Friday, October 5, 2007

日本のLLPは米国のLLC?

2007年10月1日に発足した「オープンキューブデータ」という米国マイクロソフトとNTTデータの合弁事業は日本の会社法に規定される「LLP(有限責任事業組合)」という事業形態にて展開されるということが日本の新聞で大きく報道されていた。

LLPという形態を選択した理由として、設立が容易である、出資者間の権限や利益分配を弾力的に決定することができる、等の理由が述べられており、マイクロソフト、NTTデータ共に今後も合弁を機動的に行うストラクチャーとして今後も積極的に活用していく旨を表明している。

*LLCではなくLLP?

米国的に考えると「LLP? LLCの間違いじゃないの?」という反応となる。というのも、米国でLLP、すなわち「Limited Liability Partnership」といえばパススルーであるものの、基本的に「General Partnership(GP)」の変形であり、各パートナーの有限責任が完全ではない。設立される州の法律により細かい規定は異なるが、LLPはGP同様に基本的に全パートナーが事業主体の負債に対して「無限責任」を追うが、GPと異なり「不法行為に対する負債が発生した場合には、当不法行為に関与したパートナーのみが無限責任を負う」という限定的な有限責任が認められている、という少々複雑な事業主体である。

不法行為というと何か犯罪に関与しているように思われるかもしれないがそうではない。民事訴訟に基づく「過失(Negligence)」を犯したと取り扱われる場合等に支払いが必要となる損害賠償金が不法行為に対する負債となる。訴訟の多い米国ではこのような損害賠償金支払いのリスクは常に現実と隣り合わせだ。特に会計事務所の監査業務に関しては株価の下落、上場企業の倒産、等の局面で頻繁に遭遇せざるを得ないリスクである。

不法行為に基づく負債以外の負債、例えば契約負債に関しては米国LLPのパートナー全員が無限責任を負うことになる。また不法行為に関しても「当事者」となるパートナーは個人的に無限責任を負うこととなる。

*なぜ米国でLLCではなくLLPを選択する者がいるか?

一方、米国のLLCは同じパススルーでも、LLPと異なり基本的にメンバー全員が事業主体の全ての負債に対して有限責任となる。となるとLLPはLLCに比べて魅力が少ない。ではなぜそのようなどちらかというと不利な事業形態であるLLPを米国で敢えて使用する者がいるのか?

それは単純に、ある一定の業種に携わる者はLLCとして事業展開してはいけないという州法が存在するからだ。一般に州行政により許認可が必要な業種の多くが対象となる。会計士業、弁護士業などがその代表である。このような業種ではLLCとして事業展開ができないため、以前はGPという形態を取る選択肢のみが与えられていた。しかし、近年は各州でLLP法が制定され、LLC程のメリットはないがGPよりは「マシ」なLLPという事業形態を取ることが多くなっている。

*用語は同じでも内容は日米各々で全く異質

このように一般的な事業を展開するものが米国で敢えてLLPという形態を選択することはまずない。パススルー課税と有限責任を鑑みればLLCとなるであろう。

日本の事情は全く異なる。というのは日本で制定されたLLCは米国のLLCとは似ても似つかないものであり、同じ用語が用いられていることから混乱の原因となり得る。用語が同じで内容が異なるという点では三角合併、日本版401(K)、J-SOX等も同様である。

日本版LLCは「合同会社」と呼ばれ、米国LLCからは想像し難いことであるが、なんとパススルー課税が認められていない。基となる法律が異なるとは言えLLCと表現される事業主体にパススルーが認められないというのは極めて違和感がある。一方で日本版LLPは「有限責任事業会社」と呼ばれこちらにはパススルー課税が認められることから、どちらかというと米国LLCに近い。

日米双方で用いられる用語を使用する際にはどちらの国の制度に関して話しているのかを明確にしないととんでもない誤解を招くことになる可能性がある点注意が必要だ。