自国の増税案が米国多国籍企業にとって余りに不利なんで、他国にも21%のグローバルミニマム税の導入を強要しなくては、と米国がOECDやIFを説得しようとしていた点は「「米国・OECD急接近」世界に飛び火するバイデン政権増税案」シリーズで触れた。
相手にされなかった21%グローバルミニマム税率案
米国のBEPS 2.0交渉テーブルへの再登場で、頓挫しかかっていたBEPS 2.0が一気に息を吹き返したことは間違いなく、若干身勝手な感は否めないものの再登場自体は一般にはポジティブに受け止められている。米国によるBEPS 2.0新提案は、過去の議論や設計を覆す部分も多いけど、何はともあれ交渉テーブルに付いてくれないよりはマシだからね。
そんな訳で、米国新提案に関しても表面的には「アメリカさん、いいですね~」とか当り障りのない感じで流されている感じだった。とは言え、具体的な提案内容のひとつとなる21%グローバルミニマム税率に、真剣に取り合っている国は実際のところ余りなかっただろう。ウォールストリートジャーナルのことばを借りると、「予の辞書に不可能ということばはない」で有名なナポレオンが言ったとされる「敵が間違いを犯している時は、邪魔するな」という格言通りヨーロッパ各国は米国の自爆を静かに見守っている、ということになる。国際合意や外交の世界は、各国の利害が一枚岩にはなり得ず、水面下の駆け引きは激しく、BEPS 2.0もその例外ではないだろう。
米国が$6Tという身の丈に合わないレベルの政府の歳出をファイナンスするため、21%グローバルミニマム税を導入して自国の多国籍企業のグローバルマーケットでの競争力を低下させるのであれば、それは勝手にどうぞ、となる。だからと言ってアイルランド、チェコ、ハンガリーとかは、米国から「あなたたちも21%にしなさい」と言われても釈然としない。$6Tという巨額の資金をポリティシャンや官僚が使うっていう案は、自ずと市民生活や経済活動に政府がより広範に関与することになるけど、パスポート申請アポ取るだけでも数か月、グリーンカードの書き換え(多分バックグラウンドチェックして写真アップデートするくらい?)に半年、とか、南カリフォルニアのDMV(府中とか鮫洲の運転免許更新センターみたいなところ)における民間では考えられない横柄なサービス、とかを体験する限り、政府の関与による市民生活の質低下は必至。米国は民間がしっかりしてるんだから、規制緩和、法の支配、街の安全確保、等の環境さえ政府がしっかり押さえておいてくれれば、多くの政策目標が効率よく達成可能で、市民全員の生活水準が上がると思うんだけどね。
ピラー2のIIRに当たる米国GILTIに関しては、バイデン政権は税率引き上げだけでなく、実態のある事業からのルーティン所得をグローバルミニマム税から免除するために規定されている償却有形資産の簿価10%のカーブアウトも撤廃するとしてる。OECDのピラー2ではGILTIとの比較で更に充実したカーブアウトが提案されており、カーブアウト撤廃に世界各国が合意するようには思えない。日本みたいに、自国企業がそもそもBase Erosionに従事するようなカルチャーにない国にとって、米国の事情でカーブアウトなしの21%グローバルミニマム税を導入して自国産業や真面目にやってる多国籍企業をこれ以上、追い詰める政策理由はないと思うけどね。米国企業はGILTIとか導入されて、コンプライアンス負荷は極限に達している感があるけど、それでもテクノロジーとか、従来からのCFC管理体制に基づき、予算を増強して何とか対応してきたから立派。他国の企業の多くはそんな体制に至ってないことが多く、コンプライアンス負荷の漸増は米国よりも深刻な問題になるだろう。
で、米国による21%提案がCatch-Onしないんで、結局のところ、OECDを利用して、自国ポリシーの弊害を包み隠してしまおうという悪戯な魂胆は、他国に相手にされず失敗に直面している点が日に日に明らかになってきていたと言える。
ピラー2のグローバルミニマム税率は15%?
もともとグローバルミニマム税率として21%は非現実的なので、逆にこんな税率をいつまでも他国に強要し過ぎると、誰も付いてこれなくて、結局もともと議論されていたアイルランド法人税率12.5%程度に落ち着き兼ねない。米国財務省もこの点は観念したようで、昨日、OECDにピラー2のグローバルミニマム税率は最低でも15%とするよう新たな注文を付けたようだ。一気に7掛けで6%も落ちるんだね。ただし、15%は超えてはならない一線で、少しでも15%を超えるよう「大志を抱くべき」としている。そう言われると札幌のクラーク教頭先生みたいで格好いいけど、勝手に恣意的な%をレッドライン化されてもなんだかな~って思う国も多いのでは?
米国再登場以前の国際議論を見ると、15%でも高い気はするけど、逆に言えばもともと科学的な話しでもなんでもないんで、正解がある訳ではない。1,250円のお小遣いもらってる子にいきなり「お小遣い1,500円にして」って言われると「チョッと高いんじゃない?」っていう反応になるかもしえないだろうけど、「みんな2,100円もらってるから2,100円じゃなきゃヤダ」っていうExpectationというか恐怖を設定しておいて、「仕方がないから1,500円で我慢するよ」って言われると「だったら仕方ないね」って急にリーゾナブルに聞こえるから不思議だよね。EU内だけ見ても15%でも必ずしも合意は容易じゃないように見えるけどね。真の答えがあるタイプの議論じゃないから、12.5%と15%の中間の13.75%でもいいし、現GILTIの13.125%でもおかしくない。落としどころはどこになるでしょうか?