さて、今回からは2014年と2015年に立て続けに「これでもか!」という感じで財務省が気合を入れまくって発行した2つの姉妹NoticeとなるNotice 2014-52、2015-79に関して。現行法の下でよくもここまで制限を・・、と思える厳しい内容なはずだったんだけど、発行直後にまるで狙ったかのように2つハイプロファイルなInversionが敢行された。Noticeの面目丸潰れみたいな観もあったけど、2014年Notice発行直後にはBurger King、2015年Notice発行直後には遂にあのPfizerが各々Inversionを敢行した。
もともとSection 7874下で規定される規則(特にSBA規則)は、紆余曲折が多く、財務省規則やNoticeの考え方が二転三転したり、付け焼刃的に個別の手法に網を掛ける形でルールが進化している。今回の姉妹Noticeもその例に漏れず、あちこちの規定を手当たり次第強化しているので、読む側としては交通整理が難しく気持ち悪い。まるで、家から遠い普段行きなれていないWhole Foodsの店舗で買い物してるみたいな気になってくる。近所のWhole Foods、例えば個人的に言えば、NYのMidtown Eastの57thとか、カリフォルニアのMDRの近くのPlayaにあるロフトみたいな店舗とかだったら、どこの棚に何があるかしっかり頭に入っているので買い物もスムースにできる。だけど、他の用事でちょっと足を伸ばしたついでとかに行き慣れない店舗に立ち寄ったりするとタチが悪い。NYのTime WarnerビルとかWest L.A.のNational店、Venice店位までだったらたまに行くのでまだ見当の範囲内とも言えるけど、Union SquareとかSoHoのお店、カリフォルニアだったらチョッとPCHを下ってManhattan Beachとか行くと、どこに何があるか分からず下らないアイテム探しに異常に時間が掛かる。「アレっ蜂蜜がない」とか、「Hearts of Palmの缶詰だけが見当たらない」とか。全店舗同じ配列にして欲しいけど、建物の形が違うから無理なのかもね。後、NYCのWhole Foodsは曜日と時間を選ばないと混雑が激しく、欲しい野菜に手が届かなかったり、レジの4つの色(NYCでWhole Foods行く人なら分かるね?)にたどり着く以前の段階で延々と列に並ばされたり、まるでディズニーランドで、Fast Passとか必要な勢いだ。
と、それ位分かり難い内容のNoticeだけど、この2つのNoticeは別々に読むより、一度2つを混ぜて、その後、網を掛けようとしている対象となる取引カテゴリー別に整理し直して読む方が分かり易い。
まずは以前にも触れた、再編後の旧米国法人株主の持分%を算定する際に、分母を大きくする手法への対抗策、Anti-Stuffingだ。これは以前の「Inversion(10)」で例題をもって触れている部分だが、外国法人が総資産に占める現預金等の非適格資産の比率が50%を超えると、その%に準じて外国法人の価値を減額した金額を分母として(すなわち外国法人の時価のうち、現預金に対応する部分は分母として数えずに)持分%を算定するというものだ。そのような外国法人を「Cash Box」と呼び、意味もなく価値が増幅された外国法人と統合して、旧米国法人株主の継続持分が「80%ギリギリ切ったぜ!」というようなパターンを取り締まる目的だ。
次に「Inversion (12)」のValeantのInversionケースで触れた分子を低くする手法であるSkinny-Downへの対抗策。NoticeではSkinny Downを達成するために行われる通常より大きな分配を「Non-Ordinary Course Distribution(NOCD)」という用語を使って定義し、NOCDは分子に加算するとしている。NOCDは過去3年間の平均分配額の110%を超える金額の分配を意味する。配当課税される普通の分配も、適格スピンオフとなるSection 355分配も双方ともに金額が大きければNOCDとなる。Valeantケースで痛い目にあった財務省はNOCDはSection 7874だけでなく、今後はSection 367にも適用するとしている。たかが分数、されど分数。分母、分子に何を入れるかはInversionプラニングの生命線だ。
さらに持分比率を考える上で、悪用されるかもしれないということでNoticeに規定されているものの1つに「Subsequent EAG Transfer規定」というのがある。これは米国企業が、一部の事業を子会社化し(または既存の子会社を利用し)、その子会社株式を新設の外国法人に現物出資した後、その外国法人ごとスピンオフしてしまう、という手法に関係する。蓋を開けてみると、米国事業の一部がInversionされた結果となる取引だ。それにしてもみんなInnovative。スピンオフを僕たちの業界ではスピンと言うことが多いけど、スピンを利用してInversionさせることから「Spinversion」という俗語で知られる取引形態だ。いろんな面白い用語が次々に登場してくるものだ。
このSpinversionを理解するには「EAG Exclusion」規定を理解する必要がある。EAGとはExpanded Affiliated Groupのことで、その名の通り、Affiliated Groupが拡大されたグループのことだ。Affiliated Groupは、通常、連結納税が可能となる80%以上の価値・議決権で結ばれていて、米国に親会社があるグループを意味するが、Section 7874目的ではこの定義が「Expand」され、親会社が米国法人でなくてもAffiliated Groupとなり、更にグループかどうか判断する際の持分%も80%以上ではなく50%超に低減される。
Section 7874には、統合相手の外国法人が属するEAGメンバーが持つ株式は継続持分%を算定する際に、分母にも分子にも加味しないというEAG Exclusionという規定がある。上述のSpinversionのストラクチャーでは、最初に米国親会社が新設外国法人に米国事業または米国子会社を現物出資して、外国法人の株式を受け取る。その時点で米国親会社は外国法人のEAGメンバーなので、株式を持分%算定に加算する必要がなく、外国法人はそのまま外国法人と認められるし、その後10年間の取引に関してInversion Gainの認識とか面倒なこともない。ただ、そのままのストラクチャーでは、外国法人自体が米国親会社の子会社(CFC)なので、Inversionした形になっていないが、その後に外国法人を米国親会社がスピンしてしまうという仕掛けだ。
そのようなSpinversionに網を掛けるため、外国法人に国内事業・法人を現物出資して米国親会社が受け取った株式を、その後、関連するプランの一環で、米国親会社が譲渡(自分の株主へのスピンを含む)してしまう場合、その株式はEAG Exclusionの対象とはしないとされた。となると、この株式は分母と分子双方に加算されることとなり、結果として米国事業を現物出資した外国法人はSection 7874に基づき税務上は「米国法人扱い」となってしまう。
ただし、このSubsequent EAG Transfer規定に関して、Inversionを取り締まる財務省の観点から、実質問題がないと判断される局面では、例外が規定されている。すなわち通常のEAG Exclusion規定に基づき、株式を持分%算定時に分母にも分子にも入れない扱いが認められる。具体的には元々究極的に外国企業に所有されているグループのケース(今更Inversionする必要がない)、または株式の譲渡等全てのステップを含む再編後も究極の米国親会社に所有されているケース(Inversionしていない)、に関してはEAG Exclusionの濫用はないため、EAG Exclusion規定の適用が認められる。
Noticeには他にも統合後の外国持株会社の居住地関係の規定、Inversion後のEarnings Strippingをし難くする規定、Section 304関係、等盛りだくさんなので、それらは次のポスティングで。とこれを書いていたら、今日(2016年3月22日)またしてもHISという米国企業がMARKITという英国を本拠地とするバミューダ法人相手にInversionするというニュースが流れている。このHIS、バミューダを統合後の持株会社所在地にするそうだが、その決定にはNoticeの外国持株会社の居住地関係の規定の影響が見られる。これも合わせて次回。