Sunday, April 10, 2016

Inversion/インバージョン(20)「Inversion規則とアーニングス・ストリッピング対策」

財務省が抜き打ち的に発行したInversion規則。その中に含まれたSection 385の規則案は、長らくDefunct状態で眠っていたSection 385の叩き起こす十分なパワーを持っている。

従来の過少資本に対する米国のアプローチおよびその対策は「第三者だったら貸してくれたか?」という分析を数量的にサポートしておくことが最重要課題だった。すなわち、将来のネットキャッシュインフローを基に元利払いができるのか、キャッシュフローのタイミングにミスマッチはないか、万一不測の事態に陥った際に十分なEquityクッションがあるか、代替のファイナンスソースはあるか、等の分析サポートを文書化しておくことが大切だった。一旦、借り入れ能力ありと判断される場合には、借入金の使途目的は過少資本税制の関知するところではなかった。

今回の規則案では、この考え方を根本から覆し、仮に借入能力がある場合でも、その使途が財務省が考えるところの邪(よこしま)というか不純な動機に基づくものは、ローンではなく株式にしてしまうというかなり乱暴なもの。これは過少資本税制というよりもEarnings Strippingに対する牽制だ。もちろん、借入能力がない場合にはアーニングス・ストリッピング以前の問題として、本来の過少資本税制の考え方で株式扱いとなるが、それは従来からもそうだ(現在でもまずはSection 385でローンとなって初めてSection 163を検討する必要が生じる)。その意味では規則案はSection 385のスコープを逸脱しているようにも見え、そのせいか、行政機関である財務省が三権分立に基づき(すなわちSection 385で財務省に与えられている権限に基づき)、なぜこのような規則案を制定できるかという点を規則案の前文で冗長と思えるほど延々と説明している。Section 7874ポーションもそうだけど、前文でなぜ財務省にこのような権限があるかという説明が長ければ長い程、その権限は怪しいと見るのが常識だ。

前回の「Inversion(19)」で触れたが、Section 385の条文そのもので財務省が与えられている権限(Section 385の最初のパートと2番目のパート)を読んでみると、使途目的に基づく規制はスコープに入っていないように見える。ということは三権分立に反する違憲行為?でも、もし仮に憲法違反だとしても、この扱いで実際に被害にあい(でないと訴訟当事者適格(Standing)がない)、それをDistrict Court(またはTax Court)、Circuit Court、場合によっては最高裁まで持ち込むのは10年以上のプロセスとなり、現時点では財務省規則に従わざるを得ない。

で、財務省は次の3つの使途を動機不純と考えた。基本的に資本取引っぽい取引3つだけど、1)関連親会社に配当をローン・手形で行うようなLeveraged Dividend、2)Section 304となる関連会社間の株式譲渡の対価をローン・手形で支払うこと、3)グループ内再編を資産譲渡の形で実行する際に対価をローン・手形で支払うこと、だ。これらの取引は財務省が考えるに、バランスシートの資本を借入にすり替えるために濫用されており、ローンではなく株式と扱うと宣言されている。Leveraged Dividendはかなり一般的なEarnings Stripping法で、従来は問題なく認められていた取引なのでここに来て完全な方向転換と言える。日米租税条約がそうであるように近年、親子間の配当に対する源泉税がゼロ%と規定されるケースがあるが、これは個人的にはLeveraged Dividendを自由にやって下さい、というお墨付きメッセージが込められているのかと勘違いしていたが(そんな訳ないか・・?)、やっぱり決してそんな訳ではなかったようだ。

さらに、実際にローン・手形を対価としてこれらの取引を実行するのと同様の懸念が、実際には現金等の資産を対価に使っているが、それを関連者間ローンでファイナンスしてい場合にも存在するとしている(それはその通り)。これがいわゆる「Funding Rule」と規定されているものだ。すなわち、関連者間ローンの主たる目的が上の3つの取引と認定される場合にはそのローンは株式扱いとなる。ローンと動機不純な取引に紐付きの関係があるかどうかの判断は個々のケースの事実関係に基づくと一義的には規定されているが、この主観的判断に加えて「動機不純取引実行の前後各々36ヶ月以内に起こった関連者間ローンは全て問題となる取引目的であった」とする推定規定を設けている。通常の推定規定(Presumption)は納税者側で事実関係を基に反証できる(Rebuttable)タイプが多いが、今回の推定はナンと「Irrebuttable(=反証不可)」、すなわちStrict Liability的な厳しいものとなっている。前後各々36ヶ月って言えば足掛け6年(!)だ。そんな長い期間に亘りTaintされるとなるとこの関係を切り離すのは容易なことではない。いくらお金に色はないとは言え・・。極めて些細な例外規定として、グループ内の通常業務内の買掛金とか未払金は関連者間ローンには含まないとされる。ただし、キャッシュプール等の財務サービスはその範疇ではないので、それらのシステムに基づくローンはFunding Ruleの対象となる。

結構とんでもないルールな感じ。もしかすると何の悪気もない日本企業もただ配当しただけで関連者間ローンが株式に変わってしまうようなリスクがあるようにも見える。それは酷い。こんなルールは今まで散々Leveraged Dividendとか濫用しまくってたMNCだけを対象にして欲しい。でもこれが悲しいかなグローバルスタンダード。外国では当たり前のことを日本流に異なる切り口で良かれと思ってやっていると、恩典を享受していないのにペナルティーだけは受けるような理不尽な結果となり得る。OECDのBEPSもまさにそのパターン。という訳で次回ももう少し新規則、特にアーニングス・ストリッピングの規則案に関して。

Saturday, April 9, 2016

Inversion/インバージョン(19)「Inversion規則とアーニングス・ストリッピング対策」

Inversion(19)「Inversion規則とアーニングス・ストリッピング対策」

財務省が抜き打ち的に発行したInversion規則。Inversionのストラクチャーをアタックしている部分も強烈な内容だったけど、Earnings Strippingに対するProposed規則(規則案)も多くの納税者を不意打ちしている。

前回も触れたが、この規則案は過少資本税制を取り締まるSection 385下で規定されている点も興味深い。規則案は一定の条件に抵触する関連者間ローンは税務上は「株式(Stock)」として扱うと規定している。これはSection 385の趣旨そのもの。また、歴史的に一本のローンを部分的に株式にみなしたりすることは少なかったが、規則案ではわざわざひとつのローンでも部分的に株式とみなす権限をIRSに与えている。この「部分」調整は1989年にSection 385自体にもその旨が追加されているが、本格的にIRSとしてそのコンセプトを税務調査時に適用してくることになる。さらに、関連者間ローンに関しては返済能力等を分析した同時文書化が義務付けられる。この文書化はある程度の規模の関連者間ローン(特にクロスボーダーのもの)に関しては従来からいずれにしてもリスクマネージメントの一環で必ず用意しておくべき「Debt Capacity Report」で、今まではいろんな口実で文書化を避けていた納税者も、いよいよ必要な作業となる。

税法の条文Section 385自体は3つのパートから成るが、全体の目的は一定の条件下でローン(Indebtednessというのが正式用語なのでローンより広義な気がするが、日本語でIndebtednessと言ってもピンと来ないような気もするので敢えてローンという用語で統一しておく)を株式と扱うというものだ。これはすなわち過少資本税制だ。関連者の保証ナシでArm’s-Length条件で金融機関等、第三者からローンを借り入れている場合にIRSがそれを株式とみなすことはあり得ないので、Section 385は基本的に関連者間ローン(または関連者保証のローン)に対する条項と考えていい。

Section 385の最初のパートはどのような条件下でローンを株式とみなすかという基準に関して財務省に規則を策定する権利を与え、2番目のパートはその規則には判断基準となる複数のファクター(例、D/E Ratioとか)を明記することとしている。したがってSection 385は条文そのものにローンを株式とみなす基準が規定されている訳ではなく、あくまでもそれらの策定を財務省に権限委譲しているもので、規則がないと機能しない形となっている。で、もちろん財務省は規則をその昔に発行したんだけど、広範な局面でローンと株式を区別する客観的な基準を策定するのは不可能に近く、散々なコメントに基づき結局は廃案となってしまった。その後、長い間Section 385下で規則が草案されることはなく、今日までSection 385は機能不全のまま存在していたことになる。1992年には3番目のパートとなる「納税者の債券発行時の位置づけ(ローンか株式か)を納税者側で後日変えることはできない」というもので、自分で株式だと言っておいて申告書上ローン扱いするような二枚舌を禁止するのだ。もちろんだけどIRS側は納税者の発行時の位置づけには束縛されないと規定されている。実際にはRepo取引を利用してクロスボーダーでEarnings Strippingするのは(日本以外のMNCでは)かなり一般的なので、この規定の正確な意味するところは表面的な文言よりも複雑だ。

通常、過少資本とかアーニングス・ストリッピングは「クロスボーダーの関連者間ローン」が問題視されるし、使う方としては鍵となる。高税率の米国からEarnings Strippingするのが納税者側の意図であるから、もちろん利息の受け手は米国外の低税率国(米国から見たら世界中他の国全てがそう)にある関連者ということになる。にもかかわらず規則案の前文には米国内の関連者間ローンにも同様の規定を適用すると言っている。ただ、現実には米国内でアーニングス・ストリッピングしてもゼロサム・ゲームだし、受け手にNOLでも溜まってない限り連邦上、問題とされることはないと言っていい。厳密に言えば、ユニタリー合算申告制度を採っていない州では州間の関連者間ローンとか、他の移転価格は潜在的に問題となるが、州税務当局側にそれらの調査を担当するノウハウが十分にあるとは思えないのが現状だ。一点、規則案には安全ガイドラインとして、連結納税グループ内のローンは今回の規則対象外とされている。それは当然だろう。連結納税グループ内では利息も相殺されて存在しない状況だから、アーニングス・ストリッピングは不可能でSection 385の出る幕は無い。

クロスボーダーの関連者間ローンを使ってのアーニングス・ストリッピングも必ずしも簡単なプラニングではなく、源泉税が租税条約で免除または低減されている相手国を選ばないといけないし、もっと欲を言えば相手国で課税されないケースを探すとか、いろいろと考えることがある。ちなみに過少資本税制と従来のアーニングス・ストリッピング規定(Section 163(j))は根本的にアプローチが異なり、過少資本に抵触するとローンが株式となってしまうので、支払利息は配当扱いとなり、損金算入のチャンスは永遠に失われる。一方、Section 163(j)下では、支払利息はその性格を否定されることなく、現金ベースのEBITAの50%を超える支払利息額は過度の損金としてその年度は否認されるが、利息のという性格のまま永遠に繰り越され、翌年以降にEBITAベースで吸収できるタイミングで損金算入される。

今回の規則案は基本的に「関連者」間ローンにのみ適用される。したがってどのローンが関連者間のものと扱われるかの判断は最重要検討事項だ。上述の通り、純粋な第三者からのローンに関しては、借りることができたという事実をもってローンの性格を証明しているようなもので、濫用の懸念は無い。

規則案では「Expanded Group」間のローンを関連者間ローンとすると規定している。税法には関連者の定義は複数あり、どのSectionの話しなのかよく見極めないと勘違いしてしまう局面がある。すなわち、Section 267、368(c)、482、1504、1563等、状況により関連者やControlの基準が微妙に異なる。Section 365規則案で言うところの「Expanded Group」はSpinversionのところで触れたEAGにも似てるけど、基本的には連結納税グループの定義を借りている。その上で、連結納税グループには入れない外国法人、Tax-Exempt、パススルーも定義に加え、みなし持分を加味して持分決定、さらに通常の連結納税グループの持分条件は80%の価値+議決権となるところを、価値「または」議決権と変更している。

このExpanded Group内でのローンが規則案が規定する一定条件に抵触すると株式扱いとなる。その条件は次回。

Inversion/インバージョン(18)「Inversion規則とアーニングス・ストリッピング対策」

いくらルールを厳しくしても止むところを知らないInversionに対し、議会および財務省、特に近年は財務省がムキになって次々と規制を厳しくしてきた。1990年代から続く「イタチゴッコ」のような歴史は前回までのポスティングを読んでもらえればよく分かると思う。軽い気持ちで書き始めたInversion。当初は5~6回書けば終わるかな、と考えていたが、ナンと18回目に至り、まだ全然終わっていない。塩野七生のローマ人の物語には及ばないが(引き合いに出すこと自体が僭越)、あきっぽい僕としては珍しく長い。Inversionは一義的には税法の問題ではあるけど、今日の米国が直面する広範な問題を具現しているようなところがあるし、テクニカルにも超ディープなものがあるのでもう少し続ける。塩野先生と言えば、ローマ帝国もルビコン川を渡ったシーザーからアウグストス、そしてその後の歴代の皇帝と姿を変えて行き、もちろん最後は崩壊してしまったけど、その歴史から個人的には政府は小さい方がいいな、といつも感じてしまう。米国も賢者が過去の歴史、失敗から学び、素晴らしい憲法を制定してここまで来たけど、「Founding Fathers」が見たら嘆かわしく思うであろう今日の政局・・。

と話しが長くなる前にInversionに戻ろう。Inversionにかかわる財務省と米国MNCの関係を見ていると、ひとつ思い出す寓話がある。「北風と太陽」だ。知らない人はいないと思うけど、北風と太陽が旅人のコートを脱がせるという力比べをするアレだ。北風という財務省が規制を思いっきり厳しく吹きつけると米国MNCという旅人はInversionというコートをしっかりと押さえ続ける。一方、もし太陽という米国税法の抜本的改正が実現すれば、旅人は自らInversionを止めて脱ぎ捨てる。太陽が出るのは早くても選挙後に新政権となってからだからしばらくは北風の冬が続く。

Earnings StrippingはBEPSのBase Erosionと同義語であり、MNCが高税率国で稼いだ所得を利息、ロイヤリティー、サービスチャージ、その他の手法で合法的に低税率国にシフトすることを意味する。米国MNCは徹底的にEarnings Strippingしているが、実は米国を頂点とするMNCは国外関連会社から借入をするとみなし配当となるため、グループファイナンスを利用したEarnings Strippingができないという致命的な(?)欠点がある。そこでInversionして、外国オペレーションからの所得を米国税法から切り離すと同時に、米国オペレーションの課税所得までもストリップしてしまおうと考える。このことからストラクチャー的なInversion(すなわち組織再編を通じて米国を頂点とするMNCが外国を頂点とするMNCに転換させること)とInversionした後のEarnings Strippingは切っても切れない縁にあり、そのことからSection 7874とセットアップでEarnings Strippingに網を掛けるというのは当然の流れとなる。

日本MNCは生まれながらにInversionされているストラクチャーを持つ。1980年代から90年代に掛けて日本製品が米国市場を席巻したころ、日本企業はマーケットシェアが高いにもかかわらず課税所得は低いことに財務省は目を付けた。移転価格、Earnings Strippingを駆使して高税率国の米国から低税率国にある関連会社に所得を巧みに移転しているのだろう、と推測した訳だ。それは当然過ぎる発想で、米国企業(というか日本以外の国のMNC)であれば間違いなくそうするからだ。そこで1989年にはSection 163(j)(Earnings Stripping規定)、1993年には1968年以降改定されていなかった移転価格税制のSection 482の最終規則が公表された。実態としては日本MNCの課税所得が低めに推移していたのはマーケットシャア重視の戦略から薄利多売的な側面があり、システマティックに米国の課税所得を移転していた実態はないし、実際にその事実は2008年の財務省のスタディーで明らかにされた。米国企業とか他の国のInbound企業は日本企業がもっと真剣に合法的な範囲でEarnings Strippingを検討しないのが不思議でしょうがない。米国MNCがここまで苦労して実行したり断念したりしているInversionストラクチャーを生まれながらに備えているわけだし、日本は税率は高く予見可能性が低いとは言え2009年からテリトリアル課税になっている。

というバックグランドで、今回のInversion規則には「Proposed」という形でEarnings Stripping規定が追加された。Earnings Strippingを直接規定している条文はSection 163(j)だけど、163(j)に基づいた財務省規則はProposedのまま20年以上も最終化されていないし、最終化される気配もない。したがって法的にはSection 163(j)には財務省規則がないのと同じ状態だ。Section 163(j)のProposed規則に規定される連結納税グループ外の主体を合算して計算させる部分は条文のスコープを逸脱していると考えられること(すなわち三権分立に違反)、またそのOperativeなルール(みなし持分を加味する部分)を文字通り解釈するとグループの構成が非現実的なものになることがあること、からグループ算定の部分は特に踏襲する必要なしと考える向きも多い。

一方、今回のEarnings Stripping規則はSection 163(j)ではなく、過少資本税制を規制している条文Section 385の下で発表されている。このSection 385は過去にも財務省規則が発表されたことがあるが、散々酷評されたあげく白紙撤回されてしまったという過去を持つ。前回のポスティングでも触れたが、今回のSection 385の規則はInversion規則の一環に盛り込まれたにもかかわらず、適用対象はInversion企業に限定されていない。この点はかなりの驚きをもって迎えられている。Inversion規定そのものは日本MNCには直接関係ない部分も多いが、このEarnings Stripping規定は直接関係があることになる。

ということで、次回はこの規定の具体的な内容に関して見てみよう。

Thursday, April 7, 2016

Inversion/インバージョン(17)「PfizerついにInversion断念」

一昨日ポスティングした財務省による2014年・15年のNoticeを規則化すると同時に、新たな制限を加えたInversionの財務省規則。Pfizer等の最近のInversionで頻繁に見られるInversionした「外国法人」が他の米国法人を次々と飲み込んでいく「Serial Inverter」の取引を研究し尽くし、それらのInversionが機能しないように形振り構わず分母の算定法を改定した結果(詳しくは前回のポスティング参照)、財務省はついにPfizerのAllergenとのInversionを阻止することに成功した。

Pfizerは、財務省規則が新Inversion規則を公表してたった2日後に当たる米国時間4月6日に財務省規則に盛り込まれた新規則は先のNoticeのScopeを逸脱しており予想外のもので、Break-up Feeを支払ってAllergenとの統合を断念すると正式発表した。これで$160Bと言う史上最大の大型Inversionは当面無くなった。と同時に統合で予想されたいろいろな事業目的も達成できずに終わったこととなる。全ての合併合意書にはClosing前に予期せぬAdverse Conditionが発生したら解約できるというMAC条項が入っているが、今回はそれに当たるのだろう。MAC条項をトリガーさせるのを「Calling a MAC」とかって表現するけど、まさしくその状態だ。それだけ予想していない規則だったということになる。

前回までのPostingで散々触れた二つのNoticeが発表された後にサインされた統合だっただけに、Noticeに規定される制限は満たしていたはずだ。にもかかわらずそれ以上に強力な形で規則として最終化されるとは予見可能性が低い。現にPfizerの内部事情に詳しい者が「Noticeが強化されて規則化されるリスクは想定内だったが、ここまで露骨な強化は全くの想定外」とコメントしたとも伝えられている。PfizerとAllergenは税法が変わりDealがCloseしない可能性は極めて低いと判断していたものの、いかなるContingencyにも対応できるようプランしていたため、各々残念ではあるが個々の事業主体として事業戦略はバックアップとして存在しており、プランBで進むということだ。Pfizer側はConsumer Healthcare事業部のスピンオフ、Divestitureを軸に今後の戦略を練る。

PfizerのInversionは2015年11月に合意され、2つのNoticeが出た直後だっただけに世間をアッと言わせたものだ。Closingは2016年第2四半期と予定されていたので、財務省は意地でもその前に規則を強化してPfizerの事実関係が機能しない形で最終化したかったのだろう。4月4日は第2四半期の4日目だ。数多いInversionの中でもそのサイズ、会社の知名度、大胆さ、等あらゆる面でInversionの金字塔となるはずだった。Pfizerは2014年にもAstraZeneca を相手にInversionを試み頓挫した過去を持つ。今度こそと気合が入っていたPfizer Dealに一矢を報いて財務省はハッピーだろう。

でもこれで本当に米国にとってハッピーエンディングなんだろうか?MNCにとって世界一使い勝手が悪く、税率の高い法人税を無理やりPfizerのような法人に課し続けることで、グローバル市場で競争力を失わさせるような事態を延々と続けて。最終的には米国法人税を変えないとInversionはなくならない。米国法人税を時代に沿った形に変えることができない状況で、Inversionのテクニック対策を小手先的にタイトにして、究極的には米国MNCの競争力が弱まり、そのうちStuffingとか過去のInversionナシでも本当に相対的な価値が低くなり、外国企業に買収されSection 7874なんか問題とならないTermでM&Aされ、自然にInversionされてしまう日が来るかも。

また、Inversionで米国の雇用まで危うくなるような論調がメディアに登場することがあるけど、本当にそうだろうか?InversionしてもPfizerのオフィスはNYCの42nd Streetから無くなる訳でもないだろうし。変な例えかもしれないけど、別にNY法人でなくてもNYに拠点があれば雇用はそこにある訳なのと似てる。米国上場企業の多くがデラウェア法人だけど、実際にはデラウェアを本店所在地としていないのと同じだ。

Pfizerの現時点での実効税率は20%代前半で、決して悪くない。それでもInversionしたら17%程度に下がると言われていたので、会社の規模を考えると5%低減のメリットは大きい。しかも外国子会社に眠る埋蔵金が$80B(100円換算でも8兆円)と言われているので、その資金を還流できない米国税法のデメリットは大きい。

他のDealへの影響も気になるところ。BaxaltaのShireとのInversionはそのまま続行の見通し。また先日のポスティングで、Third Country規定の話しの際に触れたHISとMarkitのInversionもセーフだったようだ。

今回の財務省規則、Inversionそのものに対する手法への対抗策の極端さと並び、前回のポスティングで触れたInversion後のEarnings Strippingを規制するための過少資本税制の規則も動揺というか、驚きをもって迎えられている。この点は日本企業に関係する部分もあるので、また次回。

Wednesday, April 6, 2016

Inversion/インバージョン(16)

今回は2014年と2015年に立て続けに発行された2つの姉妹Noticeのうち、持分継続ではなく、Inversionした後の取引を更に制限する切り口の部分に焦点を当てよう、と思っていたその矢先にいきなりInversionに対抗する新たな財務省規則(Temporary + Proposed)が発表された。しかも、この財務省規則、ナンと340ページ(!)に及ぶ力作ということで、まるで学校で大量のReadingの宿題が出されたような状況に陥ってしまった。時を同じくして大騒ぎになっているパナマ文書のリークの詳細とどっちを先に読もうか迷っている間にどっちも読まずに寝てしまわないよう注意が必要だ。パナマ文書は過去40年分で1,150万ページというから340ページの方がマシかも。

しかもこの新規則、Inversionそのものをやり難くするばかりでなく、グループ内借入に対する利子所得の控除制限、いわゆるEarnings Stripping関係の対策を一部強化したりして(実際にはSection 385の過少資本税制下での規制)、それがInversionを実行した「なり済まし」外国企業ばかりでなく、生まれながらの「本当の」外国企業とかPE Fundにも無差別に適用されるため、潜在的に日本のMNCにも影響があり得る。今回強化されたEarnings Stripping規定が対象としているようなアグレッシブなプラニング(Leveraged Dividendとか米国外法人の買収ファイナンス)を実際に実行しているケースは現実には日本MNCでは稀(皆無?)と推測される一方(このように合法的なうちにやらずに、そのうちに規制されるというのは日本MNCのパターンで、他国MNCは合法なうちにできるだけやっておくというパターン)、グループファイナンスにかかわる同時文書化(借入能力を証明するもので一般に「Debt Capacity Report」とか言われるもの)が義務付けられるため、Complianceコストが上がることとなる。また、従来のアプローチとは異なり、ひとつの「Debt」を部分的にEquityにみなすというアプローチが正式な権限としてIRS税務調査時に認められるとしている点も、Section 385の歴史を鑑みるとかなりアグレッシブ。米国の過少資本税制は1983年に財務省規則が撤回されて以来ただでさえ予見可能性が低いので、更に混迷を極めることは必至な感じを受ける。お金に色はないので、その意味ではどのような取引がSection 385の新しい規則に抵触するかは今後、原文を良く読んで検討する必要がありそうだ。

前回までのポスティングで触れていた二つのNoticeがそのまま財務省規則になることは当然想定されていたし、それらの規定は既に存在するものとして最新型のInversionは策定されていたのでその点は何のSurpriseもない。しかし、今回公表された規則は、Noticeを更に上回る形でInversionの手法に制限を加えている点が凄まじい。そもそもNoticeそのものの内容だけでも「う~ん、行政機関である財務省の権限範囲でここまで来るか・・」というレベルに達していたので、それを財務省として更に上を行くレベルに持ち込んでしまっていること自体、昨日までは予想できなかった展開となっている。まるでMachine Headのスタジオ版Highway Star聴いて「究極にかっこいい」と思っていたのがMade in JapanのライブバージョンのHighway Starを聴いたら更にブッ飛んだみたいな状況だろうか。「何それ?意味分かんない・・」って多分99%の方にはこの例えは難しいかもしれないけど、70年代のBritish Rockバンドに日本で特に評価の高かったDeep Purpleというグループがあり、その第2期(イアン・ギランがボーカルだったいわゆる「黄金時代」のPurple)は「In Rock」から始まり、確か4枚のスタジオレコーディングアルバムを出しているけど、その中でも一般にベストと言われているものにMachine Headというやつがあった。で、Machine Head発売後に大阪と武道館でやった伝説的なコンサートがMade in Japanというライブアルバムに収録されていた。日本では当時Live in Japanという名前で販売されていて、2枚組みセットの「レコード」だったので子供の僕には高価でとても手が出ず、友達のお兄ちゃんに頼んで「カセットデッキ」で90分「テープ」の両面にダビングしてもらい、テープが伸びるまで聴いたあの日が懐かしい。このライブ、セコイ8チャンネル位の機材でそのまま録音したような状況だったらしいけど、今日でもロックのライブアルバムとしては五指に入ること間違いないだろう。内容的には実質Machine Headのライブ版と言ってもいいと思うけど、かなり後から再発された数回のコンサート全てのリミックス版を聴いても、その迫力、完成度、ライブならではの緊張感、全ての点において突出している。バンドのメンバー自身もあの日本公演は「人生のハイライト」だったと語っている程だ。当時のBritish RockというとどうしてもLed Zeppelinと比較されることになるけど、商業的にはもちろん特に米国でLed Zeppelinが圧倒的に勝利している。確かにBlackmoreよりもPageの方が見た目も格好いいし、ロックの曲はリフの格好良さが80%位支配すると考えると、Zeppelinの方が数的に格好いいリフが多いのも間違いない。Black Dog、Whole Lotta Loveとか。Pageはギターはお世辞にもうまいとは言えないけど(特にライブでは格好付け過ぎてレスポールを膝くらいまで下げて弾くので5弦とか6弦弾くと手首折れちゃうんじゃない?って感じ)リフは格好いい。でも彼らのライブであるSong Remains the Sameはボーカル等かなりスタジオ加工されている感じだし、オープニングのRock’n’Rollは行けてるとしても、全体の質はMade in Japanには及ばないという風に個人的には感じている。PurpleもSpeed Kingとか、(その後の第三期の)Burnとか、リフ格好いいし。ただ、Blackmoreのソロがスタカットみたいなのが多すぎてアメリカ的な感覚ではチョッと受けが悪い感じも良く分かる。アメリカで受けるギターソロはVan Halenみたいなスピード感を持ったものだろう。ちなみにBritish Rockと言えば、元祖プログレバンドELPのキーボード奏者だったキース・エマーソンが亡くなってしまいましたね。プログレっていうジャンルはどこまでを含むのか分かり難いけど、ブルースを基にしていないロック、どちらかと言うとクラシックを基にしているジャンルと考えるとELPはまさしく、その典型。意外だったのはキース・エマーソンというと余りにブリティッシュのイメージが強かったので、霧のロンドン、まあ米国でもNYC辺りで余生を送っていると勝手に想像していたけど、実はSanta Monicaに住んでいたという点。う~ん、Eaglesの元メンバーがSanta Monicaに居ても違和感ないけど、ELPとSanta Monicaっていうのは余りに接点がない感じ。でもそう言えば、Santa MonicaってチョッとしたBritishコミュニティーみたいな箇所があるので、そんな理由もあるんだろうか。それとも余生はやっぱり他のことはさておいて「お天気」重視ということだろうか。

自分でも何でブリティッシュロックの話しをしているか分かんない位脱線してしまったけど、Inversionの最新の財務省規則がどれだけ強力なものかっていうのは理解頂けた(?)と思う。財務省がここまでしないといけないのも、議会が2004年にSection 7874を制定して以来、法律そのものを改定しないというフラストレーションに基づく部分もあるだろう。財務省は何回も議会に、行政機関として規制できる範囲はSection 7874で与えられた財務省規則権限ををどこまで拡大解釈しても限度があるので法律そのものを強化するよう訴え続けてきた。

オバマ大統領も絶賛する340ページに及ぶ大作規則なので、何回かに分けて話さざるを得ないけど、ハイライトのひとつに前回までも散々触れてきていて、終わるところを知らずに制限が加え続けられている継続持分の分数算定に「更に」制限が加えられている点が挙げられる。ここまでやるんだったら一層のこと、「分母は分子と一緒とみなす!」で条文化してくれた方がスッキリする位、分母に加算できる外国法人持分が制限されてきている。具体的にはまさしく前回までのポスティングで触れた過去にInversionして出来た「外国企業」が米国企業を次々と飲み込んでいく「Serial Inverter」に対する規制強化。すなわち、過去にInversionした外国企業の持分のうち、直近過去3年間のInversion取引に帰属すると考えられる持分(すなわち旧米国MNCの価値に相当する部分)は分母に入れないとするもの。財務省は「特定の取引を想定しているものではない・・」とか言っているけど、現実にはPfizerのInversionの狙い撃ちだ。Pfizerの統合相手の「アイルランド企業」のAllergan自体、アイルランドのWarner Chilcottを基点に、ActavisとAllerganをInversionして結果できた外国法人だからだ。それにしても「Serial Inverter」という表現自体、「Serial Killer」(連続殺人犯)を連想させるネガティブなイメージだ。PfizerのInversionが新ルールで何%となるかは詳細不明だが、元々50%台後半に設定されていたと思うので、60%に行ってしまうこともあるかもしれない。この辺、今後の展開はかなり見もの。ちなみに両社は現在、新たに発行された財務省規則のインパクトを詳細検討中ということだけど、市場では早速Allerganの株価が20%ダウンとインパクトが織り込まれた形となっている。先進国の株式市場っていうのは結構Efficient。

ちなみに冒頭で触れた通り、今回の財務省規則は「Temporary」と「Proposed」の双方がある。この二つのタイプの法的効力の差は大きく、TemporaryはFinalと同様に法的拘束力を持つ一方、Proposedには法的な効果はなく、あくまでも草案という位置づけ。Temporaryは期間限定で、その期間内にFinalとしないといけないのがFinal規則との違い。Proposedには期間限定がないので、元祖Earnings Stripping規定(Section 163)のようにProposedの状態で20年以上も放置されているものもある。今回発表の規則のうち冒頭に触れた過少資本の部分はProposedという形で出ているが、財務省いわく「迅速にFinalに持ち込む」そうだ。同じEarnings Stripping対策でもSection 163の規則が20年放置されているのとは対照的。

抜き打ち的に財務省規則が発表されたのでチョッと長くなってしまったけど、Noticeの話しの延長戦なので話しの流れとしてはそのまま、次にPost-Inversionに規制等に関して続けたい。