Sunday, December 16, 2007

アメリカで三角合併が多用される訳

三角合併に関しては2007年4月から何回かに分けてポスティングしている。また日米の三角合併制度の対比に関しては2007年10月5日のポスティングで取り上げている。そこで取り上げた通り、日米間では制度導入タイミングに差があること等の理由により、米国での三角合併の適用件数の多さは日本とは比較にならない。

何人からの方からこの点、すなわち単純に「なぜ米国では三角合併が多用されるのか?」という点に関する質問を受けた。今回はその点にフォーカスして三角合併、特にReverse三角合併を再度取り上げてみる。

*M&Aと株式取得

米国でのM&Aでは、税務上の観点から一般的に「株式買収」が好まれるケースが多い。資産買収とすると法人レベルで課税が発生し、税引後の買収対価を株主に還元した際に株主側でも課税されることから「二重課税」となるからだ。ターゲット企業がS法人であったり、80%以上を別の米国法人に所有されているケースでは二重課税を回避しながら税務上は資産買収かのように簿価のステップアップを実現するSec.338(h)(10) Electionがあるが、ターゲット企業が上場企業であったり、Private Equity Fundsに所有されているケースでは株式買収となるのが通常である。

株式取得は全て現金で行われることもあれば、買い手の株式、債券にて行われることもあるし、またそれらの組み合わせとなることも多い。対価に買い手の株式が含まれているかどうかは、税務上、買収が「適格」、すなわち非課税(正確には課税繰り延べ)となるかどうかの検討には極めて重要であるが今回のポスティングではこの点には深く触れずに単純に何らかの対価で株式を取得するというシナリオで話しを進めて行く。適格再編に関しては2007年4月頃の一連のポスティングを参照のこと。

*株式取得一般

一番単純な株式買収の手法は「Stock Purchase」Agreement、すなわち株式売買契約に基づいて株式を買い取ることである。買い手が自社の株式(または親会社の株式)を発行して株式を買収する際には「Stock Exchange」Agreementと呼ばれる契約が取り交わされる。いずれのケースでもポイントは契約の相手が株主であるということだ。株主が一人または少数の場合にはこのような手続きで株式取得を完了させることができる。

*ターゲットが上場企業のケース

しかし、ターゲットが上場企業だったりすると一人一人の株主を相手に株式売買契約を締結することは不可能だ。上場していないケースでも株主の数が何十人となってくると個々に売買契約を締結するのは難しい。また、仮にそのような努力が可能であるとしても、中には「自分は売りたくない」という株主も存在する可能性もあり、100%持分の取得を前提とする買収には不適切である。

そこで「機械的」に株式買収と全く同じ効果を発揮する「Reverse三角合併」の登場となる。Reverse三角合併に関しては2007年4月~5月に掛けて詳しく触れているが、簡単にまとめると買収企業Pは買収目的で特別子会社「Merger Sub (S)」を設立する。Sはターゲット企業Tに合併されるが(Tが存続法人)、会社法に基づきTの株主はPの株式を受け取り、TはPの子会社となる。蓋を開けてみるとPがTの株式を全て取得したのと全く同じ結果となる。

合併であることからターゲット企業の取締役会が係ってくるが、個々の株主と取引する必要がない。もちろん株主の決議は必要であるが、それは各法人の定款、州の会社法に準拠さえしていればよく過半数でいい場合もあれば、2/3の承認が必要となるケースもある。承認の要件(過半数、2/3等)を満たしている限り、一旦承認されると例外なく全株主が合併に応じる必要がある。したがって、個々の株式取得と異なり、間違いなく100%の株式を一気に取得できる。対価がPの株式となる場合には、合併に反対票を投じた株主は裁判所に「Appraisal Right」を申請し現金を受け取ることが出来るが、PがTを100%子会社化できる点に変わりはない。

このようにReverse三角合併は株式取得を行うための機械的な手段として利用されるケースが多い。逆にこの手法を用いなければ上場企業、株主の沢山いる非上場企業を100%子会社化することはできないということだ。

*なぜ「Reverse」が大切か?

三角合併にはReverseだけでなく、Forwardもある。しかし、Pが「Merger Sub (S)」を設立し、TがSに合併する(すなわちSが存続法人となる場合)というForward三角合併の場合には、Sは実質Tそのものであるが、法人格としてはTではない。したがって、SはTの資産譲渡を受けたものと取り扱われる。この取り扱いは税務上、株式取得とは全く異なる取り扱いを受ける。合併の対価に株式がなく非課税要件を満たすことができない場合で、ReverseではなくForward三角合併としてしまうとTの法人レベルでの課税が発生し通常は大惨事となることが多い。合併の方向により取り扱いが大きく異なるので要注意だ。