Tuesday, October 16, 2007

国税局は情報の安全性が保証されない危険な相手?

日米租税条約の情報交換条項に基づき米国のIRSから誤った情報が日本の国税局に渡り、それが国税局により日本のメディアにリークされ、結果として企業の信用に傷がつくようなことがあったらどうするか、という一見考えられないようなケースがカリフォルニア州の連邦裁判所で争われている。リークにより企業の名誉が棄損されたとして納税者がIRSを訴えているものだ。

*一審はIRSの勝ち

一審ではIRSが「Summary Judgment (正式事実審理を経ないでなされる判決)」で勝っているが、納税者がそれを不服として控訴し、控訴理由書がこの程控訴院に提出されている。このケースの対象となる取引内容そのものの詳細は特に今回のポスティングの趣旨に余り大きな関係がないので省略するが、大きな流れとしては次の通りだ。

なおこの流れは納税者側の控訴理由書に基づくものであるので現時点では裁判の結果認定された事実関係という訳ではない。一審ではSummary Judgmentとなっていることから事実審理は行われていない。「仮に」納税者の言うことが全て真実であったとしてもIRSに不法行為はなかったという意味でSummary Judgmentが下されている。

*IRSが日米合同調査を依頼し情報を提供

事の始まりは米国のIRSにより開始された普通の税務調査である。税務調査の当初は、コミッション、ロイヤリティー所得の一部が過少申告ではないかと疑われていた。調査の対象となった納税者は日本でも活動をしており、IRSは租税条約の規定に基づき「合同調査提案(Simaultaneous Examination Proposal - SEP)」を日本の国税局に行った。SEPとは同一の納税者または関連者に係る両国共通の税務上の問題点に対して二国間で協力して行われる税務調査である。なお、納税者側の主張ではこのSEPが提案された時点では米国で過少申告はなかったという調査結果が既に出ており、SEPに持ち込む理由はなかったとされる。

*日本の国税局によるリーク実績

SEPに基づく情報提供が日本の国税局に行われて間もなく、日本のメディアで税務調査対象企業が所得隠しをしているという報道が広く行われた。IRSは納税者の情報に関して厳格な守秘義務を負っており、米国内での税務調査等の経験からこの守秘義務はきちんと守られていると言っていい。IRSが租税条約に基づき情報を締約国に流す場合には、相手国でも米国内同様の守秘義務を要求する。したがって理論的にはSEPに基づいて提供された情報がメディアに漏れることはないはずだ。

ここからが核心となるが、納税者は「リークは日本の国税局によるものである」と主張し、「IRSは日本の国税局はリークの実績があり守秘義務をきちんと守れるかどうか怪しいと知っていながら情報を提供した」として損害賠償を求めている。

日本の国税局による過去のリークがIRSにとって周知の事実であったことの証明としてIRSで国税局との情報交換に携わってきたIRS担当官の「大きなケースは何らかの形で情報が漏れることが多い」というコメント、また別の情報交換担当高官の弁として「合同調査に係る情報が漏れるケースや、過去に米国の納税者の情報が不適切に日本で漏れた事件等を鑑みて日本との情報交換は一旦停止することになった」というものも紹介されている。他にもIRSの東京駐在職員による国税局のリーク懸念発言、移転価格の相互協議担当官による移転価格調査内容のリーク事件、などに言及し、IRSは国税局に渡した情報は漏れる可能性があると知っていながら情報を提供したと納税者は主張している。

*リークがあるかもしれないという冷却効果

火のないところに煙は立たぬという諺があるが、実際に何があったのかは現時点では分からない。しかし残念ながら国税局がリークをしているという記事、コメントはこの訴訟で初めて聞くものではない。少なくともそのような認識が海外で根付いていることは長期的な日本のスタンディング、海外からの投資欲、等のためにはいいことではなく、誤った認識であるのなら何とか早く払拭してもらいたいと願う。