Friday, August 31, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(2) – 国際課税(7) 留保所得一括課税

前回のポスティングでは、 留保所得一括課税に基づく特定外国法人の課税済所得と、米国株主側から見た特定外国法人の株式簿価調整のデフォルト規定に触れた。すなわち、簿価調整は、マイナスで減額された後のネット額、イコール実際に米国株主側で留保所得課税の対象となったプラス金額のみで行うという規定だ。で、今回は、オプショナルで納税者に選択が認められる、課税済所得額と株式簿価増額をシンクロさせる規定に触れてみたい。

規則案では、マイナスで相殺されたプラス額に関して、プラス法人の株式簿価を増額させるのは、マイナス法人の株式簿価を同額減額する場合のみ適切であるとしている。この点はもちろんその通りで、簿価が上がると言うことは将来の課税所得を減らすということなので、対応的な調整がされない状態で一方的に課税所得を減らしてくれることは想定されない。簿価とかE&Pって言うのはタックスプラニングの主人公に近い存在と言えるけど、米国企業との比較で、日本企業でこの点を日頃からモニター、またはプラニングしてFTC、譲渡益、配当、その他を最適化しているところは少ないように思う。

プラス側の特定外国法人の株式簿価を増額するのはいいとして、米国株主の状況次第、特に留保所得一括課税を適用する直前の株式簿価の在り方次第では、マイナス側の特定外国法人の株式簿価を減額してしまうと、簿価がゼロを下回ってしまうような状況もあり得る。簿価がゼロを下回るとみなし譲渡益課税だから、それでは気の毒ということで、この調整は選択制になっている。

で、選択を行う場合、プラス留保所得を持つ特定外国法人の株式簿価は、他の特定外国法人のマイナス留保所得で減額された金額も含めて増額調整することとなる。この調整を選択することで、本来のSubpart F規定に基づく状況同様に、外国法人側の留保所得のうち課税済みとなる金額と簿価増額がシンクロするという「普通」の状態となる。ただ、上述の通り、増額調整の代償(?)的に、自分のマイナスを使われてしまった側の特定外国法人の株式簿価は使用された金額だけ減額が求められる。この減額が過ぎるとゼロを割り込んで、みなし譲渡益となることから、選択の際にはどの特定外国法人のマイナスがいくらどこに使用されているのか、と言う点をよく検証しないといけない。

3回前のポスティング「国際課税(4) 留保所得一括課税」で触れた通り、米国株主が取り込むプラスとマイナスの総額の比較で、マイナスが大きい場合には、どの特定外国法人のマイナスを使用したか指定できるという規定があり、この指定の仕方次第で、当選択をする際に、どこの特定外国法人の株式簿価をどれだけマイナスしないといけないか、という金額が異なる。

ちなみに、この選択をする場合、米国株主は全ての特定外国法人の株式簿価調整に選択を適用する必要がある。すなわち、Cherry Pickしてマイナスしても、簿価がプラスのままとなる範囲のみで調整とかするオプションはない。また、米国株主当人のみならず、米国株主の関連者も同様の取り扱いが強制されるとあることから、グループ内に特定外国法人を保有する複数の米国株主が存在する場合には、選択のメリット・デメリットはグループ全体で吟味する必要が生じる。

また、ここでは単純に米国株主が直接特定外国法人を保有していて、調整はその特定外国法人の株式簿価にフォーカスして書いているけど、米国株主が外国の法人を介して特定外国法人を保有していて、その下層に位置する特定外国法人からマイナスやプラスの留保所得を取り込んでいる場合には、中間に位置する外国法人の簿価が調整対象となる。通常、この手の規定は同様に外国パートナーシップにも適用されるけど、今回の簿価調整に関しては、特定外国法人が外国パートナーシップを介して保有されるケースに限り、米国株主があたかも直接、特定外国法人の株式を持分相当所有しているかのように、特定外国法人の株式簿価そのものを調整すること、としている。

留保所得課税を起因とする、これら一連の簿価調整は全て留保所得課税の対象となる特定外国法人の課税年度終了時に認識されるとしている。また、ひとつの特定外国法人に関して複数の調整が求められる場合には、調整額を合算・相殺の上、ひとつの調整を行うものとしている。

規則案には更に「みなし譲渡的軽減」規定が設けられてるけど、実は、この軽減策は上述のマイナス調整が簿価を割り込むケースを救済する目的ではない。もし、留保所得課税の対象となる課税年度に、特定外国法人が米国株主に実際の分配を行う場合、実際の分配のタイミングにかかわらず、課税関係を決定する際の取引優先順位的に、先に留保所得課税が発生し、その後に課税済所得が分配されたような扱いとなる。

でも、分配は実際には期中に行われているので、その時点で株式の簿価減額が求められるけど、留保所得課税の結果発生する簿価調整は、上述の選択をするかどうかにかかわらず、期末に行われる。となると、期せずしてタイミング差異で分配時にみなし譲渡益、という最悪のシナリオをあり得る。このような、恣意的な優先順位に基づく弊害を排除する目的で、分配時の株式簿価マイナス調整で簿価がゼロを割り込む場合には、留保所得課税に基づいて課税済となっている分配原資を上限として、譲渡益の認識は見送られる。

あくまでもタイミング差異の是正なので、譲渡益認識がなかった金額に関して、期末時点、すなわち課税済所得に対応する株式簿価調整が行われる時点で、譲渡益相当額の簿価減額が求められる。結果として、分配に基づく簿価減額と課税済所得に基づく簿価調整が同一タイミングで実施されたと同様の効果を持つこととなる。だったら、最初から分配に基づく簿価減額調整を期末で行うと規定すればよさそうな気もするけど、既存の枠組みがあるのでそうもいかないのかもね。これも新しい概念を既存のインフラ、プラットフォームで処理しようとする困難さのひとつ。

ちなみに、今回のポスティングの前半部分で触れているマイナスとプラスの留保所得相殺時の、プラス側の相殺額の株式簿価増額およびマイナス側の株式簿価減額選択をしている場合には、みなし譲渡益軽減規定は、マイナスで相殺されたプラスの留保所得だけど課税済所得と扱われている部分も含むとしている。逆に言えば、株式簿価調整の選択をしていない場合には、この部分の救済はない、すなわち、本当に留保所得課税された金額を基に課税済所得となっている金額を上限としてのみ、救済があることとなる。これは、すなわち、軽減規定そのものが、譲渡益そのものを救うという趣旨ではなく、優先順位に基づいて発生するファントム所得を無視するという目的で制定されていることを物語っている。

株式簿価調整の話しはこの辺で、次回からはFTCか何か、留保所得一括課税にかかわる別の切口で攻めてみたい。

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(2) – 国際課税(6) 留保所得一括課税

前回のポスティングでは、これでもかっていう位、課税済所得の話しに終始してしまったけど、まあ、それだけ重要なポイントってことを理解頂ければ何より。従来のSubpart F規定に基づく課税済所得に加え、このポスティングのテーマとなる留保所得一括課税、そしてさらに今後はGILTIで外国法人側の留保所得の多くはますます課税済所得化するトレンドとなる。ちなみにGILTIと言えば、今日(8月31日金曜日)またはLabor DayのLong Weekend明け直ぐに待望の財務省規則案の公表が予定されている。ただ、今回の規則案はGILTI制度の中でも、メカニカルな計算にフォーカスした内容となるとIRSの高官が言ってたし、外国税額控除とか課税済所得は財務省・IRS内に別の「ワーキンググループ」があり、各々、独自の財務省規則案をドラフトしているらしい。となると、課税済所得に関しては今回のGILTI規則案には盛り込まれず、長らく最終化されていないけど、元々、従来のSubpart F規定に基づく課税済所得のルールを規定しようとしている財務省規則案を大幅に加筆・修正して、新たな課税済所得規則案が2018年中には公表されると見るのが妥当だろう。従来の国際課税制度の枠組みでは考えられない規定が多いし、その上、既存の規定も温存されているので、そこのすり合わせとか大変そう。でも、財務省とかIRSのワーキンググループに属してたら楽しそう。三権分立の考え方がしっかりしている法治国家の米国では、行政府となる財務省、IRSには、立法府である議会が制定した法文の各条文に明記してある範囲のみで規則策定権限が存在するので、どこまでの規則策定権限が与えられているかを慎重に見極め、その範囲内で規則を策定する必要がある。なので、むやみやたらに規則を策定できるものではない。この範囲をどう拡大、または狭義に解釈していくかという点ひとつ取ってみても実に興味深い法的な検討だ

で、前置きはこの辺にしておいて、今回は約束通り、特定外国法人の株式簿価にかかわる怪談。早くしないと夏も終わっちゃうしね。

まず、従来からのSubpart F規定に基づく米国株主のCFCに対する株式簿価の仕組みだけど、ここの基本部分を理解してないと留保所得一括課税時の簿価の動きも分からない、というのは当然なので、まずは、その辺りのおさらいから。

従来のSubpart F規定に基づき米国株主が課税される場合、課税対象となるCFC側のSubpart F所得は、実際には米国株主に分配された訳ではないので、まだCFCの手元に残っている。これを課税済留保所得という特殊なアカウントでトラッキングする点は前回のポスティングの通りだけど、その際、同時にCFC側で課税済所得となる金額分 米国株主の持つCFC株式簿価を増額調整させる必要がある。従来のSubpart F所得は所得自体の算定は米国課税所得算定法に準じるけど、米国株主側の要合算額がCFC課税年度のE&Pを上限としていたことから、Subpart F所得、課税済所得(E&Pコンセプト)、そして株式簿価増額、その後の分配(E&Pベース)、という一連の流れをスムースに一貫して管理できる。今後、GILTIはE&Pベースではないので、その辺り、課税済所得規則案がどうアプローチしてくるのか、2018年冬の規則案公表が待ち遠しい。

留保所得一括課税の局面で考えてみると、もし単純に米国株主がプラス留保所得を持つ特定外国法人一社しか保有してないとか、複数の特定外国法人を保有しているけど、全ての法人がプラスの留保所得というような、どちらかというと単純というか従来のSubpart F規定に近いケースでは、上述の今までの簿価調整同様の考え方をそのまま適用することが可能だ。すなわち、留保所得課税の対象となった金額がそのまま各特定外国法人側で課税済所得となり、米国株主側では同額が特定外国法人各々の株式簿価増額調整、っていう綺麗に惑星が一列に並んだような処理となる。

問題は米国株主が保有する特定外国法人にマイナスとプラスの留保所得を持つ法人が混在している場合。前回のポスティングでも触れた通り、米国株主側にプラスやマイナスの留保所得が存在する形で金額がフローアップしてくると、米国株主レベルでプラスとマイナスを相殺することになる。これは従来のSubpart F規定では存在しない新しい概念だ。この新概念が今後、GILTIに踏襲されていくことは以前にも触れた通り。Subpart F所得というのは、元来、各々のCFC独自の属性という位置付けだったから、米国株主側にフローアップした後に所得金額が変わったり、他のCFCが認識するSubpart Fマイナス金額と調整されてしまうということは従来では考えられない。そんなことしようもんなら、各CFC側に米国株主側の処理を加味した後の数字を反映し直す、っていう複雑な調整メカニズムが必要になる。その手のメカニズムは、個々のCFCから見ると期せずして変な調整になって納税者が困ってしまったり、または、逆にうまくその辺りをデザインすることで、賢い納税者にプラニングの機会を提供してくれたりすることとなる。今回の税制改正で導入された全く新しい国際課税規定となるGILTIは、GILTIそのものをどちらかというと米国株主側の属性としながら、課税方法はSubpart Fに規定される多くのインフラ、プラットフォームをそのまま流用するような構成となっているけど、留保所得の一括課税もプラスとマイナス相殺を規定した段階で、GILTI同様に、米国株主側の調整をCFCに投げ返すという新しいルールを導入しなくてはならず、財務省規則案によるこの辺りのアプローチ作りはいろいろと苦労がうかがえる。

他の特定外国法人のマイナス留保所得でプラスが減額された場合、減額された金額は米国株主側で課税されていないにもかかわらず、プラス留保所得を持つ特定外国法人の課税済所得となる点は前回触れてるけど、じゃあ、対応する米国株主側から見た特定外国法人の株式簿価が、従来の調整のように課税済所得同額に関して全額増額するか、というと単純にそうはならない。簿価調整目的では、マイナスで減額された後のネット額、すなわち実際に米国株主側で留保所得課税の対象となった金額のみが増額金額となるというのがデフォルト規定となる。

う~ん、なるほど。となると、マイナス留保所得を持つ特定外国法人を一社でも保有してて、他の特定外国法人のプラス留保所得と相殺してしまった米国株主にとって、プラス留保所得を持ってた特定外国法人の株式簿価の増額は、特定外国法人側に留保されている課税済所得の増額に満たないこととなる。課税済所得が実際に将来、分配されてくるタイミングでは、課税済所得部分は配当扱いされないので、テリトリアル課税だろうが、従来の全世界課税だろうが、通常は非課税になるけど、課税済所得分配額が株式簿価を超えてしまうと、超過額がみなし譲渡益としてキャピタルゲインとなる。

え~、そんなだったら、他社のマイナスで減額されたプラス留保所得は、一層のこと課税済所得にしてくれない方がよかったんじゃないの、って思うけど。だって、課税済所得ではない通常の留保所得のままだったら、税制改正後は従来と異なり、分配時に245Aで特定外国法人からの配当は米国側で100%配当控除が取れるので非課税になるはず。ここは何がベストか難しいところだけど、留保所得が課税済みの扱いとなるって言うと、税制改正前の感覚で、何となく「良かったね」って安心したくなる。今後は、このような従来の概念が必ずしも通じないというところが恐ろしい。今回の税制改正後の米国クロスボーダー課税が、他国の国際課税規定との比較も含めて、全く新しい「Whole New World」に突入したんだな、っていう点を改めて認識せざるを得ない。まさに「A new fantastic point of view」で、誰かに魔法のカーペットに載せてもらって「Wonder by wonder」解説してもらわないとね(この歌詞、アラジンの映画とかブロードウェイ見た人は分かるね?)。

で、基本ルールは上の通りだけど、課税済所得額と株式簿価増額をシンクロさせる選択が規則案に規定されている。チョッと話しが既にヘビーかつメタル(?)になり過ぎてるので、ここからは次回。

Saturday, August 11, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(2) – 国際課税(5) 留保所得一括課税

前回のポスティングでは、一人の米国株主が複数の特定外国法人を保有し、しかもその中にプラス(Deferred Foreign Income )とマイナス(Deficit E&P)の留保所得を持つ法人が混在している場合の、課税対象留保所得の算定の考え方、またプラスとマイナスが相殺される場合の各特定外国法人のE&Pの増減の考え方、すなわちプラスおよびマイナス留保所得の配賦法に関して触れた。チョッと複雑でテクニカル過ぎる話しになってしまって恐縮なんだけど、実際問題、この規定、たかが留保所得一括課税、されど留保所得一括課税、とでも言いたくなる感じで、とにかく複雑でテクニカル。

留保所得一括課税が複雑になっている理由のひとつに、留保所得はSubpart F所得として課税するというプラットフォームでアプローチしておきながら、実は大きく従来のSubpart Fシステムから逸脱している点が挙げられる。すなわち、本来、Subpar F所得は米国株主ではなく、CFCや特定外国法人側の属性のはずだ。CFC側の属性を米国株主は単純に合算するだけの話しだったはずだ。今回、プラスの留保所得、すなわちDeferred Foreign IncomeはSubpart Fとして課税という立て付けとなってるけど、CFCからその属性が米国株主にフローアップしてきた後に、米国株主レベルでプラスとマイナスを相殺させるという、従来のSubpart F規定では存在しない概念を導入している。一旦CFC側で独自の属性として算定されたものを、米国株主側で調整してしまうと、その調整を各CFCに反映しなおさないといけない。これは、税制改正で導入された全く新しい国際課税の規定となるGILTIに継承されていく新たな切り口だ。GILTIはCFCの属性と言うより米国株主側のものだけど、制度変更時の移行措置として規定された留保所得一括課税がGILTIを匂わせるアプローチを導入しているのはとても興味深い。ってこんなことに感動しているのは僕だけかもね。

で、今日は特定外国法人にプラスやマイナスの留保所得が配賦された後の影響に関して。

従来からのSubpart F規定に準じる話しだけど、CFCが認識している所得をSubpart F所得っていう理由で米国株主が課税される場合、まだ配当をしていない訳だから、留保所得、すなわちE&PはCFCに残っている。それを将来分配する際、二度目の課税がないように、Subpart F所得として認識された金額に関して、米国株主側でCFCの株式簿価が増額され、その後、実際に分配が起きた際は、配当所得とはならず、代わりにCFCの株式簿価が減額される仕組みになっている。しかも、分配は強制的にまず課税済み留保所得から行われたとみなされる優先順位規定がある。これはCFCからの配当が課税所得だった旧法下では、より重要なポイントだけど、税制改正後も引き続き同じ規定だし、その重要性も引き続き残る。留保所得一括課税は通常の課税よりかなり低い税率で適用されているにも関わらず、留保所得満額CFCの株式簿価が上がっている訳だから、以前よりも有利な課税関係で、CFCを譲渡したり、米国法人の下から外したりできるはず。GILTIがあるから、日本企業のような米国へのInbound企業はさっさと米国子会社の下から米国外法人を外してしまうのが得策だろう。

留保所得一括課税で2017年末(または11月2日時点)に存在する留保所得全額がSubpart Fで課税されるインパクトは単に米国株主側で大きな課税があるっていう点に終わらず、特定外国法人に巨額の課税済み留保所得をもたらす点にも見られる。優先順位的に将来の分配はまず、課税済みの留保所得から分配されることとなる。留保所得一括課税の段階で、米国株主から見た特定外国法人の株式簿価は増額してるけど、分配を受けるたびに逆に簿価が下がっていく。下がり過ぎてゼロを下回ることがあるとみなし譲渡益になっちゃうので注意。

2017年まで貯めた留保所得全額がこんな取り扱いになるっていうことは、税制改正で導入されたテリトリアル配当非課税の245Aを登場させるまでもなく、当面分配は課税済み所得のリターンだから非課税となる。さらに今後はGILTIでCFCの所得の多くが米国株主側で課税所得となり、更に多くの課税済み留保所得を生み出し続ける。すると、それらの金額に関しても、従来からのSubpart F、留保所得と並び、全て課税済み所得となる。将来の分配は全てこれらの課税済み所得から優先的に分配されていると取り扱われることから、結局、課税されてない留保所得の分配が起こることはないようなケースも想定される。となるとせっかくの「テリトリアル課税」化も名ばかり。これが前から触れている今回の国際課税にかかわる改正の神髄に当る部分だ。

このことからCFCや特定外国法人のE&Pのどの部分が「課税済」っていう位置づけになるかどうかは、かなり重要な検討事項になるけど、特定外国法人のプラスの留保所得が他の特定外国法人のマイナスE&Pにより減額された場合の取り扱いが面白い。他の特定外国法人のマイナスで一括課税対象となるプラス留保所得が減額された場合でも、プラス側の法人では減額分も含めて課税済みと取り扱う旨が規定されているからだ。実際に課税されていないのに留保所得が課税済所得扱いとなり、プラスの特定外国法人に関しては基本的には有利な取り扱いと言える。ただ、この規定に基づいて多額の留保所得が課税済みとなり、後日の分配時に、課税済み所得の分配額が米国株主から見た特定外国法人の株式簿価を超えてしまうと、超過額がみなし譲渡益となるのでこの点は注意が必要。従来のSubpart F規定下では通常、Subpart F規定でCFC側で課税済所得に生まれ変わる留保所得額と、米国株主に認められるCFC株式簿価の上方修正がパラレルとなるので、問題は比較的少なかったように思う。一方、一括課税にかかわる規則案ではここでも驚くような複雑な取り扱い、複数の選択が待ち受けている。この点は次回以降に触れたい。

他の特定外国法人のマイナスで減額されたプラス留保所得がプラス側の特定外国法人で課税済所得と取り扱われる一方、その対応的調整として、マイナスを使用された特定外国法人のE&Pは増額させられる。E&Pの増額と言っても、もともとマイナスE&Pの法人だから、マイナスが少なくなるっていう方が分かり易いだろう。

これらのことから、前回のポスティングで触れた、どの法人のプラスがどれだけ他の法人のマイナスで減額したのかとか、どの法人のマイナスがどれだけ使われたのか、という配賦算定がどれだけ重要な意味を持ち得るか分かってもらえたと思う(願う?)。 という訳で今回は課税済所得の話しに終始したけど、留保所得一括課税とGILTIという2017年までは考えられないWhole New Worldに突入した現在、その重要性は格段に増してる。課税済所得のみに特化した規則パッケージが秋にも公表されるという噂もあり、今から楽しみ(?)。って言うと少し頭おかしく聞こえるかもね。

で、次回は課税済所得と切っても切れない縁の間柄にあると言える特定外国法人の株式簿価の話し、しかも超複雑怪奇でその仕組みを解き明かした際には背筋が寒くなるような夏の怪談に移るので、猛暑を持て余している方は楽しみにしているように。

Saturday, August 4, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(2) – 国際課税(4) 留保所得一括課税

前回は米国国際課税制度移行時の特別措置となる特定外国法人の留保所得一括課税の法的枠組みの基本的なアプローチについて触れた。すなわち、特定外国法人の留保所得をSubpart F所得と規定することで、従来のSubpart F規定の一環で米国株主側で課税所得として認識させる、心憎いアプローチだ。

従来のSubpart F規定はCFCが認識する受動的所得等の特定の所得をSubpart F所得として、米国株主が自己の課税所得と合算申告する仕組み。具体的には、外国法人が自己の課税年度内に一日でもCFCに該当する日があると、当課税年度内で法人がCFCの定義を充たしている最終日に、直接・間接にCFC株式を保有している米国株主が、CFCの課税年度終了日を含む米国株主側の課税年度に、CFCのSubpart F所得の米国株主帰属額(Pro Rata Share)を課税所得とすること、というもの。なんか回りくどい立て付けに聞こえるかもしれないけど、留保所得一括課税を理解、検討する上で、ここは絶対に理解しておかないといけないベーシックなコンセプトとなる。

で、前回のポスティングの後半に、通常のSubpart F規定には存在しない、マイナス留保所得によるプラス留保所得の相殺取り扱いに関して触れ始めた。すなわち、米国株主が少なくとも1社でもDeferred Foreign Income を持つ特定外国法人の持分を保有し、同時に少なくとも一社でもマイナスE&Pを持つ特定外国法人の持分を保有する場合には、米国株主側で取り込むべき留保所得はマイナスE&Pの金額で減額することが認められる、っていう相殺容認規定だ。米国株主側で複数の特定外国法人の属性を通算できる点、チョッとGILTIに似てる。

で、複数の特定外国法人にプラスの「Deferred Foreign Income」があったり、マイナスE&Pがあったりすると、どの特定外国法人のマイナスを誰のプラスと相殺しているのか、っていう検討事項が発生する。「でも一括課税って一回切りだし、相殺後のネット課税所得の金額が同じだったら、別に誰のプラスが誰のマイナスで消されてても関係ないじゃん」って思うかもしれないけど、それは大間違い。一括課税で各特定外国法人のE&Pが消えてしまう訳ではないので、プラスとマイナスの相殺は、一括課税後に各法人にいくらE&Pがあり、そのうちどの額が一括課税で課税済みとなり、またSubpart F所得の合算、およびその後の分配と連動する米国株主側から見た特定外国法人の株式簿価の算定、など広範かつ複雑なインパクトを持つ。

そこで税法では、ある米国株主に帰属すると扱われるマイナスE&Pの総額は、その米国株主が一括課税で認識するDeferred Foreign Income総額に占める各特定外国法人のDeferred Foreign Incomeの%に準じてプラスの留保所得を持つ特定外国法人に配賦、と規定している。配賦法としては予想通りだし極常識的なものと言える。さらにこの目的ではマイナスE&Pは米国株主が認識するプラスの留保所得総額、すなわちDeferred Foreign Income総額に限定される。それはそうだろう。要はプラスの留保所得と相殺するためにマイナスE&Pを配賦する訳だから、プラス総計を超えるマイナス額で、全体の一括課税額をマイナスとすることは認められない。

もし、マイナス額がプラス額より多く、プラス額を消去してもマイナス額が余ってしまう場合、マイナスE&Pはプラス留保所得の額に限定されるけど、その際、どの特定外国法人のマイナスE&Pをいくら使用したと考えるのか、すなわち、今度はマイナス額そのものの配賦法が問われることとなる。ここはフォーミュラアプローチが法文に規定されていなくて、今後公表される財務省規則に基づき、米国株主がどの特定外国法人のマイナスを使用したと取り扱かいたいか指定可能とされている。特定外国法人が全社100%保有のCFCだったら、米国株主側から見るこの辺りのメカニズムも多少容易かもしれないけど、実際にはCFCの一部は他の米国株主が保有していたり、または外国株主の持分が入っていたり、いろいろと複雑な検討が付きまとうことになる。

さらに、従来のSubpart F規定の一部に、米国株主側で合算するSubpart F所得を過年度の同じ活動から発生しているマイナス所得で相殺してもよろしいという、通常の課税所得算定時の繰越欠損金の取り扱いに似た規定がある。この適格マイナス所得に関して、一括課税で他の特定外国法人のプラス留保所得をマイナスE&Pで相殺している場合、どの活動のどの繰越適格マイナス所得に紐付けるか、という指定も米国株主側に認められる。この辺りになると従来のSubpart F規定を知ってないとチョッと難しいかもね。

ちなみに一括課税目的のマイナスE&P額の算定だけど、プラス留保所得、すなわちDeferred Foreign Income の算定法と2つの点で異なる。Deferred Foreign Income に関しては後日詳しく触れるけど、「プラス」留保所得の算定時には、1987年以降の累積E&Pから米国事業関連所得(ECI)および過去にSubpart F所得として合算され課税済みとなっている留保所得(PTI)を減額する。さらにプラス留保所得は2017年11月2日または12月31日時点のいずれか大きい方の額を使用すること、と規定されている。

一方、面白いことに「マイナス」留保所得算定時には単純にE&Pそのものがマイナスか否かを2017年11月2日時点の一発勝負で決める。プラスとマイナスの算定法がパラレルでないことから、場合によってはひとつの特定外国法人がプラスとマイナス双方の留保所得を持つような結果があり得るという不思議な規定だ。更に、場合によっては留保所得がプラスでもマイナスでもない結果となることもあり得る。これって法文が狙ってそうしているのかどうか分からないけど、数日前に公表された財務省規則案では、そんな混乱に応えるため、特定外国法人の留保所得算定法に優先順位を設けてる。法文が複雑怪奇で、いろんな点にガイダンスを策定しないといけない財務省もさぞ疲れ気味だろう。「Christ you know it ain't easy. You know how hard it can be. The way things are going, they're going to crucify me」とか思わず口ずさんでしまう気分では?

で、規則案の優先順位に基づくと、最初にまず、特定外国法人に「プラス」留保所得があるかどうかを判断する必要がある。その結果、プラス留保所得ありという判断となる場合、「マイナス」留保所得有無の判断は行なうことはできず、「プラス」留保所得を持つ特定外国法人と確定される。一方、「プラス」留保所得なしという判断結果が出た場合、初めてそこで「マイナス」留保所得を持つかどうかを判断に移ることが許される。万一、「マイナス」留保所得も持たないと判断される場合には、特定外国法人は「プラス」留保所得も「マイナス」留保所得も持たない法人と確定される。たかが、留保所得があるかないかの判断なんだけど中々難しい。

という訳で、次回はマイナス留保所得が特定外国法人の将来のE&Pに与える影響等に関して。

Friday, August 3, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(2) – 国際課税(3) 留保所得一括課税規則案ついに公表

前回から国際課税制度移行時の特別規定となる「留保所得一括課税」に関して触れ始めたが、ちょうど、昨日(2018年8月1日)、一括課税にかかわる財務省規則案が公表された。この規則案、今回の税制改正にかかわる財務省規則としては初のものとなる。規則案は前文113ページ、主文136ページ、計249ページ、と予想はしていたけど膨大だ。2年前の過少資本規則518ページも読めたんだから、その半分と考えれば今回も読み込めるはず、って自分に言い聞かせないとね。

で、この手の規則には、「書類作成負担軽減法」とか訳されることがある米国の「Paperwork Reduction Act」に基づいて、規則対応に各納税者がどれだけの時間を費やす必要があると推定されるか、っていう時間数が記載されている。いつも笑っちゃうけど、Section 965の一括課税対応に費やされる推定時間はナント納税者当り「5時間」だそうだ。250ページの規則を発行しておいて5時間っていうのは大胆だ。

規則案の内容そのものは過去の複数のNoticeから予想されたものが多い。一点、興味深かったのは、留保所得一括課税で課税済み留保所得となった金額を原資として、後日外国法人が米国株主に分配を行い、源泉税が課せられる際の外国税額控除の取り扱い。規則案によると税額控除の対象とはなるけど(それは960があるので当然そのはず)、源泉税のうち外国税額控除の対象となる金額は、一括課税時に税額控除対象となる法人税を減額した際の「Applicable %」で同様に減額するというもの。そうなるんじゃないかな、っていう憶測はあったけど、業界の集まりに来る財務省やIRSの重鎮が全額取らせてあげてもいいんじゃないか、というような趣旨の発言をしているのを聞いたことがあったので変な期待が頭の片隅に残っていた。でも、やっぱり減額だったね。まあ、低税率で課税済みになってる留保所得を原資としているのでしょうがないね。

いきなり財務省規則案を深掘りしてもチョッと分かり難いかもしれないので、まずは一括課税規定の基礎から入って、適宜、規則案で補足されている部分に触れていきたい。

一括課税の基本的なアプローチは、留保所得をSubpart F所得と認定することで、米国株主側で課税所得として認識させるというもの。Subpart F所得とは、従来から税法に存在し、米国のCFC課税の対象となる一定の所得のことで、Subpart F所得となり例外規定の適用がないと、米国株主側で課税所得として認識しないといけない、というもの。

これはなかなかスマートなアプローチで、対象となる留保所得を明確に規定すれば、米国株主側の計算法、CFCの株式簿価の調整、その後の分配、外国税額控除などは既存の法律をそのまま流用することができる。もちろん必要に応じて既存の法律の考え方を変更もできる。したがって一括課税を規定しているSection 965では米国で課税する云々には直接触れられておらず、「Deferred Foreign Income Corporation」が認識している「Deferred Foreign Income」の2017年11月2日または12月31日時点のいずれか大きい残高額を当外国法人のSubpart F所得とする、と規定している。米国株主側の属性となるGILTIと異なり、Subpart Fは各CFCの属性と言えるので、外国法人のDeferred Foreign Incomeを各外国法人レベルでSubpart F所得と規定し、後は通常のSubpart F規定に準じて米国株主が他の(通常の)Subpart F所得同様に合算するという仕組み。

で、この基本的なフレームワークの次にくる規定が、マイナス留保所得の扱い。通常のSubpart F所得の世界では、米国株主はプラスのSubpart F所得を持つCFCから、所得のみを合算することになるけど、留保所得課税をSubpart F所得扱いする際の特別措置として、米国株主が少なくとも1社でもDeferred Foreign Income を持つ外国法人を持分を有し、また少なくとも一社マイナスのE&Pを持つ外国法人を持分を有する場合には、米国株主側で取り込むべきSubpart F扱いされる留保所得はマイナスE&Pの金額で減額することが認められる。

外国法人のマイナスE&Pを他の外国法人からフローしてくるSubpart F所得と、米国株主側で相対するという概念は、従来のSubpart F規定には存在しないので、この点に関しては多くの複雑な検討事項が必要となり、法律でも比較的詳細に規定されている。ここはチョッと長くなりそうなので次回、まとめて触れてみたい。