Tuesday, October 31, 2017

下院の法文原案発表、木曜日に延期?

やっぱり時間が足りなかったのか、米国時間明日(水曜日)に下院歳入委員会が発表すると豪語していた法文原案は、一日延期して木曜日になるだろうという話しがDCで発表前夜になって囁かれているらしい。州税の控除とかで合意に達していないとも言われていたし、歳入面から20%の法人税率ですら毎年3%づつ5年掛けて導入とか言う噂もあるし、結局無理が祟っている感じ。5年掛けて導入したら20%になるのは西暦2022年でセコイにも程がある。それにしてもあれだけ言ってたのに明日に発表できないようでは今後の審議が思いやられる。ダサ過ぎでした。

米国税法改正法原案(いよいよ明日下院案公表!)

31年待っていた、と言ってもずっと待ってた訳ではないけど、抜本的税法改正の法文原案が見れる日がついに明日に迫っている。今週のワシントンは忙しそう。元々、税法改正の法文原案が水曜日に公表されることになってたり、トランプによる時期FRB議長の人選の発表(おそらくJerome Powellと言われてるけど)予定、そしてトランプのアジアツアーと既に満載だったのに、さらに月曜日にいきなりMueller特別検察官によるロシア疑惑で初となるマナフォートの起訴が発表され、ますます大変な週となった。

Muellerによる起訴は税法改正の進展に影響ないと共和党指導部はどちらかと言うと敢えて控えめな反応をしているが、ただでさえ無理な日程で税法改正を可決しようとしている矢先の出来事でどう考えてもプラスではない。

で、発表を明日に控えているにもかかわらず法律の内容が伝え漏れてこないのは歳入委員会の重鎮にもが内容を知っていて厳重に管理されているのか、実は未だ決まってなくて漏洩する情報すら存在しなかったりしたら怖い。ほぼの部分は決まっているんだろうけど、最後まで揉めているのは個人所得税算定時の州税控除。州税控除を取っている納税者が多いとされるNYやNJ州の共和党議員はこの点が明確にならないと税法改正には賛成できないと、前回のポスティングで触れた下院の予算決議に反対票を投じた程だ。結果として下院の予算決議は216対212と結構際どく可決されている。

この点に関しては歳入委員会も妥協せざるを得ないのは間違いなく、一部控除を温存するか、または州の不動産税の控除を残すとも言われている。今世紀に入って最初の大型税法改正の運命がSub CでもSub Kでもクロスボーダー系でもなく、所得税上の州税の控除度合いに掛かっているというのもチョッと地味な観は否めないが、行きつくところ議員の興味は選挙区で自分の行動が有権者にどう見えるかということだろうから、この辺りが本当の争点となってくるようだ。

発表前日の今日、下院委員長のPaul Ryanはトランプと税法改正に関して午後2時に打ち合わせをするとしている。トランプはMuellerによる自分の元選挙対策メンバー起訴でどれだけ税法改正にフォーカスできているのだろうか。副大統領のPenceも税法改正プッシュで議員と協議すると言われ、最後までバタバタしていることが分かる。

2018年中間選挙を考えると税法改正を早急に決めておくことがMustだけど、今後の審議は地雷だらけ。明日の公表そしてそれ以降の審議等の展開はかなりの見物だ。

Thursday, October 26, 2017

両院一致予算決議ついに可決

前回のポスティングで税法改正の法案審議開始の法的な前提条件とも言える「予算決議(Budget Resolution)」が10月19日に上院を通過した点に触れたが、今日、同決議が下院で216対212にて可決された。予算決議は両院一致で可決される必要があり、下院では以前に別の内容で決議が可決されていたが、異なる内容に関して両院協議会ですり合わせを行うという時間を節約するため、上院で可決されたバージョンそのものが下院でも可決され、一気に両院一致予算決議の可決となった。

下院が上院のバージョンそのものを両院協議会を通すことなく可決するケースはそんなに多くはないが今回はそれだけ税法改正を今年中に実現させなくてはいけないという共和党指導部の決意が固い、というかプレッシャーが強い、ということだろう。でないと2018年の中間選挙では完敗が予想されるからだ。特にオバマケア廃案の審議過程で党内影響力を強めてきたFreedom Caucusが上院決議直後にカンファレンスコールを持ち、Caucusとしては基本上院決議を指示するという意思表示をしたのは大きかっただろう。

これでいよいよ待望の下院歳入委員会から法案原文が出てくるステージがセットされたことになる。法案原文の骨子はとっくに完成していると推測されるが、一週間後の11月1日か2日に公表されると言われている。原文が公表された際に興味深い点としては、課税ベース拡大策、海外法人と米国法人を同じ土俵にするとしている点に関する具体的な規定、25%パススルー課税の抜け道防止策、金利の損金算入制限法、個人所得税の35%超のブラケットが制定されるのか、などの諸疑問に対する詳細だろう。

それにしても今週はレーガン大統領が1986年の税法改正に署名してからちょうど31年。30年ぶりの大型改正というフレーズが多用されているが正確には31年ぶり。

でもレーガン大統領と異なり、トランプ大統領は相変わらず「JFK暗殺の機密文書ファイルを公開する」と急に思いついたようにTweetしたかと思うと「税法改正は12月いっぱいには俺が署名することになるだろう。ただ、本当に12月末まで待たされることにはならないと思うけどね」といつも通り何の理由もなく断定的に楽観的だ。オバマケア廃案の時も大統領就任までは「即廃案」とだけ言っていたのに就任後急に「廃案+新案に置き換え」と考えが変わり、その後も秋空というか「You change your mind like a girl changes clothes…」(この歌詞はKaty Perry、これは分かったよね?)のように意見がEver Changing Moodとなり、結局廃案失敗となった苦い経験があるが、今回も急に立法プロセスが始まる直前に「401(k)は温存」とか「数週間後に俺がもっと凄い大綱を発表する」とか散々かき回している。Ever Changing Moodと言えばPaul WellerのThe Style Councilは当時超「オシャレ」ないい感じのBritishバンド! 神宮前のclub DとかでShout to the Topとかプレイされたの懐かしい。Ever Changing Moodはビートの効いたバージョンとピアノバラードバージョンがあるけどやっぱりバラードの方が断然いい。

で、トランプ大統領だけど、上院との軋轢もかなり表面化してきて、それでなくても時間的に綱渡りの立法プロセスが更に複雑にならないことを願う。なにせDestination Unknownな大統領なので。Destination Unknownと言えばMissing Persons。The Style Councilとは何の接点も共通点もないL.A.のバンドだけど、これはこれで格好いい。特にTerry Bozzioのツインバスのドラムは最高。ベストトラックは「Mental Hopscotch」。

課税ベース拡大で一番揉めそうなのは個人所得税を算定する際の州税控除。完全撤廃は法案が出る前から既に暗雲が立ち込めていて、$400Kまでの所得(おそらくAGI)であれば認めるとか妥協案が噂されている。まあ150兆円規模の赤字が今後10年間容認されている予算決議なんだから歳入面に関してはある程度弾力的に対応することになるんだろう。

とまだまだ予断を許さない状況だけど、とりあえず税法改正に向けて又一歩前進でした。

Friday, October 20, 2017

予算決議上院可決

税法改正の法案審議に手続き的に不可欠となる「予算決議(Budget Resolution)」がついに上院で木曜日(10月19日)可決された。

この予算決議だけど、単に予算の概要を示すだけではなく、決議の「予算調整措置(Budget Reconciliation)」というプロセスを通じて実際の法案作成を指示することができる。今回の決議では今後10年間で1兆5千億ドルの財政赤字になってもいいから税法改正をするようにという指示が入っている。100円換算で150兆円に上る赤字を容認することで税法改正実現のためのステージができあたったこととなる。

皮肉なことにこの一連のプロセスは1974年の予算法修正で財政赤字の削減をひとつの目的としていたようだけど、一転して大型減税達成のToolとして最大限利用されることになる。10年間の時限措置だったブッシュ(息子)政権の大型減税も当然この枠で実行されている。

このプロセスを使って法案を審議する醍醐味は上院で単純過半数の51で法律を通すことができる点にある。上院は100議席あり、通常は60票の賛成が必要だ。更に正確に言えばVPがTie BreakerのCasting Voteを握っていて、ペンスが共和党なので共和党の法案に反対票は投じず、結果として共和党は50票を確保すれば大型減税案を上院で通すことができることになる。

ただ、この数字は油断大敵だ。逆に言えば共和党の上院議席数は52だから3人造反者が出たらおしまいということ。現にオバマケア廃案も2017年予算決議に基づく審議だったけど、複数の法案可決時に常に3人の造反者が出て万事休すとなった苦い経緯がある。今回の税法改正も際どい。おそるおそる弾金を引いて、弾丸は一発だけ。裏目に出た時は全てが消える電光石火ロシアンルーレット、ってこんな曲の歌詞知っている人は今では少ないよね。オフィシャルには51カ月続いたと言われる日本のバブル経済前夜で今の日本からは想像できないハイテンション時代の曲だ。スキーとか遊びに行くときに関越や中央フリーウェイ、または横浜行くときの第三京浜で「Wham」の「Careless Whisper」や「Madonna」の「Like a Virgin」とかと交互にわざわざ聴いてた「Voyager」ってアルバムがあったけど、その中の名曲「ガールフレンズ」に続く「(なんとか?)ルーレット」っていう曲だ。松任谷由美のどのアルバムがベストかっていうのは当時常に熱い議論だったけど、個人的には「Reincarnation」、続いてこの「Voyager」かな。日本が将来ズッと成長し続けると皆が信じてたいい時代だったんでより懐かしいのかも。更に時代を遡ると、この頃はまだ荒井由美だったけど「Misslim」と「ひこうき雲」も個人的に好きなアルバムだ。こちらはバブル経済ではなくまだ今から思うとiPhoneもAPPもInstagramもなくて質素だったけどみんなで楽しくやってた子供時代がフラッシュバックしてくる。

で、なぜ共和党の法案に共和党議員が反対することがあるかというと、米国では議員の過去のVoting Record(各法案にどのような票を投じたかという記録)が選挙毎に国民に精査される。したがって自分の選挙区や支持基盤がサポートしていない法案には例えそれが自分が所属する党の議員により提出された法案でも反対票を投じることとなる。

なお、予算決議は両院一致で可決される必要がある。下院では既に可決されているが、今回可決された上院バージョンとは内容が異なる。先に可決されていた下院バージョンの上院との一番の違いは税法改正の際に赤字を増やさないようにとなっている点だ。本来、内容が異なる予算決議が両院で可決されると、両院協議会ですり合わせを行う必要があるが、今回はただでさえ足りない時間を節約するため、上院を通過したバージョンを下院でも再度通し、一気に両院一致予算決議を可決したいと下院議長は言っている。となると来週にも一致予算決議が出て、直後に下院の歳入委員会から法律原文が出てくるのだろうか?Paul RyanもKevin Bradyも今年中の税法改正可決に未だにアップビートなことを考えると法文原案は実は裏ではほぼ完成しているものと推測される。

今回の上院による予算決議審議で面白かったのは例のRand Paul先生だ。Rand Paulと言えばオバマケア廃案の最後の法案に「十分に廃案していない」と反対票を投じたり、「情報交換規定は憲法違反」として租税条約の批准を一人でブロックしている大先生だけど、今回は「1兆5千ドルでは足りず2超5千ドルまで赤字を認めてもっと豪快な減税とすべき」という修正要求をして、それが却下されると予算決議そのものに反対票を投じている。今回は51の賛成票が集まっており、それらは全員共和党議員のものなので、造反者はRand Paul一人だったこととなる。ちなみにRand Paulの修正案は7対93で大敗しているが、他に6人は賛成した共和党議員が存在したんだね。それにしても150兆円の赤字では十分ではなく250兆円相当の赤字を提案していたとはさすがRand Paul先生。レベルが違う。

Thursday, October 19, 2017

米国内部留保課税

今日、急に日本企業複数社から、10年以上、もしかしたら20年以上(?)に亘り誰からも質問を受けた記憶のない米国の「法人内部留保金課税」にかかわる質問が相次いだ。なぜこんな目立たない税法が急に息を吹き返したように話題になっているのか一瞬面食らったけど、小池代表の希望の党が内部留保課税を衆院選の公約に掲げたり、メディアが「米国ではすでにそのような課税が存在する・・」という感じで報道したことを受けての反応だったようだ。で、後からその報道を見たけどチョッと誤解を招くような感じもあった。というのは読み方によっては、米国法人は税引後利益の未配当部分に恒常的に20%課税されているように取れるからだ。実際は違ってこのような課税はかなり稀なケースに限定されている。

報道の通り、確かに米国にも「Accumulated Earnings Tax(「AET」)」という内部留保課税制度は一応存在はする。その趣旨は、法人が合理的な事業ニーズを超えて留保金を持ち続け、「個人」株主側の配当課税を不当に繰り延べていると判断されるケースに限り、法人に20%の実質ペナルティーを課すというものだ。ただ、単に法人に大きな留保金があるということだけで課税されるような簡単なものではなく、法人が株主の課税を回避するという意図を持って過剰な留保をしているというIRSにとっても面倒な認定をしないと適用はない。制度的にはこの認定をIRSが行った場合には、納税者側が反証に回るというものだ。すなわち、申告書で納税者が計算するタイプの税金やペナルティーではなく、税務調査で初めて争点となるものだ。

AETの趣旨はあくまでも「個人」株主が配当に対する所得税支払いを先送りするために法人を利用している状況に網を掛けるというもので、AET算定は会計上の、特に全世界グループの連結財務諸表上の税引前利益とか留保金とは一切関係ない。あくまで米国内の課税所得に一定調整して税金を引いて(結果としてE&Pに近い数字となる)更に配当、合理的な事業ニーズ、$250Kという生涯免税枠を差し引いた額が基準となる。

1986年の税法改正以降、特に2000年代前半のブッシュ減税で配当に対する税率がキャピタルゲイン同様に低減してからはそもそも配当課税を先送りするインセンティブが相対的に大きく低下している。1986年の税法改正前は法人税率と比較して個人所得税率がかなり高かった時代もあり、法人を組成して個人株主側の課税を避けようという動きもあったかもしれないが、それも今は昔。また家族経営的な曲面では1990年代からはS法人、法的なパートナーシップに加え、LLCというパススルー課税選択可能な法人ハイブリッドが主なので、わざわざ法人(=Corporation)形態を利用して配当課税を節約しようというコンセプトそのものが時代にそぐわないと言える。結果としてAETの適用はかなり稀だろう。

そのせいかどうか分からないけど、IRSの「税務調査マニュアル(Internal Revenue Manual)」のAETに対する部分は2000年に取り下げられ、その後、それが復活している形跡はない。

ただ、一点面白い展開としては米国税法改正が本当にUnified Framework通りに可決されると法人税は20%、個人所得税は最高35%(場合によってはもう一つ高いSuper Bracketもあり得る)となる。そうなると潜在的に法人をシェルターのように使用するインセンティブが復活してくるかもしれない。ただ個人事業主、パススルーが25%になるのであれば無理して法人を組成する理由もないだろう。このことからも法人税率を20%にする場合にはパススルーの事業所得に対しても何らかの減税がないとおかしな結果となり得ることが分かる。

で、このAETだけど、単に個人株主というだけでなく、株主が「米国個人所得税」の対象となるケースのみに適用があり得る。例えば日本企業の米国現地子会社、米国内の法人所有の子会社、などは制度的に対象外となる。1984年の税法改正でAETは株主の人数に関係なく適用があるとなったことから上場企業でも個人株主に関しては理論的には対象になるということだけど、上場企業のBoardは受託者義務に基づく企業統治をしっかりしていると思われることから、不要な資産を留保しているという認定に至る、または過剰な留保金を持っていても法人がそのために存在するというような認定を受けることはまずあり得ないだろう。今日の上場企業には必ずと言っていい程アクティビスト株主(「物言う株主」って訳すんだっけ?)がいるから余剰の現金なんか持っていたら直ぐに自己株式をBuybackしろとかなるし。結果としてAETの適用はあったとしても相当露骨に配当課税を回避している同族企業のような局面となるはずだ。実際にその昔「Technalysis Corp」という判例があり、上場企業という理由だけではAET回避はできないが、結局法人が課税繰り延べのために資産を内部留保しているとは言えないという結果が出ている。

日本の論調は留保金を有効活用させるためにペナルティー課税を導入というように報道されているけど、米国のAETにそんな意図は一切ない。あくまでも個人株主の課税繰り延べと言う節税プランに網を掛ける意味しかなく、企業が他の目的でどのような配当性向を持っていようとそんなことをいちいち連邦政府から口を出される筋合いはない。税法以外は僕の専門ではないけど、普通に考えれば企業統治が健全に機能していて、効率のいいキャピタルマーケットが存在する環境であれば、企業およびマーケットが各Stakeholder、利害関係者にとってベストな配当性向を決定するはずだろう。各企業の内部戦略は千差万別なんだから部外者から配当性向を指示されたり、一律ガイドラインが出たりする方向は変だ。制度設計を再検討するのであれば企業統治やキャピタルマーケットの効率性をより高める環境作りに注力して、後は民間に任せるのがベストなんじゃないかな、と思ってしまいました。

Sunday, October 15, 2017

米国税法改正大綱 「Unified Framework」(5)

前回は米国税法改正大綱とも言える「Unified Framework」の法人税および事業所得に対する課税について、特にR&Dクレジット、製造者控除のような特殊恩典と課税ベース拡大、そして最後に法人の二重課税軽減と上院のCorporate Integrationプランに関して触れた。今回はクロスボーダー関係。

元々The Blueprintが2016年夏に公表され、その後選挙で両院プラス大統領府を共和党が制した後も、米国税法改正が最終的に一体全体どのような形のものとなるかという点に関しては多くの不明点があったが、現状の全世界課税からテリトリアル課税制度に移行することは間違いないと考えられていた。

で、予想通り、Unified Frameworkでも米国のテリトリアル課税制度への移行が明記されている。The Blueprintでもそうだったように、海外子会社からの配当は100%非課税としている。これはCamp案とかの従来の提案が日本同様に95%非課税としていたのと対照的だ。なぜ5%とか課税する案が多いかと言えば、親会社レベルでの金利負担に代表される海外子会社投資のCarrying Costを紐付きで損金不算入扱いしない代わりに、配当5%部分に課税してみなしでCarrying Costを損金不算入したっような効果を得ようとするからだ。Unified Frameworkでは100%非課税としているだけで特にこの点への言及はなく、Carrying Costを損金不算入するような特別な規定が入る話しはない。損金不算入はないと考えるべきか、それとも既存のSection 265を改訂して少なくとも利息の一部損金不算入となるのか、今後の注目。

非課税となる配当はCFCからのものばかりでなく、10%以上の持分を持つ投資先からのものも対象となる。現状の間接外国税額控除も10%持分が基準だけど、その場合は議決権で判断するので今回も議決権ベースかもね。

そして米国のテリトリアル化の際に避けて通れないのが制度移行時の一括課税。国境調整に基づく消費地課税が取り下げられた今、めぼしい財源と言えばこれしか残っていない。米国多国籍企業は現状の税法ではとても海外で稼いだお金を米国に持って来れず、多額の埋蔵金を海外に留保しているのはみんなも知っての通り。

以前「トランプ大統領税法改正プラン(5)」で書いたけど、アップルに至ってはナンと2,500億ドル(円ではない)の現預金相当を持っており、その9割が米国外にある。米国外にあると言っても、預金の大半はNYCの金融機関にあると思われ、海外子会社がNYCに非居住者口座を持っているようなイメージだろう。EYの監査クライアントなので公けの情報のみを基に話しておくけど、2,500億ドルと言えば100円換算でも25兆円だ。WJSによるとこの金額は英国とカナダの外貨準備高の合計より、またWalmartのマーケットキャップより大きいというから凄まじい。この現金をどのように戦略的に使うべきかに関しては外部からいろんなコメントがあるけど、歴史的にアップルは余り大きなM&Aをしていない。Netflixを買収するべきという話しもあるし、いやテスラでしょう、という話しもある。ただ、これだけの現金があるとNetflixとテスラの双方を同時に買収してもまだお釣りがくるそうだ。その昔は破産の危機に瀕していたこともあるのにやっぱり元祖iPhoneをこの世に送り出してくれたSteve Jobsの才能は凄まじい。

で、Unified FrameworkではThe BlueprintやCamp案でもそうだったように制度移行時点で累積されている配当原資、すなわち米国基準で算定するE&Pに対して2つの低税率で課税するとしている。The Blueprintでは現預金に対して8.75%、事業資産に再投資されている部分は3.5%としていたが、Unified Frameworkは税率を明記していない。トランプ大統領は一律10%としていた。歳入がどれだけ必要かにより税率を決めるつもりなんだろうけど、どの時点で現金と他の資産を区別するのか、とか結構複雑なことになるような気がする。5%も税率が異なるんだったら当然急に現預金を事業資産に投資してバランスシートを操作するプラニングが横行しそうだけど、そんなプラニング防止のため9月27日とか法律が最終化する以前の日の資産状況を基に対象税率を決定したいという話しもあるようだ。ただ、現実問題として期末以外のタイミングで正確なバランスシートなど存在しないことが多く、変な日にちが設定されると面倒なことになりそうだ。余りに複雑になるようだと結局単一レートという可能性も無くはないだろう。

制度移行時点で累積されている配当原資に一括課税というとシンプルに聞こえるかもしれないけど、現実にはテクニカルな検討事項が結構多い。世界中の子会社を別々に見るのか、マイナスとプラスのE&Pを相殺させてくれるのか、とかいろんなアプローチがあり得る。一括課税をテクニカルにどう位置付けるのかも不明だけど、新たなSubpart Fカテゴリーを規定して留保金課税するのが自然な感じ。どのような課税方法が採択されるにしても現時点で米国多国籍企業が最も注力しているのがこの一括課税をどう最小限に食い止めるかという点だろう。

ちなみに10%投資先からの配当も100%非課税となるからには当然一括課税の対象にもなる。10%しか持っていない投資先の米国算定基準のE&Pなんか分からないケースもあるだろうし、配当性向に関して決定権を持たない投資家が配当原資全額に課税されてしまうのもチョッと気の毒なケースもありそう。

税率がどれだけ低く設定されたとしても埋蔵金が巨額なだけに、一括課税から上がる税収は大きい。となると支払う方は大変で、しかもみなし配当課税だから、本当に海外で再投資されているケースでは親会社に十分な納税原資がないこともあるだろう。The Blueprintでは8年間の割賦納付が規定されていたが、Unified Frameworkでも複数年掛けての納付を認めるとしている。ただ、それが何年なのかは明記されていない。

テリトリアル化で心配されるのは米国多国籍企業によるBase Erosion。一度、海外子会社に所得が移転されてしまうと米国としては2度と課税するチャンスがないからだ。同様の懸念が2009年に日本がテリトリアル化した際にも存在したが、プラニングに対する熱意が異なる米国企業相手となるとこの懸念はRealだし確かにいろいろなプラニングを実行してくるだろう。その対策にかかわるUnified Frameworkのコメントに関しては次回。

Tuesday, October 10, 2017

米国税法改正大綱 「Unified Framework」(4)

前回は米国税法改正大綱とも言える「Unified Framework」の法人税および事業所得に対する課税について、特に設備投資減税と支払利息の損金算入制限に関して触れた。今回は税率低減の引き換えとなる課税ベース拡大の一環でThe Blueprint時代から撤廃が予想されていたクレジット、特殊控除に対するUnified Frameworkのアプローチを中心に見てみたい。

まずUnified Frameworkでは2つの恩典を明確に残すとしている。ひとつは以前から聖域化していて税法改正がどのような方向になろうと存続がほぼ確約されている「R&Dクレジット」。Patent BoxやInnovation Boxを導入していない米国において、自国の試験開発を税法面から後押しする切り札だ。Patent BoxはNexus云々が欠けていたり、下手をすると条件次第ではOECD BEPSの世界では悪しき慣行のレッテルを貼られてしまい、R&Dクレジットがより好ましい税法とされているが、BEPSに同調する気配が一向にない米国においてこの部分は「期せずして」BEPS Action 5に準拠しているような形になっている(苦笑)。

R&Dクレジットは日本企業の米国子会社も頻繁に利用しているけど、もうひとつ存続が約束されているLow-Income Housing Tax Creditは日本企業には余り馴染みのない規定だ。このLow-Income Housing Tax Credit、略してLIHTC、「ライテック」とか何となく冷蔵庫メーカーみたいな名称で呼ばれていて、大手会計事務所では専門チームが居たりするけど、基本的には低所得層向け住宅供給のために設立された連邦政府の補助金制度のようなものだ。

税法の簡素化および課税ベース拡大の見地から、他の恩典は基本的に撤廃または見直しということなんだけど、The Blueprint時代から目の敵にされていて撤廃が明言されているのが国内製造控除、Section 199だ。Section 199は、古くはGAAT、近年ではWTOを舞台に揉め続けたFSCとかETRとかが結局撤廃になった際、輸出補助に代わる米国製造業回帰策の切り札として登場してきた経緯を持つ。米国で一定の製造活動に従事しているとそこから創出される課税所得の9%が非課税となるというもので、形式的には費用控除だけど、実質そのメカニズムは税額控除に近い制度だ。

Unified Frameworkでは法人税および事業所得に対する税率が過去80年で最低になり、OECD諸国と遜色なくなることから、米国での製造活動に対する税務上の不合理は解消され、製造者控除の役割は終わったとしている。また、他の諸々の恩典に関しても撤廃または限定するとしているが、Section 199以外に関しては何となくはっきりしない。

また特定セクターだけに規定される特別な恩典に関しては近代化して今日の経済実態により即したものにするとしている。う~ん、何か官僚の答弁とか禅問答を聞いているみたいで何をしたいのか良く分からない。政治的に撤廃できないものは残すってことなんだろうか。セクターに対する特殊恩典としては資源とか再生可能エネルギーにかかわるものが多い。米国のエネジーポリシー、環境ポリシーが新政権下で大きく変化しているので、この辺りの恩典見直しがどう導入されるか興味深い。

法人税および事業所得に対するUnified Frameworkのアプローチはだいたいこんなもんだけど、一点最後に法人税ストラクチャーにかかわる記載に意味不明の一文が挿入されている点に触れたい。

「今後、議会は法人の二重課税負担軽減法を検討するかもしれない」という一文だ。いかにも取って付けたような不自然な一文で、最初読んだ際には内国法人間での配当を全額まはた70%、80%非課税としている現状のDRDを拡充でもさせるつもりで書いたのかな、位にしか読んでなかった。でも、どうもしっくり来なかった。で、良く考えてみてㇷと気付いたのが、今回のUnified FrameworkのUnifiedと言うのは当然上院の財政委員会がBig 6の一角に入っているけど、財政委員会が過去から提唱しているのが「Corporate Integration」という法人課税法だったという点だ。このCorporate Integrationというのは財政委員会、特にその議長のOrrin Hatchが今でもあきらめずに提唱しているもので、個人を含む株主が受け取る配当に課税されて法人レベル課税と合わせて二重課税となる問題を、配当を法人に損金算入させることで解決しようとするものだ。法人側でDPD(Dividend Paid Deduction)を計上させるという仕組み。

それであの一文の謎が解けたような気がした。すなわち、Unified Frameworkでは常に一家言ありの上院の意思を尊重するためにあのような文を挿入したものと個人的には考えている。実際には「may consider…」程度の話しで現実にCorporate Integrationが法律となることはないに近いと思うんだけど、上院はThe Blueprintの頃からしきりと「下院の法案をそのまま採択するようなことはしない」とその存在感をアピールし続けたため、この一文を拠り所に独自の法原案を出したりしてくるかも。そうなると下院、上院のすり合わせに時間が掛かり今年中の法制化は、今でも夢のような話しだけど、もっと夢になるという悪夢となり兼ねない。

ということで法人税および事業所得の課税の話しはこの辺にして、次回は米国多国籍企業に大きなインパクトを持つテリトリアル課税について。

Wednesday, October 4, 2017

385条財務省規則ついに実質廃案

夏からオバマ政権末期に公表された悪しき規則のひとつとして、新政権が見直しを表明していた385条「Debt/Equity Classification(俗称「過少資本税制」)」最終規則が実質廃案に近い形で処理されることが発表された。トランプ政権による規制緩和の一環で財務省は今日、大統領令13789を発表し、規則の骨子を構成する2つの規定、すなわち文書化規定、Funding規定の双方とも行政府の行き過ぎた規則とし、次のような改定を約束している。

まず、文書化規定。こちらは既に発効が1年延期され2019年1月1日となり、その存続は風前の灯化していたが、今回の大統領令で遂に正式に廃案となった。正確に言うと既存の文書化規定は廃案とする代わりに、より簡素化された新規則に置き換えるとしている。特に評判の悪かった、買掛金とかの日常業務で発生する負債に対する文書化の必要性有無に関しては一から見直すとしている。本当のローンであれば文書化はあってしかるべきだと思われるが、これらのWorking Capital的なやり取りまで文書化というのはやはり負荷が高いので改正はありがたい。

また、もう一つ皆が悩んでいた「合理的な返済可能性」にかかわる文書化要件にも大幅な見直しを加えるとしている。さらに現存の規則がかなり焦って旧政権末期に滑り込み的に策定され混乱を生じさせていたことから、新規則は公表の段階で納税者に十分な準備期間を設けるとしている。

385条最終規則の2つ目の規定となり、また現時点で既に法的効力を持っている「Funding規定」に関しては、余りに行き過ぎた規定だったとし、ただし議会が現在着手している米国税法改正の一環で規定そのものが不必要となることが予想されるとしている。なので、敢えてここで変な改訂をすると不必要な混乱を招く危惧があり、現時点での改訂は敢えて控えるそうだ。ただ、税法改正は決まったわけではないので、万一議会による税法改正でFunding規定の重荷が解消されないと判断される場合には、その時点で最終規則の改訂を検討するということ。

昨年から騒がせてくれた385条も政権交代、税法改正の流れであっけない幕引きとなりそうだ。