Friday, November 30, 2007

Earnings Stripping Ruleの今後(1)

「アーニングス・ストリッピング規定(Earnings Stripping Rule)」が強化されるかもしれない、という話はここ何年も出ては流れてきた。昨日2007年11月28日、そんなEarnings Stripping Ruleの現状および法改正の必要性に係る米国財務省作成の議会への報告書が完成・公表された。当報告書は2004年の税法改訂時に作成が義務付けられたものであることから足掛け4年に亘る歳月を掛けてようやく完成した大作(?)である。

Earnings Stripping Ruleは日本企業の米国現地法人の課税に極めて大きな影響を持つことから報告書の内容に関して急遽ポスティングする。

*Earnings Stripping Ruleとは?

Earnings Strippingという用語そのものは、広義には米国法人が本来認識するべき所得を何らかの手法で外国に移転してしまうことを意味する。所得が外国に剥ぎ取られる、すなわちEarningsがStippingされるという訳だ。移転の手法としてはいろいろなものが考えられるが、移転価格、外国関連者からの過度の借り入れに基づく支払利息が代表的なものとして挙げられる。そのうち移転価格に関しては別途、移転価格税制があり、米国でEarnings Strippingという用語が用いられる際には通常「外国関連者からの過度の借り入れに基づく支払利息」を意味するものと思っていい。この点に網を掛ける目的で制定されたのが「Earnings Stripping Rule」である。

Earnings Stripping Ruleとは企業が関連者から借入金をして利息を支払う際に、もしその利息の受け手が米国でフルに課税されていないようであれば、一定の条件下で支払利息の損金算入を認めないというものだ。コンセプトとしては「過小資本税制」に通じるものがあるが、Earnings Stripping Rule下では、損金算入が否認された支払利息がみなし配当となることはなく、その後の年度に繰り越され、将来的に条件を満たした段階で損金算入が認められる。

規定の概要に関しては後述するが、Earnings Stripping Ruleを適用する際の一般的な傾向として、企業が儲かっていない年には支払利息の損金算入が認められず繰り延べられるが、儲かり始めると過年度からの繰り延べ分も含めて支払利息が損金算入できる。その意味で通常の過小資本税制よりも「User Fridendly」であると言える。なお、米国には別途「過小資本税制」も存在するが、こちらは適用の基準がかなり主観的で日本企業の現地法人という局面ではEarnings Strippingの方が圧倒的に適用例が多い。

*まずは借入資本比率をチェック

Earnings Stripping Ruleの詳細に関しては税法のSec.163(j)およびその下の財務省規則を読んで頂く以外にないが、敢えて簡素化して概要を説明すると次の通りだ。まず、Earnings Stripping Ruleは「借入資本比率が1.5を超えている場合」にのみ適用されるという「Safe Harbor規定」がある。したがって、借入資本比率が1.5以内であればそもそも適用はない。借入資本比率が1.5を超える場合、否認(正確には繰延)の対象となるのは「非適格支払利息」と「超過支払利息」のいずれか「低い方」である。

*非適格支払利息とは?

非適格支払利子は「関連者に支払われるもので、かつ利子の受け手がその利子に関して米国で課税されていない支払利息」だ。これは冒頭で触れた「利子の受け手が米国でフルに課税されていないようであれば、一定の条件下で支払利子の損金算入を認めない」というEarnings Stripping Ruleの基本的な目的を達成するためのものである。米国内だけの局面で考えれば、通常の企業、営利団体、個人は受取利息に課税されることから、関連者の非課税団体(Tax Exempt Organization)からの借入金に対する支払利息が問題となる。

*なぜ日本の親会社への支払利息が問題になるか?

しかし、Earnings Stripping Rule制定の目的はそのような非課税団体からの借入金にあるのではなく、外国企業、制定当時は特に日本企業による親子間ローンに対する支払利息をターゲットとしたものである。法律として制定されたのは1989年だ。当時は日本企業が米国の全てを買収してしまうのではないかという懸念が強く表明されていた時代であり、1990年代前半の移転価格規則の強化と並び、Earnings Stripping Ruleも主に日本企業の米国投資を念頭に制定されたと言っても過言ではない。それ程、日本企業は米国産業にとって脅威とされていたのである。福田首相が訪米してもニュースにもならない今日となっては個人的には「懐かしい」時代である。

米国企業が外国企業に支払う利息に対する受けて側の米国税金は「源泉税」である。すなわち、米国企業が利息を支払う際に米国の内国規定である30%の源泉税を全額支払っていれば「利息の受け手は米国でフルに課税されている」ことになり、その利息は非適格ではない。しかし、受け手が日本企業の場合には日米租税条約で源泉税率が通常10%に低減されることから、支払利息は通常の「1/3」の税率のみで課税されていることとなる。ここが問題とされ、そのような支払利息は「1/3のみが適格」であり、逆に言えば「2/3は非適格」ということになる。

また、1993年の税法改訂で例え米国の銀行からの借入でも、保証が差し入れられていると、保証人が関連者で非居住者、外国法人、非課税主体の場合には、米国銀行借入に対する支払利息も「非適格」となってしまう。例えば、日本の親会社が米国の銀行に保証を差し入れ、その保証に基づいて現地法人が銀行借入をするようなケースは多数見受けられるが、その場合には、銀行への支払利息が非適格となる。さらに、本当に日本の親会社に利息を支払っているケースと異なり、ナント2/3ではなく「全額」が非適格となると規定される。極めて一方的であるがもう10年以上も定着している規定である。

*超過支払利息とは

上述の通り、否認(繰延)の対象となるのは「非適格支払利息」と「超過支払利息」のいずれか「低い方」である。超過支払利息の算定は、米国法人が経済的に考えて本来であれば負担が困難であろうと思われる金額を機械的に判断するための手法である。まず、米国現地法人の認識する支払利息(適格、非適格の合計)から受取利息を差し引いたネット支払利息金額を算定する。この金額がゼロまたはマイナス(すなわち受取利息の方が支払利息よりも高い)となる場合にはEarnings Stripping Ruleの適用はない。

次に、通常、発生ベースで算定されている課税所得に対して、減価償却を戻し、売掛金、借入金等の期首、期末残高を調整し、また上のネット支払利息を加算し「現金ベースの利息前課税所得」を算定する。これを「調整課税所得」と呼ぶ。この調整課税所得は繰越欠損金を適用する前の単年ベースの算定となる。ネット支払利息が調整課税所得の50%を超えている場合、その超過金額が「超過支払利息」となる。

否認(繰延)の対象となるのは「非適格支払利息」と「超過支払利息」のいずれか「低い方」であることから、例え非適格支払利息がある場合でも、多額の現金ベース課税所得がある場合には、超過支払利息が発生することがなく、結果としてEarnings Stripping Ruleの適用がないことになる。調整課税所得が少なく、損金算入することができなかった非適格支払利息は将来の年度に繰り延べられ、将来の年度に別途発生する非適格支払利子に加算されていく。この繰延に限定期間はない。また逆に調整課税所得(50%)が沢山あり、ネット支払所得を上回る年度があると、その超過分は将来の調整課税所得(50%)に加えることができる。こちらの繰延は3年が限度である。

*今回の財務省報告書

Earnings Stripping Ruleに係る説明が長くなったので、報告書の内容は次のポスティングとする。