前々回「バイデン政権増税案: 今度は個人所得税」でAmerican Families Planで提案されている個人に対する諸々の恩典拡充に触れた。
今日はそのAmerican Families Planの個人所得税増税案に関して。他のプラン同様、バイデン政権の提案は富裕層がフェアなシェアの所得税を支払っていないというナラティブから始まる。米国ハイテク企業が多くの市場国でフェアなシェアの法人税を支払っていないっていうことでOECDのBEPS 2.0が議論されてきたけど、何がフェアと感じるかは客観的な尺度がないので、結局どれだけ払ってもフェアなシェアに至ってない、って言われるとそれまで。Can’t Get Enoughの世界だよね。
Can’t Get EnoughっていえばBad Company! Bad CompanyはPaul Rodgers率いるシンプルだけどいい感じのブリティッシュロックバンドだった。マネージャーはZeppelinと同じPeter Grant。Peter GrantはZeppelinのMSGライブ映画「The Song Remains the Same」の最初にギャングみたいな役で登場してて凄い迫力だったから覚えてる人も多いのでは。Bad Companyのギター、Mick Ralphsは、いかにもギブソン・レスポールって感じの甘く歪んだ音でロックギターの王道を行く存在だった。ブラックモアとかに比べるとはるかにコピーし易かったけど、それでも格好よく汎用性が高いフレーズを学ぶことができた。Can’t Get EnoughはデビューアルバムのA面(ビニールのA面です)一曲目。ドラマーのSimon Kirkがドラムスティックで「One Two, One Two Three」ってカウントして「Four」のところは「ドタ」ってバスドラとスネアで入り、コードC、B♭、Fってなんてことない単純なイントロなんだけど、やたら格好いいんだよね。バッキングではFの部分にSus4でB♭の音がちらついてて、これ以上単純にならないよね、っていうくらいストレートなロックだ。
日本の学校で英語習い始めの頃だったんで、「Bad Company」ってどういう意味?とか友達と話してて、Badは分かったんだけど英和辞典(笑)とか引いてCompanyは会社とか出てきて、「ダメな会社っていう意味なんだぜ」とか言ってた時代が懐かしい。今、Bad Companyって聞いたらもちろん「悪い仲間」っていうか、逆に言えば一緒につるみたくなるようなチョッと不良っぽい奴ら、みたいなイメージが伝わってくるけどね。ロックバンドだからさすがに会社じゃないよね(苦笑)。デビューアルバムのジャケットは「Bad Co」ってデザインされてて、そんなことから僕たちは「バッドコ」って呼んでた。う~ん、いいね。久しぶりにバッドコのGood Lovin' Gone Badでもブラストしたくなってきました。
で、どこまで払っても所得税が「Can’t Get Enough」なのは取る側の感覚だと思うけど、ニューヨーク州、特にNYC、とかカリフォルニア州とか大きな政府の民主党が君臨している地域に住んでて収入が増えてくると実効税率が平気で50%程度になったりする。それでもフェアではないんだろうか。データによると、米国は所得額トップ1%の人が総所得の20%程度を稼いでいるそうだけど、その同じ1%層が連邦所得税全体の実に40%を負担しているそうだ。かなりの負担率だけど、これを更に増やそうというもの。バイデン政権的には1%で40%を負担していても未だ足りないっていうことで、バイデン自ら「法人や所得額トップ1%にそろそろフェアなシェアを支払わせる時が来た」と議会に演説していた。
で、個人所得税の増税は具体的にはまず2017年のTCJAで37%に引き下げられたトップ累進課税を元の39.6%に戻すというもの。選挙活動中の公約通り年収40万ドル未満の家族には増税はないっていう点を強調するため、バイデンがプレスで「年収が40万ドルない家族は1セントも税金は支払う必要はない!」って宣言してしまい、チョッと意味違うんじゃないとか話題になってた。この39.6%って純粋に所得税部分で、自営業とかだとプラスで15%以上の自営業税(SECA)が課せられる。従業員のFICAに当たるけど自営業の場合は雇用者負担分も自己負担なんで倍額となる。すなわち連邦だけで軽く50%を超えることになる。
ちなみにTCJAで税率そのものは確かに少し引き下げられたものの、州税その他の控除が厳しく制限されることになったので、結局増税に近いケースも多かった。地方税が高いカリフォルニア州やニューヨーク州、特にNYCなんかの居住者はその悪影響で実質減税効果は帳消しになっていた。このBase Broadening部分はそのままで税率だけ元に戻されると以前よりももっと負担が重くなる。
次にキャピタルゲイン課税。キャピタルゲインは給与等の通常所得と異なり最高20%の特別税率の対象となる。正確にはオバマケア税が3.8%加算されるんで23.8%だ。この税率は長期キャピタルゲインと大概の配当に適用される。で、バイデン政権増税案では、$1M超の所得がある納税者(夫婦は合算ベース)に適用されるキャピタルゲインおよび適格配当税率を20%(オバマケア付加税+3.8%)から通常税率の39.6%(同じく+3.8%)に引き上げるというもの。通常の所得と異なり、投資所得は3.8%のオバマケア付加税の対象となる点はそのままなんで、実質43.4%と割高になる。
フロリダ、テキサス、サウスダコタとか所得税がないハッピーな州に住んでれば43.4%で勘弁してもらえるけど、ニューヨーク州とかカリフォルニア州に住んでると凄いことになる。カリフォルニア州は12.3%がトップ税率と公表されているけど、実は所得が$1Mを超えると1%付加税がキックインしてくるので13.3%。ニューヨーク州もマンハッタンとかブルックリンを含む5つのBorough(行政区)内だと同じく13%近い。ということは連邦と合算で実に56%程度の税金となる。いよいよBlack Hillsに拠点を移さないと(?)。夏は最高だけど冬寒そうだからやっぱりフロリダのビーチシティかテキサスのオースティンとかが普通のチョイスかな。Musk大先生も居るしね。
キャピタルゲインは通常、リスクマネーを投じた結果得られる所得なんで、得られるかどうか分からないし、投資が紙くずになることもある。キャピタルロスは、通常事業からの損失と異なり、個人に与えられる$3,000という「ささやか」な規模の損失計上枠を除き、キャピタルゲインとしか相殺できない。そんな果実が50%超の課税に晒されるとなると、リスクが恩典との比較で合わないケースもあるだろう。所得が$1Mの部分も曲者で、通常は$1Mレベルの所得に至らない個人事業主とかが、事業を譲渡したりするとその課税年度だけ所得が$1Mを超えて長年の蓄積に基づく手取りが大きく減額することもあり得る。上場企業の株式じゃないんで、分割払いに基づく譲渡益認識は可能だけど、税金以外の面で余り好まれないだろう。
キャピタルゲイン増税案は今後の審議でどうなるか分かんないけど、増税リスクがある限り、早めにキャピタルゲインを実現させて益出しを試みる納税者が増えるだろう。また仮に法制化されると、簡単にはキャピタルゲインは実現させたくないので、Deferral戦略の検討が重要視される。例えば、上場企業がForward Cash Mergerなんてしようもんなら、法人レベルでバイデン税率の28%に加え州税が掛かる。仮に州実効税率を5%とするとそこで既に33%だから、個人株主にみなし分配される金額は67。そこに56%とかのキャピタルゲイン税率が適用されると手取りは30弱という惨状。100の価値がある事業を譲渡して30の手取り、すなわち実に70%の実効税率となる。これは税金と言う名の大きな政府による資産没収に近い(?)。ウォールストリートジャーナルは、米国のキャピタルゲイン税は中国との比較でも倍以上になり、今後のリスクマネーに基づく自由な投資やイノベーションの障害になるのでは、と警鐘を鳴らしていた。バイデンは「America is back」って言うけど、実は「America is gone?」。
2003年以降のM&AのDealストラクチャーはキャピタルゲインや配当の税率が下がったことで以前とは大きく変わっていて、課税取引に対する抵抗が下がってたけど、それが逆行し、適格組織再編を通じたDealが好まれるようになることが考えられる。ただ、これはケースバイケースかもしれない。というのも、株主の多くが州の退職基金や、その他通常の非課税組織だったりすると税率は関係ない。PEファンドとかも基本パススルーなんで、税金は投資家レベルの話しでファンドの成績に税負担は影響しない。それどころか税金を支払うためのDistributionはキャッシュフロー的には投資家に対するリターンになるから、タイミング的にIRRが上がったりする。またアービトラージみたいな戦略を取る株主は、短期的にキャッシュ化するのでどっちにしても通常所得税率で課税される。ファンド経由で影響力のある個人株主たちが存在すると、課税取引は難しいかもね。いずれにしても、2003年以降定着していた、個人投資家が課税されても気にしないような戦略は取り難くなる状況が出てくるのは間違いないだろう。
また$1Mという所得レベルで明暗が分かれるとすると、際どいケースでは何とか全体の所得を$999,999にしよう、っていう分かり易いプランも横行することになる。BEATの3%みたいだね。$1Mいくかいかないかで大違いだからね。ちなみに$1Mをどこで判断するのか、すなわち、Gross Receiptなのか、Gross Incomeなのか、AGIなのか、課税所得なのか、等は現時点では不明。
また、キャピタルゲイン増税案と関連する提案に、含み益が$1M超の被相続人が死亡時に所有する資産に税務簿価の時価ステップアップを認めないというものがある。相続人が過去の簿価を引き継ぐっていう手法もあり得るけど、有力視されているのは、死亡時にみなし譲渡益をキャピタルゲインとして課税するという方法。被相続人は死亡しているので、Estate(遺産)が所得を認識するんだろうけど、このキャピタルゲインに対して56%とかで課税され、場合によっては更に遺産税の対象となったりすると、流動性の低い個人事業主の事業を相続するようなケースでは壊滅的な影響があり得る。一層のこと、事業を引き継がずに慈善団体に寄付する?
次回もキャピタルゲイン増税案絡みの話しの続きで、ファンド・スポンサーが得るキャリーの取り扱い、および$50万を超える事業用不動産譲渡益に対する買替え特例の撤廃に関して。