Friday, November 2, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)Section 956温存と財務省規則案

次の大型規則案パッケージが公表される前にGILTI関連のポスティングを終わらせなくては、と夢に出てきそうな位チョッと焦りかけた今日この頃。そんな矢先の昨日(2018年10月31日)、寝耳に水っぽく、米国財務省はSection 956にかかわる規則案を突然公表した。GILTIに続く国際課税の規則案公表は、Section 163(j)の支払利息損金算入制限(これは国際課税関係ではないけど、GILTIやクロスボーダーM&Aとかに影響大)、そして1962年以降の外国税額控除の概念を一から書き換える「新」Section 960関係、というシナリオのはずだったのに急にSection 956 という変化球が飛んできてビックリ。

Section 956の規則案だけ列に途中から割り込むようにさっさの公表された背景には、どうも、他の規定に対する「大型」規則案と異なり、956条規則案はその経済的なインパクトが低いと位置付け、大統領府のOMB内にあるOffice of Information and Regulatory Affairs 「OIRA」のレビューを端折って発表できたっていう事情があるらしい。ちなみに、このOIRA、「オイラ」って言うと日本語的にチョッとカッコ悪いし何か自分のこと言ってるみたいで変。その理由とは全然関係ないけど、こっちでは「オアイラ」って呼ぶことが多いように思う。なので皆さんも米国各省庁が策定する規則の大統領府によるレビューの話しをする時は「今、オイラがレビューしてます」とか言うと、聴き手は「この人がレビューしてるって、チョッとおかしいんじゃない?しかも「おいら」だなんて」とか勘違いしてしまう可能性大。なので、、「オアイラ」と言って、笑われたりするリスクを軽減しないとね(?)。

と、またどうでもいい話しに逸れ過ぎないうちに本題に戻るけど、税制改正でトリガーされる大量のガイダンス策定で超忙しいと思われる財務省が、敢えてこのタイミングで慌ててSection 956にかかわるガイダンスを公表している点はとても興味深い。というのも、Section 956そのものは、今回の税制改正で付け加えられたとか、変更が加えられた規定かと言うと、そうではなく、税制改正では全くタッチされていない条文だからだ。逆に、Section 956が撤廃されずに、そのまま温存されている点そのものが米国国際税務に関与している者にとっては税制改正時の一番の驚きだった。

実際、上院と下院のすり合わせ最終バージョンができるまでは、Section 956は撤廃される運びだった。なぜ撤廃されるのが自然で、温存されてビックリだったかというと、Section 956 って言う規定は、CFCから配当すると米国株主が課税されるので、それを回避するため、配当以外の名目、特にCFCが米国株主に貸付をするパターンで、資金を米国に還流させて、米国で課税されずにCFC側の資金にアクセスしよう、っていうプラニングに網を掛ける趣旨だったからだ。すなわち、Section 956は、CFCによる米国株主またはその米国関連者への貸付、またはその他Section 956に規定される特定の取引形態に基づく米国への資金還流を、実質、分配同様に取り扱い、CFCのE&Pの範囲で米国株主側でみなし配当として合算課税するという規定だ。

税制改正により、CFCからの配当が100%の所得控除の対象なった今日、Section 956 は取り締まる相手がいなくなってしまったお巡りさんみたいな存在で、存在意義がなく、当然、撤廃が順当と思われていたものだ。ところが、2017年12月、税制改正の法案を両院すり合わせしている最後の最後に、ナンと息を吹き返して、皆、不意を突かれた、というものだ。実際にはこの100%配当控除制度は、その対象となる留保所得がほぼ存在しないと言ってもいい程だから、結果として米国国際課税は低税率グローバル課税に移行してしまった点は、以前から散々触れているので、ここでは繰り返さないけど、超根本的なところなので必ず忘れないで欲しい。

税制改正下のSection 956の温存と並行して、さらにビックリさせられたのが「Hopscotch対抗規則」の廃案。Hopscotchって知っている人も多いと思うけど、iPhoneで無数のAppやゲームをダウンロードして遊び始める以前の時代に米国の子供たちが、道にチョークで箱と番号を書いて、石とかを投げてそこにジャンプしながら辿り着く外遊びのこと。日本語に訳すとすると「石けり遊び」とか「けんけん」とかだろうか。チョッと話しが逸れるけど、Los Angelesのバンド、Missing Personsのデビュー12インチシングルの「B面」2曲目に「Mental Hopscotch」っていう格好良すぎの曲があるので知らない人はぜひ聴いてみて欲しい。Terry Bozziのツインバスのドラムと歪んだElectronic Guitarの組み合わせが絶妙。Missing Personsとして有名な曲じゃないかもしれないけど、その昔、L.A.の郊外でMissing Personsのライブ見た時、この曲がOpeningだったんで、本人たちも気に入ってる曲に違いない。ツインバスというと当時はCozy Powellを連想する人が多かったと思うけど、Terry Bozzioは更に無数のシンセタムを多用して芸術的。Missing Personsを脱退した後は更に多くのタム、シンバルを備えて、「要塞」ドラムセットがトレードマーク化している。今でもL.A.とかでドラムクリニックとかやってるドラムオタクだ。2008年の日本公演時に知り合った日本人女性と再婚して現在に至っているはず。その相方の氏名が僕の友人と同姓同名なので、当時は「まさか・・・」と思ったんだけど、やっぱり別人のようでした。

で、Hopscotchはこの遊びの意味から転じて、不規則にジャンプする様の例えに使われる用語になってるんだけど、「それが国際課税にどう関係あんの?」っていうと、実にテクニカルな関係にある。

通常の配当は、当たり前だけど、米国株主が持分を保有するCFCからしか受け取ることができない。下層に位置するCFCから配当を受け取るには、米国株主が直接持分を保有する上層のCFC経由とせざるを得ない。となると、配当は課税されてたけど外国税額控除が計上できた従来、不利な形でしか米国から資金を還流することができないこともある。従来の国際税務システム下では、米国で追加の法人税支払いが発生するような形で資金を米国に還流するのは米国企業的にはタブーに近かった。例えばせっかく下層のCFCがHigh Tax Pool(すなわち米国の法人税をフルに外国税額控除で消去できる状態)でも、上層CFCがLow Tax Poolだったりすると、米国株主はHigh Tax Poolに基づく外国税額控除の最大限化が達成できないことになる。

そこで登場するのがHopscotchを利用したSection 956合算。子供たちが脈絡なくジャンプするように、 どんなに下層に位置するCFCからでも、米国に貸付とかすることで、思うがままに自由にジャンプして目的地に向かって配当を引いてくるようなフィクションを演出してくれるSection 956合算課税 は賢い納税者にとって、またとない弾力的な外国税額控除プラニング手法となっていく。例えば、さっきの例で、下層CFCが米国株主に貸付をすると、下層CFCのE&Pの範囲で、あたかも配当があったかのように米国株主が課税され、その際に、下層CFCのみのTax Poolを基に外国税額控除を計算でき、実際に上層CFC経由で配当を受け取るより有利な計算となる。議会がCFCからの配当課税迂回に網を掛けるために制定した条文を、合法的に自ら有利なプラニング手法として逆手に取るのが得意な米国多国籍企業のお家芸だ。まさに面目躍如状態。

またも「してやられた」形の議会は対抗規定を制定する。これが2010年のHopscotch対抗条文として新設されたSection 960(c)だ。この対抗策は、Section 956で直接下層CFCの所得を合算させられるにもかかわらず、外国税額控除の計算目的では、実際の配当同様に米国株主が保有する持分チェーンを通じてE&Pがフローアップしてきたかのように考えるというものだ。

対抗策は旧Section 960の一部を構成していたけど、この旧Section 960全体の従来の機能はSubpart FやSection 956で米国株主が実際に配当を受け取ることなく課税される場合には、実際に配当を受け取ったかの如く、外国税額控除を認めましょう、というもので、それにかかわる諸々の複雑な規定が盛り込まれていた。税制改正で、実際の配当にかかわる外国税額控除が撤廃されてしまったので、Section 960はその存在感を増し、Section960の構成に大幅にメスが入る。旧Section 960(b)が(c)になったりして以前のSection 960を少しでも知っている者にとっては超分かり難い状態に生まれ変わってしまった。そのプロセスでHopscotch対抗規定だったSection 旧Section 960(c)はなくなってしまい、結果として、Section 956 は温存される一方、Hopscotchは復活OKというチョッと信じられない状況となっていた。

昔から、このSection 956って、知らないうちに間違えて抵触しちゃうか、逆に良く知っている納税者(の起用する法律事務所やBig 4の国際税務部門)がアクティブにプラニングに利用しているか、のどちらかの局面で登場することが多かった。Section 304と並んで、取引形態と税務上の取り扱いが大きく乖離しているので、直感的に分かり難い規定の代表だろう。税法改正により、Hopscotchが復活の上、Section 956 は温存と言う思いもよらない結果となり、CFCの実際の配当を基とする外国税額控除のGeneral Basket枠が無くなってしまった今日、Section 956こそがGeneral Basket対策の有効な対策の決め手となり得るのでは、と模索を開始していた。

そんな淡い期待は急に登場したSection 956の規則案で振り出しに戻ることとなった。次回は簡単に規則案の内容そのものについて。