Saturday, September 22, 2007

結構難しい「FXゲイン・ロス」の取り扱い(1)

日本ではカリスマ主婦等による投機的な外国為替取引き(FX)がかなり話題を呼んでいる。何億というFXゲインに係る脱税容疑でついに逮捕者まで出る始末だ。それにしても随分と沢山の個人投資家がFXに資金を投じている。ニューヨークタイムスの記事によると主婦等の日本の個人投資家がオンラインで行うFXの取引量はナント一日91億ドル(一兆円強)となっており、東京マーケットが開いている時間ベースで世界中の外国為替取引量の実に5分の1を占めるというのだ。もちろん全額自己資金ではなく信用取引が多いとしても日本の個人資産の莫大さを物語っている。

一説によると日本の個人資産は12兆5千億ドル(1,500兆円)あると言われている。これはアメリカのGDPに匹敵する凄まじい金額であるが、この資金の多くは長い間タンスやほとんど利子の付かない日本の銀行口座に眠っていた。その僅か一部がFXに流れ始めたという訳だ。これらの資金を集めて米国の企業を買収するファンドでも組成してはどうだろうか。そんな巨大ファンドのストラクチャリングのお手伝いをしたいものである。

*2007年夏のマーケット

脱税容疑があれだけ沢山報道されているということはそれだけ大きく儲かった方が多いということであるが、その後の投資成績はどのような運命であったか気になるところである。2007年の夏にはサブプライム問題に端を発してマーケットの変動が激しかった。したがって、かなりの損失を計上したケースが多いのではないと思われる。同じくニューヨークタイムスの記事によると8月一ヶ月の間に日本の個人投資家によるFX損失は25億ドル(3,000億円)に達したと推定されている。金額だけを見るとかなり大きいように思えるが、ニューヨークタイムス曰くこれは日本人が競馬、宝くじ、パチンコに費やす金額の2週間分ほどにしか相当しないので全体のスキームから見て大した金額とは言えないそうだ。

日本での脱税問題は2005年までの取引きを対象として指摘されていることが多く、その場合、実は所得と同じ位の損失を2007年に計上しているよなケースも十分に想定される。そのようなケースでは複数年の損益を繰延・繰戻等の措置にて通算できるのかどうかがかなり重要な検討課題となるであろう。

*米国でのFXゲイン・ロスの取り扱い

米国市民または居住者の個人投資家がFXからゲイン・ロスを認識する場合の税務上の取り扱いだが、まず、税法上FXゲイン・ロスは基本的に「通常所得・損失」であると規定されている。これはすなわちキャピタルゲイン・ロスではないということだ。この取り扱いはゲインの場合にはキャピタルゲインとならないために15%の特別優遇税率の対象にならないというデメリットがある。一方、ロスを計上する場合にはキャピタルロスはキャピタルゲインとのみ相殺が可能であり、ネットでキャピタルロスとなる場合には年間$3,000までしか損失の計上が認められないため、通常損失と取り扱われるメリットは大きい。

また、キャピタルゲイン・ロスとならないため、確定申告書の添付別表である「Schedule D」にて報告する必要がないと一般的には理解されている(この点に関しては異論を唱える者もいる)。Schedule Dは株式、債券の売買に代表されるキャピタルゲイン・ロスを計上する様式であるが、全ての売り買いの詳細を開示する形態となっている。Schedule Dで報告しなくてよいとなれば、基本的にFXゲイン・ロスは確定申告書そのもののLine 21(2006年の申告書ベース)の「その他所得」に年間金額一本で計上すればよいことになる。ロスの場合もこのLine 21でマイナス表示するというのが合理的な処理法ではないかと思われる。

*利息部分は別報告

FX取引きには為替差損益に混ざって利子所得が含まれていることもあるが、その部分はLine 21ではなく、銀行からの利子所得等と同じようにSchedule Bにて報告され、最終的には他の利子所得と合算されて確定申告書のLine 8 に計上されるべきである。一方、支払利息が発生している場合には通常の個人投資家であれば、Schedule Aの投資関係利子の項目として費用控除するべきであろう。

*FXゲイン・ロスをキャピタルゲイン・ロス扱いに?

上述の通り、FXゲイン・ロスは通常所得・損失であるというのが基本的な取り扱いであるが、特別な選択をすることにより60%を長期キャピタルゲイン・ロス、40%を短期キャピタルゲイン・ロスとすることができるという説がある。この点に関しては若干複雑なので次回のポスティングで触れる。