前回、GILTI合算課税の概念的な部分に触れたけど、じゃあ、それを実際にどんなストラクチャーで実現しようとしているのか、っていうのが今日からの話し。
しつこくて、皆さん(特にEY NYCのタックスチームのみんな(苦笑))耳にタコができちゃんじゃないかと心配だけど、GILTIは米国株主の属性だ。だけど、その算定をする過程でCFC側の複数の数字を利用する。何がCFCレベルで、何が米国株主レベルの算定なのか、っていう点をよ~く考えてアプローチしないと何の話しをしてるんだか分からなくなるし、また、従来のクロスボーダー課税システム下で規定されている項目との整合性とか不整合性が分からなくなる。ここは新しいコンセプトなんで面食らう感じはあるけど、絶対に押さえておかないといけないポイントだ。財務省も同じように感じているようで、GILTI規則案は、算定式を構成する各項目に関して、いちいち「これはCFC側の計算です」とか「これは米国株主側の計算となります」としつこく解説している。さすが従来のクロスボーダー課税を知り尽くしている財務省、IRSの重鎮弁護士チームの執筆だけのことはあり、説明は分かり易い。
まず、GILTI合算課税の対象となる納税者は「CFC」の「米国株主」となる。双方とも税法上で規定されている用語で、ここは従来からのCFC課税であるSubpart F所得合算の定義をそのまま適用することになる。すなわち、米国株主とは米国人(パートナーシップとかTrustを含む)で、外国法人の10%以上の持分を保有する者だ。税制改正以前は、10%保有かどうかの判断は、議決権のみを基に行ってたけど、税制改正後は議決権に加え、価値ベースに基づく判断も必要となった。また、米国株主かどうかの判断時に、以前は適用が敢えてTurn Offされていた「Downward Attribution」もTurn Onされ、加味されることとなった。このDownward Attributionは、外国に居る50%以上の株主が保有する他法人の株式はあたかも自分が全て保有していると取り扱うという厳しい規定だ。これらのことから、米国株主の数、そして間接的にCFCの数、は以前よりも大きく増えることになる。米国株主とかCFCの新定義は、GILTI目的だけではなく、従来のSubpart F所得の今後の合算時にも同様に適用される。
GILTIは米国株主側で算定される「一つ」の所得だけど、その計算は各CFCで始まる。
具体的には、2018年1月1日以降に開始するCFCの事業年度から、各CFCがCFCレベルで「Tested Income(Loss)」という米国税法ベースの金額を算定する。これは各CFCで米国税法ベースの課税所得を算定し、そこから当所得に適切に対応する外国法人税をマイナスした税引後所得を意味する。え~、ってことは200社CFCがあったら、200の米国申告書を作成するようなもの。かなりのコンプライアンス負荷だ。で、このTested Income(Loss)はCFCレベルの算定だけど、これを米国株主が保有する全CFCのTested IncomeとLossの持分相当(Pro-Rata Share)を通算し、ひとつの「Net Tested Income」という金額を算定する。Tested Income(Loss)がCFCの属性なのと対照的に、Net Tested Income(Loss)は米国株主側の属性となる。
このNet Tested Incomeからルーティン所得となる「ネットみなし有形資産リターン(Net Deemed Tangible Income Return = Net DTIR」を差し引いた金額がGILTIだ。このみなし有形資産リターンを差し引いた残りの金額は、事実関係としてどのような所得であってもみなしで無形資産所得と認定される。GILTIという用語の2番目の「I」が無形資産となる理由だ。
で、このNet DTIRという金額は米国株主側の属性だけど、これもその算定は各CFCレベルのQBAIと略される有形償却資産のネット簿価から始まる。これをNet Tested Incomeの算定時にそうしたように、米国株主が保有する全CFCのQBAIのPro-Rata Shareを通算し、それに10%を掛ける。これが米国株主が保有する全CFCのみなしルーティン所得となる。Net DTIRはここからCFC側の支払利息のうち、Tested Income(Loss)の算定時に取り込まれている金額を差し引いて確定する。Net DTIRはGILTIからシェルターされる金額なので、大きい方が納税者としては有利。なので、支払利息で減額させられるのは不利な結果となる。減額に使用される支払利息の例外に、同じ米国株主が保有する他のCFCがTested Income算定時に受取利息として認識している部分があり、この部分は減額は含まないとされる。この部分の計算法に関しては、規則案で簡便法が規定されたので、詳細は後日。
ちなみにQBAIは、プラスのTested Incomeを計上しているCFCが保有する有形償却資産のネット簿価を米国株主側で合算し10%を乗じた金額から特定支払利息を差し引いた金額となる。ここで注意が必要なのは、プラスのTested Incomeを持つCFCの有形償却資産のネット簿価のみが加味される点。一方で、マイナス要因となる支払利息は全てのCFCからのPro-Rata Shareを取り込まなくてはいけない。う~ん、算式としてはチョッと不公平(?)。
で、Net Tested IncomeからNet DTIRを差し引いた金額がGILTIとなり、米国株主はこの金額を課税所得として自分の申告時に取り込むことが求められる。GILTIは一旦全額合算された後、GILTI50%相当額の所得控除が認められる。いきなり50%を合算するのではなく、合算は100%した上で控除を計上する。この想定控除は、GILTIを通常の法人税率21%の半分、10.5%で課税するためのものだけど、課税所得制限があり、常に控除が取れるとは限らない。控除が取れなかったり、制限されてしまうと、CFCの所得はGILTI合算する範囲で、二重課税となり、現地の法人税に加えて、実質、米国で最高21%の税コストが発生することとなる。そんなことになると、現地での税率次第では、今時珍しい50%近い実効税率になったりして恐ろしい。
仮に控除が取れると、概念的にはGILTIには10.5%の米国法人税が課せられることになる。そこから「Tested Incomeに適切に対応していると認められる(「Properly attributable」)外国法人税に、GILTI合算%を掛け、さらにそこに80%を掛けた金額がようやく制限枠前の外国税額控除の対象となる。Properly attributableって概念的には聞こえはいいけど、実際どうやって計算すんの?って感じ。従来の間接税額控除は「Tax Pool」と言って、留保所得も外国法人税も全て累積(=Pool)させておいて、配当があったり、合算課税があったりすると、留保所得に占める課税額の%を機械的にTax Poolから取り崩して控除対象としていた。僕たちはこの方法に慣れている、というかTax Poolの計算しか知らないので、急にPoolingシステムが撤廃されて「Properly attributable」とか言われても面食らうばかり。米国から見たCFCの所得認識は、外国現地の税法と額もタイミングも異なるだろうし、場合によっては課税年度も異なることもある。Poolingはその手の「ミスマッチ」を自然解消させてくれる効果を持ってた素晴らしい仕組みだった。でも「Properly attributable」ではそうは行かない。GILTIバスケットの外国税額控除は法人税が超過となるExcess Creditの場合、繰り戻しも繰り越しも認められないことから、このダメージは潜在的に大きい。頭をTax Poolから切り替えるのに時間が掛かりそうだ。2018年中に公表が予想される外国税額控除に特化した財務省規則案パッケージが待ち遠しい。外国税額控除パッケージはもしかしたら多くの規則案パッケージでも最重要ガイダンスと言ってもいい。
外国法人税のうちGILTIにかかわる部分の80%が税額控除の対象となることから、理論的には、GILTIが合算課税されても「CFCが国外で13.125%(10.5%÷80%)の法人税を支払っていれば、米国では追加法人税が発生しないので安心して下さい」というようにも聞こえるが、それは外国税額控除を大学のクラス初日にモデルケースで学習するようなもの。実際には外国税額控除の算定時には、米国株主側の費用、支払利息、R&D、株主によるスチュワードシップ費用、その他をGILTIバスケットに配賦する必要があるはずで、どんなにCFCが高税率で外国法人税を支払ってても、米国株主側の制限枠の関係で、外国税額控除が10.5全額完全に取り切れず、米国で何らかの追加法人税を負担することになるケースがほとんどだろう。
で、ここからは各項目の算定にかかわる考え方を規則案の規定を中心にもう少し掘り下げて行きたい。