Sunday, February 15, 2009

海外からの配当非課税米国版の「顛末」

日本では海外子会社からの配当金が4月から非課税となる方向だが、米国でも時限措置で一年間(暦年課税年度の場合には2004年または2005年の選択)、海外子会社からの配当を85%非課税とする選択が可能であった。今回の日本の税制との簡単な比較は「2008年5月24日のポスティング」を参照して頂きたいが、米国の制度が日本のものと際立って異なるのは通常の配当ではない多額の配当を米国に戻し、その資金を「米国での雇用・投資を促進する目的に使用される必要があった。

以前のポスティングでも触れた通り、具体的には「米国投資案(Domestic Reinvestment Plan)」というトップ経営陣に承認され文書化されたプランに基づき配当された金額が米国での雇用、従業員教育、設備投資、R&D、雇用創出のための企業の財務体質強化、等の目的に使用される必要があると規定されていた。また、配当を経営陣の報酬に回してはいけないという規定も設けられていた。

しかし、現実には賢い米国企業に裏をかかれ、立派なプランに基づいて非課税で資金は戻ってきたが、実際には米国の雇用、投資にプラスの効果をもたらすような使われ方はしていない、というデータが民間では実しやかに語られていた。

*ついに議会が質問書発行

米国企業がちゃっかりとラッキーして非課税で資金を米国に戻した点に関するコメントは従来はあくまでも民間の非公式なものであった。それがここにきて遂に議会が動き出した。具体的には上院の「Permanent Subcommittee of Investigation」という委員会が2004年または2005年に非課税措置を利用して資金を海外から資金を戻した米国企業に対して「厳しい内容」の質問書を送り付けたのだ。

質問の内容はかなり直接的だ。「Domestic Reinvestment Plan」のコピーを同封して、そのプラン通りに事が運んだのか、プランから逸脱した行為がなかったか、資金がどのように使用されたか、2002年から2008年の従業員数の推移、同期間のR&D支出金額の推移、同期間の自社株式買戻し詳細、同期間の役員報酬の推移、2005年から2008年の借入金返済詳細、等ビシビシと続く。

そして極めつけは「非課税で受け取った資金がどのように米国の雇用、R&Dの増額に寄与したか具体的なデータに基づいて説明せよ」と締めくくられている。非課税で資金を戻した企業が今回の不況より相当前にレイオフを繰り返していたという報道もあり、企業によっては返答に苦慮するようなケースもあり得るが、その辺は創作文章力に富む米国企業なので表面的には「なるほど・・・」と思わせる回答となるだろう。どこまで議会側が表面的な回答の奥まで突っ込みを入れることができるかが真相解明の鍵となる。

*米国企業は非課税措置が病みつきに

米国議会ではおりから景気刺激法案が審理されていたが、このタイミングで質問書が発行されたのは偶然ではない。実は今回の景気刺激策に2004年同様の非課税措置を盛り込むべきだ、というロビー活動がかなり活発に行なわれており、現実に上院では盛り込むかどうかの投票にまで至っている。

しかし、ロビー活動を必死で行なっていた企業の中には2004年の非課税措置で実際には雇用もR&Dも増やさず、株主や役員にその恩典を間接的に回しラッキーしたのではないかと思われるところも含まれているとみる向きがあり、実際には今回の景気刺激策には盛り込まれていない。

その審理の過程で実際に何が起こったのかを見極める必要がある、ということになった。また、2004年時の法審理の際に議会の意思として「これは一回きりの特別措置だ」という記述があり、その点も再登場のネックになったと言われている。

一方で米国企業は甘い汁を一度吸った感覚が忘れられず、「一度あったのだから又ある」という期待を持っているだろう。結果として、米国への資金還流を促進する目的で制定された2004年の法律が、その時限効果が消滅した後は、次の時限立法を待つことで資金を海外に滞留させるという逆効果を持つようになってしまったようだ。また、いかにグローバルベースでの税負担を低く海外から資金を戻すかというプラニングに対する許容度が高くなり、以前よりもアグレッシブなストラクチャーが目立つような傾向にあるという話もある。

そんな中で日本が無条件で海外子会社からの配当を非課税にするというのはとても興味深い方向性であるといえる。

Saturday, February 14, 2009

景気法案可決 - でもNOL繰戻は期待外れ

オバマ政権成立後、僅か数週間で合意に達した「Stimulus Package(景気刺激策)」だが、その中身はここ1~2週間の間に展開された上院・下院、民主・共和両党の「凄まじい」駆け引き、交渉で二転三転した。

中でも日本企業的に一番ダメージというかショックが大きいのは繰越欠損金(NOL)の繰戻規定の大幅な後退であろう。

*一時は全ビジネスに10年の繰戻という話しも・・・

このNOLの繰戻だが、通常は2年間認められている。したがって、2008年にNOLが発生する場合、2006年および2007年の課税所得額がNOL額より大きければ全額を吸収することができる。実際にはAMTの算定目的で使用できるNOLがAMT課税所得の90%に限定されていることから、若干の税金を残して還付を受けることになる。

自動車会社の業績に象徴される通り、多くの米国企業が2008年に「空前」のNOLを計上することが確実となっている。となると、2年間の繰戻期間ではとてもNOL全額を吸収することができない。さらに資金繰りが悪化している企業がほとんどであることからNOLの「現金化」はまさに米国企業にとっても生命線となる。

そこで検討されてきたのがNOL繰戻期間の臨時延長である。一時は10年間の繰戻が認められるという噂も流れ、期待が高まっていた。

*5年間の繰戻と10%減額

しかし、景気刺激策の内容が明らかになるにつれ、10年という話しはなくなっていった。5年という期間で規定が具体化されてきたのである。「まあ5年でもいいか」というのが大方の見方であった。

2008年に多額のNOLが発生し、繰戻で吸収できないとなると当然残りは繰延となる。2008年の業績が最悪であり、かつ景気回復の見込みの全く立たない状況で、将来の繰越に係る税効果資産を認識するのは難しい。となると繰戻の延長が規定されれば、その時点(暦年であれば第一四半期)でNOLの資産価値(繰り戻しによるReceivable)を認識することができる。ということで繰戻5年の規定成立を待ち焦がれているケースは多かった。

下院で審理が進むにつれ、5年の繰戻に尾ひれが付くこととなった。5年の繰戻を選択するとナントNOLの金額が「10%減額」になるというのだ。チョッとセコイ気がしたが「それでもしょうがないね・・・」というのが率直な感想だった。

*期待の上院も・・・

そこで頼もしく登場したのが上院であった。当初の上院バージョンではNOLを5年繰り戻しても10%の減額は盛り込まれていなかった。「上院バージョンで最終化しますように」と祈っていたのも束の間、話は変な方向に行ってしまった。

*なんだこれ?

景気刺激策の財政的なコストを下げるために両院であれこれ調整している間にNOLの5年繰戻はとんでもない方向に行ってしまった。ナント5年間の繰戻が認められるのは過去3年間平均の年間総収入(Gross Receipt)が1500万ドルを超えない事業主体のみと規定されたのだ。

この1500万ドルの算定には、50%超の資本関係にある「Control Group」(通常のControl Groupは80%以上の資本関係だがNOL繰戻規定下では50%超が基準となる)が「ひとつの事業主体」と取り扱われるためチョッとしたサイズの日本企業米国子会社は簡単に超えてしまう。つまり5年間の繰戻は使えない。

NOLの繰戻を規定している部分の法タイトルも「Small Business Provision」(小規模事業規定)となってしまっており、その名の通り小規模の事業のみが恩典を受けることとなった。

今回の景気刺激策に盛り込まれた税法改正はBonus Depreciation等他に恩典を受けることができそうなものもあるが、注目度一番のNOL繰戻が空振りに終わってしまったことから、多くの日本企業にとっては肩透かしをくった感は否めないだろう。

Sunday, February 1, 2009

長官候補とタックス・スキャンダル第二弾(2)

前回から触れているオバマ政権の長官候補であるDaschle氏の税金問題を続ける。今回のタックス問題は技術的には1)フリンジ・ベネフィット課税、2)Form 1099MISCの金額報告漏れ、3)不適格な寄付金、の3つに区分されるが、フリンジ・ベネフィットに関しては前回触れたので今回は他の二つに触れる。また最後に修正申告のタイミングに関して考えてみたい。

*Form 1099MISC金額漏れ

Daschle氏にリムジンの供与を行なっていた個人が社長を務め、Daschle氏自身が「Advisory Board」を勤めるPE Fundsは、Daschle氏にBoardの報酬として年棒$1,000,000を支払っていた。そのうちの一月分である$83,333が未申告となっていたということだ。未申告の直接的な原因はPE Funds側が報酬をIRSに報告するために作成するForm 1099MISC(従業員の受け取る源泉徴収票のようなものだが、従業員ではないので源泉徴収はない)から一月分の金額が漏れていたからというものだ。

支払い側としては正確な金額をForm 1099MISCにて報告する義務があるのはもちろんだが、納税者側としてはForm 1099MISCの金額に係らず、正しい金額を申告する必要がある。Form 1099MISCはあくまでも報告義務に係る問題で、そこの金額が間違っていても報酬を受け取る側の申告義務は変わらない。例えば銀行からの利子所得はForm 1099INTで報告されてくるが、報告の有無または金額の正確性は銀行のIRSに対する報告義務に係る問題であり、1099INTが来ても来なくても納税者側には利子所得を報告する義務があるのはもちろんである。

ただし現実的にはForm 1099MISCに準拠して申告書を作成してしまうケースは多いだろう。それ以外に正確な年収をパッと把握する書類がないようなケースでは特にだ。。今回のケースでは年収が$1,000,000という丸い数字であったことから検証は容易であったのではないかとも思われるが。

*不適格寄付金

米国ではNPOその他の慈善団体に寄付をするのはとても一般的なことであるが、寄付が税務上に費用となるかどうかに関してはいろいろな規定がある。その中でも最も重要なのは、寄付を行なう先が税法に規定される「適格団体」であるかどうかだ。この適格団体は「米国の団体」に限定されていることから、日本人派遣員のケースでは、日本の団体に寄付をしても費用化は認められない。

Daschle氏のケースだが、一部の寄付金控除に関して、イラク兵士に係る寄付金をしていたが、よくみたら寄付の相手となる団体が適格団体ではなかったというものだ。確かにいろんな団体がありどこが適格となるかは分かり難いが、IRSのウェブサイトのリンクとかで調べることが可能であり、多少ずさんな感は免れない。

*修正申告のタイミング

上の3つの項目を修正することにより過去3年分合計で$140,000以上の税額(利息込み)を支払ったということだ。オバマ政権側のディフェンスとしては「IRSからの連絡があった訳でもないのに自ら修正申告書を提出しているのだから清く正しい」ということなのだが、実際に修正申告書が提出されたのは、Geithner氏のケース同様、Daschle氏が長官候補として白羽の矢が立てられた後というタイミングであった。長官の指名確認プロセスでは厳しい身元チェックが行なわれ、確定申告内容も当然精査されることになるのは百も承知であったであろうことから、今回の指名がなければ修正されていたかどうかは微妙だ。

リムジンの提供に関しては「課税かな~とも思ったがお抱え会計士が処理してくれていると思ったし、金額もこんなとは思わなかったし・・・」というようなコメントがあったと報道されている。サービスの享受なので、銀行口座等を見ても分からないだろうし、会計士側も知らなかったのではないだろうか。技術的にはこのような便宜を提供している側にみなし報酬としてForm 1099(雇用関係がない場合)またはForm W-2(雇用関係がある場合)による方向義務があったと考えられる。Form 1099ナシの状態で会計士側でこの所得の特定をするのは困難であっただろう。

先のGeithner氏のケースでも慌てて修正をしていたことで「悪者感」が出ていたが、今回はそれに加えて「おいしい待遇」の享受を事の発端とするタックス問題であることから、今後の審理もより厳しいものとなるだろう。

長官候補とタックス・スキャンダル第二弾(1)

財務長官候補に指名されていたGeithner氏(後に指名確定)に年金未納問題が発覚していたことは1月17日のポスティングで触れたが、今度はHealth and Human Services(何て訳されているのかしらないが「厚生省医政庁」みたいな感じ?)の長官候補に名前が上がっているDaschle氏に係るタックス・スキャンダルが広く報道されている。

オバマ政権下で米国の医療保険システムを見直すという大役を仰せつかる長官候補だけに倫理感と透明性を掲げる同政権としてはチョッとイメージ的に頭の痛い問題だろう。しかも、前回のGeithner氏の場合にはIMFと社会保障税というどちらかと言うと地味めな設定下での話しであったが今回のDaschle氏のケースはもう少し設定が派手だ。

Daschle氏に係る報道を読んでいると、どこの国でも政治家というのは本職以外でいろいろと儲かる機会が多いんだな~っていう、そんな「おいしい」アレンジの実態を垣間見ることができる。それだけに今後の審理過程でGeithner氏のケース以上の突っ込みを入れられることは間違いないだろう。

今回のタックス問題は技術的には1)フリンジ・ベネフィット課税、2)Form 1099MISCの金額報告漏れ、3)不適格な寄付金、という区分される。下で各々の項目に関して簡単に説明した上で、最後に修正申告のタイミングに関して触れる。

*フリンジ・ベネフィット課税

報道に基づくと事の経緯はこうだ。Daschle氏は、自らが「Advisory Board」メンバーを務めるPrivate Equity Fund(PE Fund)の社長でありかつ民主党のサポーターである個人から無償でリムジンサービスが供与されていた。リムジンサービスとは運転手付きの黒塗り自動車を提供されていると思えばいい。車種はリンカーン・タウンカーが一般的だが、ハイエンドのケースはメルセデスSタイプが頻繁に使用されるので今回はどちらかというとSタイプのイメージを想定してしまう。

リムジンサービスが業務用に使用されているのであれば問題はないが、個人使用分があるとそれは当然「みなし報酬」となる。Daschle氏側の説明によるとナント80%が個人使用だったということなので、ほとんど業務には使用していない。私用目的で運転手付きのSタイプ(車種は想像)を好き放題乗り回せるというリッチな状況だった訳だ。

米国では、現金の報酬はもとより、現物支給、サービス供与の全てを「時価評価」して課税対象とする。税法的には「あらゆる個人資産の増加」が課税所得であると規定されており、具体的に「非課税」と規定される項目以外は全て課税となる。税法の基本的な構造が「全て課税」と規定された上で、「ただし、これとこれは非課税」という例外規定を付けていることから、例外規定に当てはまらないものは全て課税所得となる。条文解釈の超基本であるが、例外規定は「狭義」に解釈されるため、そのハードルは高い。

今回のようなフリンジ・ベネフィットに対しては若干の例外規定(=非課税規定)が税法132条に儲けられているが、少額フリンジ(例、会社のコピーを私用に数ページ使ってしまった)とか通勤に係る特定プログラム下での交通費援助(米国では通勤費用は「私費」!)とか、黒塗りSタイプを好きなだけ私用に利用できるようなケースには当てはまらない。

また、報酬額は時価換算されるため結構なものとなるだろう。個人的にもとてもタイトな日程の出張(空港に直ぐに戻る必要があるようなケース)とかレンタカーが実用的でないマンハッタン近辺ではカーサービスを利用することがあるが(もちろんSタイプではなく、タウンカーっぽいやつ。念の為・・・)3~4時間でも数百ドルはいくので、Daschle氏のリムジン使用時間が多いとかなりのみなし所得となる。実際に一部の報道では2005年から2007年までの3年間で年間平均$80,000を超える金額に上るとされている。

この時価評価であるが、日本人の派遣員のケースでは、会社負担の家賃、一時帰国費用、健康診断、その他多くのフリンジに適用される。日本では従業員に対する社宅供与は時価よりかなり低い金額で所得を認識することが許されていると理解している(一方で役員の「豪華」社宅は時価評価)。給与を現金で受け取り、自ら家賃を支払うケースと、同じ物件を会社が借りて個人に供与するケースで、課税関係が異なるのも変な気がするが、米国では社宅が「あばら家」であれ「豪華物件」であれ、時価評価(実勢レント)でみなし所得となる。契約主が個人の名前でも会社の名前でも関係ない。(続く)