Thursday, December 12, 2019

BEAT財務省2019年「新」規則案(損金算入自己否認)(2)

前回のポスティングでは、BEATの2019年「新」規則で提案されている、BE%を3%未満とするため納税者にBase Erosion Benefitを構成する損金を「自己否認」する選択を認めるという寛容な取り扱いに関して触れ始めた。今回はこの選択の具体的な規定に関して。

BE%のオサライだけど、これは各課税年度に認識されるBase Erosion Benefit額を分子、損金算入される費用総額を分母として算定する%。どれだけ派手にBase Erosionに従事しているか、っていうのを計るための物差しと考えるといい。$500Mの売上基準と並んで、BE%が3%以上(銀行・証券会社を含むグループは2%)となるとBEAT適用対象となる重要な基準値だ。また、BEAT適用対象判断と並び、NOLを認識する課税年度のBE%は、当NOLを使用する将来年度におけるBEAT算定時にNOLのどのポーションがBase Erosion Benefitになるかという判断にも使用される。さらに、BE%は特定合算グループ単位で算定され、一旦特定合算グループで算定されたBE%は各法人または連結納税グループに強制適用される、という複雑な規定がある。Base Erosion Benefitっていうのは損金算入されている費用のうち、外国関連者への支出を基にしているもの。

財務省が、今回の新規則で自己否認を容認する提案をしている法的なバックグラウンドだけど、米国で課税関係を検討する際、様々な状況で、特定の費用が税法上「Allowable」なのか「Allowed」なのか、っていう差異に着眼しないといけないことがある。たかが「able」と「ed」の違いじゃん、って気に留めないで分析してしまいがちかもしれないけど、運命の分かれ道になることがある。BEATを算定する際の、NOLの取り扱い、すなわち繰り越されたNOL全額を使うのか、通常の法人税計算で使用したNOLのみを使うのか、という検討もある意味これで解釈が分かれるところだった。他に、一番分かり易い例としては、償却と資産の簿価の関係を挙げることができる。例えば、100で取得した資産に対して税法が認める、すなわちAllowableな償却が初年度50あったにもかかわらず、納税者側で30しか損金算入、すなわちAllowed、していないとする。償却後に70で当資産を売却したとすると、納税者の計算では70の税務簿価が残っているはずなので、譲渡損益はゼロとなる。ところが譲渡損益を計算する際の税務簿価の定義は「Allowable」な償却で算定すると法律に規定されているので、実際には簿価は50となり、譲渡益が20発生することになる。

それってBE%算定時の損金算入の自己否認と何か関係があるの?って言うと、これが大いに関係する。Base Erosion BenefitとはBase Erosion Paymentのうち毎期実際に損金算入される金額で、多くのケースのこの2つの数字は特定の課税年度内で同額。金額に差異が生じるとすると基本的にはタイミング差異で、例えば、ある課税年度に行われた外国関連者に対する支出、すなわちBase Erosion Payment、の費用計上タイミングがAll Eventテストその他の理由で翌期となる場合、Base Erosion PaymentはYear 1に発生しているが、Base Erosion BenefitはYear 2となる。もっと極端な差異は、外国関連者からの資産取得。Year 1に150で資産を取得し、仮に当資産が15年償却だとすると、Year 1のBase Erosion Paymentは150だけど、Base Erosion Benefitは10だけだ。Year 2以降はBase Erosion Paymentは存在しないけど、償却を続けているので、Base Erosion Benefitは引き続き毎期10計上される。

BEATの法律上、Base Erosion PaymentとBase Erosion Benefitは別々に定義されているけど、もちろん密接にリンクした概念だ。Base Erosion Paymentは最終的に損金として「Allowable」、すなわちいつかは法的に算入対象になる得る、支出と定義される。なので資産取得もその年には損金算入が全額認められなくても、全額立派なBase Erosion Paymentとなる。ここからが面白いんだけど、Base Erosion BenefitはBase Erosion Paymentのうち、特定の課税年度に「Allowed」された損金算入、すなわち実際に損金算入した金額、と定義される。勘のいい皆様は、これが今回の損金算入自己否認の法的なフレームワークとなり得ることに気づかれたと思う。法的に損金算入が可能な金額、Allowableな金額でも、納税者が損金算入していなければ、Allowedでないとも考えらえることから、BE%の算定時に加味しなくてもいい、というポジションはBEAT導入当初から摸索され始めていた法的ポジションだ。もしBase Erosion Benefitの定義もAllowableだったら、このようなポジションは法的にサポートし難かっただろう。議会がこの2つの用語を、BEAT法をドラフトする際にどの程度意識して使い分けしていたかは知らないけど、Section 59A(c)(2)と59A(d)(1)という極めて近距離にある条文2つで敢えて別の用語を使用している訳だから無意識に選択しているとは思えない。

とは言え、法文だけをベースに損金算入を自己否認してBE%を2.999%とかにするのは結構勇気がいるので、財務省規則でこの点を明確にして欲しい旨のコメント・リクエストが寄せられていた。このポイントは大本の2018年財務省規則案では取り上げられていなかったので、今回新たな規則案として公開し、更なるパブリックコメントを経て最終化される運びとなった。

で、2019年新規則案では、規則上で除外としている特定の状況を除き、米国税法全ての目的で損金算入されないという条件でBE%目的でも損金扱いしないでもよろしい、という選択を納税者に与えている。二枚舌は禁止ってことだ。日本的にはそりゃそうでしょう、って思われるかもしれないけど、米国企業や税務アドバイザーは法的解釈が可能であれば、極限に挑んだりするので、税務処理変更の利用との絡みも含め、規則案ではこの辺りに結構細かく釘を刺している。損金不算入の効果を取り込まない、すなわち、あたかも損金算入されたかのような取り扱いをするのは、E&Pの計算とか、FTCの枠の計算時の支払利息の配賦とか、かなり限定的。

ちなみに損金不算入を選択する対象とする金額は外国関連者への支出を基に計上される損金。それ以外の損金を自己否認してしまってはBE%の分子はそのままで分母が減ってBE%が高くなってしまうので逆効果。なんで、必ず分子に計上される損金を自己否認し、分母も同額減額されるので、それで%がどうなるかっていう試算をしないといけない。もともとBEATは大手法人のみを対象としているので、費用の額がそれなりに大きいところが多く、%を目に見えて動かすには結構な大きな額を否認せざるを得ないだろう。例えば、丸い数字で、損金算入総額が元々$1Bあり、4%のBE%、すなわちBase Erosion Benefitが$40Mだとして、これを例えば2.9%に減額させようとすると、$11M強の損金を自己否認しないといけない。もちろん実際には2.9%にまで落とす必要はなく、2.9999%でいいんだけど。$11Mの損金がなくなるっていうことは、通常の課税所得、BEAT算定目的の修正課税所得、双方共に$11M高くなり、FTCを含む諸々のクレジットの計算に影響があったり、多岐に亘る影響があるので詳細なモデリングに基づく検討がMust。州によっては連邦税法に基づいて算定された課税所得を出発点として、州税を算定するところも多いので、それらの影響も加味する必要が出てくる。BE%は特定合算グループ単位だから、誰の損金を否認するのかグループ内で揉めないようにね。

規則草案は早期適用が認められるので、2018年の申告書でも利用できる。既に申告書を提出してしまった場合には修正申告ができる。更に面白いのは税務調査の段階でも損金算入自己否認の機会が提供されている点。例えば、2.999%と信じてたら、調査で実は3%でしたとなってしまったような場合、その場で必要に応じて調整が認めれる。かなり寛大。

最後に当選択を行う際に求めらえる開示やStatementは、BEAT計算の報告様式であるForm 8991を今後改訂してFormそのものに選択関係の情報を開示することになるそうだ。なんか至れり尽くせりな感じ。それまでは別途White Paper Statementで必要情報を開示する必要がある。

かなり納税者フレンドリーな規定だけど、BE%を3%未満することが必ずしも最終目的ではない。BEATの適用対象となっても、結局BEATミニマム税を支払うことになるとは限らないので、変な選択して、その結果支払う通常の法人税が元々のBEATミニマム税を加味した税額より多くなったりしないようにね。