Sunday, February 1, 2009

長官候補とタックス・スキャンダル第二弾(2)

前回から触れているオバマ政権の長官候補であるDaschle氏の税金問題を続ける。今回のタックス問題は技術的には1)フリンジ・ベネフィット課税、2)Form 1099MISCの金額報告漏れ、3)不適格な寄付金、の3つに区分されるが、フリンジ・ベネフィットに関しては前回触れたので今回は他の二つに触れる。また最後に修正申告のタイミングに関して考えてみたい。

*Form 1099MISC金額漏れ

Daschle氏にリムジンの供与を行なっていた個人が社長を務め、Daschle氏自身が「Advisory Board」を勤めるPE Fundsは、Daschle氏にBoardの報酬として年棒$1,000,000を支払っていた。そのうちの一月分である$83,333が未申告となっていたということだ。未申告の直接的な原因はPE Funds側が報酬をIRSに報告するために作成するForm 1099MISC(従業員の受け取る源泉徴収票のようなものだが、従業員ではないので源泉徴収はない)から一月分の金額が漏れていたからというものだ。

支払い側としては正確な金額をForm 1099MISCにて報告する義務があるのはもちろんだが、納税者側としてはForm 1099MISCの金額に係らず、正しい金額を申告する必要がある。Form 1099MISCはあくまでも報告義務に係る問題で、そこの金額が間違っていても報酬を受け取る側の申告義務は変わらない。例えば銀行からの利子所得はForm 1099INTで報告されてくるが、報告の有無または金額の正確性は銀行のIRSに対する報告義務に係る問題であり、1099INTが来ても来なくても納税者側には利子所得を報告する義務があるのはもちろんである。

ただし現実的にはForm 1099MISCに準拠して申告書を作成してしまうケースは多いだろう。それ以外に正確な年収をパッと把握する書類がないようなケースでは特にだ。。今回のケースでは年収が$1,000,000という丸い数字であったことから検証は容易であったのではないかとも思われるが。

*不適格寄付金

米国ではNPOその他の慈善団体に寄付をするのはとても一般的なことであるが、寄付が税務上に費用となるかどうかに関してはいろいろな規定がある。その中でも最も重要なのは、寄付を行なう先が税法に規定される「適格団体」であるかどうかだ。この適格団体は「米国の団体」に限定されていることから、日本人派遣員のケースでは、日本の団体に寄付をしても費用化は認められない。

Daschle氏のケースだが、一部の寄付金控除に関して、イラク兵士に係る寄付金をしていたが、よくみたら寄付の相手となる団体が適格団体ではなかったというものだ。確かにいろんな団体がありどこが適格となるかは分かり難いが、IRSのウェブサイトのリンクとかで調べることが可能であり、多少ずさんな感は免れない。

*修正申告のタイミング

上の3つの項目を修正することにより過去3年分合計で$140,000以上の税額(利息込み)を支払ったということだ。オバマ政権側のディフェンスとしては「IRSからの連絡があった訳でもないのに自ら修正申告書を提出しているのだから清く正しい」ということなのだが、実際に修正申告書が提出されたのは、Geithner氏のケース同様、Daschle氏が長官候補として白羽の矢が立てられた後というタイミングであった。長官の指名確認プロセスでは厳しい身元チェックが行なわれ、確定申告内容も当然精査されることになるのは百も承知であったであろうことから、今回の指名がなければ修正されていたかどうかは微妙だ。

リムジンの提供に関しては「課税かな~とも思ったがお抱え会計士が処理してくれていると思ったし、金額もこんなとは思わなかったし・・・」というようなコメントがあったと報道されている。サービスの享受なので、銀行口座等を見ても分からないだろうし、会計士側も知らなかったのではないだろうか。技術的にはこのような便宜を提供している側にみなし報酬としてForm 1099(雇用関係がない場合)またはForm W-2(雇用関係がある場合)による方向義務があったと考えられる。Form 1099ナシの状態で会計士側でこの所得の特定をするのは困難であっただろう。

先のGeithner氏のケースでも慌てて修正をしていたことで「悪者感」が出ていたが、今回はそれに加えて「おいしい待遇」の享受を事の発端とするタックス問題であることから、今後の審理もより厳しいものとなるだろう。