Sunday, July 13, 2008

米国のスピンオフ(13)

前回までのスピンオフに係るポスティングでスピンオフが非課税となるための様々な条件の話しをしてきた。その締めくくりとしてSec. 355(d)と呼ばれる複雑な規定に触れる。この規定はスピンオフから過去5年間にスピンオフに関与する法人の50%以上が取得された場合に関係してくる。いままでも沢山の条件、例外に触れたが、その際にも50%とか5年という規定はかなり頻繁に登場した。そこで今回はSec. 355(d)に深入りする前に今まで話した条件のうち、50%とか5年という条件が盛り込まれいるものに関して若干整理してみたい。

なお、個々の条件を検討する際にはスピンオフがうまく行けば信じられないような恩典を受けることを意味するという「Big Picture」を忘れてはならない。すなわち、分配を行えば、法人では含み益課税、株主側では配当、または償還扱いの場合には売却益課税、されるというのが通常の取り扱いである。これを全て非課税で行うという「例外規定」がスピンオフだ。例外規定であることから、スピンオフの条件は「狭義」に解釈される。これは「例外規定」は「一般規定」よりも狭義に解釈されるべきという法律の基本的な考え方に基づくものだ。

Sec. 355(e)

直近のポスティングではスピンオフの条件の中でも、買収されることを目的として事業をスピンオフするMorris Trust型の取引に対する規定であるSec.355(e)にフォーカスした。

Morris Trust型の取引に基づきスピンオフと同一プランの一環で50%以上の持分を第三者に取得される場合には、事業を分配する法人Dはスピンオフの対象となる法人C株式の含み益に課税される。一方で、スピンオフの他の条件を満たす限り、分配を受ける株主(Distributee)に対する配当課税はない。

法人サイドのみで課税されるという規定の背景は、基本的にSec.355(e)が「法人が含み益の認識なく資産を分配する(General Utilities Doctrine)」という行為に網を掛ける目的で制定されているためだ。General Utilities Doctrineは1986年の税法改訂で撤廃された考え方であるが、非課税スピンオフはその撤廃後、唯一残された法人サイドで含み益を認識することなく価値のある資産を分配する手法となる。したがって、スピンオフは納税者側から見ると極めて有利な特例であり、そのため、多くの条件があり、条件の全てを律儀に満たして初めて非課税の恩典を受けることができる。

他のいくつかの条件と異なりSec.355(e)はスピンオフ前後のDまたはCの買収が「適格の非課税再編」であっても50%以上という条件に抵触する限り適用がある点注意が必要だ。

*5年以内に課税取引で取得されたC株式はBoot扱い(Sec.355(a)(3)(B))

課税取引で取得されたC株式を「5年以内」にスピンオフすると、その株式は「Boot」扱いされる。Boot扱いされるため、Sec.356に基づき配当(E&Pの範囲で)または償還取引として課税されることになる。この規定に関しては「米国のスピンオフ(6)」でAT&T分割の際の興味深い取り扱いに触れた。5年以内のC株式取得に関しては、他にもActive Trade条件、そして今後触れるSec.355(d)、Sec.355(e)も検討する必要がある。

Boot扱いされるということは非課税スピンオフ上の適格分配資産とならないということなので、法人D側、分配を受ける株主側の双方で課税される。これはSec.355(e)の取り扱い(=法人側のみで課税)と異なるが、これは規定の目的が異なるからだ。5年以内に課税取引で取得されたC株式を分配することに網を掛けようとする主たる理由は、現金を代表とする流動資産を(長年事業をしている株式を取得して)スピンオフと仮装して分配することへの対策だ。

また、Bootにするという規定であることから、スピンオフの対象となる全ての株式がこの規定に抵触してはそもそもスピンオフにならない。そのようなケースでは下のActive Trade条件にも抵触するため、そもそも非課税スピンオフにはならないであろう。となると、この条件はAT&Tケースのように全体はスピンオフとなるが分配対象の一部に非適格となる株式が含まれているというようなシナリオに最も関連してくるように思われる。

*5年以内に課税取引にて取得されたC株式とActive Trade or Business条件

Active Trade条件はスピンオフの根幹に位置する条件であり、「米国のスピンオフ(2)」で触れている。単純に言えば、非課税スピンオフとなるにはDおよびCが過去5年間事業に従事している必要があり、またスピンオフ後に双方共にこの歴史的事業を継続する必要があるというものだ。5年以上事業を営んでいる法人を買収して買収前の実績を基にActive Trade条件を満たしているという主張を退けるため、課税取引でCのControlを「5年以内」に課税取引で取得し、CをスピンオフするとCに関してActive Trade条件が満たされない。これも上のBoot扱いと同様に、本来は配当となるべき流動資産をスピンオフと仮装して分配することへの対策である。したがって、スピンオフそのものが適格でなく、法人D側、分配を受ける株主側の双方で課税される。

*スピンオフを行うDの買収

上述の5年以内のDによるCのControl取得(課税取引による)の禁止(こちらはまだ分かり易い)に加えて、Active Trade条件には更にややこしい規定である「スピンオフを行うDのControlが5年以内に課税取引で買収されている場合にActive Trade規定が満たされない場合がある」というものがある。具体的には課税取引でDのControlが「5年以内」に取得されており、その買い手が法人であり「Distributee」となるようなスピンオフはActive条件が満たされない。Distributeeが法人以外(個人、Trust等)のケースには少なくともこの規定の適用はない。

Active Trade条件の一部であるが、基本的には流動資産の配当を規制するというよりもDのCに対する含み益を認識することなく分配されることに対する規制(上述のGeneral Utilities Doctrine撤廃を受けての対策)に近いように見える。その意味では前述のSec. 355(e)、また今後話すSec. 355(d)の目的に近いように思えるのだが、あくまでもActive Trade条件の一部を構成するため、この条件に抵触するとスピンオフそのものが適格でなく、法人D側、分配を受ける株主側の双方で課税される。

また、この規定が適用されるのは「Distributee」イコール「DのControlを5年以内に取得した者」という図式が成り立つ場合のみだ。DのControlを取得した者以外にCが分配される場合には、このActive Trade条件は問題ない。そのような場合には今後話すSec. 355(d)の検討が必要となる。

*5年以内の買収:課税取引 v 非課税取引

上述のBoot扱いの規定、Active Trade規定、そして今後話すSec.355(d)規定は全て5年以内のC株式の買収が「課税取引」にて実行された場合に関連してくる。買収が「非課税再編」であった場合にはこれらの規定の適用はない。過去の非課税再編による買収が関係してくるのはSec.355(e)であろう。

*持分継続条件とスピンオフ

スピンオフに対する持分継続条件に関しては「米国のスピンオフ(7)」で触れた。個人的にはこの持分継続条件が実際にどこまでを認めているのかはよく分からない。

財務省規則の例示から、Dの従来からの株主の「誰か」がDとCの各々に対して50%の持分を維持していれば満たされるが、DとCのどちらか一社に対してでも持分が20%まで落ちてしまったら満たされない、ということは明確である。しかし、その間の%に関してはよく分からない。A型再編では40%でも大丈夫とされるがスピンオフではどうなのか?

また、他の条件(特にDevice条件)とのOverlapもあり、持分条件そのものが満たされていると主張できるような局面でも、他の条件に抵触するようなケースでは持分継続条件はそのものは「Moot」となる。

50%以上の持分移動というと上述のMorris Trust型取引に係るSec. 355(e)を思い出す。持分継続とSec.355(e)の関係を明確に断言する程の自信はないが、個人的な理解としては、Sec.355(e)は買収後の事業主体全体に対する持分が問題となるが、持分継続条件はあくまでも買収前の状態にフォーカスしており、スピンオフ後の買収で株式(=Equity)を受け取っていれば、例え買収後の事業主体全体に対する持分が低くても問題はないというものだ。

すなわち、持分条件を判断する50%とか25%というパーセンテージは旧Dの株主のDおよびCそのものに対する%で見るものであり、DまたはCがスピンオフ後に買収される場合には買収対価の中にEquityが何%含まれるかという点が問題となるのではないかと思っている。すなわち、例えばCがスピンオフと同一プランに基づき大きな企業に買収され、買収後の事業主体に対する旧Cの株主(=旧Dの株主)が例え10%であったとしても、買収対価全体がEquityであり、スピンオフそのものを見た場合にDとCに対する従来からのD株主が必要%持分を維持していれば、少なくとも持分継続には問題がないということだ。

もちろんだが、スピンオフと同一プランの一環で実行される買収でBootが使用される場合には、旧D株主が受け取るBootの額はCまたはDの持分継続を満たしているかどうかの算定に加味する必要があるだろう。

持分継続がOKとなるケースでも、買収とスピンオフが同一プランの一環で行われる場合にはもちろんSec. 355(e)の検討が必要となる。しかし、Sec.355(e)はあくまでも法人Dでの課税を規定するものである。その意味で、(スピンオフの他の条件と並び)持分継続を満たしているかどうかは分配を受ける株主サイドでの課税関係を決定する上では重要な検討事項であり続ける。