米国財務省は予想通り、2021年5月28日、メモリアルデーWeekendだって言うのに$6Tに上る歳出を披露したホワイトハウス予算案と同時に、バイデン政権増税案の詳細を説明した「グリーンブック」を公表した。グリーンブックって言うとリサイクルした紙を使った本みたいだけど、米国税務の世界では行政府が議会に「こんな税制改正はどう?」って提案する目的で作成する資料のこと。正式には「General Explanation of the Administration's Revenue Proposals」と呼ばれる。ちなみにブルーブックって言うと、一般的には中古車の価格査定資料に聞こえるけど、米国税務の世界では可決された法案にかかわる議会の説明資料。こちらの正式名称は単に「General Explanation」で Joint Committee on Taxationが作成する。ブルーブックは立法の背景を知る貴重な資料ではあるけど、立法された直後に作成されるので正確には議会の立法過程の意図を反映しているとは言えない。
で、バイデン増税案はまだまだ今後どのような議論を経ることになるか不明なので、グリーンブックはあくまでもバイデン政権の「夢リスト(Wish List)」の状態。ただ、議会の民主党議員も方向的にはバイデン政権と同調しているので、参考になる面白い読み物だ。
これでもか、って感じの増税案攻め
グリーンブックで解説されている増税案そのものは既に「Made in America Tax Plan」とか「American Families Plan」で公開されているものと同じ。別に高を括ってたつもりはないんだけど、こうして改めてまとめて解説されると、次々に議論される増税案に圧倒される。キャピタルゲイン増税に至っては駆け込みで資産譲渡とかされないように、American Families Planが公表された2021年4月28日に過去遡及して適用って提案されていたり、左翼政権が樹立されるというのはこういうことなんだな、って再認識。
法人税に関しては、2022年1月1日以降に開始する課税年度から28%への引き上げ、という既定路線で驚きはない。暦年以外のFiscal Yearの法人に関しては混合税率を適用、って明記されてる。Section 15、昔のSection 21、があるから言うまでもないだろうけど、わざわざ言っているところがしつこい。日本企業は3月決算が多いけど、ということは2022年3月期は21%と28%を加重平均して22.73%の税率となる。これは所得認識が12月以前でも1月以降でも関係ない。つまりもしかしたら知らないうちに既に増税になってるかもしれないってことだ。知らない間にキャピタルゲインが23.8%から40.8%(グリーンブックではオバマケア付加税の3.8%を考慮してか、キャピタルゲイン税率を所得税最高税率の39.7%ではなく37%としている)になってたよりマシだけどね。5月に株式譲渡してしまった納税者は手取りがいきない20%も減っちゃうんだろうか。
法人税増税に関しては、なぜか実際に最終的に重荷を負担するのは主に外国人投資家で、米国人には負担は少ない、と。しかも外国人投資家は株式譲渡時の不動産持分法人株式でなければ、キャピタルゲインに課税されないんで当然、というような説明だ。どう考えても、米国法人税率引き上げの影響は企業そのもの、従業員、そして米国人株主に与えるインパクトの方が大きいように思われ、なんか巧みな弁舌で人を煙に巻いてる感じがある。
増税案の詳細で面白い点はいくつかあるけど、やはりSHIELDとGILTIが筆頭にくるかな。っていうことで今日はまずSHIELDから。
SHIELD全容初登場!
SHIELDに関しては財務省が既にMade in America Tax Planにかかわる詳細説明をした際に概要を公開しているけど、グリーンブックでは更に深堀りされている。結構複雑。前回公開されている内容に関しては「財務省によるバイデン「The Made in America Tax Plan」補足説明」を参照して欲しい。ちなみにSHIELDは「Stopping Harmful Inversions and Ending Low-Tax Developments 」の略。無理やりSHIELDになるように作った感じが炸裂しててダサい名前。「Low-Tax Developments」ね。
で、SHIELDは「効果のない」BEATに代わって鳴り物入りで登場しているBase Erosion対策規定の一つだけど、概念的にはOECDのピラー2で提案されているUndertaxed Payment Rule(UTPR)そのものだ。BEATは、米国Aggregateグループベースで計算される過去3年間の売上が$500M以上でBase Erosion%が3%以上の法人が適用対象だったけど、SHIELDは連結財務諸表の全世界売上が$500M超のグループに属する米国法人およびパートナーシップが対象。米国税法の判断時には、法的な定義がカチッとしている税務上の金額を元にすることが多いけど、財務諸表ベースっていうのがOECDチックだ。
SHIELDでは、連結財務諸表に含まれる米国外関連者の実効税率がグローバルミニマム税率より低い場合に、この米国外関連者に対する支払いを損金不算入にするっていうもの。グローバルミニマム税率はOECDのピラー2で国際合意される税率に合わせるってことだけど、ピラー2合意前にSHIELDを導入される場合には、ピラー2合意が成立するまではGILTI税率を代用するとしている。ということは当面21%。
BEATと違って支払全額が損金不算入?
グリーンブックのSHIELD部分は表現が分かり難く、一読しただけではどの金額をいつ加算処理させられるのかピンと来ない。途中からCostがどうのこうのとか、税法で規定されていない一般用語で説明されてたり、急にunrelated partyに対する支払いも対象とか書かれていたりして混乱するんだけど、読み直してみてビックリ。
SHIELDで損金算入が制限される金額はBEATの「Deduction」を元に判断する「Base Erosion Benefit」とは大きく異なるようだ。すなわち損金不算入の対象は「支払い」そのもののように説明されている。すなわちSHIELDに抵触する支払いは発生時に「全額」損金不算入になるっていうこと。例えば、発生時に全額費用処理される項目がSHIELDに抵触する場合は分かり易くて、支払い=費用=損金を加算調整する。これは分かり易い一方、COGS等で一部でも損金処理が繰り延べられたり資産計上される項目に関する取り扱いは難しい。
グリーンブックの説明は、損金処理が支出より遅れて認識されるようなケースでも、支払いが発生した課税年度に、支払全額を加算調整する、と読めなくもない。例えば、低税率国の関連会社から100仕入れして、70は期中の売上原価となり、30は期末在庫に資産計上されている場合、SHIELDではその期に費用化されている70だけでなく、30も加えた100全額を加算処理するようなシステムとしたいのかも。結果として、その期だけ見ると30は非関連者への支出も損金不算入となる。翌期以降に2回目のSHIELDの影響はないから、長期的には100が否認されているという意味で調整されるんだけど、各期の費用計上とリンクしないとなるとチョッと変な規定。または、単にCOGSとかに計上される金額はテクニカルにはDeductionじゃないけど、他のDeductionを減額する、すなわち結果として第三者への支払いを減額するという意味なんだろうか。書き方が悪過ぎて分かり難い。また、支払いにはBEAT同様、Deduction項目だけでなく、テクニカルにはReductionに当たる再保険料を含むとされている。ただ、COGSにも適用があるのだから対象がDeductionに限定されてないことは言うまでもなく明らか。
さらに、支払い先の米国外関連者の実効税率が全体でグローバルミニマム税率以上でも、他の関連者にミニマム税率に至らない実効税率の対象となっている法人なんかがあると、支出のうち相当部分を損金不算入にするって書いてあるように見える。何それって感じで計算や事実確認の負担が高そう。
う~ん、結構 凄いね。次回はグリーンブックに見るGILTI増税に関して。