前回は株式簿価調整の話しで(1人で?)盛り上がったけど、簿価はこれ位にしておいて、今回は留保所得一括課税にかかわる外国税額控除に触れてみたい。なんと言っても、今回の税制改正でクロスボーダー課税を根本から変えてしまった主役と位置付けることができるGILTIの計算方法にかかわる財務省規則案の公表が間近に迫っていると思われ、そろそろ留保所得一括課税の話しは一旦ラップアップしないといけないタイミングが近づいてるしね。
留保所得一括課税に関して、前回までのポスティングで、特定外国法人が持つプラスやマイナスの留保所得を米国株主がどのように合算し、その結果、特定外国法人側でどの留保所得が課税済みとなり、それに対応して米国株主側で各特定外国法人に対する株式簿価をどのように調整することになるか、っていう点をカバーしてきた。
一括課税の対象となる留保所得額を米国株主側で確定した後、次に特定外国法人のキャッシュポジションを算定し、その部分が15.5%で課税され、課税対象留保所得の金額がキャッシュポジションを超えるようであれば、超過部分は8%で課税されるよう、米国株主の合算年度の法人税率から逆算する形で、所得控除を取る。この部分に関して、税務省規則案が多くのページを割いているのは、キャッシュポジションの認定法だ。ここは細かいけど、テクニカルな話しとしては若干面白みに欠けるので、飛ばしてしまうと、所得控除を差し引いた金額は、米国株主の他の課税所得と合算されて申告課税の対象となる。欠損金がある場合には、課税対象の留保所得(所得控除済みの金額)と自由に相殺が可能だ。欠損金が繰り越されてきているケースでも、合算年度に損失が出ているケースでも、米国株主は一括課税対象の留保所得に欠損金を敢えて適用しない、という選択が与えられる。なんでそんな選択するの?、って思うかもしれないけど、これは外国税額控除の恩典を最大限化するため。特に過年度からの超過クレジットがある場合、すなわち使用し切れていない外国法人税を繰り越しているケースでは、NOLを温存できてかつ税額控除も利用できたりすると、恩典が大きい。会計上、繰越外国税額控除の繰延税金資産に評価性の引当がされているようなケースでは、財務諸表上もラッキーなインパクトが発生することになる。
この欠損金の使用、未使用は個々の納税者が置かれている税務ポジションを定量化して、何がベターが判断するしかないので、この話しはチョッと置いといて、課税所得が出たら、次に通常の税率を掛けて、税額控除前の税金を計算する。そして、後は外国税額控除を差し引いて最終税負担となる。
外国税額控除一般だけど、今回の税制改正で米国が、一応「見た目」はテリトリアル課税に移行したため、制度移行と同時に、従来規定されていた分配時の間接税額控除制度(Section 902)は廃止された。また100%の配当控除の対象となる分配に関しては、源泉税にかかわる直接外国税額控除も、また所得控除も禁止されている。
ただ、「米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(2) – 国際課税(1)」を含む以前のポスティングで何回も触れている通り、税制改正後の米国クロスボーダー課税は、今まで国際課税の常軌や一般概念を超えた新しいものだ。留保所得一括課税でCFCの留保所得はほぼ全額、課税済所得となっているし、今後はGILTIで毎年毎年、課税済所得が更に積み上がっていくことが想定される。その後に残る僅かな部分、CFCの償却対象動産の簿価10%のルーティン所得、に帰属する留保所得のみがテリトリアル課税の対象だ。分配優先順位的には、分配はまず課税済所得から取り崩されていくので、果たしてテリトリアル課税の恩典を受けるような配当原資に、分配が辿り着く日が来るのかどうかも不明、というか各社の税務ポジション次第。
また不思議なことに「みなし配当」課税の位置づけだったSection 956(一括課税の965と番号が似てるんで混乱しないようにね)が温存されているので、その分もテリトリアル課税からカーブアウトされてしまうことになる。Section 956は、通常の配当が非課税となる代わりに外国税額控除の適用がなくなったことを考えると、Section 956を逆手に利用した外国税額控除プラニングも考えられるだろう。う~ん複雑。
で、今日の話しの外国税額控除だけど、従来、間接税額控除の主役だったSection 902下の配当にかかわる間接税額控除は、外国法人の2018年1月1日以降に開始する課税年度から廃止となる。これは、ちょうど留保所得課税の対象年度の「翌年度」となる。その後は間接税額控除が全くないかというと、全然そうではなくて、従来はSubpart F所得の合算時に適用されていた、すなわち実際に分配がないにも関わらず、米国株主側でCFCの所得を合算した際の、間接税額控除制度はアップグレードされた形で残っている。なぜ、アップグレードかと言うと、この制度は今後、更に重要性を増すことになるからだ。従来のSubpart F所得に加え、GILTIで、Subpart F所得同様に分配以前に米国株主側で合算させられる所得が飛躍的に増えるからだ。GILTI課税を規定している条文、Section 951Aは税法上のSubpart F規定内に属するけど、GILTIそのものはSubpart F所得ではない。ただ、Subpart F所得に適用されるインフラ、プラットフォームを「流用」して計算法を規定するよう、敢えて条文自体に明記されているし、外国税額控除制度もGILTI導入に対応する形で改正されているので、多くの点でGILTIの処理は既存のSubpart F所得の扱いを踏襲することになる。一方でコンセプト的に異なる部分も多く、ここのすり合わせが規則策定側の主たる検討事項となってるだろう。
GILTIと間接税額控除に関しては、Labor Day明けにも公表が見込まれるGILTI財務省規則案には詳細は盛り込まれないとIRS高官が言っていたので、別のワーキンググループが担当する外国税額控除にフォーカスした独自の財務省規則案パッケージで具体的な運用法が規定されることになるはず。米国ではLabor Dayを迎えると、直ぐにHalloweenが来て、Thanksgivingが来て、クリスマスとなり、大晦日で、新年、と一年がアッと言う間に終わるんだけど、今年の秋から冬は規則案の進展に目が離せない。
またしてもGILTIの話しで興奮(脱線?)してきた感じだけど、今日はそうではなく、留保所得一括課税に対する外国税額控除の話し。
上述の通り、留保所得一括課税が行われる年度は、従来からの配当に対する間接税額控除規定が未だ生きている最終年度となる。したがって留保所得一括課税の財務省規則案は、この2つの規定の相関関係にも言及しているが、ここもまた複雑。
ちょっと、オープニングに時間を使い過ぎて、ビートルズの武道館ライブみたいに、前座の方が本番より長い、なってことにならないよう注意します。で、次回は実際に規則案に規定される留保所得一括課税と外国税額控除、また従来から存在する配当に対する間接税額控除との関係にフォーカスしたい、というかしないとGILTIの規則案が出ちゃうしね。