前回は米国税法改正大綱とも言える「Unified Framework」の法人税および事業所得に対する課税について、特に設備投資減税と支払利息の損金算入制限に関して触れた。今回は税率低減の引き換えとなる課税ベース拡大の一環でThe Blueprint時代から撤廃が予想されていたクレジット、特殊控除に対するUnified Frameworkのアプローチを中心に見てみたい。
まずUnified Frameworkでは2つの恩典を明確に残すとしている。ひとつは以前から聖域化していて税法改正がどのような方向になろうと存続がほぼ確約されている「R&Dクレジット」。Patent BoxやInnovation Boxを導入していない米国において、自国の試験開発を税法面から後押しする切り札だ。Patent BoxはNexus云々が欠けていたり、下手をすると条件次第ではOECD BEPSの世界では悪しき慣行のレッテルを貼られてしまい、R&Dクレジットがより好ましい税法とされているが、BEPSに同調する気配が一向にない米国においてこの部分は「期せずして」BEPS Action 5に準拠しているような形になっている(苦笑)。
R&Dクレジットは日本企業の米国子会社も頻繁に利用しているけど、もうひとつ存続が約束されているLow-Income Housing Tax Creditは日本企業には余り馴染みのない規定だ。このLow-Income Housing Tax Credit、略してLIHTC、「ライテック」とか何となく冷蔵庫メーカーみたいな名称で呼ばれていて、大手会計事務所では専門チームが居たりするけど、基本的には低所得層向け住宅供給のために設立された連邦政府の補助金制度のようなものだ。
税法の簡素化および課税ベース拡大の見地から、他の恩典は基本的に撤廃または見直しということなんだけど、The Blueprint時代から目の敵にされていて撤廃が明言されているのが国内製造控除、Section 199だ。Section 199は、古くはGAAT、近年ではWTOを舞台に揉め続けたFSCとかETRとかが結局撤廃になった際、輸出補助に代わる米国製造業回帰策の切り札として登場してきた経緯を持つ。米国で一定の製造活動に従事しているとそこから創出される課税所得の9%が非課税となるというもので、形式的には費用控除だけど、実質そのメカニズムは税額控除に近い制度だ。
Unified Frameworkでは法人税および事業所得に対する税率が過去80年で最低になり、OECD諸国と遜色なくなることから、米国での製造活動に対する税務上の不合理は解消され、製造者控除の役割は終わったとしている。また、他の諸々の恩典に関しても撤廃または限定するとしているが、Section 199以外に関しては何となくはっきりしない。
また特定セクターだけに規定される特別な恩典に関しては近代化して今日の経済実態により即したものにするとしている。う~ん、何か官僚の答弁とか禅問答を聞いているみたいで何をしたいのか良く分からない。政治的に撤廃できないものは残すってことなんだろうか。セクターに対する特殊恩典としては資源とか再生可能エネルギーにかかわるものが多い。米国のエネジーポリシー、環境ポリシーが新政権下で大きく変化しているので、この辺りの恩典見直しがどう導入されるか興味深い。
法人税および事業所得に対するUnified Frameworkのアプローチはだいたいこんなもんだけど、一点最後に法人税ストラクチャーにかかわる記載に意味不明の一文が挿入されている点に触れたい。
「今後、議会は法人の二重課税負担軽減法を検討するかもしれない」という一文だ。いかにも取って付けたような不自然な一文で、最初読んだ際には内国法人間での配当を全額まはた70%、80%非課税としている現状のDRDを拡充でもさせるつもりで書いたのかな、位にしか読んでなかった。でも、どうもしっくり来なかった。で、良く考えてみてㇷと気付いたのが、今回のUnified FrameworkのUnifiedと言うのは当然上院の財政委員会がBig 6の一角に入っているけど、財政委員会が過去から提唱しているのが「Corporate Integration」という法人課税法だったという点だ。このCorporate Integrationというのは財政委員会、特にその議長のOrrin Hatchが今でもあきらめずに提唱しているもので、個人を含む株主が受け取る配当に課税されて法人レベル課税と合わせて二重課税となる問題を、配当を法人に損金算入させることで解決しようとするものだ。法人側でDPD(Dividend Paid Deduction)を計上させるという仕組み。
それであの一文の謎が解けたような気がした。すなわち、Unified Frameworkでは常に一家言ありの上院の意思を尊重するためにあのような文を挿入したものと個人的には考えている。実際には「may consider…」程度の話しで現実にCorporate Integrationが法律となることはないに近いと思うんだけど、上院はThe Blueprintの頃からしきりと「下院の法案をそのまま採択するようなことはしない」とその存在感をアピールし続けたため、この一文を拠り所に独自の法原案を出したりしてくるかも。そうなると下院、上院のすり合わせに時間が掛かり今年中の法制化は、今でも夢のような話しだけど、もっと夢になるという悪夢となり兼ねない。
ということで法人税および事業所得の課税の話しはこの辺にして、次回は米国多国籍企業に大きなインパクトを持つテリトリアル課税について。