Monday, March 28, 2016

Inversion/インバージョン(15)

今回も引き続き2014年と2015年に立て続けに発行された2つの姉妹NoticeとなるNotice 2014-52、2015-79に関して。前回も触れた通り、現行法の下でよくもここまで制限を・・、と思える厳しい内容。でも、実効性の程はその後も引き続き実行されるInversionで「?」。

まずはSBA規定。この規定、そもそも「Inversion(8)」で触れた通り今では有名無実の例外規定となっている。そんなSBA規定に、英語の表現で言うならば「死に馬に鞭」的に更なる制限を課しているところがこのNoticeの凄いところ。Noticeで言うところの「Tax Residency Limitation」と呼ばれている規定だ。SBAテストは紆余曲折の後、再編後に親会社となる外国法人の設立国でEAGグループが25%以上の従業員、資産、売上を持っていれば合格という機械的テストとなっているが、ここで、財務省が懸念しているのは、外国法人の「設立国」に十分な規模の事業が存在するものの、設立国では外国法人が「居住者」として課税されていないケースだ。

例えば、外国法人の設立国では、居住者かどうかの判断を米国の「設立国」ベースのテストではなく、「管理支配」ベースで行うケースとか、設立国ではパススルーと扱われて団体課税の対象ではないようなケースが想定される。そのようなケースでは、SBA規定を満たす国では外国法人が居住者課税されず、代わりに他の国の居住者となっていたり、場合によってはどこの国の居住者でもなかったりする。そのような事実関係はSBA規定の趣旨に反する(?)ということのようだ。Section 7874の条文では設立国となっているので、それ以上の条件を加えることは、今までも折に触れて書いている三権分立の原則に反するような気もするが、財務省としては、条文で「設立国」と言っているのは、米国風に考えての設立国のことなので、管理支配基準だったり、米国のEntity Classificationと異なる事業主体区分だったりと、外国の法律が異なる場合には、実質、EAGがどこで規模の大きな事業をしているかにかかわらず、自由に居住地設定を許すような結果となりポリシー違反であり「NG」としている。すなわち、SBA例外規定を認めないという結果となるが、そもそもSBA規定が形骸化している実態を考えると、余り大きなインパクトはないような気もする。

更にNoticeにはもう1つ外国法人の居住地絡みの追加規定がある。Noticeで「Third Country Transaction」規定と呼ばれているものだ。財務省は、Inversionで米国法人が外国法人と統合される際に、既存の外国法人の居住地ではない別の国に新設の外国法人が設立されてしまうような取引に敏感になっていた。この手の取引の一例に日本企業が絡んでいたケースがある。米国司法省と反トラスト関係の折り合いが付かず合併合意後18ヶ月を経てキャンセルされたApplied Materialと東京エレクトロンの合併だ。この合併は買収価格が$9.3Bと金融機関以外では日本の上場企業の米国企業によるM&Aとしては史上最高額の大型再編だった。この合併、もし実行されていたら、米国企業と日本企業が統合される際に、Eterisという新持株会社が「オランダ」に新設されていたということで日本でも一時話題になった。それはある意味当然なことで、米国企業がせっかくInversionしても、その行き先が日本ではタックスプラニングとしてはチョッと不合理だ。「No Offense」だけど、せっかくInversionするんだったら税率的にも、税法の予見可能性的にも違う国を目指すのが常識的な感覚だろう。

このような取引は、統合後の外国持株会社が「第三国」に設立されるので「Third Country Transaction」と言われる。Noticeにはどうして既存のSection 7874で与えられた権限内で財務省がこのような規則を策定することができるか、という正当性が結構長々と記載されている。逆に言えばチョッと権限を逸脱しているとも考えられる側面があるということだろう。細かいルールはさておき、財務省的にはThird Country TransactionはSection 7874のポリシーに違反しており、よって既存の外国法人株主が受け取る(別の国に設立される)新設法人株式を一定の条件下で分母に含めないとしている。となると米国法人の既存株主の継続持分が80%以上となるケースが多いだろうからInversionにならず、Third Countryの道は閉ざされることとなる。こんなルールができてしまった今、日本企業を統合相手とするInversionは起こり得ないということだろうか。

前回のポスティングの最後に触れた最新のInversionとなるIHSだが、統合相手となるMARKITは英国を本拠地としているみたいだけど実はバミューダ法人で、統合後の持株会社もバミューダ法人になると発表されている。Third Country Transactionに網が掛けられた今、逆に言えばバミューダ法人を持株会社とする以外に選択肢がなかったようにも思える。まあ、ルール通りにInversionしてその行き先が法人税ナシのバミューダであれば企業側には何の文句もないだろうけど。

と、今回は居住地の話題に終始したけど、Inversionの大元の趣旨が税率が高くて使い勝手の悪い米国税法から逃れるっていうところにあることを考えると、その行き先はとても重要だ。Inversionのようなプラニングは米国MNCにとっても怱々に実行できる機会はないので、どうせやるのであれば、それを期に最も有利な国に引っ越そうと考えるのが当然だ。そんなささやかな(?)願いも、Notice発行により選択肢が狭められたことは間違いない。で、次回も引き続きNoticeの他の規定に関して。