Wednesday, April 6, 2016

Inversion/インバージョン(16)

今回は2014年と2015年に立て続けに発行された2つの姉妹Noticeのうち、持分継続ではなく、Inversionした後の取引を更に制限する切り口の部分に焦点を当てよう、と思っていたその矢先にいきなりInversionに対抗する新たな財務省規則(Temporary + Proposed)が発表された。しかも、この財務省規則、ナンと340ページ(!)に及ぶ力作ということで、まるで学校で大量のReadingの宿題が出されたような状況に陥ってしまった。時を同じくして大騒ぎになっているパナマ文書のリークの詳細とどっちを先に読もうか迷っている間にどっちも読まずに寝てしまわないよう注意が必要だ。パナマ文書は過去40年分で1,150万ページというから340ページの方がマシかも。

しかもこの新規則、Inversionそのものをやり難くするばかりでなく、グループ内借入に対する利子所得の控除制限、いわゆるEarnings Stripping関係の対策を一部強化したりして(実際にはSection 385の過少資本税制下での規制)、それがInversionを実行した「なり済まし」外国企業ばかりでなく、生まれながらの「本当の」外国企業とかPE Fundにも無差別に適用されるため、潜在的に日本のMNCにも影響があり得る。今回強化されたEarnings Stripping規定が対象としているようなアグレッシブなプラニング(Leveraged Dividendとか米国外法人の買収ファイナンス)を実際に実行しているケースは現実には日本MNCでは稀(皆無?)と推測される一方(このように合法的なうちにやらずに、そのうちに規制されるというのは日本MNCのパターンで、他国MNCは合法なうちにできるだけやっておくというパターン)、グループファイナンスにかかわる同時文書化(借入能力を証明するもので一般に「Debt Capacity Report」とか言われるもの)が義務付けられるため、Complianceコストが上がることとなる。また、従来のアプローチとは異なり、ひとつの「Debt」を部分的にEquityにみなすというアプローチが正式な権限としてIRS税務調査時に認められるとしている点も、Section 385の歴史を鑑みるとかなりアグレッシブ。米国の過少資本税制は1983年に財務省規則が撤回されて以来ただでさえ予見可能性が低いので、更に混迷を極めることは必至な感じを受ける。お金に色はないので、その意味ではどのような取引がSection 385の新しい規則に抵触するかは今後、原文を良く読んで検討する必要がありそうだ。

前回までのポスティングで触れていた二つのNoticeがそのまま財務省規則になることは当然想定されていたし、それらの規定は既に存在するものとして最新型のInversionは策定されていたのでその点は何のSurpriseもない。しかし、今回公表された規則は、Noticeを更に上回る形でInversionの手法に制限を加えている点が凄まじい。そもそもNoticeそのものの内容だけでも「う~ん、行政機関である財務省の権限範囲でここまで来るか・・」というレベルに達していたので、それを財務省として更に上を行くレベルに持ち込んでしまっていること自体、昨日までは予想できなかった展開となっている。まるでMachine Headのスタジオ版Highway Star聴いて「究極にかっこいい」と思っていたのがMade in JapanのライブバージョンのHighway Starを聴いたら更にブッ飛んだみたいな状況だろうか。「何それ?意味分かんない・・」って多分99%の方にはこの例えは難しいかもしれないけど、70年代のBritish Rockバンドに日本で特に評価の高かったDeep Purpleというグループがあり、その第2期(イアン・ギランがボーカルだったいわゆる「黄金時代」のPurple)は「In Rock」から始まり、確か4枚のスタジオレコーディングアルバムを出しているけど、その中でも一般にベストと言われているものにMachine Headというやつがあった。で、Machine Head発売後に大阪と武道館でやった伝説的なコンサートがMade in Japanというライブアルバムに収録されていた。日本では当時Live in Japanという名前で販売されていて、2枚組みセットの「レコード」だったので子供の僕には高価でとても手が出ず、友達のお兄ちゃんに頼んで「カセットデッキ」で90分「テープ」の両面にダビングしてもらい、テープが伸びるまで聴いたあの日が懐かしい。このライブ、セコイ8チャンネル位の機材でそのまま録音したような状況だったらしいけど、今日でもロックのライブアルバムとしては五指に入ること間違いないだろう。内容的には実質Machine Headのライブ版と言ってもいいと思うけど、かなり後から再発された数回のコンサート全てのリミックス版を聴いても、その迫力、完成度、ライブならではの緊張感、全ての点において突出している。バンドのメンバー自身もあの日本公演は「人生のハイライト」だったと語っている程だ。当時のBritish RockというとどうしてもLed Zeppelinと比較されることになるけど、商業的にはもちろん特に米国でLed Zeppelinが圧倒的に勝利している。確かにBlackmoreよりもPageの方が見た目も格好いいし、ロックの曲はリフの格好良さが80%位支配すると考えると、Zeppelinの方が数的に格好いいリフが多いのも間違いない。Black Dog、Whole Lotta Loveとか。Pageはギターはお世辞にもうまいとは言えないけど(特にライブでは格好付け過ぎてレスポールを膝くらいまで下げて弾くので5弦とか6弦弾くと手首折れちゃうんじゃない?って感じ)リフは格好いい。でも彼らのライブであるSong Remains the Sameはボーカル等かなりスタジオ加工されている感じだし、オープニングのRock’n’Rollは行けてるとしても、全体の質はMade in Japanには及ばないという風に個人的には感じている。PurpleもSpeed Kingとか、(その後の第三期の)Burnとか、リフ格好いいし。ただ、Blackmoreのソロがスタカットみたいなのが多すぎてアメリカ的な感覚ではチョッと受けが悪い感じも良く分かる。アメリカで受けるギターソロはVan Halenみたいなスピード感を持ったものだろう。ちなみにBritish Rockと言えば、元祖プログレバンドELPのキーボード奏者だったキース・エマーソンが亡くなってしまいましたね。プログレっていうジャンルはどこまでを含むのか分かり難いけど、ブルースを基にしていないロック、どちらかと言うとクラシックを基にしているジャンルと考えるとELPはまさしく、その典型。意外だったのはキース・エマーソンというと余りにブリティッシュのイメージが強かったので、霧のロンドン、まあ米国でもNYC辺りで余生を送っていると勝手に想像していたけど、実はSanta Monicaに住んでいたという点。う~ん、Eaglesの元メンバーがSanta Monicaに居ても違和感ないけど、ELPとSanta Monicaっていうのは余りに接点がない感じ。でもそう言えば、Santa MonicaってチョッとしたBritishコミュニティーみたいな箇所があるので、そんな理由もあるんだろうか。それとも余生はやっぱり他のことはさておいて「お天気」重視ということだろうか。

自分でも何でブリティッシュロックの話しをしているか分かんない位脱線してしまったけど、Inversionの最新の財務省規則がどれだけ強力なものかっていうのは理解頂けた(?)と思う。財務省がここまでしないといけないのも、議会が2004年にSection 7874を制定して以来、法律そのものを改定しないというフラストレーションに基づく部分もあるだろう。財務省は何回も議会に、行政機関として規制できる範囲はSection 7874で与えられた財務省規則権限ををどこまで拡大解釈しても限度があるので法律そのものを強化するよう訴え続けてきた。

オバマ大統領も絶賛する340ページに及ぶ大作規則なので、何回かに分けて話さざるを得ないけど、ハイライトのひとつに前回までも散々触れてきていて、終わるところを知らずに制限が加え続けられている継続持分の分数算定に「更に」制限が加えられている点が挙げられる。ここまでやるんだったら一層のこと、「分母は分子と一緒とみなす!」で条文化してくれた方がスッキリする位、分母に加算できる外国法人持分が制限されてきている。具体的にはまさしく前回までのポスティングで触れた過去にInversionして出来た「外国企業」が米国企業を次々と飲み込んでいく「Serial Inverter」に対する規制強化。すなわち、過去にInversionした外国企業の持分のうち、直近過去3年間のInversion取引に帰属すると考えられる持分(すなわち旧米国MNCの価値に相当する部分)は分母に入れないとするもの。財務省は「特定の取引を想定しているものではない・・」とか言っているけど、現実にはPfizerのInversionの狙い撃ちだ。Pfizerの統合相手の「アイルランド企業」のAllergan自体、アイルランドのWarner Chilcottを基点に、ActavisとAllerganをInversionして結果できた外国法人だからだ。それにしても「Serial Inverter」という表現自体、「Serial Killer」(連続殺人犯)を連想させるネガティブなイメージだ。PfizerのInversionが新ルールで何%となるかは詳細不明だが、元々50%台後半に設定されていたと思うので、60%に行ってしまうこともあるかもしれない。この辺、今後の展開はかなり見もの。ちなみに両社は現在、新たに発行された財務省規則のインパクトを詳細検討中ということだけど、市場では早速Allerganの株価が20%ダウンとインパクトが織り込まれた形となっている。先進国の株式市場っていうのは結構Efficient。

ちなみに冒頭で触れた通り、今回の財務省規則は「Temporary」と「Proposed」の双方がある。この二つのタイプの法的効力の差は大きく、TemporaryはFinalと同様に法的拘束力を持つ一方、Proposedには法的な効果はなく、あくまでも草案という位置づけ。Temporaryは期間限定で、その期間内にFinalとしないといけないのがFinal規則との違い。Proposedには期間限定がないので、元祖Earnings Stripping規定(Section 163)のようにProposedの状態で20年以上も放置されているものもある。今回発表の規則のうち冒頭に触れた過少資本の部分はProposedという形で出ているが、財務省いわく「迅速にFinalに持ち込む」そうだ。同じEarnings Stripping対策でもSection 163の規則が20年放置されているのとは対照的。

抜き打ち的に財務省規則が発表されたのでチョッと長くなってしまったけど、Noticeの話しの延長戦なので話しの流れとしてはそのまま、次にPost-Inversionに規制等に関して続けたい。