Sunday, October 7, 2007

FIN 48そのものがグレーなポジションに

*非上場企業に対するFIN 48の適用開始延期リクエスト

FIN 48に関しては2007年7月21日から8月18日まで7回に亘ってその内容を解説した。FIN 48の考え方そのものに特に理解に苦しむ部分はない。しかし、実際の決算書への適用、特に「Measurement」規定下で要求される税務ポジションの数量化は困難もしくは可能であっても時間的・金銭的なコストが極めて高い作業となることが多い。

FIN 48は「U.S. GAAP」で決算書を作成する全ての企業の「2006年12月15日以降に開始する会計年度」に対して適用が強制される。また米国上場企業(SECに登録されている企業)は2006年12月の決算書にてFIN 48採択により予想されるインパクトを既に開示している。

非上場企業に関しては12月決算の場合2007年12月の決算期が最初の適用年度となるため、決算準備作業の一環としてFIN 48の適用準備作業を開始しているところもある。しかし、ここに来て非上場企業に対する適用開始は遅らせてはどうかという意見が出てきた。具体的には「Private Company Financial Reporting Committee(PCFRC)」が2007年9月24日付けのレターでFASBに対して非上場企業に対するFIN 48適用開始を延期するように求めている。

*PCFRCとは?

PCFRCと言ってもピンと来ない方も多いかもしれないが、この団体は単なる経済界代表の集まりのようなものではない。この団体は非上場企業に係る会計原則適用の改善を図るためナントFIN 48を作成した「張本人」であるFASBそのものとAICPAが合同で発足させたものだ。その使命はFASBの作成する会計原則の非上場企業への適用法をFASBに推薦するというものである。そのPCFRCがFASBにFIN 48の適用開始延期を求めたのだからただ事ではない。

*適用延期申請の内容

レターによるとFIN 48の非上場企業への適用は次の二つの条件が満たされるまで延期されるべきであるとされる。まず、パススルー事業主体に対するFIN 48の適用ガイドラインが明確になるまで、次に、非上場企業の決算書読者に対するFIN 48開示項目の有益性の更なる検証が完了するまで、の二つである。また適用延期により、FIN 48の規定そのものがより広く認知されるメリットもあるとしている。

パススルー事業主体に対する適用に関しては不明な点が多い。パススルー事業主体というからには自ら法人税等の税金を支払うことは基本的にない。そんな事業主体にFIN 48負債を計上させるとなると仕訳の相手勘定は一体何か?資本金勘定なのか、それともその部分だけタックス費用を認識するべきか?基本的な部分で未解決の問題が残る。

*余り知られていないFIN 48?

また、PCFRCのレターには、多くの非上場企業およびそのアドバイザーであるCPAはFIN 48が与える決算業務への影響をまだよく分かっていない、または漸く理解し始めた程度であることが多いと書かれている。その大きな理由のひとつが上述の非上場企業の多くが投資しているパススルー事業主体に対するFIN 48の取り扱いが明確でないことである。また、一歩先にFIN 48と格闘している上場企業が実際の適用にかなり苦戦しているという事実も延期申請を後押ししている。現時点では非上場企業にとっていいお手本がないという訳だ。

*FIN 48開示項目は非上場企業の決算書読者には余り役に立たない?

さらにPCFRC独自の調査によると、FIN 48で求められる決算書上の開示は非上場企業の決算書読者が必要としている情報に余り関連がないという結果が出ているとされる。FIN 48の適用にはかなりの時間的・金銭的コストが掛かるが、その結果行われる開示情報に対して決算書を使用する立場にある者が「余り役に立たない」と思っているとしたらとんでもない時間とお金の無駄である。

*日本企業への影響

SECに登録しているケースを除くと大半の日本企業はUS GAAP目的では非上場となる。したがって、もし今回のPCFRCのリクエストが認められるようなことがあると多くの企業が恩典を受けることになる。もっとも、既にかなりの苦労をして適用準備を進めているところも少なくないのでその場合には結果として無駄な努力をしてしまったこととなるが、社内管理目的では有益な情報となるであろう。

FIN 48の適用に関しては以前にも適用開始の延期を求める声がありFASBが一応検討した結果、適用延期は認められなかったという前例がある。しかし、今回は対象が非上場企業に限られていること、その提案が「会計原則の非上場企業に対する適用法をFASBに推薦する」役を負っているPCFRCそのものから提出されていることから、もしかするともしかする可能性がある。年末の決算業務を間近に控えていることからFASBの結論は近々に出るであろう。