムを考えさせられてきた。これかも長く考え続けることになるんだろうけど。

今日はGILTI規則案の中でも、個人的には意外な規定となっていた米国パートナーシップが米国株主としてCFCを保有する場合の取り扱い。チョッと複雑なので、皆さん準備(覚悟?)はいいでしょうか?

以前から何回もしつこいけど(本当に)、米国株主側の属性となるGILTIに関して、CFCレベルの属性だった従来のSubpart F所得合算課税の法的インフラを流用して、課税を実行しようとしているため、必然的に今まで直面したことない検討事項に出くわすことになる。今回の税制改正は、特にクロスボーダーの課税ルールを大きく変更しているけど、税法を一から書き換えているのではなく、既存の法律に上乗せする形で大量の条文を追加している。そのため、新しい税法を理解するには従来からの税法を良く知らないと始まらないし、今までの考え方がそのまま使える部分、新しい考え方が必要となる部分、と頭を良く整理しながらアプローチしないと訳が分からなくなりがちだ。

そんな混乱の一つに米国パートナーシップとGILTIの取り扱いが挙げられる。規則案のアプローチを語る前に、GILTI課税をする際に利用される従来のSubpart F所得合算方法に関して簡単に触れてみたい。元々、Subpart F所得はCFC側の属性で、CFCがCFCであり続ける限り、その課税年度終了時に「米国株主」となっている者が、各CFCのSubpart F所得の自己持分相当、すなわちPro-Rata持分、を課税所得に合算することになる。ここで言う米国株主とは、外国法人の少なくとも10%の議決権または価値を保有する「米国人」を意味する。米国人とは、米国市民および居住者、内国法人だけでなく、米国パートナーシップ、米国遺産、米国信託を含むとされる。パートナーシップはパススルーだけど、米国パートナーシップはCFC課税目的では一人の米国株主と取り扱われる。米国パートナーシップが米国株主となる場合、パートナーシップ側で合算されるSubpart F所得は他の所得同様に各パートナーに配賦される。CFCで計算してそれが最終額となる従来のSubpart F所得に関しては、これだけの規定で十分に機能していた。ところが、GILTIはCFCからフローアップしてくる項目だけでは完結せず、その後、株主側で合算したり、そこから合算ベースのNDTIRを差し引いたりと加工が必要となる。どのレベルで米国株主側の算定を行うのか、っていうのが重要となる訳だ。これは従来のSubpart F所得にはなかった新しい概念。

10%保有しているかどうかの判断は、直接、間接保有に加えて広範なみなし持分規定を適用して判断する。このみなし持分判断時に、従来は外国からのDownward Attributionを加味しなくても良かったものが、税制改正で免除規定が撤廃され、Downward Attributionを加味しなくてはいけなくなったのは以前から何回か触れている通り。Downward Attributionに関してはそのうち、それだけに特化したポスティングを企画したい。

で、規則案では、米国パートナーシップが10%以上保有するCFCに関して、パートナーの間接持分が10%未満の場合には、GILTIはパートナーシップレベルで算定し、その額をパートナーに配賦するとしている。このアプローチは既存のSubpart F所得合算のパートナーシップレベルで最終決定するアプローチに準じている。一方、パートナーの間接持分が10%以上、すなわちパートナー自身も米国株主扱いに至る間接持分を保有する場合には、パートナーは間接持分に準じてLook-throughする形でCFCからGILTI算定に必要な各項目の金額を取り込み、パートナーが保有する他のCFCの金額と合算してGILTI算定を行うとしている。

え~、間接持分が10%未満、10%以上のパートナーが混在しているケースはK-1作るの面倒くさそう。まずパートナーシップが自らのレベルでCFCからGILTI計算に必要な項目、すなわちTested Income(Loss)、QBAI、支払利息、受取利息、のPro-Rata持分を吸い上げ、そのうち間接持分10%以上のパートナーにはそれらの額各々を各パートナーの704(b)配賦比率で個々に配賦する。で、次にパートナーシップレベルに残っている各項目、すなわち間接持分10%未満のパートナー達に帰属する部分は、パートナーシップレベルでGILTI計算までして、GILTI合算額そのものを各パートナーに配賦する、っていうような作業になるように見える。

なかなかクリエイティブなハイブリッド処理法と言える。規則案の前文ではポリシー的な議論を展開して、このような変わったアプローチをサポートしようとしている。もし従来の米国株主の定義を無視して、米国パートナーシップを常にLook-Throughとしてしまうと、パートナーシップが10%以上保有している、すなわち米国株主となるケースでも、間接持分が10%未満となるパートナーがパートナーレベルで米国株主にならないように見え、GILTI合算をしなくてもいいような結果となるので適切ではない、としてピュアなAggregateアプローチを否定している。このアプローチは、パススルーっぽい考え方ではあるけど、Subpart F所得の合算を規定している法律ではサポートできない。

一方、ピュアなEntityアプローチ、すなわち、常にパートナーシップレベルでGILTI合算を計算し、結果を各パートナーに配賦する方法は、間接持分が10%以上のパートナーは、パートナーレベルで米国株主に準じる立場にあり、そのようなパートナーが、当該パートナーシップを介さずに他のCFCの米国株主となっている場合には、実質、一人の米国株主が2つのGILTI計算に基づく合算を行うこととなり、GILTIが米国株主レベルの属性である点に矛盾するとして、こちらも不適切だと結論付けている。でも、元々、法律では、外国法人や外国パートナーシップはLook-Throughするよう規定されてるけど、米国パートナーシップに対してLook-Throughを規定している条文はない。

となると、規則案のハイブリッドアプローチのうち、間接持分が10%のパートナーにGILTI各項目を配賦する部分は条文ではサポートできないことになる。しかも、規則案前文では散々、間接持分が10%のパートナーを「米国株主」って表現しているけど、定義的にそうなるにしても、ピックアップする所得はないはず。この点、なぜか法曹界も問題視している様子もないし、チョッと不思議。このまま最終規則化されてしまうんだろうか。

Wednesday, November 7, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(3) – GILTI (4)

火曜日の米国中間選挙から一夜明けて、開票結果に基づく今後の勢力図が明らかになった。大方の予想通り、下院は民主党にフリップする一方、上院は共和党が差を広げたようだ。中間選挙は歴史的に大統領が属する政党は不利な立場にあるけど、上院が民主党の支配に降らなかった点はトランプ政権的には及第点と言えるだろう。上院が共和党寄りで安定したということは控訴審とかに保守派の判事を引き続き任命することができる立場を確立し続けたことになる。判事は基本終身制なので長期的なインパクトは大きい。一方、立法プロセスを考えると、下院と上院が異なる政党なので大きな法案可決は不可能に近い状態になってしまったと言える。下院が左寄りの法案を通し、上院がそれを反故にするというのが、恒常的パターンとなりそう。当然、ここ2年に亘る共和党によるオバマケア廃案努力はこれでおしまい。税制改正のテクニカルコレクションとか、既存の議員のまま構成されるLame-Duck期間にどこまで何ができるのかが注目の的。また、下院の歳入委員会の力関係が大きく変わるが、税制改正は一応終わっているので、Kevin BradyもPaul Ryanも一応任務は遂行したと言えるだろう。

され、2回ほどSection 956財務省規則案の突然の公表で、GILTIから離れてしまったけど、今回はGILTI復活。GILTIの概要は3回に亘るポスティングで紹介しているので、今回は財務省規則案に規定されるルールの中から、条文からは分からない詳細、条文から逸脱的な部分、また、クリエイティブな処理法を提言している部分にフォーカスしてみたい。ちなみに、どの規則案もそうだけど、規則案は所詮「案」なので、その公表を受けて納税者側が出す様々なコメントに基づき、最終規則となる際には、異なる姿となる部分が結構あり得る点は理解しておいて欲しい。

で、GILTIだけど、米国株主側のGILTIの算定は、各CFCのTested Income(Loss)を把握するところから始まる。でも、CFCってもちろん外国法人。ってことは多くのケース、というかほぼ常にCFC側の機能通貨は米ドルではないことになる。各CFCのTested Income(Loss)は各社の機能通貨で算定することになるから、それを米ドルに換算する必要がある。この点に関して、規則案はCFC課税年度の平均為替レートで米ドルに換算するよう規定している。平均為替レートの適用は、Tested Income(Loss)の米ドル換算に加え、有形償却資産ネット簿価を米国株主が吸い上げる際も同じ。すなわち、各CFCの有形償却資産の四半期毎のネット簿価を基に年間平均簿価を算定するまでは現地機能通貨を使い、米国株主側で米国の属性としてQBAIを算定する際にCFC課税年度の平均為替レートを用いる。さらに、米国株主側で算定した最終GILTI合算額はドルベースになるけど、これを各CFCに配賦する必要がある。主に、CFCの課税済所得やCFC株式の簿価算定の目的だけど、その際もCFC課税年度の平均為替レートで換算し、逆に米ドルから現地機能通貨に換算する。

また、CFCレベルのTested Income(Loss)の算定そのものだけど、各CFCを米国法人であるかのように取り扱い、既存のSubpart F所得算定法に準じて行うとしている。Subpart F所得ってCFCの特定の項目だけを抜き出して算定するし、最終的には当期E&Pが上限になるので、CFCレベルで米国の税法に準じた総合的な課税所得の算定なんて、従来誰も経験したことがないだろうから、これは大変なコンプライアンス負荷。Tested Income(Loss)って基本的に全ての総収入からそれに適切に配賦される費用を差し引いた金額だけど、このTested Income(Loss)算定時の総収入から免除される項目のひとつに従来からの「Subpart F所得」がある。その免除額を決定する際、Subpart F所得が課税年度の当期E&Pの上限に抵触して合算額が減額されている場合、Subpart F所得全額をTested Incomeから免除するとしている。その逆に、翌年以降、過去にE&P上限枠規定の影響により合算されていないSubpart F所得をRecaptureして合算する際には、当該合算額はTested Incomeからの免除額とはならない。それはそうだよね。既に過年度にTested Income(Loss)から除外してしまってるんだから。

Tested Incomeから免除されている「高税率課税を理由にSubpart F所得とならない金額」は、本来Subpart F所得となる項目に関して、納税者が高税率の例外選択を実際に行っている金額のみを対象とするって規則案はダメ押ししてるけど、この点は法文そのものからもクリア。多分、勘違いして、高税率国にあるCFCはGILTI対象じゃない、とか勘違いする輩に釘を刺す目的だろう。

以前のポスティングで、米国株主が所得として認識するGILTIは、CFCのTested Income(基本的には所得全額と考えるべき)合算額から「ルーティン所得」、すなわち「「ネットみなし有形資産リターン(Net Deemed Tangible Income Return = NDTIR」を差し引いた金額という点に触てるけど、この「NDTIR」は米国株主側の属性で2つの数字で構成される。

まず、各CFCレベルのQBAIと略される有形償却資産のネット簿価を算定し、米国株主が保有するCFCのうち、プラスのTested Incomeを計上しているCFCのQBAIのPro-Rata Shareを通算し、それに10%を掛ける。これが米国株主が保有するQBAIからのみなしルーティンリターンとなる。有形償却資産ネット簿価は、「Alternative Depreciation System(ADS)」と呼ばれる、通常より長期の耐用年数に基づく定額法定償却法で決定される必要があるが、CFCがGILTI規定の適用以前から保有している有形償却資産に関しても、取得日に遡ってADSを適用し、今後の簿価算定を行う必要があるそうだ。大変な作業となる。

で、QBAI x 10%の金額が出たら、そこからCFC側の支払利息のうち、Tested Income(Loss)の算定時に取り込まれている金額を差し引いてNDTIRがようやく確定するが、その際に同じ米国株主が保有する他のCFCがTested Income算定時に受取利息として認識している部分があれば、その支払利息はNDTIR算定時の減額額に加味しないと法文では規定されている。

この支払利息の部分に関して、規則案が公表されるまでは、米国株主がNDTIRを計算をする際、各CFCの支払利息が自分が保有する他のCFCで受取利息となっているかどうか、を各CFCに対するPro-Rata持分ベースも加味してトレーシングする必要があると考えられていた。この点に関して規則案は緩和策を規定し、「Netting」アプローチを採択している。このアプローチでは、CFCが支払う個々の利息の受け手をトレースする必要はなく、米国株主側で全CFCの支払利息および受取利息(Tested Income(またはLoss)の算定に加味されている範囲で)を一旦Pro-Rata持分に準じて取り込み、米国株主側でネットしてマイナスとなれば、同額をQBAI x 10% から差し引いてNDTIRを計算する。

何が支払利息なのか、っていう単純な問題は他の局面、特に新Section 163(j)でも大きな検討となるが、NDTIR算定時に加味される利息は、米国税法上、利息と取り扱われる項目全てを含むとされている。

今回の財務省規則案はいい意味でも悪い意味でもメカニカルな計算法に特化しているけど、それだけでも相当難しい規定が続いていく。チョッと長くなりそうなので、次回はパートナーシップが米国株主の場合とかの難しい計算法に関して。

Saturday, November 3, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)Section 956温存と財務省規則案(2)

前回、完全に不意打ちを喰らったSection 956の財務省規則案に関して、主にその背景を中心に書き始めた。Section 956の温存とHopscotch対抗規定の消滅の組み合わせがもたらす果てしないプラニング可能性の探求に意気込んでいた矢先だっただけに、規則案には冷や水を浴びた格好だ。Hopscotch対抗規定の消滅は、議会が熟考の上、判断したというよりも、Section960を大幅に構造改革している時点では、Section 956自体撤廃という前提で進んでいて、最後の最後にSection 956を復活させてみたものの、Hopscotch対抗規定を無くしていたことなどすっかり忘れて法律を最終化してしまった、としか思えない。急いては事を仕損じる、だったのだろうか。

で、今回の規則案では、Section 956に抵触する取引があり、本来、米国株主が合算課税の対象となりそうな際、Section 956取引を実質的に配当同様と位置付け、もし仮に実際に配当されていたら100%配当控除の対象となったであろう金額に関しては、Section 956合算課税対象とはしないと規定している。

Section 956合算課税を説明する際に、どうしても「みなし配当」と言ってしまうのが一番分かり易いので、そう表現することが多いけど、税法上、Section 956合算は「配当」として取り扱われないので、この表現はかなり誤解を招くというか、「配当ではないぞ」って言い聞かせながら「みなし配当」と言う表現を用いる必要がある。Imagineじゃないけど、I wonder if you can的に難しいよね。配当扱いであれば、最初から実際の配当と同じように、要件を充足していれば100%配当控除が認められるだろう。しかし、実際にはそうでないところが、まさしく今回の規則案が必要になる一番の理由となる。

ここで、Section 956規定そのものに関してもう少し触れてみる。例によって詳細は恐ろしく複雑なのでほんのサワリ、すなわち要点だけ。

CFCの米国株主はSection 956合算額を課税所得として認識することになるけど、この合算額はCFCが保有する「米国資産」の四半期残高の年平均額が、過去に既にSection 956で合算されているCFCの留保所得を超過する金額、となる。ただし、このSection 956 合算額は、Section 956適用所得額を上限とする。Section 956適用所得額とは、基本的に米国の配当原資額と同様で、前年度末の累積E&Pと当年単年E&Pの合計額となる。ただし、前年度末の累積E&Pがマイナスで、かつ当年単年E&Pがプラスのケースは当年E&Pのみを参照する。これらのE&Pから当期内の実際の分配および過去にSection 956で課税済みとなっているE&Pを差し引いた金額がSection 956適用所得額だ。なお、CFCを100%保有していない場合には、各米国株主のPro-Rata持分を合算することになる。このPro-Rata持分という概念は、Section 956ばかりでなく、Subpart F、そして今後はGILTI計算の鍵となるもの。100%保有している場合も、CFCを期中に譲渡するようなケースでは売り手および買い手の合算額を検討する上で、最重要コンセプトとなる。これが、Section 956の一番ベーシックな部分だけど、いきなり難しいね。

Section 956の趣旨、すなわち、CFCから配当を受け取ると米国株主が課税されるので、それを回避するため、配当以外の名目、特にCFCが米国株主に貸付をするパターンで、資金を米国に還流させて、米国で課税されずにCFC側の資金にアクセスしよう、っていうプラニングに網を掛けるため、っていう背景を忘れずに考えてみると理解が容易に進むだろう。すなわち、いろんな言い訳でCFCが米国にお金を持ってくると(=米国資産に投資すると)、同額を配当していたら配当課税される範囲で(なので実際に配当されていないE&Pが上限)課税するけど、既に過去に課税されている留保所得を毎期毎期課税しないよう、過年度にSection 956で課税されている留保所得は、合算対象額および課税上限額となるSection 956適用所得額の双方から差し引いて当期の合算額を計算するという仕組みだ。過年度より残高が高くなれば課税されるけど、低くなっても控除は認められない。

米国資産の四半期毎の残高計算をする際には、米国税務簿価を用いる。また外国法人が途中からCFCになったり、CFCでなくなったりするケースの特別処理法も規定されている。ちなみに、米国株主やCFC認定時にDownward Attributionの不適用が撤廃されているので、内部再編とかを実行した後も、CFCがCFCであり続けるケースは以前より爆発的に増えるだろう。

で、Section 956目的の「米国資産」って言うと、まずはCFCによる米国株主および関連者への貸付が直ぐに思い浮かぶけど、それだけが対象ではない。米国内の有形資産、米国法人株式、無形資産の米国内使用権、などが基本的に対象だが、この原則対象資産に多くの例外が規定されている。法文に明記されている例外だけでもAからLまで12項目あり、銀行預金、米国から輸出される資産、とか細々と規定されるが、最重要な例外項目は、直接間接に25%以上の資本関係を持たない米国非関連者に対する貸付、資本投資、だろう。

米国への貸付は広義に解釈され、CFCによる保証や、米国株主がCFC株式を担保に差し入れるような取引もカバーされる。これが理由で、米国多国籍企業が米国で融資を受ける際の契約書は、Section 956合算を誘発するリスクを回避するようなTermが必ず入っている。LSTAによるサンプル契約書もこの点はしっかり網羅されているが、今回の規則案で若干、借入時のSection 956懸念は緩和されるだろうか。資金調達の契約条項の若干の自由化が期待できるかも。

で、このような規定のSection 956なんだけど、このまま放っておくと、Section 956は配当原資となるE&PがCFCに存在する範囲で、合算課税となり、それに伴い、外国税額控除が認められることになる。一方で、配当原資(もし、あればだけど)があり、それをCFCが実際に配当すると、100%配当控除が受けられる代わりに外国税額控除が認められない。

ここからが今回の規則案による取り扱いのオーバーライドで、財務省は執拗に「Section 956の立法趣旨は、実際の配当とSection 956取引間の取り扱いに整合性を持たせるため」と、規則案の取り扱いを正当化し、Section 956に抵触する取引があり、本来、米国株主が合算課税の対象となりそうな際、Section 956取引を実質的に配当同様と位置付け、もし仮に実際に配当されていたら100%配当控除の対象となったであろう金額に関しては、Section 956合算課税対象とはしないと規定している。そんなんだったら、Section 956なんてさっさと撤廃したらよかったのに、と思えるような大胆なオーバーライドぶりだけど、ただ、Section 956取引を常に非課税としている訳ではなく、仮に同額を配当して100%所得控除対象となる部分のみ、Section 956合算額ではないように処理しているところは注意に値する。

例えば、E&Pの中にECIや下層米国法人(サンドイッチ形態)から受け取った配当を原資とするE&Pが含まれている場合、100%配当控除は外国源泉E&Pにかかわる部分のみだけだから、米国内源泉E&Pに対応するSection 956取引金額は従来通りSection 956合算となる。CFCから国内源泉配当を実際に受け取る場合には、内国法人から受け取る際に認められる従来からの配当控除が認められるんだけど、米国内源泉E&PをSection 956で合算させられる場合には、この控除は認められないようだ。この部分は「実際に配当ではないから」ってことなんだろうか。規則を正当化するために散々「配当とSection 956取引間の取り扱いに整合性を持たせる」と伝家の宝刀を抜きまくっている割に、いざ都合が悪くなると、異なる取り扱いとしている点、二枚舌?って観は否めない。

また、CFC側にSubpart Fで過去に課税済みの留保所得が存在する場合には、Section 956取引額が実際に分配されたとしても、「配当」にならないので、100%配当控除対象外だから、この額も減額はされずにSection 956合算額となる。もちろん、その場合には、課税済所得に対する規定がそのまま適用されるので、CFC株式の簿価を割り込まない限り課税はない。税制改正時に1987年以降の留保所得は一括課税されているし、今後はGILTIで毎年課税済留保所得は増える一方だから、実際の配当にしても、Section 956合算にしても、課税済留保所得を超える金額に至ることは実務上かなり限定的。このことから、100%配当控除そのものも、Section 956合算に対する同様の減額も余り意味がないとも言える。

さらに、100%配当控除の保有期間要件を充たせないCFCからのSection 956取引も、実際に配当があったとしても、配当控除適格とならないから、Section 956合算はそのまま。ただ、100%配当控除適格かどうかの保有期間は配当権利確定365日前から731日間に、365日超というものだから、配当後に1年間持っていれば充足できるわけで、なかなかこれに不足するケースはないように思われる。

間接的に保有する、下層CFCにSection 956取引がある場合、米国株主はあたかも下層CFCから直接みなし配当を受けたかのように考えて、100%配当控除適用有無を判断する。また100%配当控除はハイブリッド配当には認められないため、Section 956取引額が仮に実際に配当された場合に、CFCの所在国で損金算入できるようなケースではSection 956合算に減額はない。

最後に、Section 956が温存されている理由として一点考え得るのは、CFCの個人株主。個人株主は今回の税制改正後のクロスボーダー課税では散々な目にあっていると言える。留保所得の一括課税の対象となる割には、100%配当控除はないし、GILTI合算の対象となる割にGILTI控除もGILTI外国税額控除もない。なので、配当でなく、借入等でCFC保有の資金にアクセスしたいという動機は存在し続ける。となると以前同様にSection 956で監視し続けないといけない、ということになり、その点を加味しての温存だったんだろうか。

Friday, November 2, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)Section 956温存と財務省規則案

次の大型規則案パッケージが公表される前にGILTI関連のポスティングを終わらせなくては、と夢に出てきそうな位チョッと焦りかけた今日この頃。そんな矢先の昨日(2018年10月31日)、寝耳に水っぽく、米国財務省はSection 956にかかわる規則案を突然公表した。GILTIに続く国際課税の規則案公表は、Section 163(j)の支払利息損金算入制限(これは国際課税関係ではないけど、GILTIやクロスボーダーM&Aとかに影響大)、そして1962年以降の外国税額控除の概念を一から書き換える「新」Section 960関係、というシナリオのはずだったのに急にSection 956 という変化球が飛んできてビックリ。

Section 956の規則案だけ列に途中から割り込むようにさっさの公表された背景には、どうも、他の規定に対する「大型」規則案と異なり、956条規則案はその経済的なインパクトが低いと位置付け、大統領府のOMB内にあるOffice of Information and Regulatory Affairs 「OIRA」のレビューを端折って発表できたっていう事情があるらしい。ちなみに、このOIRA、「オイラ」って言うと日本語的にチョッとカッコ悪いし何か自分のこと言ってるみたいで変。その理由とは全然関係ないけど、こっちでは「オアイラ」って呼ぶことが多いように思う。なので皆さんも米国各省庁が策定する規則の大統領府によるレビューの話しをする時は「今、オイラがレビューしてます」とか言うと、聴き手は「この人がレビューしてるって、チョッとおかしいんじゃない?しかも「おいら」だなんて」とか勘違いしてしまう可能性大。なので、、「オアイラ」と言って、笑われたりするリスクを軽減しないとね(?)。

と、またどうでもいい話しに逸れ過ぎないうちに本題に戻るけど、税制改正でトリガーされる大量のガイダンス策定で超忙しいと思われる財務省が、敢えてこのタイミングで慌ててSection 956にかかわるガイダンスを公表している点はとても興味深い。というのも、Section 956そのものは、今回の税制改正で付け加えられたとか、変更が加えられた規定かと言うと、そうではなく、税制改正では全くタッチされていない条文だからだ。逆に、Section 956が撤廃されずに、そのまま温存されている点そのものが米国国際税務に関与している者にとっては税制改正時の一番の驚きだった。

実際、上院と下院のすり合わせ最終バージョンができるまでは、Section 956は撤廃される運びだった。なぜ撤廃されるのが自然で、温存されてビックリだったかというと、Section 956 って言う規定は、CFCから配当すると米国株主が課税されるので、それを回避するため、配当以外の名目、特にCFCが米国株主に貸付をするパターンで、資金を米国に還流させて、米国で課税されずにCFC側の資金にアクセスしよう、っていうプラニングに網を掛ける趣旨だったからだ。すなわち、Section 956は、CFCによる米国株主またはその米国関連者への貸付、またはその他Section 956に規定される特定の取引形態に基づく米国への資金還流を、実質、分配同様に取り扱い、CFCのE&Pの範囲で米国株主側でみなし配当として合算課税するという規定だ。

税制改正により、CFCからの配当が100%の所得控除の対象なった今日、Section 956 は取り締まる相手がいなくなってしまったお巡りさんみたいな存在で、存在意義がなく、当然、撤廃が順当と思われていたものだ。ところが、2017年12月、税制改正の法案を両院すり合わせしている最後の最後に、ナンと息を吹き返して、皆、不意を突かれた、というものだ。実際にはこの100%配当控除制度は、その対象となる留保所得がほぼ存在しないと言ってもいい程だから、結果として米国国際課税は低税率グローバル課税に移行してしまった点は、以前から散々触れているので、ここでは繰り返さないけど、超根本的なところなので必ず忘れないで欲しい。

税制改正下のSection 956の温存と並行して、さらにビックリさせられたのが「Hopscotch対抗規則」の廃案。Hopscotchって知っている人も多いと思うけど、iPhoneで無数のAppやゲームをダウンロードして遊び始める以前の時代に米国の子供たちが、道にチョークで箱と番号を書いて、石とかを投げてそこにジャンプしながら辿り着く外遊びのこと。日本語に訳すとすると「石けり遊び」とか「けんけん」とかだろうか。チョッと話しが逸れるけど、Los Angelesのバンド、Missing Personsのデビュー12インチシングルの「B面」2曲目に「Mental Hopscotch」っていう格好良すぎの曲があるので知らない人はぜひ聴いてみて欲しい。Terry Bozziのツインバスのドラムと歪んだElectronic Guitarの組み合わせが絶妙。Missing Personsとして有名な曲じゃないかもしれないけど、その昔、L.A.の郊外でMissing Personsのライブ見た時、この曲がOpeningだったんで、本人たちも気に入ってる曲に違いない。ツインバスというと当時はCozy Powellを連想する人が多かったと思うけど、Terry Bozzioは更に無数のシンセタムを多用して芸術的。Missing Personsを脱退した後は更に多くのタム、シンバルを備えて、「要塞」ドラムセットがトレードマーク化している。今でもL.A.とかでドラムクリニックとかやってるドラムオタクだ。2008年の日本公演時に知り合った日本人女性と再婚して現在に至っているはず。その相方の氏名が僕の友人と同姓同名なので、当時は「まさか・・・」と思ったんだけど、やっぱり別人のようでした。

で、Hopscotchはこの遊びの意味から転じて、不規則にジャンプする様の例えに使われる用語になってるんだけど、「それが国際課税にどう関係あんの?」っていうと、実にテクニカルな関係にある。

通常の配当は、当たり前だけど、米国株主が持分を保有するCFCからしか受け取ることができない。下層に位置するCFCから配当を受け取るには、米国株主が直接持分を保有する上層のCFC経由とせざるを得ない。となると、配当は課税されてたけど外国税額控除が計上できた従来、不利な形でしか米国から資金を還流することができないこともある。従来の国際税務システム下では、米国で追加の法人税支払いが発生するような形で資金を米国に還流するのは米国企業的にはタブーに近かった。例えばせっかく下層のCFCがHigh Tax Pool(すなわち米国の法人税をフルに外国税額控除で消去できる状態)でも、上層CFCがLow Tax Poolだったりすると、米国株主はHigh Tax Poolに基づく外国税額控除の最大限化が達成できないことになる。

そこで登場するのがHopscotchを利用したSection 956合算。子供たちが脈絡なくジャンプするように、 どんなに下層に位置するCFCからでも、米国に貸付とかすることで、思うがままに自由にジャンプして目的地に向かって配当を引いてくるようなフィクションを演出してくれるSection 956合算課税 は賢い納税者にとって、またとない弾力的な外国税額控除プラニング手法となっていく。例えば、さっきの例で、下層CFCが米国株主に貸付をすると、下層CFCのE&Pの範囲で、あたかも配当があったかのように米国株主が課税され、その際に、下層CFCのみのTax Poolを基に外国税額控除を計算でき、実際に上層CFC経由で配当を受け取るより有利な計算となる。議会がCFCからの配当課税迂回に網を掛けるために制定した条文を、合法的に自ら有利なプラニング手法として逆手に取るのが得意な米国多国籍企業のお家芸だ。まさに面目躍如状態。

またも「してやられた」形の議会は対抗規定を制定する。これが2010年のHopscotch対抗条文として新設されたSection 960(c)だ。この対抗策は、Section 956で直接下層CFCの所得を合算させられるにもかかわらず、外国税額控除の計算目的では、実際の配当同様に米国株主が保有する持分チェーンを通じてE&Pがフローアップしてきたかのように考えるというものだ。

対抗策は旧Section 960の一部を構成していたけど、この旧Section 960全体の従来の機能はSubpart FやSection 956で米国株主が実際に配当を受け取ることなく課税される場合には、実際に配当を受け取ったかの如く、外国税額控除を認めましょう、というもので、それにかかわる諸々の複雑な規定が盛り込まれていた。税制改正で、実際の配当にかかわる外国税額控除が撤廃されてしまったので、Section 960はその存在感を増し、Section960の構成に大幅にメスが入る。旧Section 960(b)が(c)になったりして以前のSection 960を少しでも知っている者にとっては超分かり難い状態に生まれ変わってしまった。そのプロセスでHopscotch対抗規定だったSection 旧Section 960(c)はなくなってしまい、結果として、Section 956 は温存される一方、Hopscotchは復活OKというチョッと信じられない状況となっていた。

昔から、このSection 956って、知らないうちに間違えて抵触しちゃうか、逆に良く知っている納税者(の起用する法律事務所やBig 4の国際税務部門)がアクティブにプラニングに利用しているか、のどちらかの局面で登場することが多かった。Section 304と並んで、取引形態と税務上の取り扱いが大きく乖離しているので、直感的に分かり難い規定の代表だろう。税法改正により、Hopscotchが復活の上、Section 956 は温存と言う思いもよらない結果となり、CFCの実際の配当を基とする外国税額控除のGeneral Basket枠が無くなってしまった今日、Section 956こそがGeneral Basket対策の有効な対策の決め手となり得るのでは、と模索を開始していた。

そんな淡い期待は急に登場したSection 956の規則案で振り出しに戻ることとなった。次回は簡単に規則案の内容そのものについて。

Tuesday, September 25, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(3) – GILTI (3)

前回、GILTI合算課税の概念的な部分に触れたけど、じゃあ、それを実際にどんなストラクチャーで実現しようとしているのか、っていうのが今日からの話し。

しつこくて、皆さん(特にEY NYCのタックスチームのみんな(苦笑))耳にタコができちゃんじゃないかと心配だけど、GILTIは米国株主の属性だ。だけど、その算定をする過程でCFC側の複数の数字を利用する。何がCFCレベルで、何が米国株主レベルの算定なのか、っていう点をよ~く考えてアプローチしないと何の話しをしてるんだか分からなくなるし、また、従来のクロスボーダー課税システム下で規定されている項目との整合性とか不整合性が分からなくなる。ここは新しいコンセプトなんで面食らう感じはあるけど、絶対に押さえておかないといけないポイントだ。財務省も同じように感じているようで、GILTI規則案は、算定式を構成する各項目に関して、いちいち「これはCFC側の計算です」とか「これは米国株主側の計算となります」としつこく解説している。さすが従来のクロスボーダー課税を知り尽くしている財務省、IRSの重鎮弁護士チームの執筆だけのことはあり、説明は分かり易い。

まず、GILTI合算課税の対象となる納税者は「CFC」の「米国株主」となる。双方とも税法上で規定されている用語で、ここは従来からのCFC課税であるSubpart F所得合算の定義をそのまま適用することになる。すなわち、米国株主とは米国人(パートナーシップとかTrustを含む)で、外国法人の10%以上の持分を保有する者だ。税制改正以前は、10%保有かどうかの判断は、議決権のみを基に行ってたけど、税制改正後は議決権に加え、価値ベースに基づく判断も必要となった。また、米国株主かどうかの判断時に、以前は適用が敢えてTurn Offされていた「Downward Attribution」もTurn Onされ、加味されることとなった。このDownward Attributionは、外国に居る50%以上の株主が保有する他法人の株式はあたかも自分が全て保有していると取り扱うという厳しい規定だ。これらのことから、米国株主の数、そして間接的にCFCの数、は以前よりも大きく増えることになる。米国株主とかCFCの新定義は、GILTI目的だけではなく、従来のSubpart F所得の今後の合算時にも同様に適用される。

GILTIは米国株主側で算定される「一つ」の所得だけど、その計算は各CFCで始まる。

具体的には、2018年1月1日以降に開始するCFCの事業年度から、各CFCがCFCレベルで「Tested Income(Loss)」という米国税法ベースの金額を算定する。これは各CFCで米国税法ベースの課税所得を算定し、そこから当所得に適切に対応する外国法人税をマイナスした税引後所得を意味する。え~、ってことは200社CFCがあったら、200の米国申告書を作成するようなもの。かなりのコンプライアンス負荷だ。で、このTested Income(Loss)はCFCレベルの算定だけど、これを米国株主が保有する全CFCのTested IncomeとLossの持分相当(Pro-Rata Share)を通算し、ひとつの「Net Tested Income」という金額を算定する。Tested Income(Loss)がCFCの属性なのと対照的に、Net Tested Income(Loss)は米国株主側の属性となる。

このNet Tested Incomeからルーティン所得となる「ネットみなし有形資産リターン(Net Deemed Tangible Income Return = Net DTIR」を差し引いた金額がGILTIだ。このみなし有形資産リターンを差し引いた残りの金額は、事実関係としてどのような所得であってもみなしで無形資産所得と認定される。GILTIという用語の2番目の「I」が無形資産となる理由だ。

で、このNet DTIRという金額は米国株主側の属性だけど、これもその算定は各CFCレベルのQBAIと略される有形償却資産のネット簿価から始まる。これをNet Tested Incomeの算定時にそうしたように、米国株主が保有する全CFCのQBAIのPro-Rata Shareを通算し、それに10%を掛ける。これが米国株主が保有する全CFCのみなしルーティン所得となる。Net DTIRはここからCFC側の支払利息のうち、Tested Income(Loss)の算定時に取り込まれている金額を差し引いて確定する。Net DTIRはGILTIからシェルターされる金額なので、大きい方が納税者としては有利。なので、支払利息で減額させられるのは不利な結果となる。減額に使用される支払利息の例外に、同じ米国株主が保有する他のCFCがTested Income算定時に受取利息として認識している部分があり、この部分は減額は含まないとされる。この部分の計算法に関しては、規則案で簡便法が規定されたので、詳細は後日。

ちなみにQBAIは、プラスのTested Incomeを計上しているCFCが保有する有形償却資産のネット簿価を米国株主側で合算し10%を乗じた金額から特定支払利息を差し引いた金額となる。ここで注意が必要なのは、プラスのTested Incomeを持つCFCの有形償却資産のネット簿価のみが加味される点。一方で、マイナス要因となる支払利息は全てのCFCからのPro-Rata Shareを取り込まなくてはいけない。う~ん、算式としてはチョッと不公平(?)。

で、Net Tested IncomeからNet DTIRを差し引いた金額がGILTIとなり、米国株主はこの金額を課税所得として自分の申告時に取り込むことが求められる。GILTIは一旦全額合算された後、GILTI50%相当額の所得控除が認められる。いきなり50%を合算するのではなく、合算は100%した上で控除を計上する。この想定控除は、GILTIを通常の法人税率21%の半分、10.5%で課税するためのものだけど、課税所得制限があり、常に控除が取れるとは限らない。控除が取れなかったり、制限されてしまうと、CFCの所得はGILTI合算する範囲で、二重課税となり、現地の法人税に加えて、実質、米国で最高21%の税コストが発生することとなる。そんなことになると、現地での税率次第では、今時珍しい50%近い実効税率になったりして恐ろしい。

仮に控除が取れると、概念的にはGILTIには10.5%の米国法人税が課せられることになる。そこから「Tested Incomeに適切に対応していると認められる(「Properly attributable」)外国法人税に、GILTI合算%を掛け、さらにそこに80%を掛けた金額がようやく制限枠前の外国税額控除の対象となる。Properly attributableって概念的には聞こえはいいけど、実際どうやって計算すんの?って感じ。従来の間接税額控除は「Tax Pool」と言って、留保所得も外国法人税も全て累積(=Pool)させておいて、配当があったり、合算課税があったりすると、留保所得に占める課税額の%を機械的にTax Poolから取り崩して控除対象としていた。僕たちはこの方法に慣れている、というかTax Poolの計算しか知らないので、急にPoolingシステムが撤廃されて「Properly attributable」とか言われても面食らうばかり。米国から見たCFCの所得認識は、外国現地の税法と額もタイミングも異なるだろうし、場合によっては課税年度も異なることもある。Poolingはその手の「ミスマッチ」を自然解消させてくれる効果を持ってた素晴らしい仕組みだった。でも「Properly attributable」ではそうは行かない。GILTIバスケットの外国税額控除は法人税が超過となるExcess Creditの場合、繰り戻しも繰り越しも認められないことから、このダメージは潜在的に大きい。頭をTax Poolから切り替えるのに時間が掛かりそうだ。2018年中に公表が予想される外国税額控除に特化した財務省規則案パッケージが待ち遠しい。外国税額控除パッケージはもしかしたら多くの規則案パッケージでも最重要ガイダンスと言ってもいい。

外国法人税のうちGILTIにかかわる部分の80%が税額控除の対象となることから、理論的には、GILTIが合算課税されても「CFCが国外で13.125%(10.5%÷80%)の法人税を支払っていれば、米国では追加法人税が発生しないので安心して下さい」というようにも聞こえるが、それは外国税額控除を大学のクラス初日にモデルケースで学習するようなもの。実際には外国税額控除の算定時には、米国株主側の費用、支払利息、R&D、株主によるスチュワードシップ費用、その他をGILTIバスケットに配賦する必要があるはずで、どんなにCFCが高税率で外国法人税を支払ってても、米国株主側の制限枠の関係で、外国税額控除が10.5全額完全に取り切れず、米国で何らかの追加法人税を負担することになるケースがほとんどだろう。

で、ここからは各項目の算定にかかわる考え方を規則案の規定を中心にもう少し掘り下げて行きたい。

Sunday, September 23, 2018

過少資本税制最終規則「文書化要件」ようやく撤廃

オバマ政権末期の2016年10月21日に駆け込みセーフ的に最終化されて大きな議論を呼んだ「Debt/Equity Classification」(俗にいう「過少資本税制」)の財務省最終規則。

トランプ政権発足の暁には、TPP脱退と同じ勢いで即撤廃かと期待していたんだけど、意外にしぶとくて、ようやく2017年10月になって、税制改正を待って対処するようなNoticeが発行されていた。その際のコメントから、BEAT、163(j)、Anti-Hybrid、GILTIと、これでもかという位Base Erosion対策が充実した今、満を持して全章撤廃か、と思いきや、先週の金曜日(2018年9月21日)、財務省は新たな規則案を公表し、最終規則の一部となる「文書化要件」を撤廃するに留まった。

関連者間ローンに関して、文書化の存在が問われるのは当然といえば当然なんだけど、最終規則の文書化要件は、通常の関連者間ローンばかりでなく、チョッとした未払金とか場合によっては買掛金とかが対象になり得たり、グループ内キャッシュプーリングのような反復して取引が行われるものにも厳しい要件が突きつけられていて実務的な対応が困難と言うか、納税者側の負荷が高いものとなっていた。

また、文書化するべき内容も、返済可能性にかかわる詳細なサポートとか、債務不履行時に契約通りに法的措置を実行している実績記録など、必ずしも従来の関連者間ローンでは網羅されていないであろう条項にも突っ込んで要求していた。また、恐ろしいことに、最終規則の要件に準じる文書化が整備されていない場合には、どんなに安全かつ返済間違いないローンでも、文書化がないというその事実のみをもって借入を自動的に資本とみなすという「反証不可」の事実認定が規定されていて、チョッといくらなんでも行き過ぎでは、と思われていた。規則発表時には、2018年1月1日以降の関連者間ローンに適用とされてたけど、その後、それが2019年1月1日に延期され、今回とうとう廃案となっている。

今後、財務省は新たな文書化要件を規則化するかもしれない、というようなことが規則案の前文に記載されているけど、その際には、納税者の負荷を考えてよりシンプルなものにしてくれるそうだ。

ただ、油断大敵なのは、上で触れたような最終規則下での厳し過ぎる文書化要件は撤廃されたけど、判例ベースの過少資本税制下で従来から必要とされている文書化要件はそのまま存在する。なんで、普通の関連者間ローンは今まで通り、文書化はMustと考えておいた方が無難。特に過剰なレバレッジを利かせるようなケースでは、返済可能性もCash Flowのモデリングその他の文書化でサポートしておかないと判例ベースで資本とみなされるリスクは充分に存在し続ける。

ちなみに、文書化要件と並び、最終規則には、実はもっと複雑で恐ろしい「Funding規定」っていうのがある。これは一定額以上の配当、グループ内株式譲渡、資産取得型適格組織再編、という取引が関連者からの借り入れ前後3年、計6年以内に存在すると、借入を税務上、資本同様と取り扱うというもの。これは今でも現存しており、さらに適用開始は2016年だったので、既に法的な効果を有している。こっちは撤廃されてないことから、こちらのコンプライアンスは皆さん大丈夫でしょうか。

Saturday, September 15, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(3) – GILTI (2)

さて、GILTI財務省規則案の公表から一夜明けて、落ち着いて考えてみたけど、やっぱり、そんなに大きな驚きはない規則内容っていう印象は変わらなかった。どうしても腑に落ちないのは米国パートナーシップが持つCFCの扱い。ポリシー的な議論はとても良く分かるけど、規則案で提案されている解決策は法文解釈上、無理がある気がしてならない。ここは引き続き考えてみるけど、この部分の困難さも、前から言ってる弊害のひとつで、つまり、元々CFCレベルの属性となるSubpart F所得合算課税のインフラを流用して、米国株主側の属性として規定されているGILTI課税を実行しようとして無理というか、矛盾が生じているひとつの代表例だろう。他にも、この不整合を理由に余計な規則を決めないといけない点は多くみられる。留保所得の一括課税システムにも同様の問題が存在する。なので、留保所得の仕組みを良く理解することが、今後の米国のクロスボーダー課税の理解の一助となる。

GILTI合算課税のメカニズムの全容は、GILTI合算、50%控除、外国税額控除、と「3本立て」で構成されるけど、今回のGILT規則案は最初の「GILTI合算」という基本的にメカニカルな部分のみにフォーカスしているので、比較的、挑発的(?)なものになり難かったんだろう。「3本立て」って言うと、その昔、まだ小学生から中学生になる頃、ビートルスの映画を見に行くと間違いなく「A Hard Day’s Night」、「Help」、「Let it Be」の3本立てだった。要はロードショー落ちしていたってことなんだろうけど、新宿武蔵野館とか有楽町のスバル座とかでたま~に思い出したように上映されてたものだ。もちろん未だYouTubeとかない時代だったし、「動いてる」外国のアーティストの演奏姿を見るには、ライブに行くか、記録映画みたいなのを見るか、ファンクラブ(!)主催のフィルムフェスティバルっていう今ではないかもしれない企画に行くか、位のチョイスしかなかった。

ビートルズのフィルム、特に本当のライブを収録しているLet it Beとか見た時は感動したし、勉強(?)にもなった。耳でコピーしていると分からない微妙なコードの押さえ方とか。ピアノのような鍵盤楽器と異なり、ギターは同じ音程のAでも、押さえるフレットのチョイスが3つくらいある。そのうち、どこを押さえているのかは、各アーティストの癖(これは絶対にある)、その音の伸びとか、Distortionの掛かり具合、さらにビブラートの掛かり方で解放弦かフレット押さえているか、次のコードに移る時にどれだけ難なく指を動かせるか、等を総合的に判断して耳で推測するけど、必ずしも当らない。目で見れば直ぐに分かることなんだけどね。Led ZeppelinのマディソンスクエアガーデンでのNYCライブ映画「The Song Remains the Same」を見た時にJimmy Pageがリフを構築する際に、どれだけうまく解放弦を利用しているのかを知って、かなりショックを受けたこともある。Heartbreakerのリフも、プラス、ソロの部分も解放弦が多用されていて、チョーキングの代わりにギターのヘッドの弦を巻く部分にピックを差し込んで、音を上げたり、一度目で見ると、簡単に本人と同じ感じの音が出せるようになる。

ビートルズも、特にJohn Lennonのコードの押さえ方って、何となく独特で、Dとか、フレット2を人差し指でバシっと全部押さえて、2弦は3フレット、4弦は4フレット、5弦は5フレットでやってることが多いし、またAは、普通に2弦、3弦、4弦は2フレットを押さえるんだけと、プラスで1弦の5フレットを小指で押さえるんだよね。更にそのまま、2弦と4弦の3フレットと4フレット(1弦の5フレットは押さえたまま)を乗せるとDになり(5弦の解放弦まで音を出すとD on A)何ともビートルズっぽい響きとなる。ロンドンのSeville Rowのビル(あそこは最近はA+Fのお店になってるけど、何回言ってもビートルズの香りがするビル)のRooftopのI’ve Got a Feelingなんて、その2つの押さえ方でほぼ曲ができちゃってるしね。Gも基本の1弦3フレット、5弦2フレット、6弦3フレットに加え、大概のケースで2弦の3フレットも押さえている。

Jimi Hendrixも最初に「動いてる」の見たのは、新宿の厚生年金ホールでBiography的な記録映画を3日限定で(しかも日によって中野サンプラだったり場所が違って)公開した時。学校を「早引き」して新宿でチケットを買ってドキドキしてた頃だ。こちらも、レコード(CDとかMP3ではない)で聴いて想像してたのと全然違って、文字通り腰が抜けそうに感動したのを覚えてる。OpeningのモントレーポップフェスティバルのRock Me Baby。今ではYouTubeで毎日見れるけど、いつ見ても格好いい。このRock Me Baby、曲とかリフは同じだけど、歌詞だけ変えてLover Manっていう別名でライブで演奏しているバージョンもある。でも、やっぱりデビュー当時の未だクリーンな感じの時期のライブとなるモントレーのRock Me Babyの方が断然切れ味がいい。最初のリフのところで唸ってる部分は親指を駆使してたのか~、とか目で見ないと計り知れない発見があった(ギター弾かない人のために言っとくけど、普通親指で弦を押さえたりしない)。ちなみにLover Manは Hendrix in the Westっていうライブアルバムに入ってる。このアルバムは中学の頃、Red Houseとか含めて「まるごと」ギターでコピーしたアルバム。なんで、音のすみずみまで頭に叩き込まれているけど、近年、同じアルバムをiTuneでダウンロードしてみてビックリ。何と、Voodoo ChileとLittle WingのライブTakeが昔のビニール版(すなわちレコード)と異なるTakeになってた。どっちの曲も間違いなく、レコードに収録されていた過去のバージョンの方が出来がいい。で、気になったのでいろいろ調べたところ、昔レコードに入ってたバージョンは著作権絡みの問題が発生して、公にできないバージョンとなったそう。ということは、MDRの倉庫に眠っている僕の12インチのプラスティックは超貴重品ってことか。でも、今頃カビが生えてもう音出ないかもね。

と、またしても別の話しで盛り上がり過ぎないように、この辺でGILTIに戻るけど、つまり、今回の規則案は、3本立ての映画見に行ったつもりが、「A Hard Day's Night」だけ見て、「Help」と「Let it Be」は各々、秋と冬に後日上映と言われているような感じ。

規則案では、冒頭にGILTIの基本的なストラクチャー的な規定をしているけど、仕組みの話に入る前に、まずはGILTIの概念について個人的にお説教(?)させて頂きたく。

1962年のケネディー政権時から米国にも長く存在するSubpart F所得合算規定とか、他国の所謂CFC課税とかは既にそれなりも歴史もあり、各国のアプローチも多かれ少なかれ似てて、国際税務に関与している者にとってはその既成概念から脱するのは難しく、GILTIも一瞬、それらと同類に見えるかもしれない。でもGILTIの背景や趣旨は全然異なる。CFC課税っていうのは、簡単に外国に移転できるタイプの特定の所得をターゲットにして、本当は米国とか本国の株主が直接認識するべきだから、不当に外国に流出しているので合算してしまうというもの。配当課税が普通だった以前は基本Anti-Deferralの機能を果たしてたけど、多くの国がテリトリアル課税になってからはAnti-Deferralではなく、本来は本国で最初から課税されるべき所得っていう趣旨に変わって行ってたと言える。

GILTIはそうではない。GILTI導入の背景は、米国外のCFCが相対的に大きな利益を上げ過ぎている、それも価値のある無形資産の利用を含む比較的、付加価値の高い活動が合法的に海外に配置されてしまっていることで海外の利益が最大限化されているという懸念に基づくものと言える。なので、Anti-Deferralとか、本来は米国の所得なので米国でその分は課税というアプローチではなく、外国で認識するべき所得というのは、そうなんだけど、それはそうと認めた上、それに対しても米国でミニマム税を課そうというもの。すなわち、所得のタイプを問わず単純に米国課税ネットを全世界に拡大している法律だ。

GILTIの正式名称は「Global Intangible Low-Taxed Income」だけど、敢えて日本語に訳すと、「米国外軽課税無形資産所得」とでもなるだろうか。ただ、GILTIという名称はかなりMisleading。CFCが高税率で課税されていても、無形資産を見ためは保有していなくても、機械的な算定式に基づきGILTI合算課が発生する。

ここからはGILTIの仕組みに移るので次回。

Thursday, September 13, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(3) – GILTI 財務省規則案ついに公表

先週からいつ公表されてもおかしくないと言われていたGILTIの規則案だけど、今日(2018年9 月13 日)、ようやく公表された。今回は157ページっていうことで比較的リーズナブル。昔だったら規則が100ページ超えてるとビックリしたけど、385とか965で感覚が麻痺しているのかも。あと、「前文(Preamble)」がやたら長いのも最近の傾向。前文って法的な位置づけが微妙だけど、規則の背景を知るには便利。

規則案の内容そのものの詳細は、今後何回か分けて追って行くとして、まず第一印象として、今回はGiLTIそのものの計算法を規定したに留まっているので、余り大きな驚きはなかった。あくまでも今のところ、だけど。議論を呼びそうなSection 78のグロスアップがどのバスケットに行くかとかの外国税額控除関係は別パッケージということだし、Section 163(j)に基づく支払利息損金算入制限の適用がCFCレベルでのTested Income算定時に適用されるのか、とかもSection 163(j)のパッケージを待たないといけない。

今回のGILTI規則案で面白かったのは、米国内パートナーシップがCFCを持っている場合の取り扱いとか、QBAI算定する際の有形償却資産の保有期間が12カ月に至らないと無視されてしまうとか、後、GILTIからシェルターされているみなしルーティング所得、Net Deemed Tangible Income Returnの算定時にマイナスが求められる支払利息の米国株主側での確定法、とかかな。

ということで、次回からGILTIの詳細。

Sunday, September 9, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(2) – 国際課税(10) 留保所得一括課税

前回のポスティングでは、キラー通りとキラークイーンの話を中心に、じゃなくて、留保所得一括課税にかかわる外国税額控除を計算する際に対象となる外国法人税の金額に触れた。僕たちが長年、慣れ親しんできた「Tax Pool」という概念は今後は消滅するけど、留保所得一括課税は消滅直前の話しとなることから、1987年以降の外国法人税全額(Tax Pool)を出発点に、そこから留保所得のうち低税率適用を理由に課税対象となっていない部分、すなわちApplicable %を減額した外国法人税が対象税額となる。

で、若干順序は前後する感じもするけど、前回のポスティング「米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(2) – 国際課税(9) 留保所得一括課税」で、どの外国法人税を留保所得にかかわる外国法人税という位置づけとするのか、という肝心の点が法文および立法趣旨を見ても必ずしも明確なかった点に触れた。規則案では、この点に関して、まず、留保所得一括課税はSubpart F所得として合算課税されているので、従来のSubpart F規定に基づくみなし分配間接税額控除対象規定に基づき、課税対象留保所得に対応すると取り扱われるTax Pool、すなわち1987年以降の外国法人税Poolは対象としている。当然と言えばそれまでなんだけど、実際の配当に対する間接税額控除が税制改正により撤廃となる中、留保所得一括課税は廃案直前の課税年度に発生するため、ここは依然、旧法の規定で考えるという頭の体操が必要。「みなし」配当にかかわる間接税額控除規定は今後も残り、重要性を増すけど、実際の配当にかかわる間接税額控除撤廃の関係で、条文が再整理されてて、同じ内容の規定でも条文番号が異なったりしているので、留保所得一括課税の外国税額控除の規定は、旧法の条文番号を参照しないと正しく理解できないという実務的な面倒さが発生している。

Tax Pool系の外国法人税にかかわる確認事項として、規則案は、他の特定外国法人のマイナスで減額されたプラス留保所得に対応するTax Poolは外国税額控除の対象ではない、と明記している。また、Subpart F目的では別の一人の納税者扱いとなる米国パススルーが認識する外国法人税も、各パートナーに配賦されてパートナーが自己の外国法人税ポジションと合算して処理できるとしている。

更に、留保所得一括課税に基づき課税済みとなった所得を分配する際に徴収される外国の源泉税も留保所得にかかわる外国法人税と位置付けている。ここで言う課税済所得は、「米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(2) – 国際課税(5) 留保所得一括課税」で触れた通り、他の特定外国法人のマイナスで減額された部分も含まれる。

源泉税にかかわるこの規定の意味するところは、特定外国法人側で留保所得一括課税に基づいて課税済所得となっている金額の分配に課される源泉税は、米国で外国税額控除の対象にはなるけど、元々、米国株主側で低税率で課税された所得を原資とするものなので、留保所得課税時に適用されたApplicable %分、減額して取り込まないといけないということ。

となると、今後は同じ課税済所得でも、どんな理由で課税済みになったのかっていうトラッキングが重要となる。Subpart F、GILTIに基づいて課税済所得になってるんだったら、分配時に別の考え方が適用されるし。更に、今後蓄積されるCFC側の「QBAI x 10%(マイナス特定の支払利息)」(GILTI合算上、Tested Incomeがプラスの場合)を原資とすると考えられる留保所得部分はGILTIからシェルターされる所得なので、そこの部分だけは課税済所得とならず、分配時には米国側で100%控除が取れる代わりに、外国税額控除も所得控除も一切認められない。この通常の配当(そんなものが存在すればだけど)との比較において、留保所得課税で課税済所得の分配に対して、限定的とは言え源泉税が外国税額控除の対象となるのは、ならないよりはベターとは言える。これら諸々のことから、CFC側の留保所得の内訳を常に整理しておかないと分配時の課税処理自体が不可能という従来では考えられない大惨事が想定される。まさにWhole New Word!

また、同じ課税済所得でもその発生理由でその後の取り扱いが異なるってことは、納税者側でトラッキングが必要となるだけでなく、分配の際に課税済所得のどの部分が分配されたとみなすのかっていう、課税済所得「内」に眠るサブセットカテゴリーの分配優先順位を規定してもらわないといけなくなる。これはおそらく、冬までに公表されるであろう課税済所得の規則案パッケージでカバーされるんだろう。ちなみに、以前にも触れたけど、課税済所得に関しては、従来のSubpart Fとの関係で、以前から規則案が公表されてて、現時点でも最終化されることなくそのままになっている。税制改正で課税済所得の在り方が根本から変わってしまったのだから、規則を大幅に見直す必要に迫られており、既存の規則案は大幅に加筆修正される形で、再プロポーズとなるだろう。

さらに、留保所得一括課税の対象となった所得を原資とする将来の分配は、外国税額控除システムが一新された後に起こるケースも多いので、そこの現行の扱いとの整合性も新しい条文下で手当しないといけない。さすがに財務省も疲れたのか、この部分は今後の規則策定パッケージで対応するとして、現時点では「Reserved」とのみ規定されている。

留保所得にかかわる外国法人税として考えられる、もう一つの追加のカテゴリーとして、特定外国法人が別の特定外国法人を保有する場合、下層に位置する特定外国法人が上層の特定外国法人に分配を行う際に課される源泉税がある。上層の特定外国法人が下層から受け取った分配を原資に、米国株主に分配する際、米国株主側では、当源泉税を留保所得に対応する外国法人税と取り扱うこととなる。これは、課税済所得が最終的に米国株主に分配されてくる際、過去にみなし分配に対応する外国法人税として加味されていない外国法人税となることからこうなる。この部分も、他のカテゴリー同様にApplicable %にかかわる減額後の金額を外国税額控除の対象となると規定されている。

実際に外国税額控除の計算をする際には、課税所得となる留保所得はみなし配当扱いし、従来からの間接税額控除規定を適用する。留保所得が個別の特別バスケットに属する訳ではないので、Look-throughを含む従来からの規定でバスケットを決め、後は米国株主側の費用配賦も従来通り適用した上で計算をすることになる。費用配賦時には、留保所得は低税率で課税されたとは言え、特定外国法人の株式の一部が非課税所得を生み出す資産と取り扱われることもない点、確認されている。

ということで何とか留保所得一括課税の外国税額控除に関して、大枠、最後に漕ぎつけることができた。今後、外国税額控除にかかわる別の規則案パッケージが秋に公表される際には、またその時点で明らかとされる考え方に触れてみたい。留保所得一括課税にかかわる規則案には、他にもNOLを使用しない選択法、一括課税にかかわる税金の8年間の分割払い、連結納税グループの扱い、等、限りなく細かい規定が記載されているが、興味深い主たるテクニカル面はカバーしたので、次回からはGILTIに関して、GILTI財務省規則案が出たタイミングで。

Friday, September 7, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(2) – 国際課税(9) 留保所得一括課税

さて、今回は留保所得一括課税と外国税額控除。外国税額控除を整理して、さっさと留保所得一括課税は終らせておかないと、GILTIの規則案が今にも出そう。出たらそちらに移らないといけないので。なんと言ってもGILTIは今回の税制改正によるクロスボーダー課税地殻変動のキラー的な存在なので注目度が一段と高い。。キラーと言うとその昔、隠れ家的なお店を求めてフラフラしてたキラー通りを思い出す。外苑西というか、表参道の先と言うか、チョッと裏道っぽい感じがよかった。最終バーゲンとかで盛り上がってたベルコモンズとか今どんなになってんだろう。なぜあんなにいい感じの道をキラー通りと言うのかは当時から諸説あったけど、単純に青山墓地があるからっていうのが最もそれらしい。コシノジュンコ(みんな知ってるかな?)が命名したとか言われてるけど。

キラー通りと並んで、南青山と高樹町を結ぶ骨董通りもメインストリートっぽくない感じが良かった。骨董通りと言えば、中華料理の「ふーみん」って未だ健在みたいでビックリ。記憶が確かじゃないけど、ふーみんって遠い昔は代官山とかあの辺りにあったはず。その昔、旧山手通りを挟んで西郷山公園の反対側にあった安藤忠雄のコンクリート打ちっ放しビルで働いてたことがあるんだけど(バブル~)、その頃良く行った覚えがある。他の中華料理屋と記憶がごちゃごちゃになってる可能性もあるけど、その後、今の小原流会館の地下に引っ越したはず。それも80年台後半かな。ねぎワンタンとか、中華サラダとか逸品だった。

だんだん当時の記憶がフラッシュバックしてきて勢い付いてきたけど、外苑西の辺にあった「あんり」っていう総菜っぽい和食屋とかも良かった。バブル真っ盛りで沢山いいお店があった。渋谷公会堂辺りの裏のビルの3階にひっそりとした感じで佇んでいた「カフェバー」のBack Pageとか隠れ家っぽくて気に入ってて良く行ったし。もうチョッとメジャーだけど広尾日赤病院前のセントパトリックとか。あの頃は未だ広尾ガーデンヒルズもなくて、日赤病院が広大な土地を所有していたはず。う~ん、あの頃の店は格好良かったけど、幼くてレベルが低かったから全部格好いい店に見えてたのかも。仮に今見たら、どう映るんだろうか。格好よく感じるのかタイムマシンで旅して確認してみたい。

キラーで脱線してるけど、脱線ついでに、キラークイーンの話し。この前、夜中に急にQueenのBrighton Rockのブライアンメイのギターが聴きたくなって、Sheer Heart Attack聴きながら寝たんだけど(普通の人はあの曲では寝れない?)、アルバムの構成上、Brighton Rockの次に来る曲がキラークイーン。ブライアンメイってJimi Hendrixが好きだってよく言ってたけど、確かに通じるものはあるとしても、Hendrixのように動物的本能がDriveしているギターとはむしろ正反対に、きちんと計算されたギター。それにしてもブライアンメイの音の歪(Distortionの掛かり方)は美しい。彼はロンドンで物理学か何かの博士号を取得してたはずで、ちょうど同じ頃、More Than a Feelingで有名なボストンのTom ScholzがMIT出身だったので、ついに米英のロック界にも学歴社会到来とかジョークで言われていた。でも、実際、ピアノとかギターとか弾いてる人は分かると思うけど、音楽はコード進行とかスケールとか算数。バッハとかバロックは特に。Hendrixが算数できたかどうかしらないけどね。

で、キラークイーンの歌詞は、さすがJames Bondが暗躍する英国産のRockならではの奥深さがあって改めて感動。聴いたことない若い方はYouTubeでスタジオバージョンを聴いてみて欲しい。歌詞の意味は諸説あるけど、超ハイエンドなロンドンのコールガールのことっていうのが、まあ普通に聞いたらそうなるだろうけどっていう解釈。でも、ケネディーとかソ連(ロシアではない)のフルシチョフとかがいきなり出てくるし、Man from Chinaとか芸者Minahとか、国際政治の裏側を匂わせる内容で、実はジャッキーケネディーのこと?みたいな解釈もあるらしい。それにしてもゴージャスな歌詞。まさにExtraordinarily Nice。今ではLVMHの共同所有者でもある「Moet et Chandon(Moet & Chandonではない)」をPretty Cabinetに入れてとか。キャビア、シガレットにパリのパフューム。でも車には全く興味なし、っていう部分があるけど、僕みたいにテスラXが・・とか直ぐに考えてしまう庶民と違って反ってリッチな感じ。

マリーアントワネットみないに「だったらケーキを食べさせたら?」って優雅に話したり。この一句は、知ってる人も多いと思うけど、フランス革命前に、フランスの農民がパンがなくて苦しんでいます、という状況を聞いて、オーストリア王家からフランスのルイ16世の御妃として嫁いでいたマリーアントワネットが「だったらケーキを食べたらいいんじゃない?」と言ったというもの。庶民とはかけ離れた感覚を露呈しているとしてパリの庶民から酷評されたという問題の発言。でも実際にはマリーアントワネットの発言ではなく、彼女を貶めるために面白可笑しく噂を敢えて広めていた一派がいたということは後世はっきりしてるし、マリーアントワネットはどちらかというと恵まれない子供のためにチャリティーを企画したり、実は心優しい人だったと言う説もある。Fake Newsは昔からだったよう。で、キラークイーンでは、Gunpower, Gelatin、Dynamite、Laser Beam、とその後も派手な形容が続くけど、その昔聴いてた頃は、他の3つは分かるとしてもGelatin(ゼラチン?)がなぜ出てくるのか理解できなかった。まさかデザート?ってこともないだろうし。今、大人になって考えてみれば、毒殺に使うカプセルのことだねって40年振りに納得。昔の曲聞いて当時理解できなかった歌詞が理解できたりすると成長を実感できてうれしい。

で、もっと成長が実感できてうれしいのは、留保所得一括課税のような公表当時は謎に満ちた複雑な規定に関して、徐々に紐解きながら少しずつ理解が進んでいく時。人によっては、留保所得一括課税は2017年に歴史上一回起こるだけだからそこにエネルギーを費やすんだったら、他の条文に時間使った方がいいのでは、みたいな感覚を持ってるみたいだけど、とんでもない話し。課税済所得とか株式税務簿価とか今後何年も影響がある。しかも、これをSubpart Fとしている点は今後の国際課税制度を概念的に理解する際に不可欠なブリッジとなる。

とてつもなく前置きが長くなって、キラークイーンの話しでサボっている間にGILTIの規則案が公表されそうだけど、そろそろ留保所得一括課税下の外国税額控除。元々、留保所得一括課税を規定している法文そのもので、留保所得にかかわる外国法人税のうち、留保所得に対して所得控除が認められている部分に対応する部分の金額は外国税額控除および所得控除の対象としない点が明記されている。ここで言う留保所得にかかわる外国法人税というのがどこまでのものを意味しているかは、法文および立法趣旨を見ても明らかでなかったが、ここをどう規則案がアプローチしているかは後述する。

留保所得に対して所得控除が認められている部分の減額に関してだけど、この所得控除に関しては前回のポスティングとなる「米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(2) – 国際課税(8) 留保所得一括課税」で極簡単に触れているが、実効税率を15.5%や8%とするための想定所得控除額のこと。留保所得の課税部分を減額してあげているのだから、対応する外国法人税額も同様に減額しなさい、という趣旨で当然と言えば当然。ただ、ここでとても面白く、かつ最初は意味不明に見えても実は「なるほど」となるのは、所得控除%と「Applicable %」と言われる外国法人税減額%が必ずしも一致するとは限らないこと。

所得控除の%は実際に米国株主側の合算年度の適用法人税率を基に逆算する。一方、Applicable %はキャッシュポジション部分(税率15.5%部分)は「0.557」、それ以外の部分(税率8%部分)は「0.771」で固定されている。例えば、日本企業の多くが3月決算なので、大概のケースで合算年度となる2018年3月期の法人税率は混合税率で31.55%となる。仮に控除前の課税対象留保所得額がキャッシュポジションに満たない場合、留保所得全体が15.5%で課税されることとなるが、その場合、31.55%掛けて15.5%となるには、留保所得額に「0.507」掛けた金額を所得控除する必要がある((1 - 0.507) x 0.3155 = 0.155)。ここは単純なMathだけど、普通に考えれば、外国法人税も同じ%、すなわち0.507をApplicable %として減額しそうなもの。でも、Applicable %は米国納税者の合算年度に実際に適用される法人税率とはかかわりなく、常に(キャッシュポジションに関しては)0.557と規定されている。元々、上院で法案が議論されている過程では、所得控除%も固定だっただけに、2017年12月22日、最初に法文を読んだ際には、所得控除%はいろいろな適用税率があり得ることに気づいて慌てて修正した一方、さすがの上院財政委員会も外国法人税にまでは深夜の修正で頭が回らなかったか、と早合点してしまった。後から考えると、頭が回ってなかったのは自分の方で、というのは、どのような米国株主も適用法人税率にかかわらず、所得控除を考慮した後の段階では、全員15.5%(キャッシュポジションを超える部分は8%)で課税と統一されているので、その後の計算となる外国税額控除にかかわる外国法人税減額を所得控除前の異なる税率に合わせては反って変。う~ん。やっぱりさすが上院財政委員会。結果として、Applicable %は固定となる。で、どこで固定しているかというと、ここは仮に全員35%だったらという前提でバッサリと処理している。

ちなみにキャッシュポジションの方がApplicable %が低いのは、一瞬アレって思うかもしれないけど、キャッシュポジションの範囲で留保所得は15.5%とより高い税率で課税されるので、その分、所得控除は低いこととなる。それに準じて外国法人税の減額率であるApplicable %も低くなる。

で、全員に同じApplicable %がキャッシュポジションおよび他のポジションに適用されるんだけど、実際には、各米国株主はキャッシュポジションと他のポジションの比率が異なるので、その意味では各々、最終的に使用するApplicable %は異なる。また、Applicable %は合算年度毎に決定される必要があるため、もし特定外国法人の課税年度の関係で、一人の米国株主でも2017年度と2018年度とか、2年に亘り留保所得の合算があるようなケースでは、当然、各々の年度で留保所得に占めるキャッシュポジションとその他の比率が異なることから、Applicable %も異なることとなる。さらに、米国株主がパススルー主体の場合、パススルー主体レベルでApplicable %が決定されるので、その部分の外国法人税は、パートナー側でもパススルー主体レベルで決定されるApplicable %で減額された外国法人税を使用することとなる。

かなり長くなってきたので、今日はこの辺で、次回のポスティングで外国税額控除をラップアップ‘できるといいね。キラークイーンの話しにならなければ大丈夫かな。

Sunday, September 2, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(2) – 国際課税(8) 留保所得一括課税

前回は株式簿価調整の話しで(1人で?)盛り上がったけど、簿価はこれ位にしておいて、今回は留保所得一括課税にかかわる外国税額控除に触れてみたい。なんと言っても、今回の税制改正でクロスボーダー課税を根本から変えてしまった主役と位置付けることができるGILTIの計算方法にかかわる財務省規則案の公表が間近に迫っていると思われ、そろそろ留保所得一括課税の話しは一旦ラップアップしないといけないタイミングが近づいてるしね。

留保所得一括課税に関して、前回までのポスティングで、特定外国法人が持つプラスやマイナスの留保所得を米国株主がどのように合算し、その結果、特定外国法人側でどの留保所得が課税済みとなり、それに対応して米国株主側で各特定外国法人に対する株式簿価をどのように調整することになるか、っていう点をカバーしてきた。 一括課税の対象となる留保所得額を米国株主側で確定した後、次に特定外国法人のキャッシュポジションを算定し、その部分が15.5%で課税され、課税対象留保所得の金額がキャッシュポジションを超えるようであれば、超過部分は8%で課税されるよう、米国株主の合算年度の法人税率から逆算する形で、所得控除を取る。この部分に関して、税務省規則案が多くのページを割いているのは、キャッシュポジションの認定法だ。ここは細かいけど、テクニカルな話しとしては若干面白みに欠けるので、飛ばしてしまうと、所得控除を差し引いた金額は、米国株主の他の課税所得と合算されて申告課税の対象となる。欠損金がある場合には、課税対象の留保所得(所得控除済みの金額)と自由に相殺が可能だ。欠損金が繰り越されてきているケースでも、合算年度に損失が出ているケースでも、米国株主は一括課税対象の留保所得に欠損金を敢えて適用しない、という選択が与えられる。なんでそんな選択するの?、って思うかもしれないけど、これは外国税額控除の恩典を最大限化するため。特に過年度からの超過クレジットがある場合、すなわち使用し切れていない外国法人税を繰り越しているケースでは、NOLを温存できてかつ税額控除も利用できたりすると、恩典が大きい。会計上、繰越外国税額控除の繰延税金資産に評価性の引当がされているようなケースでは、財務諸表上もラッキーなインパクトが発生することになる。

この欠損金の使用、未使用は個々の納税者が置かれている税務ポジションを定量化して、何がベターが判断するしかないので、この話しはチョッと置いといて、課税所得が出たら、次に通常の税率を掛けて、税額控除前の税金を計算する。そして、後は外国税額控除を差し引いて最終税負担となる。 外国税額控除一般だけど、今回の税制改正で米国が、一応「見た目」はテリトリアル課税に移行したため、制度移行と同時に、従来規定されていた分配時の間接税額控除制度(Section 902)は廃止された。また100%の配当控除の対象となる分配に関しては、源泉税にかかわる直接外国税額控除も、また所得控除も禁止されている。

ただ、「米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(2) – 国際課税(1)」を含む以前のポスティングで何回も触れている通り、税制改正後の米国クロスボーダー課税は、今まで国際課税の常軌や一般概念を超えた新しいものだ。留保所得一括課税でCFCの留保所得はほぼ全額、課税済所得となっているし、今後はGILTIで毎年毎年、課税済所得が更に積み上がっていくことが想定される。その後に残る僅かな部分、CFCの償却対象動産の簿価10%のルーティン所得、に帰属する留保所得のみがテリトリアル課税の対象だ。分配優先順位的には、分配はまず課税済所得から取り崩されていくので、果たしてテリトリアル課税の恩典を受けるような配当原資に、分配が辿り着く日が来るのかどうかも不明、というか各社の税務ポジション次第。

また不思議なことに「みなし配当」課税の位置づけだったSection 956(一括課税の965と番号が似てるんで混乱しないようにね)が温存されているので、その分もテリトリアル課税からカーブアウトされてしまうことになる。Section 956は、通常の配当が非課税となる代わりに外国税額控除の適用がなくなったことを考えると、Section 956を逆手に利用した外国税額控除プラニングも考えられるだろう。う~ん複雑。

で、今日の話しの外国税額控除だけど、従来、間接税額控除の主役だったSection 902下の配当にかかわる間接税額控除は、外国法人の2018年1月1日以降に開始する課税年度から廃止となる。これは、ちょうど留保所得課税の対象年度の「翌年度」となる。その後は間接税額控除が全くないかというと、全然そうではなくて、従来はSubpart F所得の合算時に適用されていた、すなわち実際に分配がないにも関わらず、米国株主側でCFCの所得を合算した際の、間接税額控除制度はアップグレードされた形で残っている。なぜ、アップグレードかと言うと、この制度は今後、更に重要性を増すことになるからだ。従来のSubpart F所得に加え、GILTIで、Subpart F所得同様に分配以前に米国株主側で合算させられる所得が飛躍的に増えるからだ。GILTI課税を規定している条文、Section 951Aは税法上のSubpart F規定内に属するけど、GILTIそのものはSubpart F所得ではない。ただ、Subpart F所得に適用されるインフラ、プラットフォームを「流用」して計算法を規定するよう、敢えて条文自体に明記されているし、外国税額控除制度もGILTI導入に対応する形で改正されているので、多くの点でGILTIの処理は既存のSubpart F所得の扱いを踏襲することになる。一方でコンセプト的に異なる部分も多く、ここのすり合わせが規則策定側の主たる検討事項となってるだろう。

GILTIと間接税額控除に関しては、Labor Day明けにも公表が見込まれるGILTI財務省規則案には詳細は盛り込まれないとIRS高官が言っていたので、別のワーキンググループが担当する外国税額控除にフォーカスした独自の財務省規則案パッケージで具体的な運用法が規定されることになるはず。米国ではLabor Dayを迎えると、直ぐにHalloweenが来て、Thanksgivingが来て、クリスマスとなり、大晦日で、新年、と一年がアッと言う間に終わるんだけど、今年の秋から冬は規則案の進展に目が離せない。

またしてもGILTIの話しで興奮(脱線?)してきた感じだけど、今日はそうではなく、留保所得一括課税に対する外国税額控除の話し。

上述の通り、留保所得一括課税が行われる年度は、従来からの配当に対する間接税額控除規定が未だ生きている最終年度となる。したがって留保所得一括課税の財務省規則案は、この2つの規定の相関関係にも言及しているが、ここもまた複雑。

ちょっと、オープニングに時間を使い過ぎて、ビートルズの武道館ライブみたいに、前座の方が本番より長い、なってことにならないよう注意します。で、次回は実際に規則案に規定される留保所得一括課税と外国税額控除、また従来から存在する配当に対する間接税額控除との関係にフォーカスしたい、というかしないとGILTIの規則案が出ちゃうしね。

Friday, August 31, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(2) – 国際課税(7) 留保所得一括課税

前回のポスティングでは、 留保所得一括課税に基づく特定外国法人の課税済所得と、米国株主側から見た特定外国法人の株式簿価調整のデフォルト規定に触れた。すなわち、簿価調整は、マイナスで減額された後のネット額、イコール実際に米国株主側で留保所得課税の対象となったプラス金額のみで行うという規定だ。で、今回は、オプショナルで納税者に選択が認められる、課税済所得額と株式簿価増額をシンクロさせる規定に触れてみたい。

規則案では、マイナスで相殺されたプラス額に関して、プラス法人の株式簿価を増額させるのは、マイナス法人の株式簿価を同額減額する場合のみ適切であるとしている。この点はもちろんその通りで、簿価が上がると言うことは将来の課税所得を減らすということなので、対応的な調整がされない状態で一方的に課税所得を減らしてくれることは想定されない。簿価とかE&Pって言うのはタックスプラニングの主人公に近い存在と言えるけど、米国企業との比較で、日本企業でこの点を日頃からモニター、またはプラニングしてFTC、譲渡益、配当、その他を最適化しているところは少ないように思う。

プラス側の特定外国法人の株式簿価を増額するのはいいとして、米国株主の状況次第、特に留保所得一括課税を適用する直前の株式簿価の在り方次第では、マイナス側の特定外国法人の株式簿価を減額してしまうと、簿価がゼロを下回ってしまうような状況もあり得る。簿価がゼロを下回るとみなし譲渡益課税だから、それでは気の毒ということで、この調整は選択制になっている。

で、選択を行う場合、プラス留保所得を持つ特定外国法人の株式簿価は、他の特定外国法人のマイナス留保所得で減額された金額も含めて増額調整することとなる。この調整を選択することで、本来のSubpart F規定に基づく状況同様に、外国法人側の留保所得のうち課税済みとなる金額と簿価増額がシンクロするという「普通」の状態となる。ただ、上述の通り、増額調整の代償(?)的に、自分のマイナスを使われてしまった側の特定外国法人の株式簿価は使用された金額だけ減額が求められる。この減額が過ぎるとゼロを割り込んで、みなし譲渡益となることから、選択の際にはどの特定外国法人のマイナスがいくらどこに使用されているのか、と言う点をよく検証しないといけない。

3回前のポスティング「国際課税(4) 留保所得一括課税」で触れた通り、米国株主が取り込むプラスとマイナスの総額の比較で、マイナスが大きい場合には、どの特定外国法人のマイナスを使用したか指定できるという規定があり、この指定の仕方次第で、当選択をする際に、どこの特定外国法人の株式簿価をどれだけマイナスしないといけないか、という金額が異なる。

ちなみに、この選択をする場合、米国株主は全ての特定外国法人の株式簿価調整に選択を適用する必要がある。すなわち、Cherry Pickしてマイナスしても、簿価がプラスのままとなる範囲のみで調整とかするオプションはない。また、米国株主当人のみならず、米国株主の関連者も同様の取り扱いが強制されるとあることから、グループ内に特定外国法人を保有する複数の米国株主が存在する場合には、選択のメリット・デメリットはグループ全体で吟味する必要が生じる。

また、ここでは単純に米国株主が直接特定外国法人を保有していて、調整はその特定外国法人の株式簿価にフォーカスして書いているけど、米国株主が外国の法人を介して特定外国法人を保有していて、その下層に位置する特定外国法人からマイナスやプラスの留保所得を取り込んでいる場合には、中間に位置する外国法人の簿価が調整対象となる。通常、この手の規定は同様に外国パートナーシップにも適用されるけど、今回の簿価調整に関しては、特定外国法人が外国パートナーシップを介して保有されるケースに限り、米国株主があたかも直接、特定外国法人の株式を持分相当所有しているかのように、特定外国法人の株式簿価そのものを調整すること、としている。

留保所得課税を起因とする、これら一連の簿価調整は全て留保所得課税の対象となる特定外国法人の課税年度終了時に認識されるとしている。また、ひとつの特定外国法人に関して複数の調整が求められる場合には、調整額を合算・相殺の上、ひとつの調整を行うものとしている。

規則案には更に「みなし譲渡的軽減」規定が設けられてるけど、実は、この軽減策は上述のマイナス調整が簿価を割り込むケースを救済する目的ではない。もし、留保所得課税の対象となる課税年度に、特定外国法人が米国株主に実際の分配を行う場合、実際の分配のタイミングにかかわらず、課税関係を決定する際の取引優先順位的に、先に留保所得課税が発生し、その後に課税済所得が分配されたような扱いとなる。

でも、分配は実際には期中に行われているので、その時点で株式の簿価減額が求められるけど、留保所得課税の結果発生する簿価調整は、上述の選択をするかどうかにかかわらず、期末に行われる。となると、期せずしてタイミング差異で分配時にみなし譲渡益、という最悪のシナリオをあり得る。このような、恣意的な優先順位に基づく弊害を排除する目的で、分配時の株式簿価マイナス調整で簿価がゼロを割り込む場合には、留保所得課税に基づいて課税済となっている分配原資を上限として、譲渡益の認識は見送られる。

あくまでもタイミング差異の是正なので、譲渡益認識がなかった金額に関して、期末時点、すなわち課税済所得に対応する株式簿価調整が行われる時点で、譲渡益相当額の簿価減額が求められる。結果として、分配に基づく簿価減額と課税済所得に基づく簿価調整が同一タイミングで実施されたと同様の効果を持つこととなる。だったら、最初から分配に基づく簿価減額調整を期末で行うと規定すればよさそうな気もするけど、既存の枠組みがあるのでそうもいかないのかもね。これも新しい概念を既存のインフラ、プラットフォームで処理しようとする困難さのひとつ。

ちなみに、今回のポスティングの前半部分で触れているマイナスとプラスの留保所得相殺時の、プラス側の相殺額の株式簿価増額およびマイナス側の株式簿価減額選択をしている場合には、みなし譲渡益軽減規定は、マイナスで相殺されたプラスの留保所得だけど課税済所得と扱われている部分も含むとしている。逆に言えば、株式簿価調整の選択をしていない場合には、この部分の救済はない、すなわち、本当に留保所得課税された金額を基に課税済所得となっている金額を上限としてのみ、救済があることとなる。これは、すなわち、軽減規定そのものが、譲渡益そのものを救うという趣旨ではなく、優先順位に基づいて発生するファントム所得を無視するという目的で制定されていることを物語っている。

株式簿価調整の話しはこの辺で、次回からはFTCか何か、留保所得一括課税にかかわる別の切口で攻めてみたい。

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(2) – 国際課税(6) 留保所得一括課税

前回のポスティングでは、これでもかっていう位、課税済所得の話しに終始してしまったけど、まあ、それだけ重要なポイントってことを理解頂ければ何より。従来のSubpart F規定に基づく課税済所得に加え、このポスティングのテーマとなる留保所得一括課税、そしてさらに今後はGILTIで外国法人側の留保所得の多くはますます課税済所得化するトレンドとなる。ちなみにGILTIと言えば、今日(8月31日金曜日)またはLabor DayのLong Weekend明け直ぐに待望の財務省規則案の公表が予定されている。ただ、今回の規則案はGILTI制度の中でも、メカニカルな計算にフォーカスした内容となるとIRSの高官が言ってたし、外国税額控除とか課税済所得は財務省・IRS内に別の「ワーキンググループ」があり、各々、独自の財務省規則案をドラフトしているらしい。となると、課税済所得に関しては今回のGILTI規則案には盛り込まれず、長らく最終化されていないけど、元々、従来のSubpart F規定に基づく課税済所得のルールを規定しようとしている財務省規則案を大幅に加筆・修正して、新たな課税済所得規則案が2018年中には公表されると見るのが妥当だろう。従来の国際課税制度の枠組みでは考えられない規定が多いし、その上、既存の規定も温存されているので、そこのすり合わせとか大変そう。でも、財務省とかIRSのワーキンググループに属してたら楽しそう。三権分立の考え方がしっかりしている法治国家の米国では、行政府となる財務省、IRSには、立法府である議会が制定した法文の各条文に明記してある範囲のみで規則策定権限が存在するので、どこまでの規則策定権限が与えられているかを慎重に見極め、その範囲内で規則を策定する必要がある。なので、むやみやたらに規則を策定できるものではない。この範囲をどう拡大、または狭義に解釈していくかという点ひとつ取ってみても実に興味深い法的な検討だ

で、前置きはこの辺にしておいて、今回は約束通り、特定外国法人の株式簿価にかかわる怪談。早くしないと夏も終わっちゃうしね。

まず、従来からのSubpart F規定に基づく米国株主のCFCに対する株式簿価の仕組みだけど、ここの基本部分を理解してないと留保所得一括課税時の簿価の動きも分からない、というのは当然なので、まずは、その辺りのおさらいから。

従来のSubpart F規定に基づき米国株主が課税される場合、課税対象となるCFC側のSubpart F所得は、実際には米国株主に分配された訳ではないので、まだCFCの手元に残っている。これを課税済留保所得という特殊なアカウントでトラッキングする点は前回のポスティングの通りだけど、その際、同時にCFC側で課税済所得となる金額分 米国株主の持つCFC株式簿価を増額調整させる必要がある。従来のSubpart F所得は所得自体の算定は米国課税所得算定法に準じるけど、米国株主側の要合算額がCFC課税年度のE&Pを上限としていたことから、Subpart F所得、課税済所得(E&Pコンセプト)、そして株式簿価増額、その後の分配(E&Pベース)、という一連の流れをスムースに一貫して管理できる。今後、GILTIはE&Pベースではないので、その辺り、課税済所得規則案がどうアプローチしてくるのか、2018年冬の規則案公表が待ち遠しい。

留保所得一括課税の局面で考えてみると、もし単純に米国株主がプラス留保所得を持つ特定外国法人一社しか保有してないとか、複数の特定外国法人を保有しているけど、全ての法人がプラスの留保所得というような、どちらかというと単純というか従来のSubpart F規定に近いケースでは、上述の今までの簿価調整同様の考え方をそのまま適用することが可能だ。すなわち、留保所得課税の対象となった金額がそのまま各特定外国法人側で課税済所得となり、米国株主側では同額が特定外国法人各々の株式簿価増額調整、っていう綺麗に惑星が一列に並んだような処理となる。

問題は米国株主が保有する特定外国法人にマイナスとプラスの留保所得を持つ法人が混在している場合。前回のポスティングでも触れた通り、米国株主側にプラスやマイナスの留保所得が存在する形で金額がフローアップしてくると、米国株主レベルでプラスとマイナスを相殺することになる。これは従来のSubpart F規定では存在しない新しい概念だ。この新概念が今後、GILTIに踏襲されていくことは以前にも触れた通り。Subpart F所得というのは、元来、各々のCFC独自の属性という位置付けだったから、米国株主側にフローアップした後に所得金額が変わったり、他のCFCが認識するSubpart Fマイナス金額と調整されてしまうということは従来では考えられない。そんなことしようもんなら、各CFC側に米国株主側の処理を加味した後の数字を反映し直す、っていう複雑な調整メカニズムが必要になる。その手のメカニズムは、個々のCFCから見ると期せずして変な調整になって納税者が困ってしまったり、または、逆にうまくその辺りをデザインすることで、賢い納税者にプラニングの機会を提供してくれたりすることとなる。今回の税制改正で導入された全く新しい国際課税規定となるGILTIは、GILTIそのものをどちらかというと米国株主側の属性としながら、課税方法はSubpart Fに規定される多くのインフラ、プラットフォームをそのまま流用するような構成となっているけど、留保所得の一括課税もプラスとマイナス相殺を規定した段階で、GILTI同様に、米国株主側の調整をCFCに投げ返すという新しいルールを導入しなくてはならず、財務省規則案によるこの辺りのアプローチ作りはいろいろと苦労がうかがえる。

他の特定外国法人のマイナス留保所得でプラスが減額された場合、減額された金額は米国株主側で課税されていないにもかかわらず、プラス留保所得を持つ特定外国法人の課税済所得となる点は前回触れてるけど、じゃあ、対応する米国株主側から見た特定外国法人の株式簿価が、従来の調整のように課税済所得同額に関して全額増額するか、というと単純にそうはならない。簿価調整目的では、マイナスで減額された後のネット額、すなわち実際に米国株主側で留保所得課税の対象となった金額のみが増額金額となるというのがデフォルト規定となる。

う~ん、なるほど。となると、マイナス留保所得を持つ特定外国法人を一社でも保有してて、他の特定外国法人のプラス留保所得と相殺してしまった米国株主にとって、プラス留保所得を持ってた特定外国法人の株式簿価の増額は、特定外国法人側に留保されている課税済所得の増額に満たないこととなる。課税済所得が実際に将来、分配されてくるタイミングでは、課税済所得部分は配当扱いされないので、テリトリアル課税だろうが、従来の全世界課税だろうが、通常は非課税になるけど、課税済所得分配額が株式簿価を超えてしまうと、超過額がみなし譲渡益としてキャピタルゲインとなる。

え~、そんなだったら、他社のマイナスで減額されたプラス留保所得は、一層のこと課税済所得にしてくれない方がよかったんじゃないの、って思うけど。だって、課税済所得ではない通常の留保所得のままだったら、税制改正後は従来と異なり、分配時に245Aで特定外国法人からの配当は米国側で100%配当控除が取れるので非課税になるはず。ここは何がベストか難しいところだけど、留保所得が課税済みの扱いとなるって言うと、税制改正前の感覚で、何となく「良かったね」って安心したくなる。今後は、このような従来の概念が必ずしも通じないというところが恐ろしい。今回の税制改正後の米国クロスボーダー課税が、他国の国際課税規定との比較も含めて、全く新しい「Whole New World」に突入したんだな、っていう点を改めて認識せざるを得ない。まさに「A new fantastic point of view」で、誰かに魔法のカーペットに載せてもらって「Wonder by wonder」解説してもらわないとね(この歌詞、アラジンの映画とかブロードウェイ見た人は分かるね?)。

で、基本ルールは上の通りだけど、課税済所得額と株式簿価増額をシンクロさせる選択が規則案に規定されている。チョッと話しが既にヘビーかつメタル(?)になり過ぎてるので、ここからは次回。

Saturday, August 11, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(2) – 国際課税(5) 留保所得一括課税

前回のポスティングでは、一人の米国株主が複数の特定外国法人を保有し、しかもその中にプラス(Deferred Foreign Income )とマイナス(Deficit E&P)の留保所得を持つ法人が混在している場合の、課税対象留保所得の算定の考え方、またプラスとマイナスが相殺される場合の各特定外国法人のE&Pの増減の考え方、すなわちプラスおよびマイナス留保所得の配賦法に関して触れた。チョッと複雑でテクニカル過ぎる話しになってしまって恐縮なんだけど、実際問題、この規定、たかが留保所得一括課税、されど留保所得一括課税、とでも言いたくなる感じで、とにかく複雑でテクニカル。

留保所得一括課税が複雑になっている理由のひとつに、留保所得はSubpart F所得として課税するというプラットフォームでアプローチしておきながら、実は大きく従来のSubpart Fシステムから逸脱している点が挙げられる。すなわち、本来、Subpar F所得は米国株主ではなく、CFCや特定外国法人側の属性のはずだ。CFC側の属性を米国株主は単純に合算するだけの話しだったはずだ。今回、プラスの留保所得、すなわちDeferred Foreign IncomeはSubpart Fとして課税という立て付けとなってるけど、CFCからその属性が米国株主にフローアップしてきた後に、米国株主レベルでプラスとマイナスを相殺させるという、従来のSubpart F規定では存在しない概念を導入している。一旦CFC側で独自の属性として算定されたものを、米国株主側で調整してしまうと、その調整を各CFCに反映しなおさないといけない。これは、税制改正で導入された全く新しい国際課税の規定となるGILTIに継承されていく新たな切り口だ。GILTIはCFCの属性と言うより米国株主側のものだけど、制度変更時の移行措置として規定された留保所得一括課税がGILTIを匂わせるアプローチを導入しているのはとても興味深い。ってこんなことに感動しているのは僕だけかもね。

で、今日は特定外国法人にプラスやマイナスの留保所得が配賦された後の影響に関して。

従来からのSubpart F規定に準じる話しだけど、CFCが認識している所得をSubpart F所得っていう理由で米国株主が課税される場合、まだ配当をしていない訳だから、留保所得、すなわちE&PはCFCに残っている。それを将来分配する際、二度目の課税がないように、Subpart F所得として認識された金額に関して、米国株主側でCFCの株式簿価が増額され、その後、実際に分配が起きた際は、配当所得とはならず、代わりにCFCの株式簿価が減額される仕組みになっている。しかも、分配は強制的にまず課税済み留保所得から行われたとみなされる優先順位規定がある。これはCFCからの配当が課税所得だった旧法下では、より重要なポイントだけど、税制改正後も引き続き同じ規定だし、その重要性も引き続き残る。留保所得一括課税は通常の課税よりかなり低い税率で適用されているにも関わらず、留保所得満額CFCの株式簿価が上がっている訳だから、以前よりも有利な課税関係で、CFCを譲渡したり、米国法人の下から外したりできるはず。GILTIがあるから、日本企業のような米国へのInbound企業はさっさと米国子会社の下から米国外法人を外してしまうのが得策だろう。

留保所得一括課税で2017年末(または11月2日時点)に存在する留保所得全額がSubpart Fで課税されるインパクトは単に米国株主側で大きな課税があるっていう点に終わらず、特定外国法人に巨額の課税済み留保所得をもたらす点にも見られる。優先順位的に将来の分配はまず、課税済みの留保所得から分配されることとなる。留保所得一括課税の段階で、米国株主から見た特定外国法人の株式簿価は増額してるけど、分配を受けるたびに逆に簿価が下がっていく。下がり過ぎてゼロを下回ることがあるとみなし譲渡益になっちゃうので注意。

2017年まで貯めた留保所得全額がこんな取り扱いになるっていうことは、税制改正で導入されたテリトリアル配当非課税の245Aを登場させるまでもなく、当面分配は課税済み所得のリターンだから非課税となる。さらに今後はGILTIでCFCの所得の多くが米国株主側で課税所得となり、更に多くの課税済み留保所得を生み出し続ける。すると、それらの金額に関しても、従来からのSubpart F、留保所得と並び、全て課税済み所得となる。将来の分配は全てこれらの課税済み所得から優先的に分配されていると取り扱われることから、結局、課税されてない留保所得の分配が起こることはないようなケースも想定される。となるとせっかくの「テリトリアル課税」化も名ばかり。これが前から触れている今回の国際課税にかかわる改正の神髄に当る部分だ。

このことからCFCや特定外国法人のE&Pのどの部分が「課税済」っていう位置づけになるかどうかは、かなり重要な検討事項になるけど、特定外国法人のプラスの留保所得が他の特定外国法人のマイナスE&Pにより減額された場合の取り扱いが面白い。他の特定外国法人のマイナスで一括課税対象となるプラス留保所得が減額された場合でも、プラス側の法人では減額分も含めて課税済みと取り扱う旨が規定されているからだ。実際に課税されていないのに留保所得が課税済所得扱いとなり、プラスの特定外国法人に関しては基本的には有利な取り扱いと言える。ただ、この規定に基づいて多額の留保所得が課税済みとなり、後日の分配時に、課税済み所得の分配額が米国株主から見た特定外国法人の株式簿価を超えてしまうと、超過額がみなし譲渡益となるのでこの点は注意が必要。従来のSubpart F規定下では通常、Subpart F規定でCFC側で課税済所得に生まれ変わる留保所得額と、米国株主に認められるCFC株式簿価の上方修正がパラレルとなるので、問題は比較的少なかったように思う。一方、一括課税にかかわる規則案ではここでも驚くような複雑な取り扱い、複数の選択が待ち受けている。この点は次回以降に触れたい。

他の特定外国法人のマイナスで減額されたプラス留保所得がプラス側の特定外国法人で課税済所得と取り扱われる一方、その対応的調整として、マイナスを使用された特定外国法人のE&Pは増額させられる。E&Pの増額と言っても、もともとマイナスE&Pの法人だから、マイナスが少なくなるっていう方が分かり易いだろう。

これらのことから、前回のポスティングで触れた、どの法人のプラスがどれだけ他の法人のマイナスで減額したのかとか、どの法人のマイナスがどれだけ使われたのか、という配賦算定がどれだけ重要な意味を持ち得るか分かってもらえたと思う(願う?)。 という訳で今回は課税済所得の話しに終始したけど、留保所得一括課税とGILTIという2017年までは考えられないWhole New Worldに突入した現在、その重要性は格段に増してる。課税済所得のみに特化した規則パッケージが秋にも公表されるという噂もあり、今から楽しみ(?)。って言うと少し頭おかしく聞こえるかもね。

で、次回は課税済所得と切っても切れない縁の間柄にあると言える特定外国法人の株式簿価の話し、しかも超複雑怪奇でその仕組みを解き明かした際には背筋が寒くなるような夏の怪談に移るので、猛暑を持て余している方は楽しみにしているように。

Saturday, August 4, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(2) – 国際課税(4) 留保所得一括課税

前回は米国国際課税制度移行時の特別措置となる特定外国法人の留保所得一括課税の法的枠組みの基本的なアプローチについて触れた。すなわち、特定外国法人の留保所得をSubpart F所得と規定することで、従来のSubpart F規定の一環で米国株主側で課税所得として認識させる、心憎いアプローチだ。

従来のSubpart F規定はCFCが認識する受動的所得等の特定の所得をSubpart F所得として、米国株主が自己の課税所得と合算申告する仕組み。具体的には、外国法人が自己の課税年度内に一日でもCFCに該当する日があると、当課税年度内で法人がCFCの定義を充たしている最終日に、直接・間接にCFC株式を保有している米国株主が、CFCの課税年度終了日を含む米国株主側の課税年度に、CFCのSubpart F所得の米国株主帰属額(Pro Rata Share)を課税所得とすること、というもの。なんか回りくどい立て付けに聞こえるかもしれないけど、留保所得一括課税を理解、検討する上で、ここは絶対に理解しておかないといけないベーシックなコンセプトとなる。

で、前回のポスティングの後半に、通常のSubpart F規定には存在しない、マイナス留保所得によるプラス留保所得の相殺取り扱いに関して触れ始めた。すなわち、米国株主が少なくとも1社でもDeferred Foreign Income を持つ特定外国法人の持分を保有し、同時に少なくとも一社でもマイナスE&Pを持つ特定外国法人の持分を保有する場合には、米国株主側で取り込むべき留保所得はマイナスE&Pの金額で減額することが認められる、っていう相殺容認規定だ。米国株主側で複数の特定外国法人の属性を通算できる点、チョッとGILTIに似てる。

で、複数の特定外国法人にプラスの「Deferred Foreign Income」があったり、マイナスE&Pがあったりすると、どの特定外国法人のマイナスを誰のプラスと相殺しているのか、っていう検討事項が発生する。「でも一括課税って一回切りだし、相殺後のネット課税所得の金額が同じだったら、別に誰のプラスが誰のマイナスで消されてても関係ないじゃん」って思うかもしれないけど、それは大間違い。一括課税で各特定外国法人のE&Pが消えてしまう訳ではないので、プラスとマイナスの相殺は、一括課税後に各法人にいくらE&Pがあり、そのうちどの額が一括課税で課税済みとなり、またSubpart F所得の合算、およびその後の分配と連動する米国株主側から見た特定外国法人の株式簿価の算定、など広範かつ複雑なインパクトを持つ。

そこで税法では、ある米国株主に帰属すると扱われるマイナスE&Pの総額は、その米国株主が一括課税で認識するDeferred Foreign Income総額に占める各特定外国法人のDeferred Foreign Incomeの%に準じてプラスの留保所得を持つ特定外国法人に配賦、と規定している。配賦法としては予想通りだし極常識的なものと言える。さらにこの目的ではマイナスE&Pは米国株主が認識するプラスの留保所得総額、すなわちDeferred Foreign Income総額に限定される。それはそうだろう。要はプラスの留保所得と相殺するためにマイナスE&Pを配賦する訳だから、プラス総計を超えるマイナス額で、全体の一括課税額をマイナスとすることは認められない。

もし、マイナス額がプラス額より多く、プラス額を消去してもマイナス額が余ってしまう場合、マイナスE&Pはプラス留保所得の額に限定されるけど、その際、どの特定外国法人のマイナスE&Pをいくら使用したと考えるのか、すなわち、今度はマイナス額そのものの配賦法が問われることとなる。ここはフォーミュラアプローチが法文に規定されていなくて、今後公表される財務省規則に基づき、米国株主がどの特定外国法人のマイナスを使用したと取り扱かいたいか指定可能とされている。特定外国法人が全社100%保有のCFCだったら、米国株主側から見るこの辺りのメカニズムも多少容易かもしれないけど、実際にはCFCの一部は他の米国株主が保有していたり、または外国株主の持分が入っていたり、いろいろと複雑な検討が付きまとうことになる。

さらに、従来のSubpart F規定の一部に、米国株主側で合算するSubpart F所得を過年度の同じ活動から発生しているマイナス所得で相殺してもよろしいという、通常の課税所得算定時の繰越欠損金の取り扱いに似た規定がある。この適格マイナス所得に関して、一括課税で他の特定外国法人のプラス留保所得をマイナスE&Pで相殺している場合、どの活動のどの繰越適格マイナス所得に紐付けるか、という指定も米国株主側に認められる。この辺りになると従来のSubpart F規定を知ってないとチョッと難しいかもね。

ちなみに一括課税目的のマイナスE&P額の算定だけど、プラス留保所得、すなわちDeferred Foreign Income の算定法と2つの点で異なる。Deferred Foreign Income に関しては後日詳しく触れるけど、「プラス」留保所得の算定時には、1987年以降の累積E&Pから米国事業関連所得(ECI)および過去にSubpart F所得として合算され課税済みとなっている留保所得(PTI)を減額する。さらにプラス留保所得は2017年11月2日または12月31日時点のいずれか大きい方の額を使用すること、と規定されている。

一方、面白いことに「マイナス」留保所得算定時には単純にE&Pそのものがマイナスか否かを2017年11月2日時点の一発勝負で決める。プラスとマイナスの算定法がパラレルでないことから、場合によってはひとつの特定外国法人がプラスとマイナス双方の留保所得を持つような結果があり得るという不思議な規定だ。更に、場合によっては留保所得がプラスでもマイナスでもない結果となることもあり得る。これって法文が狙ってそうしているのかどうか分からないけど、数日前に公表された財務省規則案では、そんな混乱に応えるため、特定外国法人の留保所得算定法に優先順位を設けてる。法文が複雑怪奇で、いろんな点にガイダンスを策定しないといけない財務省もさぞ疲れ気味だろう。「Christ you know it ain't easy. You know how hard it can be. The way things are going, they're going to crucify me」とか思わず口ずさんでしまう気分では?

で、規則案の優先順位に基づくと、最初にまず、特定外国法人に「プラス」留保所得があるかどうかを判断する必要がある。その結果、プラス留保所得ありという判断となる場合、「マイナス」留保所得有無の判断は行なうことはできず、「プラス」留保所得を持つ特定外国法人と確定される。一方、「プラス」留保所得なしという判断結果が出た場合、初めてそこで「マイナス」留保所得を持つかどうかを判断に移ることが許される。万一、「マイナス」留保所得も持たないと判断される場合には、特定外国法人は「プラス」留保所得も「マイナス」留保所得も持たない法人と確定される。たかが、留保所得があるかないかの判断なんだけど中々難しい。

という訳で、次回はマイナス留保所得が特定外国法人の将来のE&Pに与える影響等に関して。

Friday, August 3, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(2) – 国際課税(3) 留保所得一括課税規則案ついに公表

前回から国際課税制度移行時の特別規定となる「留保所得一括課税」に関して触れ始めたが、ちょうど、昨日(2018年8月1日)、一括課税にかかわる財務省規則案が公表された。この規則案、今回の税制改正にかかわる財務省規則としては初のものとなる。規則案は前文113ページ、主文136ページ、計249ページ、と予想はしていたけど膨大だ。2年前の過少資本規則518ページも読めたんだから、その半分と考えれば今回も読み込めるはず、って自分に言い聞かせないとね。

で、この手の規則には、「書類作成負担軽減法」とか訳されることがある米国の「Paperwork Reduction Act」に基づいて、規則対応に各納税者がどれだけの時間を費やす必要があると推定されるか、っていう時間数が記載されている。いつも笑っちゃうけど、Section 965の一括課税対応に費やされる推定時間はナント納税者当り「5時間」だそうだ。250ページの規則を発行しておいて5時間っていうのは大胆だ。

規則案の内容そのものは過去の複数のNoticeから予想されたものが多い。一点、興味深かったのは、留保所得一括課税で課税済み留保所得となった金額を原資として、後日外国法人が米国株主に分配を行い、源泉税が課せられる際の外国税額控除の取り扱い。規則案によると税額控除の対象とはなるけど(それは960があるので当然そのはず)、源泉税のうち外国税額控除の対象となる金額は、一括課税時に税額控除対象となる法人税を減額した際の「Applicable %」で同様に減額するというもの。そうなるんじゃないかな、っていう憶測はあったけど、業界の集まりに来る財務省やIRSの重鎮が全額取らせてあげてもいいんじゃないか、というような趣旨の発言をしているのを聞いたことがあったので変な期待が頭の片隅に残っていた。でも、やっぱり減額だったね。まあ、低税率で課税済みになってる留保所得を原資としているのでしょうがないね。

いきなり財務省規則案を深掘りしてもチョッと分かり難いかもしれないので、まずは一括課税規定の基礎から入って、適宜、規則案で補足されている部分に触れていきたい。

一括課税の基本的なアプローチは、留保所得をSubpart F所得と認定することで、米国株主側で課税所得として認識させるというもの。Subpart F所得とは、従来から税法に存在し、米国のCFC課税の対象となる一定の所得のことで、Subpart F所得となり例外規定の適用がないと、米国株主側で課税所得として認識しないといけない、というもの。

これはなかなかスマートなアプローチで、対象となる留保所得を明確に規定すれば、米国株主側の計算法、CFCの株式簿価の調整、その後の分配、外国税額控除などは既存の法律をそのまま流用することができる。もちろん必要に応じて既存の法律の考え方を変更もできる。したがって一括課税を規定しているSection 965では米国で課税する云々には直接触れられておらず、「Deferred Foreign Income Corporation」が認識している「Deferred Foreign Income」の2017年11月2日または12月31日時点のいずれか大きい残高額を当外国法人のSubpart F所得とする、と規定している。米国株主側の属性となるGILTIと異なり、Subpart Fは各CFCの属性と言えるので、外国法人のDeferred Foreign Incomeを各外国法人レベルでSubpart F所得と規定し、後は通常のSubpart F規定に準じて米国株主が他の(通常の)Subpart F所得同様に合算するという仕組み。

で、この基本的なフレームワークの次にくる規定が、マイナス留保所得の扱い。通常のSubpart F所得の世界では、米国株主はプラスのSubpart F所得を持つCFCから、所得のみを合算することになるけど、留保所得課税をSubpart F所得扱いする際の特別措置として、米国株主が少なくとも1社でもDeferred Foreign Income を持つ外国法人を持分を有し、また少なくとも一社マイナスのE&Pを持つ外国法人を持分を有する場合には、米国株主側で取り込むべきSubpart F扱いされる留保所得はマイナスE&Pの金額で減額することが認められる。

外国法人のマイナスE&Pを他の外国法人からフローしてくるSubpart F所得と、米国株主側で相対するという概念は、従来のSubpart F規定には存在しないので、この点に関しては多くの複雑な検討事項が必要となり、法律でも比較的詳細に規定されている。ここはチョッと長くなりそうなので次回、まとめて触れてみたい。

Tuesday, July 31, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(2) – 国際課税(2)

柄にもなく2回も売上税の話しで脱線してしまったけど、元々は米国の三権分立や判例主義の部分に興味があってどうしても触れておきたかった。三権分立は米国において連邦憲法で保障されている個人の自由にかかわる権利を守るための最重要システムだ。聞こえのいい憲法を持つことは簡単だけど、独裁者が憲法を無視して暴走しないためには強固な三権分立が不可欠だからね。という訳で、それはそれなんだけど、今回からはいよいよ満を持して、税制改正の国際課税に関して。今回の税制改正で一番大きなインパクトがあるのは、何と言ってもクロスボーダー課税の部分だから嫌でも長編にならざるを得ない。

前回の「米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(2) – 国際課税(1)」で「しつこく」触れたんで、既にメッセージは伝わってると思うけど、GILTIの導入を考えると、税制改正で米国がテリトリアル課税制度に移行したというのは、ウソとまでは言わないとしても、かなりの語弊がある。従来のDeferral制度が完全撤廃されたことは間違いはないけど、問題はその撤廃の仕方。CFCを含む10%特定外国法人からの配当は非課税になったので、米国もこれでめでたくテリトリアル課税制度の仲間入り、というのは表面的な見え方で、まず先に毎期毎期、GILTIによりCFC課税所得を強制的に米国株主側で所得認識させられるため、CFCの配当原資は毎期ほぼ課税済みとなってしまう。配当非課税で真のテリトリアル制度の恩典を享受できるのは、GILTIから免除されるCFCの償却対象動産の定額償却ベース簿価の10%ルーティンリターン所得のみ。これはかなり地味なテリトリアル制度と言わざるえを得ない。

GILTIに関しては、少なくとも機械的な計算ルールに関して、夏の後半、日本ではツクツクボウシが鳴き始める頃に規則案が出るらしいので、その際に詳細に触れたいが、GILTIの「I」と「L」には騙されないように。GILTIはGlobal Intangible Low-Taxed Incomeの略で「ギルティ―」(Guiltyみたいに)と発音されるけど、米国株主側で課税所得として合算が求められるCFCの所得はIntangibleから発生するものには限定されていない。CFCの課税所得(米国税法ベースで計算!)全額(一部の例外の除き)を米国株主側で合算課税する恐ろしいシステムだ。唯一対象外となり、すなわち真のテリトリアル制度の恩典対象となるのは、CFCの償却対象動産の定額償却ベース簿価の10%ルーティンリターン所得のみ。この額を超過する所得はみなしでIntangibleに帰属すると扱われる。

また、Low-Taxedと命名されているので、高税率国で事業展開するCFCはGILTI合算から免除されているのでは?、と勘違いしがちだけど、それも間違い。米国の従来のCFC課税であるSubpart F制度に規定される「High-Tax Exception」のようなものはGILTI規定には存在しない。Subpart Fと異なり、GILTI合算はMobilityが高かったり、その国に存在する意味がないような怪しげな所得のみが対象となる訳ではない。償却動産簿価の10%ルーティンリターン以外は全て問答無用に合算対象だ。

ではなぜGILTIは、まことしやかに「Low-Taxed」と命名されているかというと、米国株主側で、一旦CFC所得のみなしルーティング所得以外全額を合算した上で、50%のGILTI控除があったり、外国法人税のうちGILTIに適切に対応していると扱われる金額の80%がFTCとして認められるので、算数上は13.125%を超える法人税を現地で支払っていれば、GILTIを合算しても最終的に持ち出しとなる米国法人税はないというのが理由。「なんだ、13.125%だったらLow Taxじゃん」って思うかもしれないけど、これは全てがうまくいく際の理論的な算数。GILTI控除やFTCは米国株主側で課税所得が出ていないと取れないし、また課税所得が発生していても、米国株主側の経費をFTC算定時にGILTIバスケットに配賦してしまうと、GILTIに基づく米国法人税をFTCではきれいに消しきれないという問題がある。これは米国側の枠の問題なので、CFCが外国でどれだけ巨額の法人税を支払っていても関係ない。

となるとGlobal Intangible Low-Taxed Incomeの略のGILTIのうち、正しいのは最初の「G」と最後の「I」だけ?という驚愕の結果となる。Global Everything High-Taxed Incomeと名称変更すると「GEHTI」となってギルティ―がゲフティーになっちゃうね(笑)。

で、米国の新たな国際課税システムを部分的なテリトリアル課税と見るにしても、待ったなしの全世界 課税と見るにしても、従来のシステムに基づくDeferral制度から脱却したことだけは確か。で、この制度移行時に今まで外国に埋蔵されていた巨額の配当原資に従来の35%より低い税率で一括課税しようというのがSection 965の留保所得一括課税となる。今週にでも税制改正に基づく初となる一括課税にかかわる財務省規則案が公表されるのではないかと固唾を飲んで見守っている(大げさ?)最中というまさに今が旬の規定だ、税制改正に基づく新規定のほとんどは2018年課税年度から影響を持つけど、一括課税だけは2017年に取り込まれることが多いので他の規定に先行してガイダンスが必要となる。という訳で、まずは「一括課税」を題材に次回から引き続きUnplugしていきたい。

Saturday, June 23, 2018

最高裁判例「オンラインショッピングと売上税」(2)

前回のポスティングで最高裁判所の判決「South Dakota v. Wayfair」に関して書き始めたけど、例によって米国の法律は複雑で、思ったより長くなってしまい、今回はその後半。

前回のポスティングで「Nexus」の話しに触れたけど、これは州による法的管轄権の行使可否を判断する基準のことで、連邦憲法のDue Process条項とかを拠り所に判断され、税金だけではなく、広範な法律適用時に重大な検討事項となる。例えば、民事裁判をどこの州で起こすことができるか、とか。自分に有利な思想の判事が多数を占めている特定の管轄区の裁判所に提訴したくても、被告人がその管轄区に何の関係も持たない場合、どこまでそれが認められるのか、というような問題。逆にこのようなForum Shoppingは裁判の戦略策定時の大きなポイントなんだけど。Civil ProcedureのPersonal JurisdictionとかSubject Matter Jurisdictionの問題で、米国でLaw School行ったり、Bar Exam受けたことある人にとっては、Evidenceと並んで気持ちが暗くなる科目のひとつだったんでは?Nexusがあるかどうかの検討は、州の法人税に関しても頻繁に行われるけど、同じ「Nexus」という用語を使っていても、その判断基準は売上税に対するケースと同じではない。

売上税に関して、今回の判決が出るまでは、販売者による売上税徴収義務は州内に「物理的な存在」を持つ納税者に対してのみ行使できる、というものだった。これは最高裁判所による1992年のランドマークケース「Quill Corp. v. North Dakota」の判例に基づく。今回その判例を覆したことになるけど、前回のポスティングの冒頭で触れた通り、先例拘束力の原則に基づく米国ではかなりの英断。ちなみに自分より上位にある裁判所による判例を覆すことは認められないので、最高裁判所の判例を覆すことができるのは最高裁判所自らのみということになる。

最高裁判所が下すケースの数と照らし合わせて見ると、Stare Decisisを踏襲せずに自らのケースを覆した件数は極めて少ない。大概、今回のケースのように元々の判断からかなりの年月が経過し、社会的な背景、状況が変わったことを受けての苦渋の判断というようなものが多い。米国は「法の支配」の国なので、判例は基本的に変わらないようにしないと法律そのものの信憑性が低下してしまう中での難しい判断だろう。

例えば、1905年に最高裁判所が下した「Lochnerケース」。パン焼きの職人さんの週当たりの労働時間を60時間までと制限したNY州労働法に対して、契約の自由、雇用の自由を侵害しているとして憲法違反とした判例だ。この最高裁判所の判例は、その後の州政府による労働法制定時の裁量を大きく制限する。例えば、1923年には、女性に対する最低賃金を保障したDCの労働法もLochnerケースを踏襲して違憲判断が下されている。

この二つの判例の法的な趣旨は全く同じ。すなわち、州が個人の労働契約に口を出すのは、雇う側、雇われる側双方に連邦憲法上保障されている自由を奪うというものだ。でも、その適用対象次第で受ける印象はチョッと異なる気がする。パン焼き職人の労働時間を制限してはいけません、と言われると、なるほど、パンを焼くのが3度の食事より好きな人に60時間超えてパンを焼いてはいけません、なんてことは国とか州に口出しされる筋合いはないよね、って思えるかもしれないけど、女性に最低賃金を規定してはいけません、って言われると、なんとなく「そうなの?」って感じの反応じゃないだろうか。

まあ、ともかく時は流れて1937年。ホテル勤務のメードさんが提訴して何と最高裁判所まで行った「West Coast Hotel v. Parrish」ケース。最高裁判所はLochner判決を覆し、最低賃金を保障するワシントン州労働法を容認している。「契約の自由は絶対的なものではなく、労働者の健康や安全を保障する目的の州法は憲法違反ではない」という趣旨に時代の流れと共に移り変わっていった。最高裁判所は上告されてくるケースの極一部を自らの裁量で取り上げるかどうか決めることが出来る点は以前も触れたけど、判例を覆す必要性を感じ始めると、それを実行する、または過去の判例を引き続き踏襲するのであればその今日における正当性を表明するのに適切なケースを選択することとなり、West Coast Hotelにしても今回のWayfairにしても、最高裁判所がこれらのケースを取り上げているのはもちろん偶然ではない。

で、今回の、「South Dakota v. Wayfair」で「Quill Corp. v. North Dakota」判例を覆すに至った背景にはもちろん経済、商取引、テクノロジーの在り方が1992年と今では全く異なるという事実関係がある。1992年当時の争点はメールオーダー等、限られた取引に関するものだ。1992年と言えばGoogleが設立される6年前。Michael Lewis (「Liar’s PokerやBig Shortの著者」)による「The New New Thing」でも取り上げられたJim Clarkのモザイク(Netscape)だって登場したのは1994年頃だ。この頃、アマゾンもオンラインの本屋として登場している。

グロサリーショッピングのオンラインデリバリーの「はしり」と言えば、何と言ってもWebvan。そう言えばあってよね!って思い出してくれる方も米国、特に西海岸辺りには結構いるんじゃないかと思うけど、1996年に設立され、時間指定のデリバリー、スーパーにあるような多くの品揃え、というチョッと考えただけで巨額の設備投資が必要となるビジネスモデルだった。カリフォルニアではニッチ的にチョッと流行っていて実際に利用したこともあるけど、時代の先を行き過ぎていた観は否めず、10都市限定とは言え、需要が投資に追いつかない状況で2001年には更生法適用となった。実はこのWebvan、実は何と現在のAmazonFreshに受け継がれている。AmazonFreshの経営陣にはWebvan出身者が複数いるし、テクノロジー、ビジネスモデルもWebvanから取り込んだものも多い。さらにWebvan.Comというドメインは現在ではアマゾンが所有しているそうだ。

このようにWebvan自体は巨額の資金を吸い上げた挙句に結局倒産しているが、VentureとかIPOというリスクマネーをインフラに投資した訳だから、国の借金が残ったり納税者のお金を使うことなくインフラやノウハウはその後に残る訳で、この頃のDot.Comバブル時代の大胆な投資はなんだかんだその後のハイテク産業成長の基礎を築いているような気がする。

という訳で、1992年にはオンラインショッピングという概念すら存在しなかったことがDot.Com系の沿革を時間軸で追うと良く分かる。今日では、電子商取引が定着し、最高裁判所自らが「Quillは適切な判断ではなく過ちであったと言える」とまで言っている。でも、当時はまさか、全ての日常品をAmazon Primeとかで2日間待てば郵送料ナシで自宅までデリバーされるような時代が来るとはさすがの賢者揃いの最高裁判所判事も含めて誰も予見できなかった訳で、Quillの判決は当時としては合理的で仕方がないこと。今から見れば「不適切」な判断と映るかもしれないけど、歴史上の出来事全て、後から今日のスタンダードで判断するのは良くない。

実務的にコンプライアンスできるのかという現実的な側面から見ると、テクノロジー進化が大きな役割を果たしていると言えるだろう。前回触れた通り、売上税は州、郡により税率、対象品目、免除規定がまちまちで、当然ペーパーワークも異なる。そんなのをマニュアルで処理しないといけないとなると、余りの負荷でやはりDue Process的に問題となる。今回のSouth Dakota州の法律が違憲とならなかった一つの要因にコンプライアンスを容易にしてくれていたことが挙げられる。

例えば、South Dakota州で限られた回数の取引とか少額の取引にしか従事していない販売主に対しては免除制度が規定されていたり、徴収義務は今後の取引のみで過去訴求しないとか、州外販売主側の事務負担軽減の目的で、州側が無償でソフトウェアを供給したり、更に、複数の州が加盟している「The Streamlined Sales Tax Project (SSTP)」にSouth Dakota州が参加して、できるだけ標準的なプロセスとなるよう尽力している。

したがって、今回の判例に基づいて、州外の販売主に対して売上税の徴収を規定する州法が憲法のテストを通過するには、州間通商に過度の負担を強いず、公正な規定内容とすることが前提となる。

今後の展開としては、各州が、最高裁判所がOKとした基準に基づいて、州外販売主に対する売上税徴収義務を規定したり、従来の憲法の制約内で限界に挑んでいた法律を既に制定しているところは、最高裁判所の見解と照らし合わせて、合憲となる可能性の高いものに微調整していく必要があるあるだろう。もうひとつ、以前から期待されている流れに、連邦議会が何らかの法律を制定するというものがある。連邦は憲法上、通商条項に基づき「Inter-State Commerce」にかかわる法律を制定することができる。したがって、連邦が制定した法律はPreemptive的に州法よりも上位に属することになる。例えば、法人税のNexusを各州が規定しているけど、一定の活動に関しては連邦法がオーバーライドする形で法人税の課税を制限しているようなもの(PL86-272)があるけど、このような形で何らかの連邦法により一定の基準設定が好ましいという声も多い。

電子取引を含む経済のあり方そのものが大きく変わっていく中、今回の判決は時間の問題だっただろう。昔は物理来な存在をもってNexusを判断していたが、電子取引の世界では、物理的な存在は重要なファクターでないことも多く、経済的な結び付き、すなわち「Economic Nexus」の台頭となる。法人税の世界でも、BEPSとかで苦労して、新しい経済の在り方に対応しないといけない直接税は余り時代にあっていないとも言え、長期トレンドとしてはVATのようなDestination Baseの課税にシフトしていくんだろう。

Destination BaseというとBlue PrintのBorder Adjustmentを盛り込んだDBCFTが懐かしい。先日、上院財政委員会のTax Counselの方と直接話しをするという好機に恵まれたけど、実は水面下ではDBCFTの法文ドラフトが完成していたようで、100ページ(と言っていたかどうか忘れたけど)とか、膨大かつ複雑な規定だったようだ。「BEATなんて数ページの規定なんだから有難く思うように」みたいなお説教もしてもらったけど、DBCFTは概念的に実にシンプルだったので、そこまで複雑にしないと法律にならないという点は意外だった。今となっては闇に封印されている法案だけど、Information Freedom Actとか使って見れるものなら見てみたいものだ。

ちなみに今回の最高裁判所の判決も例によって5-4で決定されているけど、その構成は興味深い。同じ5-4でも保守系とリベラル系がきれいにイデオロギー的に分かれていないからだ。元々レーガン大統領に任命された、したがって本来保守派に属するはずだけど実際には現在では退官したオコナーと並んでSwing Voteとなることが多いケネディーが判決の主文をデリバーしてる。それに賛同している判事にはアリート、ゴーサッチ、トーマスという保守派と並び、リベラルなギンズバーグが含まれる。逆に反対少数意見にはブライヤー、キーガン、ソトマイヨールというリベラルの牙城に加え、保守で長官のロバーツで構成されている。ロバーツの考えは最高裁が口を出す話しではなく、連邦議会が適切な規定を制定するべき、というもの。米国の法律は面白い。

という訳で柄にもなく州税、それも外形課税の話しでチョッと疲れたけど、次回こそは税制改正の国際課税。

最高裁判例「オンラインショッピングと売上税」(1)

本来、税制改正の国際課税にフォーカスしたいところなんだけど、トピックが余りに広範かつ面白すぎて、どこからキックオフしていいかチョッと途方に暮れかけたところ、2018年6月21日に連邦最高裁判所が、オンラインショッピングとかの州外販売者に対して州売上税の徴収権拡大を容認する旨の判決を下した。しかも、最高裁判所自らが過去の最高裁判所の判例を覆すという、Stare Decisis、すなわち先例拘束力の原則をベースとする判例法の米国において、異例の判断となった点で、今回の判決はかなりBig Dealと言える。という訳で、柄にもなく(?)、急遽、売上税を扱っている当判決に触れてみたい。

トランプ政権、というかトランプ大統領個人が、アマゾン、特に創業者のJeff Bezosを目の敵にしていて、アマゾンは売上税も払わずに米国の郵便システムを自社の物流システム同然に低料金でこき使って、荒稼ぎしている、というようなコメントをTwitterとかで繰り返しているのは周知の事実だけど、となるとトランプ政権にも白星的な判決かも。

ちなみに、確かにその昔は、近所のB&NとかBordersみたいな本当の(?)本屋さん(スタバとか併設されていて憩いの場として懐かしいね!)で本を買うと売上税を支払わないといけないのに、まだ怪しいスタートアップ(?)みたいな存在だったアマゾンで同じ本を買うと売上税を支払わなくてよかった時代もあった。でも、それは今は昔。現在ではアマゾンは全米を網羅する物流ハブを有していることもあり、アマゾンで買い物すると少なくとも州レベルの売上税は徴収されているように思う。アマゾンを利用している第三者のベンダーは未だに徴収していないケースもあるかもしれないけど。トランプ大統領のアマゾンやJeff Bezosに対する批判的なコメントは、売上税の話しではなく、どちらかと言うとJeff BezosがThe Washington Postっていう米国で影響力が大きい新聞社を所有してるけど、このThe Washington Postが大統領に批判的な社説を記載することが多い、ってことに起因していると見るべき。アマゾンのビジネスモデルにケチを付けているのは「八つ当たり」的な側面が強い。

で、今回の判例だけど、「South Dakota v. Wayfair」っていうケースで、South Dakota州内に物理的な存在を持たない州外の販売主が、オンライン等を通じてSouth Dakota州内の顧客に物販等を行う場合、South Dakota州の売上税を徴収しなさいって言う州法を容認する判断となった。

「そんなの当然じゃん」って思うかもしれないけど、事は法的にも実務的にもそこまで簡単な話しではない。まずはその辺りの背景に関して少し。

今回の判決の争点を再度整理すると、州内に何の存在も持たない「州外」の販売者に対して、州が「州法」で販売者による売上税の「徴収義務」を強制することができるか、っていう点。結果はイエスだったんだけど、逆に今回の判例が出るまでは、そのような法律は連邦憲法違反とされていた。ここで判例を理解する際に必要となるいくつかポイントだけど、まず、米国の売上税は州法だということ。米国には連邦ベースの売上税、VAT、消費税は存在しない。連邦法であれば、どこの州の販売業者であろうが一網打尽に対象となるけど、州法なので、今回のような問題が起こり得る。

さらに州の売上税は、有形資産(最近はこの解釈が拡大傾向)の「最終消費者に対する小売段階」で販売主が徴収するメカニズムになっていて、サプライチェーンの各ステップで付加価値に課税するVATとは異なる。州の法律なので、州によって売上税の対象、税率はまちまちで、同じ州内でも群が異なると税率が微妙に違ったり、さらにFlorida州とかNevada州(ベガス!)を含む7州ではそもそも売上税自体が存在しない。納税者が何らかの拠点を持つ州や郡で売上税を徴収するのは仕方がないし、元々やらないといけないとなっていたけど、縁もゆかりもない遠方からたまたまオーダーが入ったりして、その都度、そこの州や郡の仕組みを調べて売上税徴収の対応をさせられるのは実務上かなりのチャレンジとなる。それで、従来の判例が合理的な判断となっていた訳で、今までも例えば、South Dakota州に登記している法人とか、South Dakota州に店舗、倉庫、その他の物理的な施設を持っている販売主に対して州が売上税の徴収義務を課すことには何の問題もなかった。

これは米国の州の法的管轄権にかかわるDue Process的な問題だけど、敢えてザックリ言うと、州が何者かに対して州法を行使するには、対象となる者とその州の間に「何らかの関係」が存在しないといけない。国家主権に置き換えるとより分かり易いと思うけど、日本の法律が米国に住んでいる米国市民に適用できないのと似た話し。で、どこまでの活動や存在があれば、州に法的な管轄権が生まれるのかという点が争点となるけど、法的管轄権が生まれる「Minimum Contact(最低ライン)」を「Nexus」と言う。州の法人税でも、「そんなことするとCA州にNexusができちゃう」とか使うけど、まさしく、それも広義のNexusの具体的な適用法のひとつで、憲法上、それがないと州側に課税権が認められないことになる。同じNexusという用語でも適用対象となる法律により、考え方が異なり、今回の判決はあくまでも売上税にかかわるNexusの話しで、法人税のNexusには直接的に影響があるものではない。

州としては、当然、自州の法律を最大限に行使したい訳だけど、その歯止めをするのが連邦憲法のDue Processを中心とする条項。州が際どい法律を制定し、その被害(?)にあった者が訴訟を起こし、重要なケースだとそれが何年か掛けて最高裁判所にまで行き、運が良ければ最高裁判所がケースを取り上げ、判断が下されるという仕組み。その昔、CA州のWorldwide Unitary課税が違憲ではないかとバークレー銀行が訴えを起こしていたけど、1994年の「BARCLAYS BANK PLC v. FRANCHISE TAX BOARD OF CALIFORNIA」にて最高裁判所が合憲判断を下している。Worldwide Unitaryにかかわる背景を知るには「Must Read」な読み物だ。

更に、今回の判決はあくまでも売上税の州外「販売主」側の「徴収」義務にかかわるもので、販売そのものが最終的に売上税またはそれに見合う税金の対象となるかどうか、という税負担の話しとはチョッと異なる(ある意味、税制改正の国際課税におけるSection 864(c)(8)とSection 1446(f)のような関係)。米国の売上税は、有形資産の最終消費者に対する小売段階で販売主が徴収するメカニズムになっているけど、従来は、州側が州外販売者に売上税徴収権を行使できない場合、消費者側が自ら売上税同額を使用税として州に自主納付するシステムとなっていた。

つまり、オンラインショッピングとかオークションサイトで、個人を含む遠方の販売主から何か物を購入し、消費者が居住する州の売上税が徴収されていない場合には、買った側が売上税相当額を計算して、それを「使用税」という名前で州に自ら納付に行かないといけない。そんな義務があることを知らない一般市民も多いだろうし、企業と消費者間取引(BtoC)とか消費者間取引(CtoC)に基づく販売に関して、消費者がそんな使用税を納付しているケースは皆無に近かっただろう。

近年では州「個人所得税」の申告書に「オンラインショッピングとかで売上税が徴収されていない購入があったんじゃないですか?」みたいな質問が追加されていたり、州によってはご丁寧に「あなたの家族状況、収入レベルですと、大概、これくらいのオンラインショッピングがあったと推定されるので、使用税がこれ位発生します」という既定値まで表示して、それがイヤなら、自分の計算に基づく使用税を表示するように仕向けたり、といろいろと苦労していた。感覚的には、大多数の納税者が、既定値には「No thank you」となり、自分で計算してみたらゼロでした(苦笑)って申告していたんじゃないだろうか。唯一、使用税とか本当に支払ったり、州税務当局が本気で調査対象としてたのは、BtoB的な局面で、法人とか事業主が「最終消費者」となる設備とかを外国を含む州外から購入している際とかだろう。

さらに州側もいろいろと考えて、最高裁判所の判断に逆らうことなく、オンラインショッピングの州外販売主に売上税の徴収義務を課す理論構築をして、限界を試してきた。例えば俗にアマゾン・タックスとか言われてた近年の州の限界挑戦系の法律の中には、アマゾン等から報酬を受け取るAffiliateが州内に存在してる場合には、それをもってアマゾンのようなベンダーが物理的な存在を州内に有していると認定して、売上税徴収義務を課すと言うような類のものが含まれていた。Affiliateが州内にいるのかどうかの特定とか困難だろうし、歳入面で実務的にどれだけ有効だったのかは不明。

そんな実態だったんで、財政の厳しい各州にとって、州外販売主に対する売上税徴収強制権の行使は長年の悲願とも言え、今回の最高裁判所の判断はその動向が注視されていた。

なんか、チラッと売上税の判決を書いて終わらせるはずが、またしても期せずして長くなってきたので、一旦この辺にしておいて、次回、Nexus、最高裁判所が自ら過去の判例を覆した意味、そして判例を受けて今後どうなるのか、っていう点を簡単に整理してこの話は終らせたい。

Monday, May 14, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(2) – 国際課税(1)

前回、脱線しながらもようやくBEATにかかわる長編を終了した。The Go-Go’sの「We Got the BEAT」の世界。The Go-Go’sって元々ロサンゼルスのSunset辺りのクラブで演奏してたかなり「不良」っぽいバンドだったらしいけど、レコードデビューしてBreakした時は大変身して可愛い感じを装っていた。最初のシングルのOur Lips Are Sealedとか結構いい曲で、その昔、来日の際に、サンプラか、渋谷公会堂か、厚生年金ホールか、どれか忘れたけど、武道館じゃなかったのは間違いない場所でライブを見た覚えがある。演奏は当時のAll Girlsバンドとしてはまあまあだったかな。もちろんレコーディングで聴く限り、日本のPink Sapphireの方が断然うまいけど。Pink SapphireのドラムとかチョッとCozy Powellみたいで格好いい。ライブで演奏してるの見たことないから本当の実力は不明。でもメンバーは入れ替わりがあったとは言え平成名物TVの「イカ天」に出てたって話しだから実際うまいんだろう。ボーカルも上手だったしね。Pink Sapphireの曲は、いくつかビートルズと曲名を使っていてシャレっぽいくて良かった。で、The Go-Go’sだけど、東京公演では、わざわざ「Tokyo Boy」とか言うオリジナル曲を披露してくれて盛り上がった。多分どこの街でも街名を入れ替えて歌ってんだろうけど。

先週末のBEAT最終章は、次の題材を「チョッと考えてみる」ってところで終わっていた。実際書き終わった直後、ランチでも食べながらじっくり考えようと決意したんだけど、肝心のランチをどうするかに気を取られてしまった。家で簡単に済ますというオプションもあったけど、先週の週末はNYCのお天気も良く、アパートの下に降りて行って、近所どこかでにフラッと軽く行きたい気分が打ち勝ってしまった。でも、結局は、2nd AveのThe SmithでSicilian Baked Eggsにしようか、アジアヌードル系の店なのにナンとGrass-FedのBeefを置いてる有難いObaoにしようか、それとも単純にMaison Kayserでフレンチオニオンとか軽く食べて帰りに禁断のブリオッシュをTo-Goしようか、とか創造性に欠ける毎週繰り返される相変わらず、かつお馴染みのパターンしか思いつかなかった。で、こんなことを「じっくり」考えすぎてた結果、ブログの次の題材を選択するに至らないまま結局、20分程待ってまで又してもSicilian Baked Eggsとなり、月曜日を迎えた後はバタバタと一週間が過ぎてしまった。

そんなこんなで、また週末を迎えてしまったんだけど、今週末、野暮用でBrooklynに行った帰りにFDR運転しながら、今回の税制改正ではSub CとかSub Kは比較的手つかずなので、やはり地殻変動的なダメージ(?)を被った国際課税のフォーカスしてみよう、とようやく決心がついた。BEATだけであれだけ引っ張ったことを考えると、GILTI、FDII、Subpart F、テリトリアル課税、その他多くの大手術が施されている国際課税なんかに手を付け始めると、一体どれだけ書くことになるのか、想像しただけで気が遠くなるけど、やはり今回の改正の焦点は国際課税なので、それで行こう。

GILTIとか個別の規定の詳細は後に触れるとして、まずは国際税務の大枠からスタートしてみたい。

普通の皆さんは、別に毎日Internal Revenue Codeを読んで生活してる訳じゃないってことはもちろん知ってるけど(そうなんだよね?笑)、それでも国際課税の話しをする際に最初に共有しきたいポイントがある。それは、今回の税制改正は、驚くべきことに「既存の税法に上書きする形で多くの新条項が規定されている」っていう点。元々とてつもなく複雑かつ不明な点が多かった法律の上に、だ。

今となっては懐かしい響きのThe Blueprintでは、一層のこと多くの複雑な規定を廃案にしてしまおう、位の勢いでアプローチされていた訳だけど、、蓋を開けてみたら何のことはない、無くなるどころか、多くが温存され、更にその上に大量かつ更に複雑な新条項を織り込んでしまった。多くの新規定が既存のプラットフォームに乗るようにできてるんだけど、従来とは大きく異なるシステムになっている訳だから、Conformさせるためにあちこちを調整して、それはそれは難しいものが出来上がっている。良くこんな法文を数週間で草案したものだ。細部は行政府の財務省に規則を策定するよう権限移譲している部分も多いが、大枠であれだけのシステムを仮にも一応法律として機能する法文に仕立て上げたCapitol Hillの実力は恐るべきものがある。

大枠の内容に目を移すと、可決に至る過程では「アメリカもいよいよテリトリアル課税になるんでよかったじゃん」、みたいな軽い感じで考えられることが多かった。9月27日のUnified Frameworkでは、確かに何らかのグローバルミニマム税の導入みたいな話しが最後にチラッと出てたけど、どんな代物となるのか想像も付かなかったし、まさかクリントンとかオバマとかの民主党政権が提唱していた「Anti-Deferral」紛いの規定が入るような想定はしていなかった。

実際に税法が可決されて、落ち着いて消化してみると、恐ろしい事実に愕然とする。Webcastとかセミナーとかする度に、折に触れて言っているので「やかまし過ぎ」の可能性もあるけど、一般の方には、その真の恐ろしさが伝わっているのかどうか今でも心配(?)で、ここでもまた書いておく。かつての米国の国際課税は全世界課税とは言え、Subpart Fを除いては基本Deferral制度だった。すなわち、米国外の子会社が得る所得は米国に分配するまで米国では課税されない仕組み。で、極端に低税率の国に所得を貯めこんでいる米国多国籍企業はもちろん、よっぽどたまたまハイタックスのプールでも存在しない限り誰も分配なんかしなかったので、言わば「自作自演のテリトリアル制度」みたいな都合のいい制度になっていたと言える。

で、今回、「正式に」テリトリアル制度に移行する過程で、自作自演テリトリアル制度でもあれだけ低税率国を利用し尽くしてきた事実を目の当たりにし、米国多国籍企業による更なる低税率国へのBase Erosionが懸念されたのは当然。そこでかなり徹底的にBase Erosion対策が規定されることとなる。BEATはその名称からもまさしくその目的だし、Anti-Hybridとか、利息のSection 163(j)なんかもその流れだ。極めつけはGILTI。GILTIはSubpart Fと異なり、CFCが健全に設立国で事業活動に従事していようが、30%とかの税率に晒されていても問答無用に全てのCFCの全所得(に近い)を毎期米国株主側で合算しましょう、という凄い規定だ。この辺りのBase Erosion対策を、OECDのBEPSのようなアプローチではなく、独自に異なる切口にて一発導入してるのも米国らしい。後日GILTIに関して触れる際に詳細を書くけど、GILTIは製造設備等の資産は米国外に有するモデルを奨励しているように見えるし、また外国における法人税率は「理論的」には、13.125%を超え始めると超過%はグローバル実効税率を押し上げ兼ねないので、引き続き外国での税率は低く推移させるプレッシャーというか、インセンティブが存在する。

GILTIを考えると、税制改正で米国がテリトリアル課税制度に移行したというのはかなり語弊がある。確かに従来のDefarral制度は完全に撤廃されたことに間違いはないが、多くの国外所得に関しては、毎期認識させられる形で撤廃されている。すなわちAnti-Deferralに姿を変えてしまったのだ。配当非課税で真のテリトリアル課税の恩典を享受できるのは、CFCの償却対象動産の定額償却ベース簿価の10%ルーティンリターン所得のみ。う~ん、テリトリアル課税の恩典対象は結構地味。

という訳で、怖わさが共有できたところで次回から従来の国際課税とそれに上乗りする形で導入されている多くの新規則に、長期戦覚悟で触れていきたい。