Saturday, April 9, 2016

Inversion/インバージョン(19)「Inversion規則とアーニングス・ストリッピング対策」

Inversion(19)「Inversion規則とアーニングス・ストリッピング対策」

財務省が抜き打ち的に発行したInversion規則。Inversionのストラクチャーをアタックしている部分も強烈な内容だったけど、Earnings Strippingに対するProposed規則(規則案)も多くの納税者を不意打ちしている。

前回も触れたが、この規則案は過少資本税制を取り締まるSection 385下で規定されている点も興味深い。規則案は一定の条件に抵触する関連者間ローンは税務上は「株式(Stock)」として扱うと規定している。これはSection 385の趣旨そのもの。また、歴史的に一本のローンを部分的に株式にみなしたりすることは少なかったが、規則案ではわざわざひとつのローンでも部分的に株式とみなす権限をIRSに与えている。この「部分」調整は1989年にSection 385自体にもその旨が追加されているが、本格的にIRSとしてそのコンセプトを税務調査時に適用してくることになる。さらに、関連者間ローンに関しては返済能力等を分析した同時文書化が義務付けられる。この文書化はある程度の規模の関連者間ローン(特にクロスボーダーのもの)に関しては従来からいずれにしてもリスクマネージメントの一環で必ず用意しておくべき「Debt Capacity Report」で、今まではいろんな口実で文書化を避けていた納税者も、いよいよ必要な作業となる。

税法の条文Section 385自体は3つのパートから成るが、全体の目的は一定の条件下でローン(Indebtednessというのが正式用語なのでローンより広義な気がするが、日本語でIndebtednessと言ってもピンと来ないような気もするので敢えてローンという用語で統一しておく)を株式と扱うというものだ。これはすなわち過少資本税制だ。関連者の保証ナシでArm’s-Length条件で金融機関等、第三者からローンを借り入れている場合にIRSがそれを株式とみなすことはあり得ないので、Section 385は基本的に関連者間ローン(または関連者保証のローン)に対する条項と考えていい。

Section 385の最初のパートはどのような条件下でローンを株式とみなすかという基準に関して財務省に規則を策定する権利を与え、2番目のパートはその規則には判断基準となる複数のファクター(例、D/E Ratioとか)を明記することとしている。したがってSection 385は条文そのものにローンを株式とみなす基準が規定されている訳ではなく、あくまでもそれらの策定を財務省に権限委譲しているもので、規則がないと機能しない形となっている。で、もちろん財務省は規則をその昔に発行したんだけど、広範な局面でローンと株式を区別する客観的な基準を策定するのは不可能に近く、散々なコメントに基づき結局は廃案となってしまった。その後、長い間Section 385下で規則が草案されることはなく、今日までSection 385は機能不全のまま存在していたことになる。1992年には3番目のパートとなる「納税者の債券発行時の位置づけ(ローンか株式か)を納税者側で後日変えることはできない」というもので、自分で株式だと言っておいて申告書上ローン扱いするような二枚舌を禁止するのだ。もちろんだけどIRS側は納税者の発行時の位置づけには束縛されないと規定されている。実際にはRepo取引を利用してクロスボーダーでEarnings Strippingするのは(日本以外のMNCでは)かなり一般的なので、この規定の正確な意味するところは表面的な文言よりも複雑だ。

通常、過少資本とかアーニングス・ストリッピングは「クロスボーダーの関連者間ローン」が問題視されるし、使う方としては鍵となる。高税率の米国からEarnings Strippingするのが納税者側の意図であるから、もちろん利息の受け手は米国外の低税率国(米国から見たら世界中他の国全てがそう)にある関連者ということになる。にもかかわらず規則案の前文には米国内の関連者間ローンにも同様の規定を適用すると言っている。ただ、現実には米国内でアーニングス・ストリッピングしてもゼロサム・ゲームだし、受け手にNOLでも溜まってない限り連邦上、問題とされることはないと言っていい。厳密に言えば、ユニタリー合算申告制度を採っていない州では州間の関連者間ローンとか、他の移転価格は潜在的に問題となるが、州税務当局側にそれらの調査を担当するノウハウが十分にあるとは思えないのが現状だ。一点、規則案には安全ガイドラインとして、連結納税グループ内のローンは今回の規則対象外とされている。それは当然だろう。連結納税グループ内では利息も相殺されて存在しない状況だから、アーニングス・ストリッピングは不可能でSection 385の出る幕は無い。

クロスボーダーの関連者間ローンを使ってのアーニングス・ストリッピングも必ずしも簡単なプラニングではなく、源泉税が租税条約で免除または低減されている相手国を選ばないといけないし、もっと欲を言えば相手国で課税されないケースを探すとか、いろいろと考えることがある。ちなみに過少資本税制と従来のアーニングス・ストリッピング規定(Section 163(j))は根本的にアプローチが異なり、過少資本に抵触するとローンが株式となってしまうので、支払利息は配当扱いとなり、損金算入のチャンスは永遠に失われる。一方、Section 163(j)下では、支払利息はその性格を否定されることなく、現金ベースのEBITAの50%を超える支払利息額は過度の損金としてその年度は否認されるが、利息のという性格のまま永遠に繰り越され、翌年以降にEBITAベースで吸収できるタイミングで損金算入される。

今回の規則案は基本的に「関連者」間ローンにのみ適用される。したがってどのローンが関連者間のものと扱われるかの判断は最重要検討事項だ。上述の通り、純粋な第三者からのローンに関しては、借りることができたという事実をもってローンの性格を証明しているようなもので、濫用の懸念は無い。

規則案では「Expanded Group」間のローンを関連者間ローンとすると規定している。税法には関連者の定義は複数あり、どのSectionの話しなのかよく見極めないと勘違いしてしまう局面がある。すなわち、Section 267、368(c)、482、1504、1563等、状況により関連者やControlの基準が微妙に異なる。Section 365規則案で言うところの「Expanded Group」はSpinversionのところで触れたEAGにも似てるけど、基本的には連結納税グループの定義を借りている。その上で、連結納税グループには入れない外国法人、Tax-Exempt、パススルーも定義に加え、みなし持分を加味して持分決定、さらに通常の連結納税グループの持分条件は80%の価値+議決権となるところを、価値「または」議決権と変更している。

このExpanded Group内でのローンが規則案が規定する一定条件に抵触すると株式扱いとなる。その条件は次回。