Wednesday, January 10, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(1) – BEAT(2)

前回のポスティングでも触れたとおり、BEATは要は外国関連者に対する支出を利用して米国の課税ベースを圧出するという、多国籍企業、特に米国企業やInversionしていった企業、のプラニング常套手段に網を掛けようとするものだ。この手の懸念はもちろん従来から存在してたけど、今までは移転価格税制の観点で支出の額・性格が適正かどうかをどちらかと言うと定性的に検証して歯止めを掛けようという策が主だった。もちろん支払利息に関しては、今回廃止されてしまったけど定量的なアーニングス・ストリッピング規定が存在したり、外国関連者に支払う費用控除は多くのケースで現金支払いのタイミングを待たないと認められないなど、一部メカニカル規定は存在はしていた。しかし、従来のアーニングス・ストリッピング規定は外国企業が米国に投資してくる、いわゆるInboundの局面のみに対するはどめだったし、Mobilityの高い無形資産に対するロイヤリティーが大きな比重を占める米国企業のBase Erosionに対抗する主たる歯止めの主たる対抗策は移転価格だったと言える。でも、その効果の無さ振りは米国多国籍企業の派手なBase Erosionの成果を見れば明らかだ。

そこでBEAT登場。以前も触れたけど当初は税金の名前である「Base Erosion Minimum Tax」を略してBEMTって書いてたけど、この税法を規定する法文タイトル「Base Erosion and Anti-Abuse Tax」にちなんでBEATとなってきた。そのゴロの良さから略は「BEAT」で業界一致している感じ。米国の人ってこういうアクロニム作るのが凄く上手。

このBEATは従来の移転価格をOverrideするものではない。すなわち移転価格税制を含む他の要件を充たし、BEAT検討前段階では適正と思われる外国関連者への支出を通じた損金算入額を、BEATで一括定量的に制限しようとする試み。で、「Base Erosion Minimum Tax」という新しいタイプの法人税新設となる。簡単に言うとBEATは、通常の課税所得にBase Erosion Benefitを加算処理して修正課税所得を算定して、それに10%等の通常の税率より低いBEAT適用税率を乗じて通常の法人税より高ければ差額をBEATとして納付というもの。BEATが属するのはIRCのTitle 26、Subtitle 1、Chapter A、Subtitle 1、Subchapter A下にBEATのために新設されるSection 59Aだ。Income Taxの一部を構成しているということ。

BEATの対象となる納税者だけど、3つある要件を全て充たす納税者とされる。まず、適用納税者の規定は「全ての法人、ただしREIT、RIC、S Corporationは除く」と始まる。僕が始めてこの定義を読んだ際、この出だしのセンテンスの重要性を余り深く考えてなくて、REITだのRICだのS Corporationだのと米国税法上の事業主体が例外として羅列されている事実にすっかり騙され、何の根拠もなく感覚的にここで言う法人というのは米国法人のことだろうと受け止めていた。でもその後何回目を擦って日夜読み返しても、透かして見ても、火で炙ってみても、サングラス掛けて読んでみても「Corporation」としか書かれておらず、「U.S.」とか「Domestic」という形容詞はついていない。「う~ん。なるほど」。やっぱり法文は一語一句よく読まないとね、とようやく事の重大さに気付き愕然とした。つまりこれは全世界の法人を対象とする訳か、と。米国法人以外は米国で法人税支払ってないからBEATとか関係ないじゃん、って思うかもしれないし、まあ大概のケースではそうだけど、これはECIとかPEとか、要は支店を持つ外国法人にも同様に適用があるってことを後から「ただしECIのある外国法人も対象・・」とか規定するのではなく、アップフロントにこのような形で一網打尽にしているというスマートな構成。

一旦全世界法人を対象としておいて、その後の税金比較の部分で税金の範囲をSection 26(b)を引き合いに出して、申告法人税に限定することで実質、自然と対象は米国法人、そしてECIまたはPE課税される外国法人に絞り込まれるようにできている。BEATは短時間で書き上げられた上院バージョンの生き残りだけど、法律をドラフトする方たちの知識度合いというか、その構成力には関心する。

で、次の条件に過去3年平均で売上$500M以上というのが来る。通常同じように3年間平均の金額を使用する局面で規定される同様の雑多な規定が適用される。すなわち、12カ月未満の課税年度が存在するようなケースでは年間換算額を用いるとのこととか、合併等期の途中で組織再編がある場合には前身の主体の売上を含むとか、返品は売り上げを減らしますとか、規定されている。不思議なのは、この手の話しで必ず登場してくる3年間存在してない法人はどうするのかっていうと、通常は存在している期間だけの平均でよろしいっていうのが付き物のはずなんだけど、今回は敢えてその部分だけ言及されていない。まさか分子は2年で分母3ってことはないだろうから不思議な気がした。

更に$500Mの判断時には50%超の資本関係にあるグループ法人の売り上げは合算して判断しないといけない。ここはSection 52(a)っていうWork Opportunity Creditを規定している条文の定義を借りていているけど、基本的にSection 1563のControlled Groupと同じで唯一の差異は本当のControlled Group規定は80%以上ベースなのが、50%超に変わる点。WOCは余り馴染みがないので最初からSection 1563で50%超に置き換えると言ってくれた方が法人納税者にとって直感的にピンとくるように思う。また、$500Mの判断をする際にもう一つ肝心なポイントとして、グループ内の外国法人に関しては米国事業に関連する売上のみを加算するとされている。これはチョッと意外な感じだけどBEATは基本的にある程度米国で売上があるケースに適用という結果となる。まあ$500Mだから結構簡超えそうだけどね。なお、ここで言う外国法人の米国事業に関連する売上と言うのは、外国法人が米国にECI、すなわち租税条約のPE恩典を考えずに支店として法人税申告が必要となるケースで、そこで計上される売上という意味で、日本親会社が米国向けに輸出している売上はその取引が米国で申告課税の対象になっていない限り取り込まれない。

そして3つ目の条件としてBase Erosion%が3%以上のケースとされている。このBase Erosion%はBase Erosion Benefitが全体の損金算入額に占める割合。Base Erosion%という概念だけど、ここのBEAT対象納税者の判定時に加えて、NOLが発生する課税年度に将来に繰り越すNOLのうち、どれだけの部分がBase Erosion BenefitとしてTaintされているかの算定目的でも登場してくる。NOLが発生する課税年度は毎期各々このBase Erosion%を算定し、NOLのうちいくらがBase Erosion Benefitとして繰り越されているかを算定しておく必要がある。そして、将来のNOLを使用する課税年度で、その年の課税所得に加算するBase Erosion Benefitの一部を構成することになる。この点に関して、そうではなくNOLが使用される課税年度の%で判断するのでは、という解釈もあるよう。法文の表現がいまいちどっちか分からないという理由だけど、趣旨としてはそれは変。

ここは若干難しいけど、毎期のBase Erosion%決定時にはNOLは加味しないとされている。したがって、ある課税年度だけを見てNOL前でBase Erosion%が3%に満たない場合は、その課税年度にBEATの適用はないので、その年に使用するNOLにBase Erosion%があっても特にその分を加算処理したりする必要はないというように読める。

さらにややこしいのはBase Erosion%の算定はSection 52(a)で規定されるグループは合算して行うこと、と規定されている点だ。このSection 52(a)に関しては前述の$500M売上基準のところで触れているもので、基本的に50%超の資本関係にあるグループ。で、グループで合算して判断するというアプローチは毎期3%以上かどうかの判断をする際にはスンナリ理解できる。米国に複数の法人があり連結納税していないケースで、一方が3%以上、他方が3%未満で片方だけBEAT対象という結果になったりしないし、グループ法人間で支払いを調整したりして調整課税所得が超えそうな方は3%未満にしたりとか(そんなことできるかな?)ができない。

一方、もうひとつのBase Erosion%の目的であるNOL繰越額のうちどの部分がBase Erosionの汚名を引き継いでしまうかの決定もグループ単位で行わないといけない点は注意が必要だ。個社単位では全然Base Erosion Benefitとかないのに、米国兄弟法人に%があるとグループ単位の%に基づいて将来に繰り越されるNOLの一部がBase Erosion Benefitに転換されてしまうことになる。グループ内で数字を操作してNOLを持つ法人のBase Erosion%を下げたりいろんな可能性に網を掛ける目的かな。

NOLが発生する課税年度のBase Erosion%はたとえ3%未満でも、この%は計算の必要がある。つまり、Base Erosion%が仮に1%だったとしてもNOLの1%は将来使用される課税年度でBase Erosion Benefitになるということだ。前述の通り、使用年度でBEAT対象かどうかの判断はこの1%部分は加味せずにその年度だけのBase Erosion Benefitを基にBase Erosion%を算定する。

ちなみにこの3%以上と言う基準だけど、銀行は2%以上と減額されていてよりBEATに抵触し易くできている。他にも銀行は常に1%不利になる局面があり、これは後述するけどちょっと気の毒。

次回はBase Erosion PaymentとBase Erosion Benefitに関して。