Sunday, October 18, 2020

ピラー1・2ブループリント完成と目から鱗のUnited Nationsデジタル課税提案

ここ数週間、ネット上で「海賊版」コピーが流出していたBEPS 2.0のピラー1・2のブループリント最終版が10月8~9日のIF会議を経て正式公開された。公式バージョンも海賊版と同じで、相変わらず未解決な問題点が残っていると同時に、とてつもなく複雑な規定に仕上がった印象を受けた。次回から何回かに分けて解析しないとね。

それにしてもインターネットがあると海賊版(Bootleg)が直ぐに出回る恐ろしい世の中。ぜひ見てみたいものに瞬時にアクセスできる、っていう立場で考えると便利だけど、秘匿性の高いマターや守秘義務があるマテリアルを取り扱う者にとっては厄介。なんでもすぐにリークされ、白日の下に晒されることになるからね。

インターネットが普及してきた1990年台後半、こんなワールドワイドのネットワークがあれば、メインストリーム・メディアを迂回することができて、もう少しニュートラルな情報収集ができるようになるのかな、と考えてたことがあった。従来からのメインストリーム・メディアはジャーナリズムとは言え、基本ビジネスだから、各ネットワークや新聞がターゲットとしている視聴者プラットフォームに受けるように情報を加工(歪曲?)してあることないことをセンセーショナルに伝えるのが彼らの本業に近い。なんで、大手新聞とかで報道される記事は基本、加工済みのナラティブ、またはチョッと大げさに言えば創作に近い、くらいに考えて読んでおくのが無難。みんなも、自分が専門にしている分野の記事を新聞で読むことがあったら、偏ったViewがそれらしく記載されてるんで驚いた経験とかあるんじゃないかな。僕も、米国税務の記事とか読むと、例えば、GILTIのGILTI控除はループホールで大企業へのGoodiesみたいな記事が記載されてたりして、それはないでしょ、って思ったりするんだけど。最高裁の判決の報道の仕方も同様。

アメリカは憲法の修正条項1条(「First Amendment」)で、言論の自由が保障されている、って言われている。でもFirst Amendmentは連邦や州政府が法律を通じて宗教や言論を制限したり検閲したりすることを禁じる条項で、個人や大衆の行動に直接制限を与えるものではない。憲法で保障される権利とはいえ、無制限じゃないんで、当然判例に基づく制限やスコープ内での話しだけど、今日のアメリカで政府がFirst Amendmentを無視して変な法律を通したり、検閲を敢行するようなリスクは想定し難い。

一方、政府ではなく、一般市民の間の自主検閲というか、法律とは関係ないPeer Pressureはより強いし、自分の思想に反する言動は徹底的に糾弾・中傷する機会はインターネットの普及で逆に増えている。そんなこんなで、自由闊達に異なるViewにかかわる意見交換する環境は逆に以前より後退している感がある。

インフラとしてのインターネット、すなわちオプティカルケーブルやラウターそのものは、当然だけど、コンテンツを選んだりしない。だけど、結局一般人はサーチエンジン、Youtube、ツイッターとか大手ハイテク企業のサービスを介して情報収集・提供することになる。インターネットでは一見、どんな情報でも入手可能なように感じるけど、検索機能のアルゴリズム設定とか、特定ユーザーのビデオコンテンツをブロックしたりする裁量は、実質大手ハイテク企業が握っている。ということはハイテク企業の価値観に基づく情報・言論統制が敷かれていると同様の状況。ハイテク企業を取り巻くいろんな議論は、僕たちが気にしているデジタル・サービス課税よりも言論の自由にかかわる部分の方が国や世界への長期的なインパクトが大きい。結局、我々情報を読解する側の情報評価・識別能力がますます問われてしまう、ということだろうか。

デジタル・サービス課税(DST)

で、何の話しだったかっていうとOECDのピラー1・2のブループリント。正式に公表されたバージョンを見たら、先に海賊版で見たものと同じだったっていうことから、海賊版やインターネットの話しになったんでした。OECDのピラー1合意が緊急課題となっているのは、複数の国が「Unilateral」、すなわち一方的にデジタル取引にDSTを規定しているからだけど、このDST、大概のケースで「グロス」ベースなんで企業がネット所得を認識しているかどうかに関係なく課税が生じる。また「Unilateral」っていう用語に内包される含意は、条約の適用対象となる租税ではない、すなわちCovered Taxではないっていうことで、条約に基づく二重課税排除メカニズムが効かない。企業側から見るとネットで儲かってるかどうかにかかわらず課税されて二重課税の排除もないと単純な追加コスト。想定していたビジネスモデルに問題を引き起こす可能性がある。

でも、DSTって結局誰が負担することになるかっていう点は興味深い。結局DSTを課す国のベンダーに転嫁される可能性が高い。アマゾンの「Seller Central Website」によると英国の2%DSTやフランス、イタリーの3%DSTはSeller Feeに上乗せチャージされると規定されている。

で、制度が各国間で整合性がなく、利益があってもなくても課税が生じ、また二重課税排除メカニズムがない、っていうDSTの弊害を新たな国際法人税課税ルールを策定して解消しようというのがピラー1だ。これらの複雑な問題に対処すると同時に、多くの参加各国の思惑をできるだけ反映させようとしている間に、とてつもなく複雑な規定に仕上がってしまった感がある。OECDやG20の国ならともかく、発展途上国はピラー1や2に対応したり、執行したりできるんだろうか。

目から鱗のUN案

この前のポスティングで触れ始めたUnited Nationsのデジタル課税。その登場のタイミングが絶妙過ぎてグローバル・ポリティクスの真髄というか、大人の世界(?)を垣間見た気がした。これらの点は前回のポスティング「「デジタル課税」絶妙のタイミングでUnited Nations登場」を参照して欲しい。

United Nations案を見て驚愕するのがそのシンプリシティ。その気になれば即日実践可能な暫定措置を提案しているように見える。特にUnited Nationsが利益を代表している発展途上国にとっては、立派な規則でも実践可能か、また容易に税収に結びつくかどうか、っていう点が重要。

その意味でUnited Nationsのアプローチは世界のシステムをOvernightで変えようというような無謀な(?)なインセンティブは感じられず、いつかは5条のPEの定義にデジタルサービスを加える方向とはしながらも、当面はDSTを公認し、条約の一部に加えることで不確実性や二重課税の問題に対処しようとしている。条約が適用される租税となるので二重課税排除が可能となる。

なかなか賢いアプローチで、ピラー1にかかわる大量の検討を読んだ後だったので、目から鱗の提案だった。各国のDST対象はバラバラで多岐にわたるけど、共通ターゲットとして絞り込んでいくと要はオンライン広告が主になる。この時点で、伝統的な事業に対するデジタル課税は緊急課題ではない、っていう認識に至っているようだ。

8月5日に実際に公開されたUnited Nationsデジタル課税案はUnited Nationsモデル条約の12A条「Fee for Technical Services」の直下に、12B条「Income from Automated Digital Services」を新設している。12A条自体、ロイヤルティをカバーする12条のサブセットだけど、ロイヤルティには当たらない「Technical Services」にかかわる対価は、所得源泉地で源泉税を課してもいいという制度。PEがなくても源泉地課税を認めている点、ピラー1のAmount Aに通じる。この概念をそのまま自動化デジタルサービス(ADS)にかかわる支払い全般に適用することでスマートにDST対応しようとしている。

ADSにかかわる新設12B条そのものを語る前に、Technical Services Feeに対する源泉地課税を規定している12A条の先見性にチラッと触れておきたい。12A条は2017年にUnited Nationsのモデル条約に加えられている。12A条の追加の背景として、サービス収入はその受け手が支払い国にPEを持たない限り、受け手の居住地課税のみとなる点を指摘し、コミュニケーションテクノロジーの進化により、他国にPEを構築せずにハイエンドなサービスを提供することができるビジネスモデルには従来のPEに基づく課税は馴染まないとしている。まさしくOECDのオリジナルBEPSアクションプラン1やピラー1の論点だ。

Technical ServicesのFeeを無理やりロイヤルティと位置付けることができれば、従来の条約でも、条約レートに基づく源泉地課税が可能となる。ただ、現存のロイヤルティの定義ではTechnical Servicesに対する支払いをロイヤルティとして源泉地課税するのは無理なケースが多い。そこで12A条を規定して、ロイヤルティ同様にTechnical Servicesに対するFeeに源泉地課税を認めるというものだ。条約だから二国間で12Aを採択するかどうか交渉することができるし、また源泉税率を12条のロイヤルティと同じに設定することで、支払いをロイヤルティ部分とTechnical Services部分に区分けする必要もなくなる。条約内でグロスベースの源泉税を規定することで、利子や通常のロイヤルティに対する源泉税同様、外国税額控除を通じて二重課税を排除・軽減することが可能となる。

この背景で、さらに今回の12B条追加となる。12Aの延長・明確化措置としてTechnical Servicesにかかわる規定をADS Fee全般に適用している。12B条の設計は12A条のTechnical Servicesにかかわるものに類似していて、条約締結国が合意する%の源泉税を通じて源泉地課税が認められる。条約適用租税となることから外国税額控除を通じて二重課税の排除・軽減が可能な点も12A条と同様。

原則、支払いを行う主体が存在する国がADSの源泉地とみなされる。源泉地にPEが存在しない、または存在してもADSのFeeがPEに帰属しない、ケースが12B条が解決しようとしている問題となるので、源泉地にPEがありADS Feeが当PEに帰属する場合には、12B条の適用はなく、従来通り5条・7条でPE帰属事業所得として課税される。

12B条の規定が、12A条のTechnical Servicesにかかわる源泉税規定と大きく異なるのが、ネット申告課税の選択が設けられている点。United Nations言うところの「Qualified Profits」が申告課税対象になるんだけど、この算定法は注目に値する。すなわち、Qualified Profitsというのは、ADS Feeに多国籍企業グループの利益を乗じて、それにさらに30%を乗じた金額となる。ADSにかかわる信頼できるセグメント情報が存在する場合には、グループ全体の利益率の代わりにADSセグメントの利益率を適用することが認められる。いずれにしても、グループ利益率x30%が、ADS Fee源泉地に配賦される超過利益ということになる。OECDが苦労しているAmount Aの「Quantum」に相当する金額だ。簡単に30%とバッサリ決めてくれている。元々何の理論的な裏付けもないんだから、逆に30%とか決めてしまうのが正解かもね。ピラー1との比較で行くと、ピラー1は多国籍企業グループの利益が一定の利益率を超過する部分だけを参照し、さらにそこの上澄み何%かをAmount Aを通じた配賦対象利益としている。12B条ではこのような若干まどろっこしい感のあるステップは踏まずに、単純に利益の30%をグロスのADS Feeに乗じて配賦対象利益としている。良くも悪くも30%っていう数字は超過利益認定の試金石になってしまったね。

さすが発展途上国の声を代表してきたUnited Nationsの提案だけあって、シンプルだし、かつ市場国からしていると即源泉地課税できるっていうメリットがある。ということで、舞台も整ったのので次回はピラー1ブループリント。