Saturday, August 15, 2020

ピラー1「ブループリント」ドラフト完成 (3)「Marketing and Distribution Profits Safe Harbor」

前回のポスティングではOECDがIF各国に共有したブループリント・ドラフトの中でも、Amount Aの配賦額をCapしているという「Marketing and Distribution Profits Safe Harbor」に関して触れ始めた。原文は英国のスペリングなので「Harbour」だけど、個人的に頭に入り難いし、スペルチェックに引っかかるのでここでは「Harbor」で統一しておく。前回はいつにも増して脱線が激しかったので今回は本題にフォーカスするよう自ら戒めて(?)臨む予定だけど、予定は未定(?)。

で、ブループリント・ドラフトに記載されているMarketing and Distribution Profits Safe Harborの説明、これだけだと、何が何をCapしているのか、っていう超ベーシックな部分が分かり難い。後で触れる3つのパターン分けでようやく理解できたけどね。米国財務省規則とかに見られる「Precise」な表現、定義、法文フローに慣れているだけに、ブループリント・ドラフトは比較的フワッとした表現となっていることが多く、一読してなるほどね、って理解できるよう法律っぽく書いて欲しいな、と勝手に思って読んでた。僕のヨーロッパ発の英文に対する理解力不足が問題の可能性大だけどね。もっとロンドンでSunday Roast食べて修行しないとダメかも。ということはWyomingじゃなくて地中海の島、Minorcaか、ってまた早速脱線(笑)。

で、早々に方向修正して、Marketing and Distribution Profits Safe Harborの説明を紐解いて行くとザっと次のような感じ。

ALPベースで超過利益が配賦されている市場国には、なぜその範囲でAmount Aの配賦が必要ないと考えられるか云々の背景説明、またALPベースの超過利益有無にかかわらず、まずは通常の規定通りAmount Aを市場国に配賦する手順を全て踏襲する、のは前回のポスティング後半で触れた通り。で、そこで満を持してMarketing and Distribution Profits Safe Harborが登場する。言うまでもないかもしれないけどAmount Aの話しだから、Amount Aのスコープ内の事業にかかわる議論だっていうことは常に頭の片隅に留めておいてね。スコープ内外の活動がある場合には、多国籍企業の超過利益もスコープ内に切り出して諸々の規定を適用することになる。

Marketing and Distribution Profits Safe Harborではまず、ピラー1とは関係なく従来のALPベースで市場国が認識する所得を認定し、これは「Existing Marketing and Distribution Profit」と位置付ける。まさに名は体をあらわしているね。上述の通り、Amount Aスコープ外部分、また製造その他、市場国としての利益とは関係ない部分はExisting Marketing and Distribution Profitから除外する。次に通常通り算定される「Amount A」と「ルーティン販売活動に対する固定リターン」の二つの金額を足して「Safe Harbor Return」を認定する。2つ目の「ルーティン販売活動に対する固定リターン」は市場国やセクターに基づく調整(Uplift)を加味してもいいとされている。う~ん、この2つ目の金額はAmount Bそのものに見えるけど、説明文ではAmount Bという用語は一切使用されていない。Amount Bにも市場国やセクターに基づく調整を容認するコメントがあるので、なぜ単純にAmount A+BをSafe Harbor Returnと定義していないのか不思議だけど、もしかしたらブループリント・ドラフトではAmount Bの適用対象をかなり限定しているので、厳格に定義されるAmount Bにはならないルーティン販売活動固定リターンを含むということ、っていう意味で敢えてAmount Bと言っていないのだろうか。Amount Bの存在意義は、いろいろと細かい差異に基づいてごちゃごちゃ言わずにリターンを世界中で決めて簡素化、係争回避しましょうという点にあったと思うんだけど、全然シンプルにならないね。

で、この後の解説コメントはそれだけ読んでも分かり難い。「Safe Harbor ReturnをCapとし、当該金額を参照してAmount Aの金額を潜在的に調整します」といきなり来るんだけど、Safe Harbor Return自体Amount A+B(またはBもどき)で構成されているので、この金額を基に場合によってはAmount Aを調整する、っていう説明がこれだけでは良く分からない。自分で自分を調整するの?って感じの説明でチョッとCircularっぽいんだけど、ただ、その後に続く説明で何となく言おうとするところが見えてくる。すなわち、Safe Harbor ReturnとExisting Marketing and Distribution Profitの比較の結果、想定されるシナリオは3通りとしている。

まず、Existing Marketing and Distribution ProfitがAmount B(またはBもどき)より低い場合には、Amount Aは全額そのまま配賦される。このパターンは、Existing Marketing and Distribution Profit、すなわちALPベースで認識される金額がAmount B(またはBもどき)にも満たないケースだから、ALPベースでは超過利益は一切配賦されていないと認定され、結果としてAmount Aが全額そのまま温存される。Amount Aの話しなので敢えて触れられてないけど、このケースではルーティン販売活動がAmount Bの適用対象となる場合には、ALPベースの固定リターンより大きなAmount Bが認識されることになるんだろう。

次に、Existing Marketing and Distribution Profitがルーティン販売活動に対する固定リターンは超えてるけど、Safe Harbor Returnよりは低いケース。このケースではALPベースで配賦される所得で少なくともAmount B(またはBもどき)はカバーしていて、さらに幾ばくかの超過利益も認識されていると考えられる。したがって、Amount Aから既に認識されている超過利益を引いて、差額が最終的なAmount A配賦額となる。

最後にExisting Marketing and Distribution ProfitがSafe Harbor Returnを超えている場合。その場合は、ALPベースで認識される所得が、Amount AとB(またはBもどき)を超えているので、当然ながらこれ以上のAmount A配賦は行われない。ここでは語られていないけど、このケースでAmount Aを上回るALPベースの超過利益を当市場国が課税し続けられるかどうかは、超過部分が他の市場国が認識するAmount Aの原資として召し上げられるかどうかに掛かっている。

Marketing and Distribution Profits Safe Harborとか大袈裟な名称だけど、こんな感じで結果そのものに余り斬新なものはない。Amount Aと従来からのALPの関係においてこれ以外の結果になったらビックリだよね。ブループリント・ドラフトにはMarketing and Distribution Profits Safe Harborの適用に関して簡単な、と言ってもいつかのUnified Frameworkよりは若干詳細な、例示が付いているので次回はそれを考えてみたい。