Sunday, December 30, 2007

FTCのバスケット削減に伴う新財務省規則(1)

所得税にしても法人税にしても、複数の国から所得を得る場合には、米国で外国税額控除(FTC)をうまく利用しないと二重課税の悪影響で実効税率が高くなる。米国では個人、法人に認められる直接税額控除と、10%以上の子会社に関して法人に認められる間接税額控除が規定されている。

*FTC上限枠

FTCは外国源泉の所得に対して支払われることになるであろう米国の税金を外国に既に支払った税金で相殺するという基本的な目的をもっており、米国源泉の所得に対して支払われる米国税金までも圧縮することは想定されていない。この基本的な目的を達成するために設けられているのがFTCの「上限枠」の算定である。FTCを控除する前の段階で算定される米国の税金のうち、外国源泉所得に対するものと考えられる金額が上限枠となる。

この上限枠の有無、多少により最終的に米国政府に支払うこととなる税額がかなり増減するため、米国ベースの多国籍企業はFTCに係るプラニング、とりわけ上限枠をいかに増やすかという点を中心にかなりの労力を割いている。特に海外で買収を行う際にはSec.338 Electionの検討など買収後のFTCポジションは重要な検討事項である。

*上限枠はひとつではない

上限枠のコンセプト自体は日本その他の国のFTC計算でも同様だと思うが、米国の場合は外国源泉所得トータルでの上限枠の算定に加えて、所得の種類(バスケット)による個別の上限枠計算が求められる。全体で十分な上限枠があっても、FTCを取ろうとしている外国税金を生み出す所得が属するバスケットに上限枠がないとFTCが取れない。

例えば、米国外法人(持分は10%に満たない少数)から多くのロイヤリティー、配当所得を受け取るが租税条約の関係で源泉税がゼロでなるようなケースがある。このような所得を受け取る米国法人が米国外の事業主体からパススルーしてくる事業所得を受け取り、その所得に対して既に源泉国で40%の税金を支払っているものとする。

全体の上限枠は「ロイヤリティーおよび配当を含む」外国源泉所得全額を基に算定される。一方でバスケット毎の上限枠の算定目的では、ロイヤリティーおよび配当は「Passive Basket」、パススルーからの事業所得は「General Limitation Basket」に属すため、別々の計算となる。Passive Basketには外国源泉所得は沢山あるが、外国税金がないのでFTCはない。一方、General Limitationではパススルーされる事業所得(税引前)に対する米国での税負担がFTCの上限となる。仮に事業所得が米国で実効税率35%で課税されているとすれば、FTCの上限も35%となり、外国で支払った税金40%のうち超過の5%はFTCが取れない(実際の計算はもう少し複雑)。Passive Basketに上限枠が余っていてもである。

*Cross Creditの問題

上の例で見られる結果こそがバスケット制の目指すところである。すなわち、比較的簡単に手に入り、かつ低税率(ゼロ源泉または10%源泉税等)が実現できる「Passive」系の外国源泉所得を利用して他の所得で使い切れない外国税金を吸収してしまおうという「Cross Credit」に網を掛けるのがバスケット制の狙いである。

なお、面白いことにバスケットは所得の種類だけに係る規定であり、ひとつのバスケット内では外国源泉所得、外国税金を合算して上限枠を算定することができる。したがって、ひとつのバスケット内であれば、例えばメキシコの税金に関して日本で発生する外国源泉所得を利用してFTCを取ることができる。国毎の上限枠という考え方を導入するという考え方がなかった訳ではないが、10のバスケットでも申告書作成に相当な負担があることを考えると、潜在的に何百にものぼる国別バスケット制の導入は実務的ではなく、規定されたことはない。

*上限枠のバスケットが8から2つに

バスケットの数はキャッチオールであるGeneral Limitationを入れてん従来長らく合計で8もあった(申告書上はこの8に「米国が国交を持たない国の税金」および「租税条約の特別な所得源泉ルールを適用するケース」の二つが加えられ選択は合計で10あった)。これが2004年の税法改正により2007年度よりこのバスケットがナントいきなり2つに削減されることが決定された。8のバスケットが2になることはかなり劇的な簡素化であり、好ましいことである。FTCを計上する様式1116(個人)、1118(法人)はバスケット毎に別々に作成し、かつ複数の1116、1118間での数字の転記なども求められたことから、バスケット毎の計算は複雑な手順である。

*バスケット削減に係る財務省規則

各バスケットで上限額に抵触して使用できなかった外国税金はバスケット内で繰延が認められているため、急にバスケットの数が変わるとなるとその際の処理に関していろいろと考えなくてはいけないことがある。そこで12月末に財務省はFTCの新規則(FinalとTemporary)を発表した。次回のポスティングではその新規則の内容に関して触れる。

Friday, December 28, 2007

「公的ねんきん」日本vアメリカ(3)

日本では「ねんきん特別便」の送付が開始されているはずだ。過去に支払った全ての厚生年金保険料、国民年金等を確認するというなので相当昔のことを思い出さなくてはいけない方も多いだろう。

*Social Security Statement

自分が支払ったはずのFICA・SECAがきちんと社会保障省により記録されているかどうか気になるのは万国共通である。米国では基本的に「40 Quarter Credit」が記録されていないと受給権が発生しない。Quarter(四半期)が40ということで10年と思われがちであるが、実際の計算は若干異なる。この辺りの詳細に関しては5月16日から9回に亘ってポスティングした「日米社会保障協定」を参照のこと(http://ustax-by-max.blogspot.com/2007/05/blog-post.html)。

また、毎年払い込まれるFICA・SECAの算定基準となる「社会保障所得」が大きいほど(上限あり)、また加入期間が長いほど将来の受給額が高くなる。したがって、払い込んだFICA・SECAがきちんと記録されているかどうかは極めて重要な確認事項となる。

この確認の目的で大きな役割を果たしているのが毎年社会保障省から送付されてくる「Social Security Statement」だ。内容は過去のFICA・SECAの支払い記録ばかりでなく、現時点でどのような恩典に関して受給権が発生しているか、いくらもらえるのか、同じような所得水準で今後の推移したとすると退職時にいくらもらえるのか、等がとても分りやすく記載されている。将来の受給額に関しては65歳の定時退職、62歳の前倒し、70歳の繰延、の各々のシナリオでの試算が提供される。また、家族に対する恩典に係る情報も記載されている。将来の受給額を予想することになるので、その算定には数々の前提条件があるが、それらの前提条件も分りやすく説明してある。(社会保障省のサイトにサンプルStatementがあるので興味のある方は現物を参照のこと http://ssa-custhelp.ssa.gov/cgi-bin/ssa.cfg/php/enduser/fattach_get.php?p_sid=B--uoqUi&p_li=&p_accessibility=0&p_redirect=&p_tbl=9&p_id=129&p_created=1193859227&p_olh=0

*過去の全ての払い込み金額が記載

そして肝心の払い込み額の確認部分であるが、過去に払い込まれた全ての金額が年度毎に記載されている。ただし、転職が当たり前のお国柄なためか、雇用者の名前は記載されていない。一年間に複数の雇用者を経由してFICAを支払う、またプラスでSECAを支払うような状況は特段珍しくない。

その上で払い込み実績の確認に関して「Help us keep your earnings record accurate」と題された説明がある。基本的にはきちんとした記録を維持するのは、国民自身、社会保障省、雇用者の「共同責任」であると指摘した上で、「あなたの払い込み金額が正しく反映されているかどうかを判断できるのはあなたしかいない」と毎年のチェックを促している。もちろん、記録の更新には時差があるので、Statementで確認ができるのは通常前々年までである。間違いがあると疑われる場合には、W-2(源泉徴収票)、申告書の準備してトールフリー番号に電話することになっている。ちなみに職業柄かなりの数のStatementを見ているが正確性は極めて高い。

また、Statementにはどのタイミングで受給を開始するべきか等の簡単なTipが記載されている。個人的にこの前受け取ったStatementには今後の基金の予想動向(本当に資金が足りるのか?)等に係るいくつかの研究結果が記載されており、かなり透明性は高いように感じられた。

*年一回の送付タイミングは?

Social Security Statementは年に一度送付されてくる。送付は基本的に誕生日の2ヶ月前が目安となる。また、定期的に送付されてくるタイミング以外でStatementを入手したい場合には、On-Lineまたは紙の申込用紙にて申請すればいつでも送ってくれる。年に一回の自動送付は、25歳以上、SSN所有、所得がある、受給開始前である、住所が分るという条件を満たす場合、法律で義務付けられている。過去11ヶ月以内に自主的に交付申請を行っている場合には次の自動送付はパスされる。

ここで不思議に思うのは年金その他の恩典の受給が始まるまで社会保障省では納税者の住所を管理していない点だ。実はSocial Security StatementはIRSのデータベースにある住所に送付されてくる。これはすなわち確定申告書に記載されている住所である。

日本人の派遣員でも米国で所得があり、FICAを支払ったことがあればSocial Security Statementは送付されてくる。ただし、日米社会保障協定の影響までは加味されていないので5年程度の派遣であれば受給権が確定していないというStatementを受け取ることになる。また2006年またはそれ以降に派遣された方で日米社会保障協定に基づき米国でFICAの支払いをした経験が全くない場合には社会保障目的での所得がゼロとなることからStatementの送付はないであろう。

*払い込み金額の訂正には時効がある

毎年Statementが送付されてくる、好きな時にStatementの送付を申請できる、というシステムがある以上、払い込み額の正確性をタイムリーに確認するのは国民一人一人の責任となる。上述の通り、きちんとした記録を維持するのは、国民自身、社会保障省、雇用者の「共同責任」であるが、「あなたの払い込み金額が正しく反映されているかどうかを判断できるのはあなたしかいない」というのは正にその通りである。自分以外には誰も分らない。

法的にはFICA、SECAの計算根拠となる所得を得た年の年末から3年3ヶ月15日経つと修正に時効が成立する。例えば、2005年の給与に対するFICAの金額がおかしければ、2009年3月15日までに修正をリクエストしなくてはならない。時効の考え方一般にそうであるが、これは時が余りに経過してしまうと事実関係の証明が難しくなるという実務的なも問題があるからだ。源泉徴収票を保存している、昔の雇用者で事情を知っている人がいる、申告書のコピーがある、どの点一つをとっても時が経てば経つほどトレースが難しい。日本のねんきん特別便は「特別便」と呼ばれる緊急事態への対応であることから過去永久に遡ることができるが、昔の記録を掘り出すのが実務的に困難である点は同じであろう。

ただし、時効には例外がある。基本的には社会保障省側の手落ち等、時効にて修正を拒否するのが「Unfair」であると判断される場合、修正は時効に縛られることなく行われる。現在の日本の状況のようなことが米国で起きたとしたら、それははまさしくこの「例外規定」が適用されるであろう。

タックスシェルター判決とEconomic Substance法

2007年12月27日に連邦請求裁判所(U.S. Court of Federal Claims)は長らく争われていたタックスシェルターのケースである「Jade Trading LLC」の判決を言い渡した。判決内容はIRSの勝ちであり、タックスシェルターとして今では広く知られている「Son of BOSS」取引は脱法的であると認定された。

*タックスシェルターとは?

タックスシェルターという用語の定義は難しい。一般的には納税者が投資する金額と比べて節税効果が著しく高い取引を意味するが、米国でタックスシェルターと言うと通常はIRSの言うところの「Abusive Tax Shelter」、すなわち税法には文字通り読むと準拠しているように見えるかもしれないが経済的な実態がなく、高い税効果を得るためだけに行われる脱法的な取引を意味することが多い。

今回の訴訟で問題となった取引も 判決文によると僅か45万ドル(約5千万円)の投資でナント4千万ドル(約46億円)の損失が実現されている。倍率90という凄まじい効率である。納税者はこの損失にてケーブル事業売却から得たゲインを相殺している。キャピタルゲイン税率が15%の優遇税率であることを考えても税効果は600万ドル(約7億円)である。

事業売却益と損失の金額が一致しているのも後から見ると怪しさに拍車を掛けている。というか、損失取引自体がゲインを相殺する目的で行われた点は誰もが認めるところであろうことから、法的に損失を否認することができるかどうかが争点である。単にゲインを相殺する意図であったというだけでは、損失取引が合法的である以上、損失を認めない理由としては十分ではないからだ。この取引の凄いところは少ない金額で多額の損失を計上している点ばかりではなく、それを少なくとも文字通りに解釈される税法に準拠して行ってしまったところにある。

*IRSのタックスシェルター対策

タックスシェルターに対しては当然IRSが目を光らせている。IRSはどのような取引をタックスシェルターとみなしているかをリストアップして開示しており(Listed Transaction)、そのような取引に従事する者はその旨を申告書上開示する必要がある。ある程度のサイズの法人であれば、法人税申告書に添付されるSch. M-3と呼ばれる「会計上の数字と税務上の数字の照合別表」にてこの開示が求められる。また、タックスシェルターは投資銀行、会計事務所、法律事務所のような「Promoter」と呼ばれる専門家により「マーケティング」されることが多く、そのようなPromoterに対する取り締まりも強化されている。

過去の申告書に反映されているタックスシェルターに対しては、税務調査、訴訟、和解等の手順を通じてIRSは追徴を請求しているが、今回の判決の対象となる取引である「Son of BOSS」が脱法的であるという主張が認められたため、この取引に関与した他の納税者との和解交渉をIRSが今後有利に進められることになる。

*「Son of BOSS」って何?

Son of BOSSを文字通り訳すと「社長の息子」のような感じでどことなく愛嬌があるが、内容は複雑だ。まず、「BOSS」というのは「bond and options sales strategy」のことであり、これはこれで別のタックスシェルターである。このBOSSから生まれた別の取引がSon of BOSSということになる。

今回の判決の詳細は判決文そのもの(75ページ)を読まないと理解し難いが、ポイントとしては下の通りだ。なお、判決文の事実認定の部分は著名な会計事務所、法律事務所、投資銀行、ヘッジファンドが登場し、各人の思索が交錯するなかなかの読み物に仕上がっている。その辺のフィクションよりもズッとスリリングで、利潤追求のプロフェッショナルファームの現実を垣間見たい方にはMustな文献であろう。僕にとっては他人事ではなくその意味で考えさせられる内容であった。機会があればそのうちポスティングで日本語訳でも記載したいとも思う。ただ、実名がビシビシなので何となく迫力あり過ぎかもしれない。いずれにしても公の情報であるので英文であれば誰でも見ることができる。

話しを判決の事実関係に戻す。納税者である3兄弟は各々LLCを設立する。3つのLLCが各々1千5百万ドルでAIGからユーロ(外為)オプションを購入する。と同時にほぼ同額(若干低い金額)でAIGにユーロオプションを売却している。支払いは売買のネットである15万ドルのみで行われている。3つのLLCがこれらの取引を行うので合計の支払いは45万ドルとなる。

次にこのオプションは別のLLCであるJade Tradingに現物出資される。この時点で3兄弟のLLCが認識するJade TradingのLLC持分に対する税務上の簿価はナント「購入したユーロオプション」の1千5百万ドルのみを反映し、売却されたオプションは反映されていない。すなわち、簿価は各々1千5百万ドルとなる。その後、Jade TradingはLLC持分を時価で償還する。時価の算定には当然売却したオプションの価値も反映されるため時価はゼロに近い。結果として3兄弟のLLCは各々Jade Tradingに対する税務上の簿価ほぼ全額に当たる1千5百万ドルを損失として認識する。損失は当然3兄弟にパススルーされる。

*損失は少なくとも逐語(ちくご)的には合法

ここでのキャッチは、売却オプションを反映させずに購入したオプションのみを基にLLCの税務上の簿価を決定するという方法は当時の税法では合法的であるという点だ。この点はパートナーシップ税法に詳しくない一般の方に説明するのは難しいが、パートナーの負債をパートナーシップが引き継ぐ場合には、通常、Sec.752条に基づきそれがみなしの現金分配と取り扱われ、パートナーシップに対する税務上の簿価が下がる。しかし今回の取引の売却オプションは「偶発債務」となり、Sec.752条で規定される負債に当たらず、簿価を減額させない。

したがってこの損失取引は少なくとも一見合法的であり、税法を無視するような脱税行為とは明らかに一線を画す。となるとIRSとしては何か別の理由で損失を否認する必要が出てくる。Jade TradingがLLC(税法上はパートナーシップ)であることから、具体的にはIRSはパートナーシップ税制下の濫用防止規定を用いて損失を否認している。この濫用防止規定は基本的に経済実態の有無に基づいて取引の税務上の有効性を決める規定である。裁判所の判断は基本的にIRSの主張を認めるものであり、今回の取引には税効果を得る以外に経済的な実態はなく、個々のステップは税法に準拠しているとは言え、損失は認められないというものだ。

*Economic Substance法との関係

現在議会に「Economic Substance」を条文化しようとする動きがある点は2007年10月10日のポスティングで触れた(http://ustax-by-max.blogspot.com/2007/10/economic-substance.html)。今回の判決では、まさしくこのEconomic Substance法の考え方である「経済実態のない取引に基づく費用・損失控除は認められない」という主張が認められている。

普通に考えれば、Economic Substance法が条文化されれば経済実態のない取引に関していちいち裁判所で争う手間が省けるため、IRSはさぞかし喜ぶだろうと推測されるが実はそうでもないらしい。興味深いことにIRSの法務部は今回の判決に対する感想の一部として「Economic Substanceの考え方は裁判の過程で十分に威力を発揮することが証明され、条文化の必要がないことが明らかになった」というコメントを発表している。Economic Substanceの適用に面倒な手続きを要求する条文法よりも、個々の事実関係に準じて弾力的に適用できる判例法の方がIRS的には使い易いといううことであろう。Economic Substance法の条文化を恐れているのは企業側ばかりでないようだ。

Thursday, December 27, 2007

IRSのAMTパッチ対応Update

AMTパッチが年末に法制化されたことでIRSが急遽システムを更新する必要が生じた点は前回2007年12月19日のポスティングで触れた(http://ustax-by-max.blogspot.com/2007/12/amt_19.html

*IR-2007-209

IRSはAMTパッチ対応に係るその後の進展具合を本日発表した(IR-2007-209)。発表によると、IRS側の素早い対応により多くの申告書が例年並の1月中旬から受け付けられる見込みである。例外的に5種類の様式を使用する納税者に関してはシステムの更新に時間が掛かり、申告書の受け付けが2月11日までずれ込みそうだ。5種類の様式とは次の通りである。

· Form 8863, Education Credits
· Form 5695, Residential Energy Credits
· Form 1040A’s Schedule 2, Child and Dependent Care Expenses for Form 1040A Filers
· Form 8396, Mortgage Interest Credit
· Form 8859, District of Columbia First-Time Homebuyer Credit

これらの様式を添付する納税者数は約1,350万人と推定されるが、例年のパターンからいってそのうち3~4百万人が実際に影響を受ける。残りの者はいずれにしても2月前半までには申告書を提出しないので実質何の影響もないということだ。AMTの計算そのものはForm 6251という様式で行われるが、当様式に係るシステム更新は1月中旬までに終了するようで、比較的システム対応の影響は少ない点は極めて高い評価をつけることができる。

ソフトウェアを利用して申告書の作成をする場合には、ソフトウェアがAMTパッチを加味した新バージョンであることを必ず確認するように呼びかけている。また、IRSから新年明けに納税者の自宅に送付されるハードコピーの申告書パッケージは11月に印刷されたものであり、AMTパッチが反映されていないものである点に関しても注意を呼びかけている。

Monday, December 24, 2007

「公的ねんきん」日本vアメリカ(2)

宙に浮いた年金問題よりも以前に話題となった問題に「国民年金未払い」がある。閣僚、政党の幹部も含めて多数の未払い者が続出した事件である。国民年金は20歳以上の全員に所得の有無に係らず義務付けられているそうだ。その割には徴収のメカニズム自体に税金のような強制感がなく知らずに未払いの学生が多数いても不思議ではない。

*米国でも社会保障税は二つのカテゴリーから成る

米国でも社会保障税は基本的に「給与所得者」(税金等を源泉徴収してくれる雇用者がいるケース)対する「FICA」と、「自営業者」に課せられる「SECA」の二つから成り立っている。位置づけとしては「FICA = 厚生年金保険料」「SECA = 国民年金」と言えるが日本の仕組みとは相当異なる。

まず、年齢による強制加入はない。FICAは給与所得があれば必ず支払うことになるし、SECAも自営業(パススルーからの所得分配も含まれる場合もある)から所得があれば必ず支払うこととなる。自営業に関しては費用を差し引いたネット所得が年間$400以上の際にのみ支払いが求められる。すなわち、所得があって初めて支払いが発生するものであり、普通に考えれば所得が全くない場合には支払いが困難であることを考えると分かりやすい仕組みであると言える。

*国民年金は確定申告時に支払いが義務化

FICAの支払いは日本の厚生年金保険料同様に雇用者が天引きするので、雇用者が納付を滞納でもしない限り支払いは自動的に行われる。一方、SECAは源泉徴収する者がいないので自己申告となる。しかし、所得のある国民全員が確定申告を行う米国では、SECAも確定申告書上で算定し、所得税と同時に納付することになっている。確定申告書では当然、自営業からのネット所得を申告することになることから、その金額を基に一定税率を掛けてSECAを確定するのは極めて合理的なシステムだ。税務調査の際には自営業所得の内容が精査され、当然SECAの金額も調査の対象となる。

*FICAもSECAも税率は同じ

日本では国民年金にのみ加入している者は厚生年金保険料(国民年金も含む)を支払っている者よりも低い金額を納付することになるのが普通であると理解している。一方米国ではFICAもSECAも同じ税率に基づく。具体的にはFICAは公的年金部分6.2%、メディケア(高齢者の医療保険のようなもの)1.45%となる。また公的年金部分には課税標準に上限があり上限額は毎年物価スライドされる(2007年は$97,500)。またFICAに関しては雇用者が従業員負担額と同額を納める「FICAマッチ」という制度がある。

SECAにも同じ考え方が適用されるのであるが、FICAと異なり雇用者がいないため、自営業者自らが「従業員部分」と「雇用者によるFICAマッチ部分」の双方を自ら負担することとなる。したがって、税率はFICAの倍、公的年金12.4%、メディケア2.9%、計15.3%となる。このうち12.4%に関しては課税標準にFICAの公的年金部分と同額の上限が設けられている。本当の雇用者であれば雇用者マッチ部分の金額は法人税(または雇用者の所得税)から費用控除することが認められるため、SECAの1/2がみなし雇用者分として自営業者の所得税算定時に費用控除される。また、SECA算定時にはネット自営業所得に92.35%を乗じる。これはSECA算定目的でも雇用者マッチ分(15.3%の1/2 = 7.65%)を差し引いた後の金額を課税標準とするためである。

このようにFICAとSECAの間の整合性はかなりの精度で保たれていると言える。次のポスティングでは米国版「ねんきん特別便」に関して触れる。

Sunday, December 23, 2007

「公的ねんきん」 日本vアメリカ(1)

日本では「ねんきん特別便」なるものが国民に送付され、各個人レベルで今まで支払っていた厚生年金保険料または国民年金保険料が正しく記録されているかどうかのチェックができるというニュースが伝えられている。ご存知の通り宙に浮いてしまった年金記録は5,000万を超えると言われておりこれらを最後まで調べ尽くすのは相当な作業となるとは誰が考えても明らかである。また国民年金の未納者が多いことも何年か前から問題になっている。今回のポスティングでは、これらの日本のとても不思議な問題点に関して、米国における公的年金制度の仕組みとの対比という形で触れたみたい。

*「名寄せ」V「番号管理」

以前から日本の年金、金融資産の管理には「名寄せ」という作業が関与しているという話しを聞いていた。随分と原始的な作業だなとは思っていたが、このような方法が継続して使用されているからには基本的にはある程度機能しているのかな、と漠然と想像していた。しかし、やはり現実には記録から氏名が欠落していたり、結婚で姓が変わった等の理由で名寄せが困難なケースが沢山あるというのが今回の一連の年金問題で明らかになっている。それはそうだよね、と納得してしまった。

僕は個人的に日本の年金システムに関してはど素人なのでよく分らないが、なぜ初めから番号で管理していなかったのか不思議だ。昔日本で働いていた時に「年金番号」というものが年金手帳に記載されており、これが個人に独特な番号であると思われることから、少なくとも年金に関しては番号で管理されているのかと思っていた。どうも番号が導入されたのが比較的最近になってからのようだ。

*Social Security Number

米国でこの年金番号に相当するのが「Social Security Number (SSN)」である。1935年にFDR政権下で発足した公的年金システムは、翌1936年に3500万人に手でタイプ打ちされたSSNカードが送付されることにより稼動した。すなわち初めから番号管理だ。SSNは「xxx-xx-xxxx」という9桁の番号であるが、間に「ダッシュ」が二つ入っているので暗記しやすい。なお、一回でも個人に割り当てられた番号はその者の死後何年経っても再使用されることはない。処理がオンラインで行われる前から番号管理となっているところが長年に亘って管理を容易としたポイントであると言える。

導入後しばらくの時間を経て、SSNは基本的に国民背番号となり、所得税の申告、源泉徴収表、金融機関からの投資所得の報告、不動産の売買、免許、クレジットカードの審査、ありとあらゆる局面で使用されるようになった。米国で生まれる子供は出生時に病院が出生証明書と共に「Social Security Administration (SSA)」と呼ばれる省に交付申請が行われ、生まれて2ヶ月もすれば番号が到着する。

米国現地法人に派遣される者等、グリーンカードを取得しない外国人に対しても以前は交付申請さえすればSSNが発行されていた。しかし、SSNを持っていると一般社会の認識として合法的に米国滞在しているように取り扱われることが多いため、無制限に外国人に対して交付を続けることは安全保障上よろしくないということでSSNの発行は近年厳しくなっている。以前は観光客でもSSA事務所に出向けばSSNが発行されていた。ただし、SSNカードに「Not for employment」と記載されていたものであった。しかし、実際には「Not for employment」の状態の者が後で就労権を得ることも珍しくなく、実質どのSSNが就労権を持っている者に対して交付されたかの管理は容易ではなかったであろう。

SSNが公的年金システムの管理目的で導入されていることを考えれば、そもそも退職して受給権が発生する以前の段階では社会保障税を納める必要のない者にSSNは必要ない。したがって、現状では就労ビザを持っている外国人(プラスここ2年程はEビザとLビザの配偶者)にのみSSNが発行される形となっている。

SSNが余りにあらゆる局面でID番号として使用されるようになったことから、近年はID盗難が問題視されている。そこで昔は学校のID、会社での社内研修の記録等も全てがSSNで管理されていたものが、ここに来て学校、会社が独自のID番号を決めて使用するケースが増えてきた。また、IDの確認でSSNをウェブ入力したり、電話で使用する際にはSSNの9桁全てではなく、下4桁を用いるのが常識化している。米国市民で自分のSSNを暗記していない者がいないと思うが、会社、学校その他の団体が各々異なるID番号を発行し始めると、沢山のID番号を覚える必要が生じ、普段の生活では不便に感じることが多い。

次のポスティングでは米国の「ねんきん便」である「Social Security Statement」、日本の厚生年金保険料にあたる「FICA」と国民年金に似ている「SECA」の区別等に関して触れる。

Thursday, December 20, 2007

節税に対する納税者の弛まない努力(?)

税法を含む条文法というものはその条文を適用しようと意図する将来起こり得る状況を少ない言葉で的確に表現しなくてはならず、条文の文言は検討に検討を重ねた上で最終決定されているはずである。しかし、どんなに検討を重ねて選択された文言であっても、その裏をかいて都合のいい結果を導こうとするケースは後を絶たない。そのようなケースに対しては税務当局が税務調査等で調整を加え、それが不服であれば納税者としては最終的には裁判所に判断を仰ぐこととなる。税務当局の判断はRevenue Ruling等の通達、裁判所の判断は判例となり公表されるが、それらを読むたびに「なるほど、そんな風に法律の適用を免れようとしたか・・・」と変に感心してしまうことがある。

2007年12月20日に公表された「Revenue Ruling 2008-05」もそんな通達のひとつだった。

*Wash Sale規定

含み損を抱えている株式等はただそれを持っていても、Mark-to-Marketが認められる特殊なケースを除き、通常の個人納税者であれば含み損を損失として計上することはできない。しかし、株式を一旦売却して損失を確定すればキャピタル・ロスを計上することができ、個人納税者であれば年間$3,000までネットロスを控除できるし、他にキャピタルゲインがある場合にはゲインとロスを相殺することができる。

一旦損を出して売却した株式を翌日に取得し直すと、その間に株価が大きく変動するリスクも少なく、結果として含み損を実現させ、その上で引き続き同じ株式を保有することが可能である。このような取引に網を掛ける目的で1920年という相当古い時代から制定されているのがWash Sale規定である。

Wash Sale規定は、売却の前後30日以内に実質同じ株式を取得すると、売却損は認めないというものだ。売却の前後30日以内に取得がある場合には、取引の目的・意図には関係なく損失は認められない。全く同じ株式を取得していなくてもオプションを取得しているような場合には「実質同じ」株式取得となり、やはりWash Sale規定の適用がある。認められなかった売却損は取得された株式の簿価に加えられるため、最終的に本当に売却された時点で(Wash Saleの適用がない条件を満たす将来の売却)損失は認識される。また株式保有期間の決定の際にも、売却された株式の保有期間が取得された株式の保有期間に加えられる(保有期間はキャピタルゲインが短期か長期かの決定時に重要)。

Wash Sale規定は売却損失に対してのみ適用があり、売却益が出ている場合にはその適用はない。したがって、相殺するキャピタルロスが他に存在するような年には一旦株式を売却して「売却益」を出し、直ぐに同じ株式を取得することには何の問題もない。

*Wash Sale規定の回避失敗例

Wash Sale規定に対して、何とか規定に引っかからずに経済的には同じ効果を得ようとする試みは古くから行われてきた。自分で株式を買い戻すと規定に抵触するため、配偶者、パートナー、自分が管理しているトラスト等を利用して株式を買い戻すというのが典型的なものである。いずれのケースも実態として自分が買い戻している状態に極めて近いという理由でWash Sale規定が適用されている。

*Revenue Ruling 2008-05

今回のRulingの事実関係は上の関連者を利用した買い戻しの延長であるが、自分は株式を売却して損失を認識しておき、その株式を自分のIRA(個人退職口座)を利用して買い戻すというものである。Rulingでは非課税扱いを受けるIRAとは言え、最終的な受益者は納税者本人であり、その意味で上述の他の関連者に買い戻させているケース同様にWash Sale規定は適用されるとしている。この結果は十分に予想できるものであるが、それにしてもいろいろなことを考える人が後を絶たない。

Wednesday, December 19, 2007

AMTパッチ漸く成立

一週間程前の2007年12月14日に混迷を極めるAMTパッチ法案をめぐる上院・下院の攻防に関してポスティングしたが、今日12月19日遂にAMTパッチ法が両院を通過した。後はブッシュ大統領の署名を待つばかりの状態となり、実質AMTパッチが成立したことになる。

*AMTパッチは歳入オフセットなしで成立

民主党が過半数を握る下院と、独立系の議員2人でバランスが決まる上院、共和党の大統領間での攻防の焦点は、単年だけでも500億ドルに達すると言われるAMTパッチによる歳入減を他の増税でオフセットするかどうかという点であった。下院は執拗に2回もオフセットありの法案を通しているが、上院と大統領の支持を取り付けることができず、最終的には議会が冬休みに入る前日の今日、上院の改正案(オフセットなし)に同調する形で法律が成立した。せっかく下院を牛耳っているにも係らず、民主党のパワー不足感が露呈したような結果に見える。

ブッシュ大統領はオフセットありの法律が手元に送り込まれたら拒否権を発動する勢いであったが、最終的にオフセットがない法律が通過したため、喜んで署名することとなり、このまま早ければ明日にでも法律として成立するであろう。

*AMT基礎控除額

2007年9月10日、12月14日のポスティングでも触れたがAMTを算定する際には「AMT基礎控除」が認められる。AMTパッチはAMTの税率を下げるとか、AMTの適用を中断するといった方法ではなく、AMT基礎控除を増額するという形で実現される。

2006年のも同じようなAMTパッチが法律化されたが、その際には夫婦合算申告ベースで基礎控除額は$62,550であった。2007年はこれが$66,250となる。また独身者に関しては2006年の$42,500が$44,350に増額されている。

*IRSは早速システム対応に着手

IRSは遅かれ早かれAMTパッチが法律化されることはもちろん予期していた。秋には両院の税務委員会から「AMTパッチは必ず通すつもりだ」というレターも受け取っている。しかし、当たり前の話であるが法律が通らないことには税金を処理するコンピュータシステム等の更新ができない。

法律が両院を通過したという報告を受けIRSは直ぐにニュースリリース(IR-2007-202)を発表した。リリースによると直ぐにプログラム修正に着手し、申告シーズンへの影響を最小限に食い止めるとされている。

また、大統領が法律に署名後、ナント72時間以内で影響がある申告書様式12種類の改訂版を公表し、申告書作成ソフトウェア会社等がいち早く新様式に対応できるようにするとしている。72時間以内に新しい様式ができるというのはかなり早い。実はもうドラフトができていていつでも発表できるようになっているのであろう。

ただし、AMTは多くの「コア」システムに関係する計算となり、ニュースリリースには「IRSは申告書処理の遅れが最小限となるよう、果敢に可能なオプションを検討していく」とも書かれていることからやはり処理の遅れは最小限に食い止めるとは言え発生するらしいことが分る。どのようなオプションを果敢に攻めるのかはニュースリリースを読んだだけでは分らないが、おそらく、AMTポジションとならない申告書は早い段階から処理を受け付ける等、時間差攻撃のようなことを考えているのではないかと推測する。余計に処理がややこしくなり、間違ったNotice等が発行されないことを祈る

Sunday, December 16, 2007

アメリカで三角合併が多用される訳

三角合併に関しては2007年4月から何回かに分けてポスティングしている。また日米の三角合併制度の対比に関しては2007年10月5日のポスティングで取り上げている。そこで取り上げた通り、日米間では制度導入タイミングに差があること等の理由により、米国での三角合併の適用件数の多さは日本とは比較にならない。

何人からの方からこの点、すなわち単純に「なぜ米国では三角合併が多用されるのか?」という点に関する質問を受けた。今回はその点にフォーカスして三角合併、特にReverse三角合併を再度取り上げてみる。

*M&Aと株式取得

米国でのM&Aでは、税務上の観点から一般的に「株式買収」が好まれるケースが多い。資産買収とすると法人レベルで課税が発生し、税引後の買収対価を株主に還元した際に株主側でも課税されることから「二重課税」となるからだ。ターゲット企業がS法人であったり、80%以上を別の米国法人に所有されているケースでは二重課税を回避しながら税務上は資産買収かのように簿価のステップアップを実現するSec.338(h)(10) Electionがあるが、ターゲット企業が上場企業であったり、Private Equity Fundsに所有されているケースでは株式買収となるのが通常である。

株式取得は全て現金で行われることもあれば、買い手の株式、債券にて行われることもあるし、またそれらの組み合わせとなることも多い。対価に買い手の株式が含まれているかどうかは、税務上、買収が「適格」、すなわち非課税(正確には課税繰り延べ)となるかどうかの検討には極めて重要であるが今回のポスティングではこの点には深く触れずに単純に何らかの対価で株式を取得するというシナリオで話しを進めて行く。適格再編に関しては2007年4月頃の一連のポスティングを参照のこと。

*株式取得一般

一番単純な株式買収の手法は「Stock Purchase」Agreement、すなわち株式売買契約に基づいて株式を買い取ることである。買い手が自社の株式(または親会社の株式)を発行して株式を買収する際には「Stock Exchange」Agreementと呼ばれる契約が取り交わされる。いずれのケースでもポイントは契約の相手が株主であるということだ。株主が一人または少数の場合にはこのような手続きで株式取得を完了させることができる。

*ターゲットが上場企業のケース

しかし、ターゲットが上場企業だったりすると一人一人の株主を相手に株式売買契約を締結することは不可能だ。上場していないケースでも株主の数が何十人となってくると個々に売買契約を締結するのは難しい。また、仮にそのような努力が可能であるとしても、中には「自分は売りたくない」という株主も存在する可能性もあり、100%持分の取得を前提とする買収には不適切である。

そこで「機械的」に株式買収と全く同じ効果を発揮する「Reverse三角合併」の登場となる。Reverse三角合併に関しては2007年4月~5月に掛けて詳しく触れているが、簡単にまとめると買収企業Pは買収目的で特別子会社「Merger Sub (S)」を設立する。Sはターゲット企業Tに合併されるが(Tが存続法人)、会社法に基づきTの株主はPの株式を受け取り、TはPの子会社となる。蓋を開けてみるとPがTの株式を全て取得したのと全く同じ結果となる。

合併であることからターゲット企業の取締役会が係ってくるが、個々の株主と取引する必要がない。もちろん株主の決議は必要であるが、それは各法人の定款、州の会社法に準拠さえしていればよく過半数でいい場合もあれば、2/3の承認が必要となるケースもある。承認の要件(過半数、2/3等)を満たしている限り、一旦承認されると例外なく全株主が合併に応じる必要がある。したがって、個々の株式取得と異なり、間違いなく100%の株式を一気に取得できる。対価がPの株式となる場合には、合併に反対票を投じた株主は裁判所に「Appraisal Right」を申請し現金を受け取ることが出来るが、PがTを100%子会社化できる点に変わりはない。

このようにReverse三角合併は株式取得を行うための機械的な手段として利用されるケースが多い。逆にこの手法を用いなければ上場企業、株主の沢山いる非上場企業を100%子会社化することはできないということだ。

*なぜ「Reverse」が大切か?

三角合併にはReverseだけでなく、Forwardもある。しかし、Pが「Merger Sub (S)」を設立し、TがSに合併する(すなわちSが存続法人となる場合)というForward三角合併の場合には、Sは実質Tそのものであるが、法人格としてはTではない。したがって、SはTの資産譲渡を受けたものと取り扱われる。この取り扱いは税務上、株式取得とは全く異なる取り扱いを受ける。合併の対価に株式がなく非課税要件を満たすことができない場合で、ReverseではなくForward三角合併としてしまうとTの法人レベルでの課税が発生し通常は大惨事となることが多い。合併の方向により取り扱いが大きく異なるので要注意だ。

Friday, December 14, 2007

混迷極める米国議会のAMT対策

米国所得税に占めるAMT(代替ミニマム税)の割合増加が大きな問題となっている点、議会がその対策を検討している点に関しては2007年9月10日のポスティングで触れた(その際にAMTの簡単な沿革等に関しても触れているのでAMTとは何かを知りたい方はそちらを参照http://ustax-by-max.blogspot.com/2007/09/amt.html

AMTの完全撤廃等の抜本的な解決はそのコストが余りに大きいことから中々実行できない。今では通常の所得税からの歳入よりAMTからの歳入の方が高いと言われている程、米国の税収入はAMTに頼っている。個人的にも申告書には沢山目を通すが、日本企業の派遣員のケースでは州税がある州に居住しているようなケースではほぼ全員がAMTとなっているのではないかと思われる程だ。

*AMT「パッチ」

抜本的対策が実質不可能であることから、ここ数年米国議会はブッシュ政権の指導の下、時限立法的にAMTを算定する際の「基礎控除額」を一時的に増額してミドルクラスが受けるAMT被害を和らげてきた。それでも多くの「普通の」納税者がAMTになっているのだが、時限立法がなければもっとひどいことになっていたであろう。このような時限立法は根本的な問題を解決することなくその場しのぎで付け足し的に行われることから「AMT Patch(パッチ)」と呼ばれる。

*2007年AMTパッチ

2006年で現行の時限立法が失効するため、このままだと2007年の申告書は通常の状態に戻り、AMTの対象となる納税者がまたしても倍増する。それは年初から分っていたことではあるが、議会は2007年のAMTパッチを未だに法制化できていない。法律は上院と下院の双方を通過する必要があるが、2006年の下院選挙でブッシュ政権に見切りをつけた米国市民が圧倒的に民主党を支持したため、米国でも日本の「ねじれ国会」のような状況になっている。

当然このような状況ではブッシュ政権も福田さん同様に多少の「対話路線」に出ているが政策面での溝は深い。上院およびブッシュ大統領府では歳入オフセットのない「AMTパッチ」が指示されている。一年間、AMT基礎控除額を増額するだけの対策でも歳入に与える影響は530億ドル(約6兆3前億円)となる。この歳入減に対して別途増税を盛り込まない、すなわち財政赤字を増やす、というのが上院、ブッシュ案である。

一方、民主党主導の下院ではAMTパッチを規定する際に、他に増税案を盛り込み、基本的に歳入中立路線を取っている。12月も中旬となる12日に下院を通過したAMTバッチ法案も歳入中立である。増税ターゲットとなっているのは、オフショアヘッジファンドのマネージャーが受け取る繰延報酬に対する課税、元々2008年から認められるはずであった支払利子の全世界ベースでの配賦の適用開始を2016年に延期、Economic Substance規定の導入(この点に関しては2007年10月10日のポスティングを参照 http://ustax-by-max.blogspot.com/2007/10/economic-substance.html)等である。

*下院2度目の法案可決で「Showdown」に

実は下院は同様の法案を11月にも可決している。その際も上院の合意を得られず法案はお蔵入りとなった。今回の法案では11月の法案に盛り込まれていた「例の」Carried Interestに対するキャピタルゲイン扱いを撤廃する増税案が盛り込まれていた。今回の法案にはCarried Interestに対する増税は含まれておらず、若干共和党としても合意し易い内容ではある(Carried Interestに関しては2007年6月24日のポスティングを参照 http://ustax-by-max.blogspot.com/2007/06/blog-post_24.html)。しかし、一回上院が却下した法案と方向は同じであり、かつブッシュ大統領は仮にこの法案が上院で可決されたとしても「拒否権」を発動させる旨の発言をしていることから、下院の今回のアクションはかなり攻撃的であり年末に向けてAMTパッチの「Showdown」となる。

*年末ギリギリの税法改正は申告手順を困難に

どのようなパッチが規定されるとしても、立法は余りに遅い。IRSは2007年の主要な申告様式を既に完成させており、ソフトウェアメーカー各社もその様式を基に申告書作成ソフトをほぼ完成させているであろう。12月末にAMTパッチが法制化されるとIRSが申告様式、申告書を処理するコンピューター・システム等を急遽変更する必要が生じる。その作業が膨大なものとなるであろうことから申告シーズンに大きな悪影響を与えることは間違いない。我々会計事務所としてもとても迷惑な話である。現にIRSは「急に法律ができても対応できない可能性がある」と既に弱気の発言をしている。

実は2006年末にもギリギリで法制化されたものがあり様式の更新等でかなりバタバタした。ただ、2006年末の法律は「州所得税の代わりに売上税控除を認める」とか「一旦失効した教育費控除制度を復活させる」等のどちらかというと地味な内容であったが、今回はAMTという影響力絶大な項目に係る法律である。タダでさえ膨大な作業を強いられる申告シーズンに年末ギリギリのAMTパッチ騒動は結構厳しい。