Sunday, July 17, 2016

完全に「肩透かし」だった過少資本税制公聴会

ここ数ヶ月、注視が続く財務省による過少資本税制規則案。その挑発的かつ過激な内容から動向が注目されているが、7月7日に規則案に対する納税者側からのコメント提出が締め切られ、7月14日にはついに待望の財務省による「公聴会」がDCで開催された。規則案に対しては納税者ばかりでなく議会の強い反発もあり、最終化するのかしないのか、するのであればそれがいつなのか、規則案の内容がどれ程緩められるか等、公聴会には少しでも現状を確認したいという専門家集団が集結した。

DCの会場は200名近い参加者があり、会場は満員御礼状態。会場には納税者側の代表ばかりでなく、財務省、IRSの重鎮も紛れていたとされる。しかし、3時間に及ぶ質疑応答は実質、質問のみで財務省側からの意味のあるコメント一切なかったと伝えられ、参加者は公聴会直後に一同に失望感を表明している。

基本的な公聴会のダイナミクスとしては、参加者より、このような越権行為とも思われかつ経済的なインパクトの大きい規則は即刻廃案とするべき、またはどうしても最終化したいのであれば、大幅な改訂をした上で十分な準備期間を与えるべき、という趣旨のコメントが殺到し、それに対して財務省はノーコメントを決め込むというものであった。

参加者のコメントおよびメディアレポートによると、IRS法人税部門の准主任弁護士のAustin M. Diamond-Jonesによる極めて事務手続き的な開会宣言の後、財務省による発言はたったの3回、そのうち2回は納税者の質問に対して「あなたの質問は文書によるコメントに含まれてますか?」というようなしょうもないものだったということ。残る1回は規則の適用開始が一部(いわゆるFunding規定の部分)、規則案が最終化される以前の2016年4月4日(規則案の公表日)に遡る点が法律違反ではないかという趣旨で突っ込まれた際に、財務省側が「Funding規定が嫌なら最終化の後90日以内にグループ内ローン形態を補正する機会があるのだから十分な猶予期間が設けられている」と反論したものだけであった。

今回の規則案の内容がSection 385下で財務省に与えられた権限を逸脱するものであるという主張に関しては以前のポスティングで散々触れているが、公聴会でもこの点に対するアタックは再三行われた。規則案は全120ページだが、そのうち80ページが前文で、その前文の多くがなぜ財務省にこのような規則を規定する法的権限があるかという点が延々とSection 385の立法趣旨に基づいて説明されているものだ。80ページ使って法的権限を説明する必要があるという事実関係1つとってもその権限は怪しいと見るのが妥当だろう。その際に拠り所となるはずの立法趣旨だが、前文に記載されている議会の立法趣旨部分に都合の悪い部分が引用されていないと公聴会で納税者側からの質問で指摘されている。ますます怪しい感じだけど、この点を訴訟で争うには以前にも書いた通り、まず納税者側で追徴等の被害にあって当事者適格(Standing)を得、その後、訴訟に持ち込む必要がある。Appeal等のプロセスを考えると10年単位の気の長いプロセスだ。

また、別の切り口として、財務省がいかにInversionを敵視しているかは理解できるとしても、過去3年間にInversionした米国法人の数はたかが67社にしか満たない一方で、今回の規則案で影響を受ける法人の数は米国企業で2,000社以上、元々米国外のMNCに所有される米国法人に至ってはナンと27,000社、と財務省側の受けるダメージとその対策の与える負担間の不合理なミスマッチが指摘され、その付帯的な損害の大きさが白日の下に晒されることとなった。また、商務省が懸命に米国へのDFIを誘致している戦略に真っ向から対立するである点も指摘され、省庁間の連携の悪さも示唆された(これはどこの国も同じだけど・・)。

公聴会で唯一見えた実質的な規定にかかわる方向性は、以前から改訂が予想されているCurrent E&Pの例外が前年度のE&PまたはEBITDAベースとなる点、またCash Poolingの文書化が若干軟化される点、に加えてFunding規定にかかわる反証不可の推定事実認定期間が72ヶ月から24ヶ月に短縮されるような可能性がある点だろう。

公聴会が終ってみると、結局何も新しい情報は明らかにならず、9月前後の最終化を何が何でも目指す現財務省の頑なな態度だけが印象付けられるものとなった。規則案の公表と同じように最終規則も抜き打ちでいきなり発表して、みんなをビックリさせるのを狙ってるのかもね。

Sunday, July 10, 2016

過少資本財務省規則を巡る議会と財務省「Showdown」

Inversion財務省規則の一環として制定されながら、実はInversionなどしていない企業にとてつもない負荷を課す結果となるSection 385(過少資本税制)の規則案が公表されてから早くも3ヶ月半。ちょうどInversionに関して延々とポスティングしていた最中に絶妙のタイミングで発表されたこともあり、規則案の内容そのものに関してはそこで何回か速報的に触れた。この規則案、その物議を醸すというか、挑発的というか、過激な内容からその後の展開も期待を裏切らないドタバタ劇となっている。

今後の公式なタイムラインとして分かっているのは、納税者側が七夕様の7月7日を期限として規則案に対するコメントを財務省に提出、7月14日には財務省主催の公聴会が行われるという2点。規則案の広範かつ複雑な内容から、公聴会の日程自体に無理があるとして延期を求める声もあったが、何としても早期に規則を最終化したい財務省により予定通り決行となった。

その間、規則案の内容また財務省の強引なやり口に対しては、納税者だけでなく米国議会からも強い批判の声が上がっている。米国議会は基本的にInversionには反対の立場なのだが、2004年のAJCAにてSection 7874を制定して以来、この分野に新たな規制は導入していない。今回、財務省が越権行為とも言える、しかもInversionだけに対象が限定されない規則案を電撃的に出したことに不快感は隠せず、特に共和党議員からは強い反発が起こっている。米国議会は不思議なもので、BEPSに関して財務省がCbCRとかを進めた際も財務省に余計なことはするな、的な叱責をしていた。今回も公式な書簡を送りつけて抗議している。納税者から見ると頼もしい限りだが、だったらアップルの社長を呼び出して公聴会で攻め立てたりしているのは単なる劇なのか、チョッと何をしたいのか分からないところがある。

議会の反発は強く、ついに共和党議員の中にはSection 385財務省規則を法的な措置で無効にするという勢いも出てくる始末だ。これは実際に三権分立的には十分に可能な措置で、現に以前にも議会の意思に反する形で財務省が規則を策定しようとする際に「Moratorium」という形で、議会が規則の効果を停止することがあった。今回もテクニカルには不可能ではないが、議会でMoratoriumのような法案を通すこと自体時間が掛かるプロセスなので、規則最終化・施行への秒読みに入っている現段階では実務的には難しいのではという見方もある。

一方、現財務省の味方であるはずの民主党議員からも今回の規則案を財務省の言う通りの内容、タイミングで最終化するのは「さすがにチョッと・・」的な感覚もあり、せめて施行を遅らせる、または施行後の適用に移行期を設けてはどうか、という提案もある。また、Inversionとは関係ない通常の納税者、また一定の業種、に予期せぬ悪影響が予想されるので、規則の適用例外を拡大するべきだという意見も民主党からも出されている。ただ、基本的に、両党の反応は極めてParty Lineというか党派色が強く、民主党的には新しい大統領となる前に改訂を加えてもう少し現実的な内容とした上で最終化したく、共和党的には潰したいというものだろう。

7月6日に、議会と財務長官がミーティングを持ち、意見調整を行ったが、財務省のスタンスは微動だにしない状態が続いたようだ。財務省は議会からの不満の声にも耳を貸さず、7月7日までに受け取るコメントを粛々と「Hard Look」で検討するという対応のみで、9月初旬のLabor Day前後の施行を本気で目指している感じだ。財務省のお馴染み国際税務副次官補のRobert Stackは「規則案は特に複雑な規定ではない」とか「そもそも納税者に金利を自由に損金算入できる権利でもあると勘違いしている方がおかしい」とか言い放っているし。

納税者から見ると大変な負担を強いられるので戦々恐々としている状況だが、規則案にはチョッと笑ってしまう統計が記載されている。省庁による余計な規制を牽制するための「Paperwork Reduction Act」という法律が米国には規定されている。これは財務省を含む省庁が一般市民に申告書を出させたり、情報提供を強要する際に、どれだけの負担が米国市民、納税者に課せられるかを行政予算管理局が管理するというような法律だ。この法律自体がPaperworkを増やしているような気がしないでもないが、趣旨は立派なもの。このPaperwork Reduction Actの一部に、省庁による規制によりどれだけの負担が米国市民(IRSの場合には納税者)に課せられるのかを推定すること、という規定がある。この推定はなかなかいつも非現実的で楽しめるんだけど、今回のは凄い。

財務省の推定によると、規則案は21,000社に影響があるとし、納税者側で使う対応時間はナンと年間でたった35時間、計735,000時間としている。何と言う過少評価。

規則案の内容は、発表当初から従来の過少資本税制のアプローチを大きく逸脱している(特に1.385-3の規定が)という意味で世間を騒がせてくれているが、規則案を吟味すればする程、いろいろな問題点が浮き彫りになりつつある。

指摘されている代表的な疑問点、問題点に、Leveraged Dividend等、財務省が気に入らない取引、すなわちそのような取引を手形で行ったり、関連者間ローンでFundingしていると、ローンがEquityになるという規定の例外として、そのような取引が「Current E&P」の範囲だったらOKというものがある。米国でCorporate Distributionが配当となるかどうかの検証に携わったことのある人なら分かると思うけど、Current E&Pという金額は期中に決定することはできず、分配がいつ行われるかにかかわらず必ず期末まで待ち、年間の数字を基に決めなくてはいけない。となるとCurrent E&Pの例外が使えるかどうかは分配、組織再編時点では不明となる。そんな状態ではこの例外はほぼ役に立たない。草案時点で普通気付かない?って思うけど、この点に関しては財務省も「確かにそうだ・・」的な感覚はあるようで、前年度のE&PまたはEBITDAに変更が予想されている。ただ、どちらのケースでも後から移転価格などの調整で数字が大きく変わる可能性もあり、納税者としては使い勝手の悪い例外規定となる。

また規則案が適用されるローンは「Extended Group(EG)」内のものとなるが、このEGが連結納税グループを規定するSection 1504を拠り所に、それに外国法人、Non-Profit、S法人などを定義に加え、かつみなし持分を適用する形で、定義されているのも分かり難い。一層のこと、Section 1504ではなく、Section 1563のControlled Groupを拠り所にした方が元々の条文に対する変更が少なく済むのではないか、と思われる。EGの規定にS法人が入っているので多くの同族会社が対象になり兼ねない。また1つのローンを一部だけEquityとみなすBifurcation目的ではEGグループの定義が80%ベースではなく、50%ベースに引き下げられているが、それにS法人の絡みも考えると数限りない同族会社、私企業がこのルールに抵触することとなる。

それにしてもムキになっている財務省と議会。果たしてどのようなLabor Dayを迎えることになるか。その様子は7月14日の公聴会で少し明らかになるかも。