Sunday, September 19, 2010

進化するLLC(Series LLC)

デラウェア州はCutting Edgeの会社法を整備することで知られている。特に上場企業の取締役に課せられる「受託者義務(Fiduciary Duty)」の考え方、企業買収の際の会社側の取るべき方向、等に関しては豊富な判例があり(例えばレブロンDutyとか、近年であればLock-upがチョッとし難くなったオムニケアとか)、デラウェア会社法は世界をリードしている。一般的には会社側にとって柔軟な規定が多く、米国の上場企業の半分以上がデラウェア州で設立されている。

たまに日本企業が米国に進出してくる際に、デラウェア州に現地法人を設立すると州税が節約できるのでは、という質問を受けることがあるが、州税は設立州がどこかに係らず、事業を行なう場所で支払う必要があるので、州税を理由としてデラウェア州を設立州として選択しても効果はない。デラウェア州の魅力は何と言っても先進的な会社法にある。

そんなデラウェア州で、また最先端を行く事業主体形態が誕生して進化している。「普通の」LLCが進化した「Series LLC(シリーズLLC)」という事業形態だ。

今ではすっかりお馴染みのLLCだが、LLC自体はデラウェア州で誕生したものではなく、1977年にワイオミング州で成立したLLC法がその起源となる。その後80年代後半に、IRSが一定の要件を整えたLLCをパススルーと認める通達を出し、1990年代に入って急激に普及した。さらに1997年には「Check-the-Box」ルールで、LLCのパススルー扱いが容易かつ確実に達成できるに至り、LLCの事業主体としての地位は確立された。

LLCを事業主体として選択する大きな理由は、「税務上のパススルー扱い」と「出資者の有限責任」の双方を兼ね備えている点にある。有限責任に関しては出資者がLLCの経営に関与しても問題なく(この点でLPよりいい)、また出資者側の資産差し押さえの際にはCharging Orderのコンセプトが適用されるケースがあり(いわゆる「Outside Liability」に係るプロテクションの話し)、ある意味で株式会社よりも資産保全が充実しているとも言える。企業統治法も弾力的だ。

したがって上場予定のない米国内の事業主体としてはベストな選択だ。上場をすると基本的にはパススルーの扱いは認められない(この点に関しては2007年6月8日の「ブラックストーンはパートナーシップとして上場」を参照)。ただし、日本企業が日本から「直接」保有する現地法人を株式会社の代わりにLLCという形態で設立するのは必ずしもメリットがあるとは限らず、租税条約の影響を含めた詳細な検討が必要だ。

LLC自体画期的な事業主体だったのだが、上述の通り、ここに来てデラウェアLLC法下で「Series LLC」という事業形態が誕生・普及している。この形態は、一つのLLCの中にSeries(またはCell)と呼ばれる「ミニLLC」が組成できるというものだ。

「なんだ支店じゃん」と思われる方も居ると思うが、このミニLLC、実は一つのLLCの中に組成されながらも個々のメンバー構成を持つことができたり、独立した権利関係をを持ったり、そして極め付けにミニLLC間で負債の弁償責任がない(= ひとつのミニLLCで発生した負債は同じミニLLCの資産をもってのみ弁償される)というかなり好都合な特徴がある。すなわち、実質個々のミニLLCが別々のLLCのような効果を持つ。

実際には一つの親LLCに中に組成されているため、複数のLLCを組成するのと比べてコストが低いというメリットもある。

このSeries LLCの税務上の取り扱いに関してこの程IRSが暫定財務省規則を発表した。次回はSeries LLCと税務の関係に関して触れてみたい。

Wednesday, September 1, 2010

D型再編とBoot

前回久々にハードコアなSub Cの話し(F型再編と事業継続要件)をしたついでに、もうひとつSub Cの話しをしたい。今回はD型再編で使用される現金対価(=Boot)が配当となるかどうかの判断をする際のE&Pの考え方に係るものだ。

*D型再編

D型再編というのはA型やC型同様に資産取得型(B 型のような株式取得型ではなく)だが、基本的にグループ内の再編に適用されるということ、場合によってはIRS側がD型再編を認定したがることがあること、持分継続の考え方がA型やC型と異なるため、株式以外のBoot(例、現金)を対価として使用し易いこと、などの点で特殊な非課税再編だ。

持分継続に関してはA型でもかなり弾力的だが(株式対価が40%あれば安全)、D型は更に凄くて「All Cash D」と言って、再編の対価が全て現金でもD型再編となり得ることがある。

*非課税再編とBoot

非課税再編の際に現金等のBootが利用されると、株主側でその現金をどのように取り扱うかという検討事項が発生する。まず、非課税再編で受け取るBootの基本的な考え方だが、Bootを受け取っても株式売却益(再編で手放すこととなる株式の含み益)の範囲でのみで株主は課税される。すなわち、非課税再編となる限り、どれだけ現金を受け取っても、株式売却益の範囲でのみで課税される。Bootの受け取りをキャピタルゲイン的に考えればこの点は納得がいく。

一方でBootの受け取りが実態として配当に近いケースもある。この点に関してはSec.356(a)(2)があるので、実質的に配当同様の効果を持つ場合には配当として処理される。どのようなケースが配当に当たるかに関しては株主の持分低下がどれほどのものかをお馴染みSec.302の考え方で図る。その図り方は最高裁判所のケースである「クラーク」の判例で明確にされている。

D型再編はグループ内再編であるからBootの受け取りは配当となることが多い。再編がらみのBootが通常の配当と比べて有利なのは、配当扱いされる金額は、上のキャピタルゲイン見合いのケース同様にあくまでも再編で手放す株式の「含み益」を上限としてのみ配当となるという点だ。これは一般に「Boot within Gain」と呼ばれる規定で、All Cash Dなどを利用して非課税で株主に現金を渡すプラニングに大いに利用されている。濫用が目立つことから、配当見合いとなる場合にはBoot全額を配当所得とするべき、という税法改正案が議会で審理されている(この点に関しては2009年11月11日のポスティング「All Cash D再編とオバマ国際課税改定」を参照)。

*誰のE&Pを見るか

米国では会社法上配当であっても、税務上は配当を支払う法人のE&P(税務上の剰余金のような考え方)の範囲のみで配当となる。

D型再編でBootを受け取り、手放した株式に含み益があり、したがってその範囲で配当となる場合に、再編のどの法人のE&Pを基に配当金額を決定するべきかという検討事項が発生する。一般的な取引であるにも係らず、この点は長らく専門家の議論の集中するところだ。IRSは再編のターゲット(消滅す方の法人)と存続法人の「双方」のE&Pを基に考えるべきというポジションを取っている。今回、公表されたCCA(Chief Counsel Advice)201032035でもIRSはこのポジションだ。

一方、専門家の間にはなぜ存続法人のE&Pまでも加算しなくてはいけないのかを疑問視する向きも多い。

*法律改正間近?

現時点では今回のCCAの決定、過去の同様のIRSのポジションは単なるIRS側の主張であり、その気になれば法的にチャレンジも可能であるが、上述の「Boot within Gain」の撤廃が法律化される暁には、双方のE&Pを取り込むべきというIRSの主張がそのまま法制化される可能性が高い。

ちなみに通常はE&Pは累計とCurrentのどちらかがあれば配当だが、確か、再編のSec.356目的では累計のE&Pのみを見ると理解している。