Friday, April 27, 2007

三角合併(1)企業再編一般

日本でも「三角合併」、「合併対価の柔軟化」が現実のものとなるというニュースはビジネスに係る方であればイヤでも耳に入っているであろう。米国で長く企業再編、企業買収に係っている者の率直な反応としては逆に「今までなかったの?」というものではないだろうか。三角合併にしても、合併の際に株式以外の対価が用いられることにしても、極一般的なことであるからである。

三角合併の解禁を巡っては外資による買収が容易になるとして警戒する向きもあったり、日本の税務上の規定を考えると心配ないという意見があったりするが、外資であれ日本資本であれ、自分の事業をより高く評価してくれるところがあれば買収してもらいたいと願う株主、起業家も多いのではないかと思う。

既に上場していく企業とスタートアップの状態にある起業では自ずとそのスタンスは異なるが、米国ではエンロンの崩壊をきっかけに、SOX法が制定され上場会社の企業統治に係る法的な環境は今までになく厳しい。そのような環境下で、企業家の夢(=Exit Strategy)は「上場」よりも「高く買収される」という方向に変わりつつある。スタートアップ企業が独自でIPOを果たし、上場企業としてSOX法に準拠するような環境を整えるのは余りに負荷が高い。それであれば上場企業に買収してもらった方がいいと思うのは当然である。再編の激しいハイテク、医療、メディア、通信等の業界ではこのような傾向がしばらく続くのではないかと思われる。日本でもJSOXの整備に伴い同様の現象が見られることもあるであろう。その意味で買収の選択肢が広がる法改正は歓迎するべきである。

米国での三角合併の規定は新しいものではなく、税法上の規定も基本的には整備されて長い。米国での組織再編またはパススルーに対する課税取り扱いを検討する上で、忘れてはいけないポイントの一つに「連邦(Federal)」と「州(State)」の法的な係りがある。米国では基本的に州が国同様の機能を持っており、会社法、商法等ビジネスを行う上で重要となる法律は基本的に州の規定に基づく。したがって、合併、買収等に係る規定も全て州法に基づくものであり、デラウェア州で設立された法人とカリフォルニア州で設立された法人に対しては、異なる法律が適用され、再編の手続きも微妙に異なることとなる。一方で法人税の大きな部分を占める連邦法人税は当然ながら「連邦」法上の取り扱いとなることから、各州で規定された法律に基づいて実行される合併、買収に対して連邦がそれをどう取り扱うかは、連邦法独自の考え方に基づき決定することができる。

米国の企業再編の形態は数多くのバリエーションがあり、州法に基づく合併はそのひとつである。州法に規定された合併の手順を踏むことにより、買収の対象となる企業の「法人格」は消滅し、買収する側の存続法人の一部となる。消滅法人の持つ各資産、負債(オフバランスシートのものを含む)は個々に譲渡の手続きを取る必要はなく、合併の手順を踏むことにより法的に自動的に存続法人に属するものとなる。また、消滅法人が持っている契約関係も基本的に存続法人に継承される。合併が基本的に「資産取得」であるにも係らず、個々の資産の譲渡手続きを必要としないという点、利便性は高い。

企業再編の形態のひとつとして合併を考える際、ポイントがいくつか存在する。まず、合併を遂行するためには、存続法人および消滅法人双方の取締役の承認が必要であるという点だ。消滅法人、すなわち買収の対象となる企業の取締役が買収に賛成していないケースでは合併は成立しない。この点、Tender Offerのように株主が独自の判断で買収に応じるかどうかを決定する株式交換と手順が異なる。取締役の承認を得た合併案は次に消滅法人の株主による承認を必要とすることとなる。存続法人の株主の承認は必要なケースとそうでないケースがある。もちろん合併の局面でも、企業にとって有利な条件の合併案を理由もなく断ることは取締役の受託者義務に反するため、取締役として賛成をしない場合にはそれなりの正当性が必要となることは言うまでもない。

次に、合併が州法の規定により成立する場合、消滅法人の株主の中に例え合併に反対する者がいたとしても、合併後、消滅法人の株式を持ち続けることはできず、合併合意書に定められた対価(例、存続法人の株式)を受け取らなくてはならない。もし、合併に反対した消滅法人の株主が不当に低い対価しか受け取っていないと主張する場合には、州の裁判所に対価の鑑定を依頼し、鑑定結果が実際の対価よりも高くなる場合には差額を買収側に請求できる権利(Appraisal Rights)が存在する。

また、合併により消滅法人の株主が受け取る対価としては「存続法人の株式」が一般的と思われるかもしれないが、実はそうでもなく、実際には「現金」「債券」「優先株式」、またはそのミックスと実に多種な対価を伴うケースが多く見られる。合併の対価が現金となるようなケースでは、形式は合併であるが、実質資産の現金買収と変わらない。

Sunday, April 22, 2007

グリーンカードとアメリカの税金

米国のグリーンカード(永住権)を持っていると、物理的にどこに住んでいるかに係らず、米国の連邦所得税法上は常に「米国居住者」となる。米国居住者という位置づけとなると、米国市民同様に全世界源泉の所得に課税されることとなる。ちなみに米国の市民権を持っていると、物理的にどこに住んでいるかに係らず、所得があると米国で課税される。米国転勤が決まり、ビザの申請をしたら実は米国で生まれたため米国市民権を持っていることが分かり、あわてて過去に遡って確定申告書を提出するようなケースは結構多い。

グリーンカードを持っている場合も同様で、
物理的にどこに住んでいるかに係らず、所得があると米国で課税される。実際に米国に居住し、米国で事業を行っている、または勤務しているようなケースではこの取り扱いに大きな問題はないが、一旦米国外に引っ越してしまうと米国での課税関係が気になるところである。

市民権またはグリーンカードを持っている状態で米国外に住んでいるようなケースでは米国での確定申告は必ず行う必要があるが、実際に大きな所得税を支払うケースはあまり多くはない。これは次のような理由による。

まず、長期に米国外で働くことによって得られる「勤労所得(給与、賞与等の報酬、勤労を基とする自営業収入)」は年間$85,700(2007年ベース)を上限として非課税とすることができる。これは税法の「Sec.911」に規定される非課税措置であることから一般に「Sec.911非課税措置」と知られている。このSec.911非課税措置は雇用の(自営業の場合には事業の)場所が米国外(正確には米国以外の国)にあり、かつ一定期間以上を米国外で過ごしているケースに適用される。ここでいう「一定期間」の判断は「330日テスト」と「居住地テスト」の二つのいずれかにより判断されるが、簡単に言うと少なくとも1年は米国外で過ごしている必要がある。なお、年間非課税枠である$85,700は物価スライド調整されるが、暦年一年間を通じて外国で過ごしていないようなケースでは(年の途中で引っ越ししたようなケース)、非課税枠が按分され減額される点注意が必要となる。

次に、市民権・グリーンカードを持って米国外で働く場合には、通常勤務地でも所得税を支払うこととなる。上述の「Sec.911非課税措置」で勤労所得の全額が非課税となるような場合には米国で支払う所得税がなくなるため二重課税とはならない。しかし、勤労所得が非課税枠を越えるような場合には米国と勤務地の両国で所得税の支払いが生じることとなる。このようなケースで米国の税金を最小限化する手段として有効なのが「外国税額控除」だ。外国税額控除の基本的な考え方は「居住者という理由で全世界の所得に課税されるケースで、課税される所得に外国源泉所得があり、かつ外国で所得税を支払っている場合、居住者課税をしている国に支払う所得税から(限度額の範囲で)外国に支払う所得税を差し引く」というものである。外国税額控除の規定は極めて複雑であることから、その解説はいずれ別のポスティングで改めて行うとするが、ここでのポイントとしては勤務地で支払う所得税の実効税率(最終的に支払う税金を所得額で割った%)が少なくとも米国所得税の実効税率(通常は20%から30%程度)と同様であれば、外国税額控除を利用することにより米国の所得税の支払いはゼロに近くなるということである。

Sec.911非課税措置は2005年度までは年間非課税枠を上限に勤労所得を非課税とするという分かり易い規定であったが、2006年度に立法された「$70 Billion Tax Package」法により、非課税とすることに変わりはないが、他の所得に適用される累進税率を決定する際には、Sec.911にて非課税となっている金額をも加味するという納税者に取って不利な内容に改定されている。この変更の結果、以前は非課税となる金額の税効果は「非課税額 x 限界税率(該当納税者に適用される累進税率のトップ%)」で実現されていたものが、改定後は「非課税額 x 累進税率の一番低い%」でのみ実現されることとなる。勤労所得が非課税枠を越えず、他に大きな所得がない場合には影響はないが、そうでない場合にはかなりの増税となる。このことから場合によってはSec.911非課税措置は適用せずに外国税額控除のみの適用で米国所得税の申告を行うようなケースが発生している。

いずれにしても、勤務地で米国同様の%で所得税を課せられているケースでは米国で追加の所得税を支払うことは少ない。したがって、グリーンカードを持ったまま日本に帰任する場合で、年収$85,700(2007年ベース)というSec.911の非課税枠を超えるような水準の所得を得る納税者に対してはそれ相当の所得税が課せられるため、外国税額控除を利用することにより米国で所得税を多く支払うようなことにはならないはずだ。


このことから、日本のようにある程度の所得税が課せられる国に住んでいるケースでは、実質的にグリーンカードを持っていることに係る税金関係のコストは、申告作業に費やす時間・申告書作成代となる(Sec.911非課税措置にしても、外国税額控除にしても申告書を提出して初めて計上できるものであり、申告作業は避けて通れない)。一方で、香港、カリブ海諸島のような所得税がない、またはあっても税率が低い国に住んでいるケースでは、一旦所得が非課税枠を超えるとかなりの持ち出しが発生することになる。

追加で米国に税金が発生する、または申告自体が面倒だ、といったケースではグリーンカードを放棄してしまおうと考えることが多いのだが、長期的にグリーンカードを持っていたケースでは場合によっては簡単に非居住者に戻れないことがあり注意が必要となる。一旦、米国課税権の網に掛かると容易にそこから脱出できないような設計となっているが米国税法の規定である。米国法人が「国外逃亡」するケース、米国法人の海外子会社(CFCと呼ばれる)がCFCでなくなるケース、等と同様に、長期グリーンカード保有者が米国と縁を切ろうする際には何かと面倒な手続きが必要となる。この点に関しては別のポスティングで詳しく述べることとする(2007年7月6日に2回のポスティングに分けて記載)。

なお、上述のグリーンカード保有者に対する取り扱いはあくまでも「連邦」所得税上のものであり、州の所得税の取り扱いは全く別となる。米国では基本的に州が国同様に独自の法律を制定していることから、一概には言えないが、グリーンカードを持っていても州税の取り扱いには直接影響がない。一般的に州税の取り扱いを決定する上で重要となるのは「その州に戻ってくる意図がある(法律的に言うとDomicileが州に残っているか)」かどうかという点である。




Friday, April 20, 2007

はじめに

ここ一年ほど、複数の方からアメリカの税務・税金に関して専門的にかなり突っ込んだ内容のブログを立ち上げてはどうかというご提案を頂く機会があった。常日頃から個別の案件に関して会計士・弁護士の立場としてアドバイスを与える機会は多いが、それらの検討事項を広く一般に公開する機会は今まで持ったことがなかった。4月の申告シーズンも終わり、ここにようやくブログを立ち上げることができた。当ブログでは日本企業、個人がアメリカで事業・勤務に従事する際に関連があると思われる税務問題を特集していきたい。言うまでもないが、実際の適用に関しては個別の事実関係を基に必ず専門家の意見を聞く必要がある。