Saturday, August 11, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(2) – 国際課税(5) 留保所得一括課税

前回のポスティングでは、一人の米国株主が複数の特定外国法人を保有し、しかもその中にプラス(Deferred Foreign Income )とマイナス(Deficit E&P)の留保所得を持つ法人が混在している場合の、課税対象留保所得の算定の考え方、またプラスとマイナスが相殺される場合の各特定外国法人のE&Pの増減の考え方、すなわちプラスおよびマイナス留保所得の配賦法に関して触れた。チョッと複雑でテクニカル過ぎる話しになってしまって恐縮なんだけど、実際問題、この規定、たかが留保所得一括課税、されど留保所得一括課税、とでも言いたくなる感じで、とにかく複雑でテクニカル。

留保所得一括課税が複雑になっている理由のひとつに、留保所得はSubpart F所得として課税するというプラットフォームでアプローチしておきながら、実は大きく従来のSubpart Fシステムから逸脱している点が挙げられる。すなわち、本来、Subpar F所得は米国株主ではなく、CFCや特定外国法人側の属性のはずだ。CFC側の属性を米国株主は単純に合算するだけの話しだったはずだ。今回、プラスの留保所得、すなわちDeferred Foreign IncomeはSubpart Fとして課税という立て付けとなってるけど、CFCからその属性が米国株主にフローアップしてきた後に、米国株主レベルでプラスとマイナスを相殺させるという、従来のSubpart F規定では存在しない概念を導入している。一旦CFC側で独自の属性として算定されたものを、米国株主側で調整してしまうと、その調整を各CFCに反映しなおさないといけない。これは、税制改正で導入された全く新しい国際課税の規定となるGILTIに継承されていく新たな切り口だ。GILTIはCFCの属性と言うより米国株主側のものだけど、制度変更時の移行措置として規定された留保所得一括課税がGILTIを匂わせるアプローチを導入しているのはとても興味深い。ってこんなことに感動しているのは僕だけかもね。

で、今日は特定外国法人にプラスやマイナスの留保所得が配賦された後の影響に関して。

従来からのSubpart F規定に準じる話しだけど、CFCが認識している所得をSubpart F所得っていう理由で米国株主が課税される場合、まだ配当をしていない訳だから、留保所得、すなわちE&PはCFCに残っている。それを将来分配する際、二度目の課税がないように、Subpart F所得として認識された金額に関して、米国株主側でCFCの株式簿価が増額され、その後、実際に分配が起きた際は、配当所得とはならず、代わりにCFCの株式簿価が減額される仕組みになっている。しかも、分配は強制的にまず課税済み留保所得から行われたとみなされる優先順位規定がある。これはCFCからの配当が課税所得だった旧法下では、より重要なポイントだけど、税制改正後も引き続き同じ規定だし、その重要性も引き続き残る。留保所得一括課税は通常の課税よりかなり低い税率で適用されているにも関わらず、留保所得満額CFCの株式簿価が上がっている訳だから、以前よりも有利な課税関係で、CFCを譲渡したり、米国法人の下から外したりできるはず。GILTIがあるから、日本企業のような米国へのInbound企業はさっさと米国子会社の下から米国外法人を外してしまうのが得策だろう。

留保所得一括課税で2017年末(または11月2日時点)に存在する留保所得全額がSubpart Fで課税されるインパクトは単に米国株主側で大きな課税があるっていう点に終わらず、特定外国法人に巨額の課税済み留保所得をもたらす点にも見られる。優先順位的に将来の分配はまず、課税済みの留保所得から分配されることとなる。留保所得一括課税の段階で、米国株主から見た特定外国法人の株式簿価は増額してるけど、分配を受けるたびに逆に簿価が下がっていく。下がり過ぎてゼロを下回ることがあるとみなし譲渡益になっちゃうので注意。

2017年まで貯めた留保所得全額がこんな取り扱いになるっていうことは、税制改正で導入されたテリトリアル配当非課税の245Aを登場させるまでもなく、当面分配は課税済み所得のリターンだから非課税となる。さらに今後はGILTIでCFCの所得の多くが米国株主側で課税所得となり、更に多くの課税済み留保所得を生み出し続ける。すると、それらの金額に関しても、従来からのSubpart F、留保所得と並び、全て課税済み所得となる。将来の分配は全てこれらの課税済み所得から優先的に分配されていると取り扱われることから、結局、課税されてない留保所得の分配が起こることはないようなケースも想定される。となるとせっかくの「テリトリアル課税」化も名ばかり。これが前から触れている今回の国際課税にかかわる改正の神髄に当る部分だ。

このことからCFCや特定外国法人のE&Pのどの部分が「課税済」っていう位置づけになるかどうかは、かなり重要な検討事項になるけど、特定外国法人のプラスの留保所得が他の特定外国法人のマイナスE&Pにより減額された場合の取り扱いが面白い。他の特定外国法人のマイナスで一括課税対象となるプラス留保所得が減額された場合でも、プラス側の法人では減額分も含めて課税済みと取り扱う旨が規定されているからだ。実際に課税されていないのに留保所得が課税済所得扱いとなり、プラスの特定外国法人に関しては基本的には有利な取り扱いと言える。ただ、この規定に基づいて多額の留保所得が課税済みとなり、後日の分配時に、課税済み所得の分配額が米国株主から見た特定外国法人の株式簿価を超えてしまうと、超過額がみなし譲渡益となるのでこの点は注意が必要。従来のSubpart F規定下では通常、Subpart F規定でCFC側で課税済所得に生まれ変わる留保所得額と、米国株主に認められるCFC株式簿価の上方修正がパラレルとなるので、問題は比較的少なかったように思う。一方、一括課税にかかわる規則案ではここでも驚くような複雑な取り扱い、複数の選択が待ち受けている。この点は次回以降に触れたい。

他の特定外国法人のマイナスで減額されたプラス留保所得がプラス側の特定外国法人で課税済所得と取り扱われる一方、その対応的調整として、マイナスを使用された特定外国法人のE&Pは増額させられる。E&Pの増額と言っても、もともとマイナスE&Pの法人だから、マイナスが少なくなるっていう方が分かり易いだろう。

これらのことから、前回のポスティングで触れた、どの法人のプラスがどれだけ他の法人のマイナスで減額したのかとか、どの法人のマイナスがどれだけ使われたのか、という配賦算定がどれだけ重要な意味を持ち得るか分かってもらえたと思う(願う?)。 という訳で今回は課税済所得の話しに終始したけど、留保所得一括課税とGILTIという2017年までは考えられないWhole New Worldに突入した現在、その重要性は格段に増してる。課税済所得のみに特化した規則パッケージが秋にも公表されるという噂もあり、今から楽しみ(?)。って言うと少し頭おかしく聞こえるかもね。

で、次回は課税済所得と切っても切れない縁の間柄にあると言える特定外国法人の株式簿価の話し、しかも超複雑怪奇でその仕組みを解き明かした際には背筋が寒くなるような夏の怪談に移るので、猛暑を持て余している方は楽しみにしているように。